部活を辞めるという選択

Twitterのタイムラインを見ていると、「部活もう辞めたい」という声が少なからず流れてきます。それと同時に、「辞めたいのに辞めさせてもらえない」「辞めると内申点に響く」といった問題も目にすることがあります。今日はそのことについて考えたことをつぶやいていこうと思います。
私の個人的な思いから言えば、部活を辞めるのは本人の自由ですし、強引に引き止めようとは思いません。でも、「辞めたい」という相談を受けたときには、「はい、そうですか」とそのまま退部届を受け取ることはしません。それは、たとえ結果的に辞めることになったとしても、その生徒が前向きな気持ちになって欲しいと思っているからです。
子どもたちが部活を辞めたいと思う理由は様々ですし、一つだけではありません。いろんなことが積み重なって、本当に辛くなって、辞めるという選択肢を選んだのだと思います。
(1)勉強との両立が上手くいかない
私がこれまでに相談を受けた中で、一番多かったのが「勉強との両立が上手くいかない」ということだったように思います。私自身、勉強と部活が両立できていたかと聞かれると、部活ばかりやって成績は悪かった方ですので何とも言えない面もありますが、まずは「辞めた後の学習プラン」について相談するようにしています。
もし、部活がなくなったら、自由に使える時間は増えるはずです。その中で、どのように自学をする時間を設けようとしているのかを話し合います。ただ「塾に行きます」とだけ答えた生徒には、塾に行くことで何を身につけようとしているのかを考えてもらっています。「成績が悪いから部活を辞めて塾に行く」というのは一見するととても正当な理由のように思いますが、本人が能動的に何かを身につけようとしていない限りは塾に行って受け身授業を聞いていたところで成績があがることはありません。
その話し合いの中で、ただ部活を言い訳にして勉強から逃げていた自分に気づく子どももいますし、勉強を理由にして、部活から逃げたいと思っている自分に気づく子どももいます。いずれにせよ、なぜ自分が部活を辞めようとしているのか、そして、辞めた後にどう過ごし、どんな自分になりたいのかを考えてもらうことはとても大切なことだと思います。
それでも辞めたいと思った生徒には、まずいったん2週間程度休部をして、自分が立ててみた学習プランを実行できるか試してもらうこともあります。ここで「自分に足りなかったのは時間だ。この調子で勉強頑張っていこう!」という決意ができる生徒もいますし、「結局だらけてしまっていた。部活をやっていた時と変わりがない」と思う生徒もいます。その上でもう一度話し合って、自分にとって一番いい方法は何かを家庭も交えて考えてもらうようにしています。
(2)なかなか楽器が上達しない
頑張って練習しているのに、なかなか上達を感じられないと苦しいものです。また、取り組んでいる楽曲が技術的に難し過ぎたりすると、自分の実力との差を痛感するあまり、楽器を演奏すること自体が苦しくなってしまうこともあるかと思います。
吹奏楽はチームで奏でる音楽です。
だからこそ、「周りに迷惑をかけてはいけない」「自分が足を引っ張るわけにはいかない」と真面目に思う子どもほど追い込まれてしまうことはあるような気がします。
なかなか楽器が上達しないで苦しんでいる生徒がいたら、まず最初に楽器を手にしたときのことを思い出して、今までどれだけ自分が成長してきたかを一緒に振り返るようにしています。そして、「人によって成長する時期もスピードも違うから、自分のペースでゆっくり楽器と付き合っていけばいい」という話をしています。その上で、『今、自分が自信をもってできるようにできることは何か』ということを考えてもらっています。
まずは、頑張ればすぐに手の届くような小さな目標を見つけること。
それをクリアする喜びを味わうこと。
その積み重ねが楽器を練習する喜び、音楽を奏でる喜びにつながっていくような気がします。自分自身もまだ生徒の心の中にある悩みに気づけないまま、生徒を追い込んでしまっていることもありますが、もがき苦しみながら頑張ろうとしている生徒一人ひとりにどれだけ寄り添い、共に次の目標を見つけていけるかが、組織全体を活性化する大きなポイントになるような気がしています。
それでも、楽器を練習することが苦痛になるくらい追い込まれてしまった生徒には、「音楽は一生ものだから、いつでもやりたいときにまたやり始められる。だから、今はお休みする時期なのかもしれない」という話をすることもあります。本当に音楽そのものが嫌いになってしまう前に、そっと辞めるという決断の背中を押してあげることも、私たちがすべきことの一つなのかもしれません。
(3)仲間とうまくやっていけない
これも退部理由としては大きな理由の一つだと思います。特に吹奏楽はチームでつくりあげる音楽だからこそ、「みんなで一つ」「例外は許されない」といった風潮も強く、集団の中で声の大きい勢力があったとしたら、そこについていけないと排除されてしまうという状況も生まれやすいのかなと思います。
確かに、集団としての規律を守ることは大切なことですし、そこがなし崩しに崩れてしまっては、何でもありのまとまりのない集団になってしまいます。しかし「集団としての規律」というものが、儀式化していたり、音楽とはかけ離れた慣習につながっていることも少なくありません。
本当に必要なことは何か。
究極のところは「人を傷つけないようにする」ということだと私は考えています。そのために一人ひとりがどのように配慮して仲間と接すればよいのか、それを互いに考えることで、仲間を思う気持ち、集団としてのまとまりを大切に思う気持ちは育まれていくような気がします。
それでも、一人ひとり性格も考えていることも異なる人間どうしの付き合いですから、傷つけ合ってしまうことは残念ながらあるかと思います。それを見逃さないようにするのは大人の役目です。どうしたら、仲間とうまくやっていけるのか、その子自身ができることもあるでしょうし、受け入れる仲間の方にはたらきかけなくてはいけないこともあるでしょう。相手を素直に受け入れるということは容易いことではありません。でも、せっかく共通の興味を持った仲間が集まっている部活だからこそ、そういった集団の中で様々な視点や考え方を知り、いろんな立場でものを考えるための社会に出る前の練習の場ともなるはずです。
もちろん、心無いイジメや理不尽な指導などが耐えられずに苦しんでいる子どもがいたら、無理にその場に残そうとは思いません。しかし、その根を絶やそうとしなければ、第二、第三の退部者を生み出すだけです。「仲間とうまくやっていけない」と感じている子どもがいたとき、その原因はどこにあるのか、一人ひとりと丁寧に向き合って気持ちを受け止めることが、何より大切なことだと思います。
いずれの場合にせよ、辞めたいという気持ちにさせてしまったことには申し訳なさも感じるし、もっと自分にできることはなかったのかと思います。やりたいのに辞めなくてはいけない状況に追い込んでしまっていたとしたら…と思うこともあります。
これまで私自身も、残念ながら途中で退部する生徒をたくさん送り出してきました。せめてもの救いは、退部した後に教室で見かける姿がすっきりとして元気よくなっていたり、新たに目標をもって努力していたり、辞めてからもすれ違ったときにそれとなく挨拶をしてくれたりすることでしょうか。部活を辞めても、学校生活は続きます。だからこそ、仲間とも顧問ともわだかまりのない状態で辞められるように、そして自分自身が前向きな気持ちになって辞めるという選択ができるようにサポートするのが、せめてもの役割なのかなと思っています。
とは言ったものの、l数多くある部活の中からわざわざ吹奏楽部を選んで入ってくれて、一緒に活動してきた仲間はとても大切ですし、一人ひとりかけがえのない存在です。そんな大切な仲間を失うことはやっぱり悲しいものです。できれば、みんなが心からやりたい、続けたいと思える部活にしていきたい。今はそれが願いです。
上手くいかないことの方がもしかしたら多いかもしれません。でも、ただ純粋に音楽が、楽器が好きだという気持ちを大切にしながら支え、育てていくのが自分たちの仕事だと思います。音楽は一生モノ。だからこそ入口で躓かせるわけにはいきません。そのために自分ができることは何か考えていきたいです。

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