今、自分がここにいること ~ATレッスン記録~

今日は現在来日されているトミー・トンプソンさんにアレクサンダー・テクニークの個人レッスンを受けてきました。最後にI’m surprised! としか感想が出てこなかったくらい、すごく気付きの多い時間で、まだ夢の中にいるような感じです。というわけで、少し冷静になって録音しておいたものを聴きながら、レッスンの振り返りをしていこうと思います。

最初に「何か吹いてみて」と言われ、とりあえず音階を吹いてみました。

その後、トミーさんの手に誘導されて、頭・脊椎の関係を意識して、もう一度吹いてみます。

まず、それだけで少し音に伸びが生まれました。

そこで、トミーさんが気づいたことをおっしゃってくださいました。
「あなたは気づいていないかもしれないけれど、トランペットを吹こうと思うと、前の方へ向かっていこうとする。そして、吹いている間にバランスを取り戻そうと一生懸命やろうとしているけれど、自分でバランスから外れていってしまっている。直そうとしないで、とりあえず起きていることを感じてみて。」

もう一度楽器を構えてみます。

・・・それだけで体が前に行こうとしている感覚があることに気づきました。

そして、トミーさんが再び優しい口調で語りだしました。
「あなたはここにいます。あなたがいるところはここです。ただ吹こうと思っただけであなたは前に行こうとしてしまうのだけれどね。じゃあ、科学を教えると思ってごらん。」

前に行かない自分がいます(笑)
「じゃあ、トランペットを吹くと思ってみて。」

その瞬間、前に体が動く自分がいます(笑)
「あなたがトランペットを吹くことを学んでいく過程の中で、“前に行く”ということが必要なことだと脳が認識して、そのようにトレーニングしてきたわけです。そして、神経回路がそのように形成されてきたのです。だから、脳の神経回路を再び組織立てていくトレーニングをする必要があります。」

「頭と脊椎の関係。それは止まっているものでも固まっているものでもありません。それが、あなたの全部を再び組織化していきます。」

「これから、足の上にあなたを連れていきますからね。自分がいるところにただ立たせるだけです。」

トミーさんの手が私の体を誘導していきます。

息がスムーズに入る感覚があります。音もさっきよりさらに伸びてきたように感じます。

そう感じたことをトミーさんに伝えてみました。
「そう、自分が行こうとしているところに拮抗して体が動こうとしなくてよくなったからだね。もし、自分が前に行ってしまうと、自分の神経システムが“前に行っているから後ろに戻さなくては”と指令するために、呼吸の流れを止めてしまう。だから、足の平全体の上に立って、足全体を通して吹いてみようと意識してみよう。前に倒れても、後ろに行きすぎても、右に傾くでも、左に傾くでもない。そして、楽器を自分の方に持ってくると思って吹いてごらん。」

もう一度吹いてみます。明らかに音が違います。

ここまでのやりとりが約10分。それだけで、こんなにも音が変わるとは。。。

レッスン中も変わっている意識はあったのですが、録音を聴くと改めてその違いがはっきり分かってびっくりでした。

さらに、トミーさんは「もう一つのプランを紹介しますね」と言って、語り始めました。

「ワークする前は、あなたの考えの中でどこかに行って、その結果あなたは前に行ったわけですよね。それが、あなたが自分自身とともに今現在の瞬間にいるということの妨げになっていたわけです。けれど、今現在にいるということは、場所ではなくて“動き”です。ワークを始める前は、あなたはここの場所を離れて別の場所に行きましたね。あなたの演奏の経験というのはあなたの体の中にあるものであって、楽器の中に演奏の経験があるわけではありません。だから、“そこ(楽器の方)”を“ここ”に持ってきて、それで吹いてみましょう。」

吹こうとしてみたら、さっそく前に向かおうとする自分に気づきました。

そして、トミーさんのフォローをいただきながら、“今自分がここにいること”に意識を集中させて、吹いてみました。

さっきよりも、さらに音が伸びやかになり、音色も若干明るく聴こえるようになりました。

「あなたが自分の足を地球を通して動くということを許した時に、すごくうまく演奏できますね」とトミーさん。

そして、何回か歩く→立ち止まるという動作を繰り返し、「足の裏全体で通して、吹く」ということを考えてもう一度吹いてみます。

意識したこともありますが、息が足の裏から頭に向かって真っすぐ突き抜けていくような感じで、結果として思わずレコーダーのボリュームを落としたくらい音量レベルが自然と上がっていました。

あと、その時に「足が地面をつかんでいる」という感覚を覚えました。決して重心が落ちすぎているわけでもなく、ただ、足の全面で地面をつかんでいる。学生の頃、音楽の先生が歌の授業の時におっしゃっていたことは、こういうことなのかなと何となく思いました。

そのことをトミーさんに伝えると、「時には土や草の上、つまり地面の上に立ってみて吹いてみるとよいかもしれません。床でも、セメントよりも木の方がよいでしょう。特にトランペットを吹いている人は、自分が立っているところの表面を感じながら練習するとよいように思います。」とアドバイスをくださいました。

ここで、トミーさんから嬉しい提案が。
「これからあなたのためのエクササイズをつくってあげるよ。」

そのエクササイズは次のようなものです。
①両足の足の裏全体で立つことを意識する
②足の裏で円を描くように体重移動をする
③その円をだんだんと小さくしていく
④頭は上にいき、足の底は地面の方へ向かっていくという関係性を意識する
⑤楽器を吹いてみる

すると、それまでかすっていた高音が楽に鳴らせて、最後の音の余韻まで楽しんで吹くことができました。実際、ご自身が若い頃にフェンシングの練習をしていたときにされていたエクササイズだそうで、はじめは一定の場所に剣を突けなかったにもかかわらず、このエクササイズをしたことで確実に的に当たるようになったそうです。

そして、今日一番の驚きの瞬間がやってきます。

トミーさんが「ちょっと楽器を貸してみて」とおっしゃったので、楽器をお渡ししました。するとトミーさんは私の楽器を優しい手つきで触りながら、語り始めました。

「この楽器は、この形になる前に、誰かが創造しようという思ってつくられました。そして、ある特定の音を出すために、真鍮を使おうと考え、形を考えました。このように楽器の後ろには、知性のある、それは美しいデザインというものがあります。それを吹くためには何をすればよいのかを知る必要があります。それは、あなたとあなたの楽器との間の関係性です。どんな良い関係性かというと、時には相手が今まで現れたことがないようなやり方で現れるということを許す必要があります。そして、自分自身も、楽器も、それぞれがそれぞれの周波数で振動しています。今私は、あなたのことを感じているように、あなたの楽器全体のことを感じています。(しばらく沈黙した後で)では、お渡しします。吹いてみてください。違う音がしますよ。」

楽器を受け取り、吹いてみました。

本当に音が違う!!!(これまで“違う”という言葉を連発していますが、本当に会心の一撃でした)

もう笑いしか出なません。

心の中で「何これ~!??」と叫んでいる自分がいました。でもトミーさんは「これは魔法じゃないよ。あなたにもできることだよ」とほほ笑んでいます。

「そのものの本質、統一性というものを認めてあげたら、もっと自分に応えてくれます。この楽器というのはある周波数で振動するようにできています。私たちも同じです。デザインの美しさを認めてあげる、そうすると、それに楽器がそのデザインされた通りに応えてくれます。そして、もっと驚くほど音がクリアになります。あなたにもできます。まるで、この楽器を初めて持つように、形や質感を味わって、音がずっと通り抜けていくことを想像してみてください。あなたはたくさんある楽器の中から、他のものではなく、この楽器を選んだわけですよね。だから、時々でも楽器と再び新しく出会うという気持ちになってみてください。では吹いてみてください。」

さっきよりも思い切り楽器が響き渡ります。
本当に驚くばかりで、思わず、I’m surprisedという言葉しか出てきませんでした。

その後で、トミーさんは今日のレッスン全体を振り返ってのお話を一つひとつゆっくりしてくださいました。

最後に、座って吹くときはどうすればよいのか、ということを質問してみました。

トミーさんに座骨を触って頂いて、先ほど足の裏全体でやったことを、今度は座骨でやってみます。座骨を中心に円を描くように体重をかけていって、だんだんその円を小さくしていって、座骨のサポートで吹いてみました。

立って吹いたときと同じように、音が響き渡りました。

こうして、レッスンは終わりました。

自分が今ここにいること、その存在を大切に感じて、楽器を恋人のように大切に思って、自分の中にある振動と楽器の振動を協調しようと意識する。それだけで音が劇的に変わる。

アレクサンダー・テクニークは魔法じゃない。でも、自分がどこにいるのか、自分の中で何が起きているのか、じっくり向き合うことで、魔法がかかったように変わる。改めてそんな不思議な体験をさせて頂きました。

そして、トミーさんに言われたように、私が数あるものの中から自分で選んだトランペットという楽器、理科の教員という仕事を大切に感じて生きていきたいと思います。

本当に、本当にありがとうございました。
Thank you very much !!!

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