「音楽を奏でる」ことは実験の連続だ! ~化学屋的考察~

このブログでは主に音楽関係のことを書いていますが、私の本業は理科の教員です。大学では化学を専攻し、日々実験やレポートに追われる日々を過ごしていました。
本格的に実験が始まったのは大学2年の時でしたが、その時、同じ学科の先輩が実験レポートの書き方を詳しく教えて下さいました。それは、簡単にまとめると次のようなものです。
【化学実験レポートの書き方】
 ①仮説(実験目的)を立てる
 ②実験原理(背景知識)を調べる
 ③必要なもの(材料、器具)を一覧にする
 ④実験方法(実際に行った手順)を書く
 ⑤実験結果(観察結果)を書く
 ⑥考察(結果から考えられること)を書く
 →仮説が証明されなかったら、そうなった原因を考える
 →「思う」ではダメ、「考えられる」「推測される」「示唆される」など断定型で書く
一見すると「レポートの書き方」なのですが、よく考えてみると、実験計画を立て、仮説を証明するために必要な一連の行動の流れを示したものだと思います。実際、3年生までの基礎実験は結果が教科書に載っていて、それを再現できるか検証する実験でしたから、何となくこの手順に沿ってひたすらレポートを書きまくるという作業に追われていましたが、4年生になって研究室に配属されると、誰も取り組んだことがないテーマに向き合うために、これら一連の流れがとても大切なことだったということに改めて気づきました。
初めてやる実験。誰も結果は分かりません。
準備からデータ処理まで長い時間をかけても、望ましい結果にならないことの方が多いのも事実です。
それでも、自分が考えていることを実証するために、条件を変え、試行錯誤しながら実験をくり返します。
ようやく望ましい結果が出たとしても、一定の再現性がとれるまでさらに実験を繰り返します。
そんなことをひたすら続けて、研究に没頭した3年間を過ごしました。
多くの理系の学生が、そんな研究生活の記憶があることと思います。
でも、これって、自然科学の研究だけに適応される考え方ではないのだと思います。
実は音楽をやる人も、自然にこの「実験」をくり返しやってきているような気がします。
そこで、上の化学実験レポートの書き方を、私なりに楽器の練習の仕方に書き換えてみました。
【楽器の練習の仕方】
 ①目標とする音楽をイメージする
 ②必要なもの(譜面、楽器など)をそろえる
 ③譜面を読み込んだり、背景知識を調べたりして、アプローチ方法を決める
 ④考えたアプローチ方法に基づいて、そのプランを実践してみる
 ⑤やってみてどんなだったかを観察する
 ⑥やってみた結果が自分の望みにかなっているかを考える
 →望みが達成されなかったら、ほかのプランを考えてみる
このように楽器の練習も実験と同じつもりでやってみて、うまくいかないことがあったら、何でもいいから違うことを試してみる。いい傾向になったら。それが再現性のとれるものなのか試してみればよいし、ダメだったら他の方法を試してみる。それは音楽でも化学でも同じで、実験して観察して考察して次のプランを考えてみる、上達の道はそこにあるように思います。
そして、その時に自分に良かった方法が、必ずしも永久に適応されるわけでもありません。自分自身も成長していくわけで、それに応じてまた観察して実験して…を繰り返していく必要があります。他人なら尚更のことです。「正しい」とか「絶対」というものはなくて、永遠によりよい方法を探っていくだけのことなのだろうなと思います。
よく授業で「考察の答えを教えてください」と言われることがあります。確かに教科書的な答えはあるかもしれないけれど、一人ひとりが感じたこと、考えたことが考察であって、結果に基づいて理論的に述べられていればそれは立派な考察です。化学でも音楽でも、そういう一人ひとりの気付きや発見を大切にしたいところです。
そのためには、仮説を立てるための「なぜ?」という自分への問いかけも大切だし、実験原理にあたる背景知識や技術を増やすことも必要です。細かいところまで見逃さない観察力と、それがどうして起きているのかを考える推察力を磨くことも大事になってきます。
やることは多いけれど、実験だと思うと楽しく感じるのは化学屋の血でしょうか。少しずつ、いろんな実験を重ねて、自分なりに奏でられる音楽の幅を広げていきたいと思います。

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