日本吹奏楽指導者クリニックに参加して② ~マルコ・ピエロボン氏の講座と演奏を聴いて~

日本吹奏楽指導者クリニック(JBC)も2日目は盛りだくさんの内容で、どれも非常に勉強になりましたが、中でも心に残ったのが、世界的トランペット奏者、マルコ・ピエロボン氏の「トランペット講座」と陸上自衛隊中央音楽隊とのコラボ演奏です。今日のブログでは、クリニック2日目の中から、これだけに特化して書き綴っていこうと思います。
〔マルコ・ピエロボン トランペット講座〕
◎音楽家とは…
音楽をやっていくためには、いろいろなことを考えてから演奏することが大切である。
まず自分が誰に向かって、どこに向かって音楽をするのか、自分の中の感情をどのようにして伝えていくか、考えなくてはならない。また、自分たちのつくったものを楽しんでもらえるか、伝わるかどうかを考えることもしなければいけない。そういう意味では、音楽家とは「作品の翻訳者」だと思って演奏するとよい。
◎演奏の前に…
楽器を持った時、まず何をしようとしているのかを考える。これは練習のときから同じで、自分の中で考えていることがすべて伝わるわけではないが、その差も考え、自分の想像以上に表現することが求められる。遠くにいる人にも伝えたれるように表現を拡大していくことが大切である。
自分がステージに立つときにまず大切なのは、その音楽にどんなストーリーがあるかをつかむことである。自分の言葉やメッセージを誰が聞いてくれるのか、距離感なども考えた上で、子どもに話すような表現で、みんなに伝わるように頭の中でストーリーをつくっていく。そうすれば、聞き手にやろうとしている音楽が伝わるはずである。
◎楽器を演奏する=歌うこと
声は脳から一番近いところから出ている。その声を通して楽器を奏でているという意識を持つ。言葉によってイントネーションやフレーズ感は異なってくるので、常に自分の頭の中でどういう言葉を発していくかが大切である。
歌を歌うということが、やりたい音楽の方向性に向かっていくことになる。自分の頭の中の言葉を歌って、楽器によって翻訳していくというイメージをもつとよい。
重要なのは「音の間違い」ではなくて、「インパクトのある表現」をすることである。上手くできていないと怖くなってしまうこともあるが、常にだれとどうコミュニケーションをとるのかを考え、体全体を使って表現することで伝えようとすることが大切である。
だからこそ、常にお客様が目の前にいる状況をイメージして、ドラマチックに音楽をすすめていくためにはどうすればいいかを考え、自分がプロの歌手であるかのように歌うことが必要である。
どんなに技術的に上手でも、聴きたいのは自分の中で考えていること。それを声に出していけるようにすることが練習である。もちろんテクニックは毎日やらないとおちていくので、少しずつでも毎日やることが大切だが。
◎呼吸について
管楽器で一番大切なのは「息」 → “Wind(風)” Instrument
風にはそよ風もあれば、嵐のときのような強い風もあり、やわらかかったり、突然だったり様々ある。でも、風が止まることはない。同じように、常に自由な息を流すことが大切であり、そのためにどれだけ息を必要とするのかを考えることも必要である。
楽器を持った時は、普段とは違う息の使い方をする必要がある。でも、楽器を持った時もどれだけ自然な呼吸ができるかが大切である。
例えば、
① リラックスして力を入れずに吹いてみる
② 100%吸った状態と0%まで出し切った状態をテンポの中でやってみる
これを習慣化することで、楽器をふくための呼吸も自然になってくる。
また、吐く息に合わせた吸い方をすることで、自然な息の流れができる。
日常の練習の中で、呼吸法、歌、楽器での練習を組み合わせていけるといい。
その上で、どれだけ自然体でいることが自然かをすりこませていけばいい。
◎音色について
人が持っている声はそれぞれ異なる。音色だけで個人が特定できるのは、自分の中にある声を表現しているからで、「どの人の音がきれいなのか」と考えるのではなく、「どういう音がきれいなのか」を自分の頭の中でつくることが大切である。
練習する時間がなくても、自分の頭の中で「どうやって演奏したらいいのか」をイメージすることが大切。一人ひとりの頭の中でなっている音は違っている。とにかく頭の中で考えて、組み立てるイメージトレーニングをするようにする。
そのためには、いろいろな演奏を聴いたり、本を読んだり、どんどん自分の頭の中のハードディスクにたくさんのものをため込んでいくことが重要である。
好きなプレイヤーの真似はしてもいいが、自分がどうしたいのかは自分の中で組み立てていくしかない。
◎教えるときには…
小さな子たちを教えるとき、どこに笑いがあるか、どこが楽しい場所なのかを伝えるようにしている。その後で、どうしてその音が大切になるのかを教えるようにしている。
◎みんなで音楽をつくり上げるために
まず音楽に言葉をつけてみる。人それぞれの言葉をどこにもっていくか、互いにやり取りをしていく中で共有し、共通したものをつくりあげていくことができると考える。
◎すべての管楽器奏者に考えてほしいこと
書いてある音よりも、まず「フレーズ」が大切である。そのフレーズがどこから音が始まって、どこに向かっていくか、音楽がどのようにすすんでいくか、それをまず頭の中で組み立てることが求められる。その時に「風がどこから吹き始めてどこへ向かっていくのか」と考えるとよい。音楽が風に乗っていくようなイメージで演奏する。
音楽にのっていくことで、テクニックは後から身についてくる。それよりも、どれだけ息が必要か、フレーズのキャラクターはどうなっているかを考えることのほうが大切である。
失敗したら、そこだけ繰り返すのではなく、間違えた方法を繰り返し練習しないようにするためにも、はじめからやり直すようにする。
演奏するときに必ず、どんな瞬間に感動したかを思い出す。それによって、いい音楽につながっていく。
〔イブニングコンサート〕
福島県立湯本高等学校
 ・序曲1812年
 ・グリーンスリーヴスによる幻想曲
 ・風になりたい
 ・セプテンバー (with 織田浩司氏)
 ・千と千尋の神隠しHighlights
 ・サウスランパート・ストリート・パレード
陸上自衛隊中央音楽隊
 ・序曲「謝肉祭」
 ・交響的舞曲第3番「フェイスタ」
 ・マーチ・ウィズ・トランペッツ
 ・ラプソディー・イン・ブルー (with マルコ・ピエロボン氏)
 ・誰も寝てはならぬ (with マルコ・ピエロボン氏)
 ・交響曲第4番「日本からの6枚の栞」
 ・行進曲「旧友」
 ・岩井直博先生を偲んで
〔感想〕
もうとにかくマルコ・ピエロボンさんのトランペット講座がとてもためになりました。「まず大切なのは書いてある音よりもフレーズ」「頭の中でどのように音楽が進んでいくかを考えてから演奏する」「音楽家とは作品の翻訳者だと思って演奏する」など、音楽を奏でるとはどういうことなのか、根本から教えて頂けました。
アルチュニアンやハイドンの協奏曲の一部なども生の迫力で聴くことができたし、何よりピエロボンさんがおっしゃっていた「自分の中で考えたことをどうやって伝えれば聴き手に伝わるか」「どれだけ大げさに伝えようとするか」ということが実際に伝わってきて、音楽の持つパワーを再認識させられました。
源三先生のレッスンでも「楽器で歌うんだよ!」と散々言われてきましたが、確かに楽器を吹くことが目的なのではなくて、音楽を奏でることが本来の目的のはずです。そういう意味でも、ピエロボンさんが幾度となくおっしゃっていた「頭の中でやりたい音楽を組み立ててから楽器を吹く」ことの大切さが改めて問われている気もするし、ともすると「音を外さない」「間違えない」ということばかりにとらわれてしまうことが、『音楽』から遠ざかってしまうことにつながりかねないなと思いました。「フレーズが先で、テクニックはそれを実現するためには自然に身につくもの」という言葉に力づけられました。
また、陸上自衛隊中央音楽隊のコラボ演奏も圧巻でした!
「ラプソディーインブルー」は体全身を使って超ノリノリで吹かれていたし、「誰も寝てはならぬ」はオペラ歌手さながらの歌唱力で、まさに昼間の講座でおっしゃっていた「頭の中で組み立てられた音楽」が体現されている感じでした!本当に素晴らしかったです!
やっぱり音楽は心の底にあるものを何倍、何十倍にも拡大させて、大げさに表現し、聴き手に伝え、共感し、ともに楽しむところに醍醐味があるなと改めて感じた一日でした。


iQiPlus

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。