「これからの部活動の在り方」を考える。

昨年12月、文化庁から「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が出されました。私も出されてすぐに読んでみましたが、実際の部活動について、かなり具体的なものが出されたなと思うと同時に、私たち現場の人間がどのように対応していけばよいのか、改めてしっかりと考える必要があるなと考えさせられました。

今日は、このガイドラインを読んだ印象と、2020年の大学入試改革もふまえて、「これからの部活動の在り方」について、今の自分が考えていることをつぶやいていきたいと思います。

 

ガイドライン』と『働き方改革』は分けて考えたい

このガイドラインで取り上げられていることには、主に次のようなことがあります。

・合理的でかつ効率的
・効果的な活動の推進のための取組
・生徒の健康管理、事故防止、体罰・ハラスメントの根絶を徹底
・適切な休養日等の設定
・生徒のニーズを踏まえた環境の整備
・学校単位で参加する大会等の見直し

どれも当然のことでもあり、大切かつ必要なことである反面、これがわざわざ明文化される背景には、部活動が行われている現場で、なかなか実行できていないことも多いということが残念ながらあげられるわけです。

この中で、現場でまず実行しやすいのは「適切な休養日等の設定」でしょう。それでも生徒や保護者の声も強くてなかなか実行に踏み切れない顧問の先生もいらっしゃるかもしれませんし、逆に顧問の先生がなかなか受け入れてくれずに困っている生徒や保護者の方もいらっしゃるかもしれませんが、この『ガイドライン』にある「週当たり2日以上の休養日を設ける」「平日は少なくとも1日、土曜日及び日曜日は少なくとも1日以上を休養日とする」を盾にして、これを基準に活動日程を決めること自体は、さほど難しくないと思います。

私の勤務校でも、数年前にこのガイドラインとほぼ同じ規定が運動部も含めた形で決められました。これに加えて、勤務校は土曜日も午前授業がありますので、「土曜午後・日曜午前・日曜午後・休日午前・休日午後をそれぞれ1コマと数え、活動コマ数が月の全コマ数の半分を超えないように配慮する」という規定もあります。

初めは生徒からの「もっとやりたい」「時間が足りない」という声も多く聞かれましたが、慣れてしまえば決められた時間の中でどうすればよいのかを、生徒も私たち顧問も今まで以上に考えるようになるものです。決められてしまえばできなくもない、という面も実際にはある気がします。

しかし一方で、個々の譜読みの時間、音源を聴く時間、係の仕事の時間なども部活の時間内で取らなければいけない事情もあり、実際には時間が足りないと感じることも多いです。また、部活から離れる時間が長くなったこともあるのか、生徒一人ひとりの部活に対する熱量は、残念ながら以前よりも下がった印象はあります。いずれも私の力量不足でもあるのですが、現在の状況の中でも、少なくとも「楽しいからやりたい」と思える活動にどうやってしていけるか、悩みながらやっているところです。

 

ガイドラインには、「生徒の自主的、自発的な参加」「合理的でかつ効率的・効果的」という言葉が多用されています。当然のことですし、理想の形でもあるわけですが、実際に「生徒の自主性を育てる」「合理的で効率的・効果的」な指導を行うことは、容易なことではありません。

「自主性」とは放任ではありません。と同時に、大人が求める答えにたどり着かせようと「自主性」を演じさせることもまた違います。これまでも「自主性」については何度も記事を書いてきましたが、「自主性を育てる」ということは、教員として根底に思い続けながら、目の前の子どもたちと試行錯誤を繰り返しながら、一緒に積み上げていくことのように思っています。

子どもに「自主性」を演じさせないために考えたいこと

先生主導で生徒を服従させる方法では、長続きしない!

「コーチング」の前に「ティーチング」あり ~自ら動き出すチームづくりのために~

 

これができるかどうかは、本当に顧問や指導者の力量によるところも大きい気がします。教員自身が自分を磨き、研究や研修に割く時間も増やす必要がありますし、一人ひとりの生徒とコミュニケーションをとる時間も今まで以上に増やしていく必要があります。

休養日、活動時間の話だけがクローズアップされて、『働き方改革』に結び付けて考える人も多いと思いますが、本当に子どもたちが自発的に自主的に、かつ効率の良く成果も出せる練習をしようとしたら、各分野の専門家を顧問として別に採用しない限り、顧問に求められるものは増えるような気がします。

そのように考えると、『部活動のガイドライン』と『働き方改革』はいったん区別して、「子どもたちにとって部活動がどのような在り方であるとよいのか」「どんな子どもを社会で育てていきたいのか」という視点から、この課題を考えていく必要があるのだと思います。

 

大学入試改革で求められる力、部活動で育てたい力

ガイドラインとは話が少し変わりますが、2020年度から大学入試が大きく変わるということが、学校現場や教育業界ではよく話題にのぼります。

もともとは「初等中等教育の在り方を変えたい、でも大学入試が変わらなければ現場は変えるわけにもいかない」という過去の反省も生かした改革でもあるわけですが、具体的にはどのように変わろうとしているのでしょうか。

今回の大学入試改革は下図にも示したように、「AIの活用」「グローバル化」に対応すべく、従来の「知識、技能中心」の学力評価に加えて、「思考力、判断力、表現力」「英語力」「協働性」といった力を評価していくものにしていきたいというねらいがあります。

これらの力は何も普段の授業だけで身につけさせようとしているものでもありませんし、筆記試験だけで問われるものでもありません。

「主体性を持って多様な人と協働して学ぶ態度」をより積極的に評価しようということもあって、これまで、推薦入試では重視されてきた「調査書」や「志望理由書」が、一般入試でも重視する方向になろうとしています。そのために、子どもたちが低学年のうちから自分自身の活動を記録し、高校生活を振り返り、今後どのような学び・成果につなげていくかを考えたり、また将来の目標設定に役立てていくための「e-ポートフォリオ」の取り組みも始められています。

このようのな中で、部活動ではどのような力を育てていけばよいのでしょうか。私は吹奏楽部の顧問ですので、ここでは吹奏楽部の活動を想定しながら考えてみたいと思います。

 

1.部活動で「思考力・判断力・表現力」を磨く

ここでは、少し前の資料ですが、文部科学省「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の主な論点整理」にある「思考力・判断力・表現力」を評価するための3つのポイントから考えてみたいと思います。

①問題発見解決力
⇒どのような状況(Context)のときに、
どのような問題(Problem)が生じやすく、
それをどのように解決(Solution)すればよいのか

例えば技術面で、「細かい音符が続く時に、指が回らない」という問題があったとします。それを解決するために「ゆっくりなテンポにして、つっかえる所だけを抜き出して練習する」というのも問題発見解決力につながるかと思います。

運営面でも、「練習に人がそろいにくい」という問題があったとしたら、それを解決するために「できるだけ早く練習予定や内容を知らせて、都合をつけてもらう」というのも一つの方法としてあるでしょう。

このように、部活動の場面だけを考えてみても、様々な状況があり、たくさんの問題も生じてきます。その時に大人が安易に答えを教えてしまうのではなく、ヒントを与えたり、上手くいかなかった時のフォローを重ねながら、子どもたち自身が自分の手で問題を解決する楽しさや喜びを感じていけるようにしていくことも大切なことのように思います。

 

②分析的読解
⇒複数の文章を読み、そこで語られている内容の共通パターンを分析する

一つの物事について、顧問、コーチ、上級生のそれぞれから、指摘やアドバイスが異なることもあるかと思います。しかし、基本的には上達を願っていっていることであり、どれが正しくて、どれが間違っているということはありません。

このようなとき、
・どのような状況のときに言われたことか
・何を目的として言われたと考えるか
・自分がやってみたとき、どのアプローチがやりやすいか

ということを考えてみることで、それぞれの指摘やアドバイスに共通していることを見つけたり、自分が目指すもののために必要なものを選び取っていくことも可能です。

このように、大人や上級生の言うことにただ強制力を持たせようとするのではなく、言葉の意味や意図を考えていけるような雰囲気づくり、関係づくりも必要なのだと思います。

 

③連動型複数選択問題
⇒「状況」「問題」「解決」など、お互いに連動する複数の選択肢群からそれぞれ選択肢を選び、その組み合わせで回答する

音楽には「正解」がありません。だからこそ、様々な可能性があるものです。

例えば、譜面に「pp」と書いてあったとします。
pp(ピアニッシモ)の意味は、楽典などで調べると「とても弱く」とありますが、作曲家はどのようなことを求めてその記号を書いたのかは様々です。また、演奏者がどのようなイメージを持って、どのように演奏するかも、また様々です。

・遠くで鳴っている音を表現したいのか?
・今にも消え入ってしまいそうな繊細な感情を表現したいのか?
・他の楽器とのバランスでそのような記載があるのか?

このようにいろいろな想像をはたらかせつつ、「このようなイメージで演奏したい」→「ではどのように演奏すればそのイメージを表現することができるのか」ということを考えて、試行錯誤していくことで、自分なりの答え(表現)を見つけていくことも音楽の楽しさのようにも思います。

その過程で、ヒントを出したり、共に考えたりするのも大人の役割ですし、部活の中で部員同士が共に考え、つくり出していけるようにしていけたらとも思います。

 

2.部活動で「主体性」と「協働して学ぶ態度」を身につける

現状でありがちな練習として、下図の左にもあるように「これをやれ」と言われたことを言われた通りにやり、その場ではできるけれど、また自分でやろうとおもってもやり方を忘れてしまい、また教えてもらうのを待つ・・・ということがあげられます。

原因は様々あるとは思いますが、今までの日本の学校教育では「先生が黒板に書いたことや話したことをノートにとり、それを理解する」という授業スタイルが基本でしたから、部活の場でもその延長線上で行われてしまうということがあったのだと思います。これはこれで工業化社会を支える人材育成の方法としては成功だったともいわれています。

しかし、音楽を表現したり、これからの時代を生き抜いていくための学び方というのは、上図の右にあるような「上達のためのサイクル」を一人ひとりが実践していくことだと思います。

まずは「こうしたい」という望みがもてるか。
ーそれには、「素敵だな」と思えるものにたくさん出合わせたり、成功体験を持たせたりするというきっかけも必要です。

次に、実現するための方法を考えて、試してみることができるか。
ーそれには、考えるためのヒントや、様々な方法を示すことも、失敗しても受容してもらえるような安心感のある環境づくりが必要です。

そして、結果をそのまま受容した上で、改善して次につなげていくことができるか。
ー結果が思うようなものでなかったとしてもいったん受け止めて、次にどのようにすれば改善していけるかを考え、また新たなサイクルに向かっていくようにするためには、頭ごなしに否定したりせず、ともに結果を受け止めて考える姿勢が指導者にも求められます。

こうしたサイクルを回すのは子どもたち自身ですが、回すのを手伝ったり、支えたりするのは大人の仕事です。

 

また、一度うまく言った方法でも、必ずしも半永久的に上達し続けるわけではありません。下図の「成功曲線」のように、一気に上達が進む時期もあれば、なかなか思うように伸びない時期もあるものです。

(上図は「トランペット情報ネット」より)

子どもたちの挑戦や、気持ちの揺れ、試行錯誤につき合いながら、子どもたち一人ひとりの成長を、部活動でも見守っていきたいものです。

 

また、「協働」については、前に長々と書いた記事があるのでこちらをご覧いただけたらと思いますが、まさに求められている「協働性」は音楽活動を通じて養っていけるものだと思います。

音楽活動は、究極の「アクティブ・ラーニング」?!

 

最近、部員たちが少しでも自分の課題を明確に持ち、次のステップに向けて何をすればよいか、何をしたいと思うのかを考え、それをみんなで共有し、一人では達成できないことでも力を合わせて乗り越えていくチームづくりをするための種まきとして、反省会のやり方を大きく変えました(詳細は下記記事)。

反省会ワークショップで能動的な部活をつくる!

最初は私がファシリテーターを務めましたが、回数を重ねるごとに部員が中心となって進められるようになってきました。こうした取り組みがきっかけとなり、運営面でも普段の練習についても、子どもたち一人ひとりが自主的に部活に向かっていける雰囲気づくりをしていけたら菜と願っているところです。

 

まとめ:部活動で育てたい力と課題

話がいろんな方向にとっ散らかってしまいましたが、私が今、部活動で大切にしたいと思っていることをまとめたいと思います。

★「自分で考え、判断し、試してみる」を楽しむ場づくり
「与えられることを待つ」のではなく、自分で現在の状況を把握し、今自分にとって必要なことを見つけ、とりあえず実行してみた上で振り返り、改善策を考え、最後実行する…というサイクルを、楽器の練習にも、運営面でも一人ひとりが考えて行える土台をつくりたい。

★「自分から動く一人」と「互いの良さを引き出し合える」チーム作り
目的意識をどのように持たせ、共有していけばよいかを考える
・すぐに答えが出なかったり、失敗したりしてもすぐに諦めることなく、仲間と協力したり、自分で工夫しながら目標に近づいていけるように、どのような環境をつくればいいかを考える
自分という存在に自信を持ちながら、同時に他者を尊重し、互いの違いを認め合える雰囲気をつくる

こうした力をつけていくのは時間もかかります。でも、うまくサイクルを回すことができるようになったら、活動時間が少なくなっても、「効率的、効果的」な練習はすることができるようにも思います。

文化庁から出されたガイドラインについても、私たち教員が「ただ上が決めたことだから守ればいいのだろ」と受け身になるのではなく、子どもたちが伸び伸びと楽しく活動し、成長を実感できる部活づくりのために活用していきたいものです。

「これからの部活動の在り方」については、今後も継続して考えていきたいと思います。また続きはいずれ。

iQiPlus

「これからの部活動の在り方」を考える。” への1件のコメント

  1. ピンバック: 部活動ガイドラインは何のためにあるのか? | とあるラッパ吹きのつぶやき

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