「頭が動けて、からだ全体がついてきて…」の謎に迫る!

この秋から「Self quest Labo」という学びの場で、アレクサンダー・テクニークを改めて学び直しています。

今日はその課題でもあり、アレクサンダー・テクニークの基本中の基本でもる「軸骨格の構造とプライマリーコントロール」について、これまでに学んできたことを元にしながらまとめていきたいと思います。

 

「頭が動けて、からだ全体がついてきて…」って何の呪文なの?

アレクサンダー・テクニークのレッスンを受けると、「頭が繊細に(自由に)動けて、からだ全体がついてきて…」というような言葉を、何かのまじないか呪文のように何度も何度も先生からかけられます。

アレクサンダー・テクニークの先生が書いた本やブログにも何度となく書かれていまるこの言葉。何をするにしてもこのまじないか呪文のような言葉をかけれれるので、「何を言っているのだろう?」「怪しげな宗教か?」とも感じる方も多いかもしれません。

私も初めにこの言葉を目にしたとき、どんなことを言っているのか全然わからなかったですし、実際に体験しないとわからないだろうと思って体験レッスンの門をたたいた節があります。

知らないと本当に怪しげな呪文のように感じるこの言葉ですが、学んでいけばいくほど、この言葉の重みを感じるようになりました。これを人は洗脳と呼びます(笑)。

実はこの「頭が動けて…」という一連の言葉は、F.M.アレクサンダー氏が発見した頭と脊椎の関係、いわゆる「プライマリー・コントロール」を自分自身に向けてディレクション(方向づけ)ていくときに使われる言葉、つまりアレクサンダー・テクニークの基本中の基本を意識するための言葉なのです。

 

「プライマリーコントロール」とは何か?

「コントロール」というと、何かに洗脳されて支配されてしまうようなイメージを持つ方も少なくないかもしれませんが、ここでいうコントロールは、自分自身を調整したり、良い方向に道いびいていくという意味で使われているように思います。

アレクサンダー・テクニークの提唱者であるF.M.アレクサンダー氏は、自身の体の不調の原因が「頭と首と胴体の関係にある」ということを発見しました。アレクサンダー氏は「頭と背骨全体の機能を邪魔していなければ、その人全体がうまくはたらく」という原理をのちに『プライマリーコントロール』と呼びました。

アレクサンダー・テクニーク教師であるバーバラ・コナブルとウィリアム・コナブルが書いた『アレクサンダー・テクニークの学び方〜体の地図づくり〜』という本には、プライマリーコントロールについて、次のような記述があります。

プライマリーコントロールとは、体を支え、バランスをとるための本来的、生来的メカニズムです。このおかげで、私達は努力せずに直立することができ、また動きが支えられ流動的になるのです。だんだんにわかっていくことですが、プライマリーコントロールは、運動中も静止中も頭と脊椎の動的な関係を保持し、再生するということで決まるのです。

つまり、何か体に不調を抱えているとき、どこか一部分の使い方を部分的に直していくのではなく、頭と脊椎の関係に注目をし、本来持っている”プライマリーコントロール”というシステムが正常に機能できる状態をつくることができれば、より自由に効率よくからだを使っていくことができると考えることができます。

 

脊椎動物の進化とプライマリーコントロール

下の図を見てもわかるように、人間は脊椎動物の中でも珍しい、直立二足歩行をする生物であり、他の動物では前にある頭が上にあり、地面と平行にある背骨(脊椎)が地面に対して垂直に存在しているという特徴があります。

※図は日本経済新聞より引用

さらには頭蓋骨の中に入っている脳みその量も、下の図のように進化の過程でだいぶ増えており、現代人は「頭」というかなり重いパーツを背骨で支えながら生きていると言えます。

※図はScience WIndowより引用

しかし進化の過程で、骨格もできるだけ効率的に機能できるように形を変えてきているわけですから、本来の構造を上手に使うことができれば、生活上の困難は生じないはずです。

ただ、長く生活していく中で、自分自身が体全体に緊張感を作り出し、頭の重みが重力に負けて脊椎を圧迫し、本来人間が持っているはずのプライマリーコントロールを阻害してしまい、結果として体のいたるところで使い方の状態が悪くなってしまうことが多くあります。それをアレクサンダーは「押し下げ」と呼びました。

その「押し下げ」の状態にあることに自分自身が気づき、よりよいパフォーマンスにつなげていくために、プライマリーコントロールと意識的に協調をし、それを促進させていくものがアレクサンダー・テクニークだと言えるでしょう。

 

プライマリーコントロールが機能するには?

頭の動きが、体全体の動きに影響するということは、まず頭が動けることが必要です。

では、「頭」とはどこのことを指すのでしょうか。

それは、「トップジョイント」または「AO関節」などと呼ばれる、脊椎の一番上にある環椎後頭関節が基準になります。「頭」は、そこよりも上の高さの部分だと考えられます。人によって若干の違いはあるかもしれませんが、ちょうど耳の上端くらいの高さでしょうか。

「頭が動けて…」とは、その「頭」が自由に動ける状態にあると考えます。アレクサンダーが「頭が前へ上へ」と表現したように、前だけでも上だけでもなく、「前へ上へ」自由に動ける状態にあることで、脊椎がついてきて(体全体がついてきて)、いわゆる「押し下げ」の状態から解放された、プライマリーコントロールが機能している状態になります。

「天才肌」といわれる一流のアーティストやアスリートに見られるように、これを意図的に意識せずとも、自分がやりたいことをしようとしたときにプライマリーコントロールが自然に機能している人もいます。しかし多くの場合は、プライマリーコントロールを阻害する「押し下げ」の状態が習慣化してしまっているため、プライマリーコントロールを機能させようということを意図的に意識することによって、その機能を取り戻す必要があります。

その時に用いるのが「頭が動けて、からだ全体がついてきて…」という例の言葉なのです。

 

なぜ「頭が動けて、からだ全体がついていく」ことが必要なのか?

NHKの教育用動画素材を集めたWEBサイト”NHK for School” に「脊椎動物の体の動かし方」という動画がありました。これを見てみると、脊椎の動かし方はそれぞれ少しずつ違うものの、どの動物も(人間の赤ちゃんも含めて)、行きたい方向に頭から動いていって、それに胴体がついていく様子が分かります。「頭が動けて、からだ全体がついていく」これが本来、生物が動いていくために備わっているシステムなのだと改めて実感できる動画でした。

同じく”NHK for School”の「脊椎動物とは(X線)」という動画を見てみると、脊椎動物は背骨を中心として体が動くしくみになっていることがよくわかります。

脊椎動物である人間もこれは同じです。「軸骨格」とよばれる頭蓋骨、肋骨、胸骨、脊柱(頚椎、胸椎、腰椎、仙骨、尾骨)あわせて80個の骨が人間にとって、体の支えとなり、動きの軸となっています(下図の青い部分)。

上の図を見てもわかるように、腕や足の骨格というのは軸骨格につながっており、「付属肢骨格」とも呼ばれています。ですから、まずは軸骨格が自由に動ける状態をつくっておかないと、腕や足の動きにも影響が及んでしまうのです。

その証拠に、首を意図的にギュッと固めた状態で腕を上げようとすると、非常に上げにくくなるはずです。もちろん手だけではなく足も動かしにくくなりますし、呼吸もしづらくなったり、あらゆる動作がしづらくなるかと思います。このように、軸骨格を固めて使いづらい状態にしてしまうと、体全体に影響が及んでしまうことにもつながります。

プライマリーコントロールは、言い換えると軸骨格が自由に使える状態にあることだとも考えることができるでしょう。そして、「頭が動けて、からだ全体がついていく」ことで軸骨格が自由に使えるようになり、からだ本来の機能を十分に使える状態にすることで、やりたいことをよりやりやすくするのがアレクサンダー・テクニークであるとも言えるのではないでしょうか。

 

「固める」という選択をするのも悪いことではない

「頭が動けて、からだ全体がついていく」状態にして、何かをするとうまくいくこともたくさんあります。できたら、いつもその状態に自分を置いておくようにして、やりたいことを思い切りやれるように、自分の持っている力を存分に発揮できるようにしたいものです。

しかし、頭や体を「固める」ということも生物本来の防御反応からくるものであり、恐怖から身を守るときには必要な反応であったりもします。飛行機で緊急着陸の必要が出たときに「全身緊張」と言われるのも、全身を固めることで体へのダメージを軽減する意味合いがあります。

それだけに、「固める」ことが心地よいときもあるように思います。周りにいる人が苦手だったり、環境的にあまり外と繋がりたいと思えなかったりするときには、体を固めて身を守るという選択もあるのだと思います。

プライマリーコントロールが機能するように、「頭が動けて、からだ全体がついてきて」ということを自分自身に思い出させようとすることは、決して24時間365日やり続けなくてはいけないという義務はありません。

やりたいことを、思い切りやろうと思った時に、自分自身で選択してプライマリーコントロールを機能させることができるようになれればよいような気もしています。

そのためにも、これからも意図的にプライマリーコントロールを機能させることを生活の様々な場面で実行しながら、自分自身が最も活かせる道を探し続けていけたらと思います。

 

…と、「頭が動けて、からだ全体がついてきて」を連発して書いていたら、自分のからだの使い方が記事を書き始める前と変わっていたことに気づきました。人間って、単純な生き物だなぁと思いました。これも新しい発見ということで…。

iQiPlus

「頭が動けて、からだ全体がついてきて…」の謎に迫る!” への3件のコメント

  1. ピンバック: 楽器を”持つ”ときに考えたいこと ~軸骨格と腕~ | とあるラッパ吹きのつぶやき

  2. ピンバック: ありのまま自分を、安心安全の場に置いておくこと | とあるラッパ吹きのつぶやき

  3. ピンバック: 自分本来の力を十分に発揮するためにやりたいこと | とあるラッパ吹きのつぶやき

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。