「表現は理論ではなくて“動詞”なのよ」 ~キャシー・マデン先生のレッスンを受けて~

来日中のキャシー・マデン先生の個人レッスンを受けてきました。噂に聞いていた通り、とにかくすごい!知人のレッスン見学も含めて1時間、キャシーの世界をどっぷり堪能してきました。
私はアーバンの『12の幻想曲とアリア』から、「Variations on a Song “Vois-tu la neige qui brille” (The Beautiful Snow)」をいかに表情豊かに演奏するかということをテーマにレッスンしていただきました。
まず、自分は「キラキラ輝く雪の様子」「子供たちが楽しそうに喜んで雪で遊ぶ姿」を表現したい、と言って吹き始めました。
初めは緊張でろくにブレスもできず、音も震えてしまい、「どうでしたか?」のキャシーの問いに対して「緊張しました」としか答えられませんでした。
そこでキャシーに言われたのは「まず自分自身がもっとエキサイティングになる必要がある」「緊張と演奏を結び付けない」ということです。
表現は形のないものです。だからこそ、自分がどんなストーリーに聴き手を招待したいか、という能動的なはたらきかけが必要だとキャシーはおっしゃいました。そして、やさしく語り掛けるような口調で、自分が表現したいと思っている情景をまるで見透かしたかのように、雪で遊ぶ子供たちの物語を語ってくださいました。
「表現は理論ではなくて“動詞”なのよ」
その曲で表現したいストーリーにどう聴き手をご招待するのか、具体的にアプローチしていこうとするだけで音の表情が変わっていきます。
雪合戦をしてはしゃいでいる子どもたちの物語
雪が深々と降っている中、誰も外に出ようとしないオフィス街の中で、自分一人が外に出て、「外はこんなに美しいよ、みんなおいで」と誘っていき、最後に一番大切な人が現れるという物語
グランドの片隅に寂しそうに座っている女の子に声をかけ、一緒に雪で楽しく遊ぶ物語
どんなストーリーなのかをイメージしながら、積極的に物語の中の人物にはたらきかけようとしていくだけで、自分でもビックリするくらい体が自由になって、足元から全身を自由に動かして、その動きが音楽のうねりにつながっていく様子がわかりました。
自分自身も音楽も“動的なもの”に変化していく。
それが、キャシーのレッスンのすごいところなのかもしれません。
あとは楽器の構え方。
左手で楽器を持っているということは、口は楽器よりも右側にあるわけです。だから、「左手よりも右にある口」にマウスピースを持っていく必要があるわけで、そのためには肩甲骨も鎖骨も動いてあげることができます。肘ももっと曲げてもいいのです。そのアドバイス一つで構え方が全く新しいものになり、呼吸が楽になり、音の抜けもとても良くなりました。
でも慣れ親しんできた習慣というものは恐ろしいもので、とっさに構えようとすると、余計な動きが加わったり、逆にもっと動けていいところが固まっていたり…。
これまで染み込ませてきた習慣を、新しい方法で上書きしていく。そして、常に音楽を奏でようとする前に、自分がどんなストーリーをどんな“動詞”で伝えていこうとするのかを決めて、思いきりその世界に聴き手を“招待”する。そういうことを大切にして、自分自身も音楽を奏でていきたいし、生徒たちのことも指導していきたいなと思いました。
本当に素晴らしい経験でした!
さて、これから夜のグループレッスンです。
どんなレッスンになるか楽しみです。

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