燃費よく楽器を吹くために考えたいこと

以前、あるプロ奏者の方に「息は止めて吹く」という話を聞いたことがあります。
何となく言いたいニュアンスは分かったのですが、さすがに息を止めたら吹けないでしょと思うところもあって、どういうことかなとずっと考えていました。
これかもしれない!
と思ったのは先日のこと。生徒に「これくらい鳴らしても大丈夫だから」と、ある交響曲のワンフレーズを吹いてみた時のことです。
特に意識はしていなかったのですが、息を吹き込んでいる感覚も無く、体で支えている感覚も無く、でも勝手に音がバシーっと鳴っているという瞬間がありました。
その時、もしかしたら「息を止めて吹く」とは、外に向かって出ていく息の流れの力と、体で支えている内向きの力がつり合っていると、±0になってそのような感覚になることを言っていたのかなと思いました。
息が流れ出ていかなければ音になることはありませんが、息を吹き込もうとしすぎるとバランスが崩れた痛い音になってしまうこともあります。
体の支えで息が出ていく量をコントロールしなければ勝手に息は出ていってしまいますが、支えをつくりすぎてしまうと息が流れなくなって詰まった感じの響きのない音になってしまうこともあります。
だからこそ「息の流れ」と「体の使い方」は切り離して考えられないもので、そのバランス感覚をつかむことが響きのあるいい音で鳴らすために必要なのかもしれないなと思いました。
楽器の音が鳴る原理というのは説明がつくかもしれませんが、吹いているときの感覚というのは人によって感じ方も違うだろうし、説明の仕方もいろいろだと思います。だから言われたことをそのまま鵜呑みにしたり、一定の方法に拘るのではなくて、自分でやってみて感覚をつかむ必要があるかと思います。
自分自身のこれまでを振り返ってみると、とても燃費の悪い吹き方をしてきたなと思います。
私とラッパの付き合いは、小学校でトランペット鼓隊に入って、コルネットを手にしたのが始まりです。ちゃんと吹き方も教わらないまま、力任せに吹いていたらそれなりに音も出るようになったので、それが3年間蓄積して癖になってしまいました。
中学生になって、プロ奏者の方がたまに教えに来てくださったこともあって、いろんな基礎練習の仕方を知ったり、いい音はどんな音かを知ることとなり、少しは練習のやり方や吹くことに対しての考え方も変わりました。でも、せっかちで負けず嫌いな性格も重なって、顔を真っ赤にして息を吹き込んで、最後は気合いと根性で何とかしようという吹き方は根強く残ってしまっていたと思います。
そんな風にして土台が固められていったものですから、その後も自分と戦いながらラッパを吹き続けることになった私。大学オケに入って、源三先生の「音は振動」という考え方に触れて、少しは改善してきたものの、そりゃバテるのも早いよなと今では思います。
ラッパは敵じゃなくて、自分の中にある音楽やりたいという気持ちを表現してくれる頼もしい道具。それなのに力づくで鳴らそうとしていたわけだから、素直に鳴ってくれるはずもなく、調子の波は激しく、音が出なくなるようなことも何度もありました。
調子を崩したときも、アンブシュアやプレスの方向性など、割と見た目から改善しようとしていて、それはそれでプラスになったこともありますが、今考えてみると、余計に力みを生じさせ、楽に響かせるとは対極の方向に向かっていた気がします。
そんな私でしたが、アレクサンダーテクニークを学ぶようになったり、荻原先生にラッパを習うようになって、少しずつ自分の体ともラッパとも仲良くなれてきた気がします。
それまでの私の中には根強く次のような思考が棲みついていました。
「力使って吹け」
「もっと息を吹き込め」
「腹筋の力が足りない」
「唇を鍛えろ」
「重心は下に」

このような意識で雁字搦めになってしまい過ぎると、本当にいいことはないなと思います。逆に今は次のように考えるようになってうまくいく部分が増えました。
「必要な時に必要な力を使えばいい」
「息は体の中を下から上に向かって流れていく」
「頭が動けて、体全体がついていく」
「体で踏ん張り過ぎなくてもいい」
「奏法よりも音色と響きを大切にする」

もちろん、これも自分が練習していての“感覚”に過ぎませんから、必ずしも全ての人に当てはまるとは言えませんが、もし今やっている方法でうまくいかずに困っている方がいらっしゃったら、試してみるのもよいかなと思います。
本当に初めにどう習うかはは肝心だなと。そういうところ程、プロの方にレッスンして頂けたらいいような気がします。
自分自身すごく遠回りしてしまったし、まだまだオケや吹奏楽で吹くとムキになってしまうところはありますが、歳とって力吹きじゃ吹けなくなってしまう前に気づかせてもらえて本当に良かったなと思います。
だから生徒たちには遠回りせずに、楽器とも自分とも仲良く音楽を楽しんで欲しいと心から願うばかりです。そのためにも、まずは自分が生徒たちの前で、いつも響きのあるいい音で吹くようにしたいですし、指導する時の言葉の使い方には気をつけたいと思います。
まだまだこれからも探究の旅は続きます。

iQiPlus

燃費よく楽器を吹くために考えたいこと” への2件のコメント

  1. 僕も同じで、本当に力でやってた6年くらい、「ムダな時間」を過ごしたな思います。
    今は色々自分で勉強してますが、それでも、始めた時からちゃんとした指導をしてくれる人の元でやってた人らには一生追いつけないと思うと、非常に虚しくなります。

  2. コメントありがとうございます。
    確かにそう感じるところはありますね…。
    ただ、身についてしまった習慣を手放すことは大変なことですが、逆に遠回りしなかったら気付けなかったこともたくさんあると思いますし、それは最短距離で進んできた人には分からないことだったりもすると思います。遠回りしたからこそ、いろいろ考えて練習するようになって、かえって後から伸びることもありますよ(と信じて自分もやるようにしています)。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。