基礎練習の意味を再考する ~ただのルーティンワークにならないために~

基礎練は意味を考えてやって、はじめて効果があります。
基礎練の重要性は改めて言うまでもないと思います。しかし、目の前に譜読みをしなくてはならない曲がたくさんあったり、何となく単調でつまらなく感じたりして、基礎練をすることがなんとなく「やらなくてはいけない」という義務感だったり、「このパターンをこなさなければいけない」というルーチンワークになっていたりすることはないですか?
基礎練には主にいくつかの意味があります。
また、同じロングトーンであっても、個人練で行うとき、パート練で行うとき、合奏で行うときなど、時と場合によってその意味は変わります。いずれにしても、今行っている練習が最終的に「曲でどのように活かされるのか」を常にイメージしながら行うことが必須です。
では、基礎練の持つ意味とは何なのでしょうか。言われなくても分かっている人も多いかもしれませんが、現時点で私が思いついたところをいくつかあげておきたいと思います。
①自分の調子の確認
音出しをするときや、個人で練習する時間に「自分で必ずこれはやる」と決めたメニューをつくってみましょう。それを必ず毎回の練習ごとにやるようにすると、同じフレーズでもうまくいく日と、そうでない日が出てくることがあります。うまくいった時の姿勢や体(息)の使い方などを覚えておくようにし、うまくいかなかった日にその原因を考え、できるだけうまくいく日に近づけるように音出しをしていくと、早いところ調子を取り戻すことができたり、自分のクセや弱みを知って改善したりすることができます。
★Check Point
 □ 楽器の構え方(重心、力の入れ具合、アンブシュアなど含む)はどうか?
 □ ブレスは深くとれているか? テンポや強弱に応じたブレスになっているか?
 □ 音の頭から終わりまで、楽器に息がしっかり入れられているか?
 □ 息のスピードや量は、その音を吹くのにふさわしいものになっているか?
 □ 楽器本来の音色が出せているか? 楽器は十分に響いているか?
 □ 音のキレはよいか? 発音は明瞭か?               
など
②曲を演奏するのに必要な個人の技術力を上げる
曲を演奏する時に「こう演奏したい!」という気持ちがあっても、それを表現するための個々の技術力がなかったら、とても悲しい結果になってしまいますね。バンド全体が一台のパソコンだとすると、パートやセクションは中に入っている装置(ハードディスク、キーボード、演算装置など)であり、個人はそれをつくっている部品(半導体、ネジなど)に例えることができます。使い勝手の良いパソコンをつくるためには、性能の高い装置が必要です。さらにそういう装置をつくるためには、精度の高い部品を集めることが必要です。これと同じように、素晴らしい演奏をするバンドをつくるためには、楽器本来の音が鳴っているパートやセクションが必要であり、さらにある程度の技術力を持ち合わせた個人を集めなくてはいけません。
しかし、初めから「ある程度の技術力」を持った人などいません。どんなに著名なプロの演奏家でも、みんな初めは初心者です。もちろん才能のある人、上達の早い人はいるかもしれません。でも、スタートラインは一緒なのです。そこからどのように腕を磨いていくかは、みなさん一人ひとりの意識次第です。「もう無理だ」と思った瞬間に、上達への道は閉ざされます。本気でこれ以上ないってくらい努力しても上手くいかないことも当然ありますが、最初から「どうせ自分にはできない」と計算して挑戦もしなかったら、本来できるはずのところにさえ到達しないかもしれません。
挑戦するからには、壁に何度もぶちあたってつらい思いをすることもあるかもしれません。でも、自分に限界を作って諦めてしまったら、その先にあるはずの喜びには絶対にたどりつくことはできません。私は“できなかったことができるようになる”ところに楽器を練習するという魅力があると思います。ぜひ、一人ひとりが個々の課題と向き合い、必死に克服する努力を続けたいところです。
★Check Point
□その日、最優先でさらわなくてはいけない曲の中で、特に自分が苦手とする力を把握しており、それを改善するための練習方法がわかって練習しているか?
 → 自分の課題を分かって、それに応じた練習メニューでできているか?
□ロングトーンはffでもppでも、楽器本来の音を響かせられているか?
 → 唇やリード、弦、皮などは十分に振動しているか?
 → どのような音で吹こうと思っているか?
□スラーはなめらかにつながって演奏できるか?
 → 息の圧力を保てているか?
□様々なアーティキュレーションに応じた発音ができているか?
 → どうしても苦手な発音やリズムがあったら、教本で類題を探して練習。
□音程はきちんととれているか? 歌えるか?
□毎日、昨日より難しいことに挑戦できているか?
③パートやセクションとしてのサウンドづくり
一人ひとりがそれぞれ「こう吹きたい!」というイメージをしっかり持っていたとしても、そのイメージがパートやセクションで共有されていなかったらいいサウンドは鳴りません。パートやセクションで基礎練をする意味は、個人でつくってきたサウンドのイメージを共有して、1つの方向にまとめていくところにあるかと思います。もちろんこのとき、大前提として「個人でサウンドのイメージをつくってくる」ということが必須になるわけですが。
多くの学校では、先輩方から引き継がれてきた基礎練メニューや、トレーナーの先生方から教えて頂いた方法などを実践していることと思います。基本的にはその練習方法でよいのだと思いますが、大切なのは「曲の中でその技術がどのように利用されるか」を考えながら練習することです。もし、その場でパターンを決めることがあるならば、「○○の曲の中に出てきた▲▲というところの音のイメージで」とか、少し具体的に曲名や場所を上げながら、その部分を演奏するのに必要な音作りをしっかりしたいところです。
また、指摘している部分はとても的確であっても、「合っていないので合わせて下さい」「気をつけて下さい」というアドバイスで終わって、そのまま次に進んでしまうことがまだまだ多いことです。できればそうなる原因まで掘り下げて考えてみたり、できるようになるまで同じものを繰り返しやってみたりということをしつこくやることが大切だと思います。
★Check Point
□目的を持たせてメニューを考えられているか?
 → パートの課題を分かって、それに応じた練習メニューでやれているか?
 → 音のイメージを決めてやっているか?
 → 曲に出てくる調、リズム、フィンガリングなどを選択できているか?
□できるまで(そろうまで)しつこく繰り返し練習できているか?
 → 少しでも合わなかったら最初からやり直すくらいの覚悟でやれるか?
 → できるようになるためにどうすればよいのか話し合えているか?
④バンド全体のサウンドづくり、イメージの共有
いわゆる「基礎合奏」(チューニング前後のものも含む)には、パートやセクションでつくってきたサウンドをバンド全体で共有する意味合いがあります。ここでも「目的意識」が大切になるわけですが、基礎合奏には主に次のような意図が考えられます。
(1) ユニゾンの練習
「バンドの実力を決めるものはユニゾンである」とよくいわれています。ユニゾンが合わなくては、和音も合いません。ブレスの取り方や、音色、発音の仕方、音程のとり方、バランスなどを注意して吹くことで、バンドの音作りをします。
チューニングのB♭音に限らず、合奏の中での自分の音がどんなものかを知ったり、音と音の音程の幅の感覚をそろえたりして、ユニゾンの力を強化する。これをしっかり固めておくと、曲合奏の中で音程で止められることが少なくなる(はず)。
(2) 奏法の統一
ソロとして演奏する時には、独奏者としての個性と表現力を十分に発揮し、聴かせなければならないが、合奏の中の一員として演奏する時には他の楽器の演奏の中に自分の音を溶け込ませるようにしなければならない。そのため合奏の時には、発音や奏法などをそろえること、各奏者の個人差を出来るだけ小さくすることが重要になってくる。
(3) バランスの確認
ある楽器が出すぎ、もしくは響きが足りないなど、全体の音量としてのバランス、旋律が埋もれてきこえにくいなど、音楽を構成する要素間のバランス、そして和音を構成する音同士のバランスなどを整える。
⑤バンド全体で曲を演奏するのに必要な技術を確認する
★Check Point
□ ロングトーン
個々の奏者が「音作り」のためにロングトーンを要求されるように、合奏としても、お互いの音を聴き合う訓練も兼ねてのロングトーンが必要である。打楽器のきざむリズムを感じながら(リズム感)、お互いの音を聴き合い、音程を合わせたり、音量を調整することにより、良い音色と響きを養うことができる。したがって、ただ長く伸ばせばいいと思うのではなく、音の出だしと音の終わりに気を配って、常に「いい音を出そう!」「音をゆらさずまっすぐ吹こう!」と考えながら吹くことが大切である。また「心を一つにして、皆で努力している」という気持ちを育て、合奏の中での連帯感を生みだす役割もある。
□ ハーモニーの練習
和音としてのバランスと響きが美しくなるには、音色的も、奏法的にも、また音程的にもお互いに統一されたものがなくてはならないし、お互いの音を聴き合う習慣を身につけるためにも、欠かせない練習である。
□ リズムをそろえる練習
多種多様な楽器で編成される吹奏楽において、タンギングやアタック等は個人差があり、余程注意しないと音の出が不揃いになってしまいう。合奏にとって「音作り」が大切なことだが、同時に音の出をそろえる「リズム感作り」「テンポ感作り」も練習しておく必要がある。
□ ダイナミクスの練習
ffが汚い、ppの音に生気がないなどということがないためには、普段からダイナミクスの練習をする必要がある。これはもちろん個人でやる必要もあるが、吹奏楽では“バンド全体でのダイナミクス”を考えることが求められる。<>やfp, sfZ 等の様々な強弱記号に対し、音楽としての強弱をつける練習ともいえる。
□ イントネーション(抑揚・表情)の練習
聴く人の心と演奏する側の心の結びつきが音楽を作り上げる最大の要件である。そのためには楽譜に書いてあること、指揮者に注意されたことをよく考え、また曲の構成や全体の表情などをつかんだ上で、自然な表現ができるようにすることも大切である。
限られた個人練やパート練の時間でたくさんの曲を譜読みし、どんどん合奏で仕上げていかなければいけないこともあるかと思います。基礎練をしっかりやらなくては、と思いながらも、なかなか時間を取ることができないかもしれません。
でも、よくよく譜面を読んでみると、どの曲にも同じようなリズムが出てきたり、同じような跳躍が出てきたり、同じようなハーモニーが出てきたり、と基礎がしっかりしていれさえすれば、それぞれの曲をさらう時間をかなり短縮することができることに気づくはずです。「時間がない」を打開する最大の工夫は、こうした“共通点”を探し出して、急がば回れの精神で基礎力を磨くことだと思います。繰り返しになりますが、何のために基礎練をやるのかを分かってやらなければ意味はないけれど、意味を持って取りくんだ基礎練は、必ず味方になってくれると思っています。


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