「吹奏楽の神様」の指導にせまる ~福岡工大城東高校時代のDVDを見て~

「吹奏楽の神様」として有名な屋比久勲先生。そんな屋比久先生の福岡工大城東高校時代の指導の様子を収めた貴重なDVDを拝見させていただきました。
第1巻は木管/コンバス編。
基礎練習もただやるのではなく、狙いを明確にした上で、響きやサウンドを考えながらやることで意味を持ったものになります。どの音も均一に鳴らすこと、ロングトーンでも様々なやり方があり勉強になりました。タンギングでも、アルペジオでも、技巧練習であっても、根底にはロングトーンの考え方があって、一つの音楽のフレーズだと意識して練習しているように見えました。
特に「いい音」「きれいな音」を常に意識させるようにしていること、ブレスを深くとることが基本になっているのがよく伝わってきました。ロングトーンも標準は12拍、16拍(テンポ60)ということでしたが、これは屋比久先生の十八番でもある「エルザの大聖堂への行列」を吹くために必要な拍数をきちんと伸ばせるようにするというところにもつながってくるとおっしゃっていて、こうした意識づけが地道な練習には必要だなと思いました。
また、「怒らない指導」で有名な屋比久先生だからこその、おだやかな口調での指示は、決して「否定形」を用いず、「○○するように」「△△した方がいいと思う」と動作を促すものであることが多いことに気がつきました。ダメ出しではなく、どうすればよいのかを明確に説明されていて勉強になりました。
第2巻は金管/打楽器編。
トランペットのロングトーンでは、一つの音をただ伸ばすのではなく、半音でF-E-F、E-Es-E…とやったり、B-H-B、B-C-B…とやったりして、音程感も同時に養おうとしているのがとても良いなと思いました。
高音についても、優しい口調で「高いと思ったら出んよ」とおっしゃっていて、いやいやそれでも高いものは高いのですよと思いつつ、確かにその通りだなと思いました。「高い音だ」と思った瞬間に「出ないかもしれない」という気持ちがはたらいて、体も緊張し、余計に音が出づらくなるようにも思います。
あとは当たり前のことといっては当たり前ですが、先生がいなくてもパートリーダーを中心に効率よく練習が進められており、こうした無駄のなさ、集中力の強さも上達のためには必要なことだなと改めて突きつけられた気がしました。そういう「良い伝統」 は上級生から引き継がれていくとよいと思います。
第3巻は合奏練習。
まずは基礎合奏。各パートでチューニングをしてきた上で全体のチューニングをするというところはよくある光景だと思います。でも、Bの音に限らず、ユニゾンの練習をすることで、音程の感覚、音のブレンド力を高めていくのは、長時間チューニング地獄にはまらずに済むと思いました。
またハーモニー練習でも、多くの学校でやられていることだと思いますが、ただカデンツを伸ばすだけの練習で終わらせることなく、リズム練習もかねて行うことで、曲に繋げていけるなと思いました。いずれにせよ、常に「きれいな音」「いい響き」が大切にされているところが素敵だなと思いました。
楽曲合奏ではマーチの演奏をされていましたが、曲を止めるたびに、屋比久先生がどのように演奏したいかを具体的に歌ったり、譜面にかかれていることを確認したりと、非常に分かりやすく、穏やかながら必要なことはきちんと伝えられていて、これが「吹奏楽の神様」といわれる由縁なのだなと思いました。
合奏練習や本番を聴くことがあっても、なかなか他の学校が、楽器ごとにどのような基礎練習をしているのかを見る機会はそう多くはないかと思います。多くは学校によって「伝統」となっている練習法が代々受け継がれているのが現状のように感じています。そういう面でも、貴重な映像集だと思いました。

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