「音楽で会話する」 ~アンサンブルの原点に立ち返る~

先日、以前所属していたオーケストラの本番を聴きにいってきました。
自分が所属していた頃はアンサンブルや小編成のオーケストラ作品を扱うことが多かったのですが、今や割と大所帯のオーケストラに成長していて、曲目も大曲揃いになっていました。でも、アンサンブルを大切にしようという元々のコンセプトはそのままで、大編成になってもアンサンブルをみんなでつくっている感じが、やっぱりこのオケはいいなぁと思いました。
と思ったら、本番後、そのオケの指揮者も務めている後輩がこんなことを言っていました。
あくまでみんなが自分で感じたことをこういう風に表現したいんだって自らの意志で発信して、表現できる場を作りたい。そういう気持ちにさせる楽団作りと音楽つくりをしたい。
人に言われてやるんじゃなくて、誰かに、相手に、これを伝えたいって思った時に本物ができる。
それで、どうせならそれを一人でやるんじゃなくて、一人が感じて発信していることを皆が感じとって、それをまた発信し合ってどんどんキャッチボールしてふくらましたほうがほうがもっと楽しいよね。

この言葉を読んで、彼が目指すオケの姿にすごく共感したし、自分もそんな関係を部活の中でもつくっていきたいと思いました。そのためにも、やっぱり初心に立ち返って部員との心のキャッチボールを大切にしていきたい。そのために今自分に何ができるのか、そんなことを考えずにはいられませんでした。
今日は、演奏者として、指揮者として、原点に立ち返って何ができるのかを考えてみたいと思います。
1.自分の音楽性(感性)を磨くこと
ここのところずっと書いていますが、音楽をやる上で、やっぱり何かを感じとる心は絶対に必要だと思います。自然の中にいて、美しいものを美しいと思えたり、心地よい風を感じることができたり、おいしいものを食べて美味しいと思えたり・・・。人とのコミュニケーションの中で、喜怒哀楽、様々な感情を抱いたり、相手が何を考えているのかを察したり・・・。包丁も使っているうちに切れ味が悪くなって砥がなくてはいけないのと同じで、感性も磨き続けようとしていなければ鈍ります。だからこそ、そんな日常生活の当たり前のことから、いろんなことを感じ取れる力を常に磨いていきたい、そう思うのです。
2.これからやろうとする音楽(曲)のイメージを深めること
当然のことながら、これから演奏しようとする曲についてよく知らなければ、「こうしたい」という思いをもつことはできません。ですから、スコアを読んだり、音源を聴いてみたり(CD弁にならない程度に・・・)、作曲者や時代背景を調べてみたり、いろいろなアプローチをしながら、自分の中で曲のイメージを膨らませていくことがまず求められると思います。
異論もあるかと思いますが、部員にはより具体的にイメージを持ってもらうために、曲を題材にして物語をつくってもらうこともあります(人によって様々な物語が出てきて、これはまた面白いのですが・・・)。
3.自分が「こうしたい」という想いを持つこと
イメージを膨らませていく中で、だんだんと自分の役割がわかってきたり、「ここはこうしたい」という想いが湧いてくると思います。絶対に「こうしたい」と思わなくてはいけない、ということではないのですが、想いが湧いてくるくらい、感性を磨いたり、イメージを膨らませたりする作業は大切だと思います。きっと、誰の中にも「こうしたい」という想いはあるはずですから・・・。
4.下手でも失敗しても違っていてもいいから、表現してみること
ここが実は一番の難関のような気がします。
「失敗したらどうしよう」「注意されたらどうしよう」・・・そういった心配や不安から、なかなか自分のことを大胆に表現するのが苦手な人は多いのだと思います。私も例外ではありません。でも、楽器(指揮棒)を持った時くらい、大胆になってもよいのだと思います。
以前、ウィーン・フィルの主席トランペット奏者であるMartin Muhlfellnerさんの公開レッスンに運良く混ぜていただいたときに「Die Trompete spielen !!(君はトランペットを吹いているんだ!!)」と言われたことがあります。どんな時でも、頭の音から自信を持って「自分はトランペットを吹いている」という誇りを持って演奏することが大切だと言われました。自分では頑張って吹いているつもりでしたが、吹いても吹いても自信がなさげに聞こえるらしく、何度も何度も言われました。
まず怖がらずに表現すること、うまくいかなかったらその時考えればいいくらいの気持ちで、自分の「こうしたい」という想いを表現していくことが大切なのだと思います。自分が思っている以上に表現していかないと、相手には伝わらない。大胆に、大げさに思うくらい表現するのがちょうどよいのかもしれません。
5.周りの仲間が表現しようとしていることを感じ取ること
もちろん、自分の想いを表現するだけではアンサンブルは成り立ちません。奏者一人ひとりが自分の「こうしたい」という想いを出し合った上で、仲間がやろうとしていることを感じ取るアンテナを張っていることも必要です。
私と一緒に顧問をされている音楽の先生が部員に「個室に入って音楽をやるな!」と言うことがあります。せっかく共に音楽をつくっていく仲間が周りにいるわけですから、自分のことだけで精一杯になったり、自分の想いだけをぶつけていくのではなくて、目線を合わせたり、呼吸をそろえてみたり、空気感を共有したり・・・といったことが大切だと思うし、それがアンサンブルの楽しみだと思うのです。
この他にも、顧問としては、部員が今どんな気持ちでいるのか、体調は大丈夫かなど、一人ひとりの生徒のことを把握しておくことが必要になってきます。でも実際のところ、部員の表情を見ること、思っていることを共有すること、日々の業務に追われて、一番大切なことをし忘れてしまうこともあるように思います。
自分も例外ではなく、反省するところなのですが、そんな時始めたのが全国の諸先生方もやられている部員との練習日誌の交換と、部活通信の発行です。部員自身の振り返りのためもあるけれど、自分が一人ひとりがどのようなことを思っているのか少しでもつかむヒントになっていますし、自分が今どんなことを考えて部活に臨んでいるのかを部員に知ってもらうきっかけにもなっています。それでも手が回らずに互いにサボり気味になってしまうときもあるのですが、続けていければいいなと思っています。
少し話がそれてしまいましたが、タイトルにも書いたように、アンサンブルの原点である「音楽で会話する」ことができるようになるために、少しでも自分ができることを考えて、また頑張っていこうと思います。

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