子どもに「自主性」を演じさせないために考えたいこと

先日、知人がFacebookでシェアしていた記事が心に留まったので、次のようなツイートをしたところ、多くの方の反響がありました。

今日は、元となった記事と、ツイートに対して頂いたリプライなども踏まえて、子どもたちの自主性を高めるために大切にしたいことを考えてみたいと思います。

 

人はいつの間にか、自分の意思を抑制するようになる

当たり前のことですが、赤ちゃんは言葉で自分の意思を相手に伝えることができません。だから、お腹がすいたとき、トイレをしたいとき、眠いときなど、大人に何かしてもらいたいときには「泣く」ことで意思表示をするわけです。

このように初めはどこでも本能のままに泣いて自己表現をしていた私たちですが、徐々に人の目を気にするようになり、中高生になることには自己主張をするのが苦手になってしまっていることが少なくありません。

そうなってしまうのには、育っていく過程で関わってきたまわりの大人の影響がやはり大きいのだと思います。

元となった記事「意見を言える子を目指して、3歳の自立心をうまく育んであげよう」にも、次のような一文があります。

スーパーで「好きなもの1つだけ買っていいよ」子どもが決めた途端に「それはやめてね」お母さんにも考えがあってのことなのですが、こんなことが続くと「どうせ言っても…」と子どもは意志を持つこと、意見を言うことを放棄しかねません。

このように、歳を重ねていくにつれて、子どもたちは自分のしたいこと、やりたいこと、ほしいものを伝えても、自分の思うようにならないということにたくさん直面していきます。もちろんそれは当然のことですし、わがまま放題甘やかせばいいというものでもありません。TPOに合わせた行動をとるようにしつけをしていくことも、周りにいる大人の役割です。

しかし、この記事にもあるように、自分が言ったことを否定され続けてしまった子どもは、否定されることを恐れて、自分の意見を発信しないようになっていってしまうのかもしれません。

日本の学校システムでは、決められたカリキュラムがあり、テストがあり、それを皆が一律にこなしていくことが求められます。その画一的ともいえるシステムが、戦後の工業社会を支えてきたことは確かです。ただ、その路線からいったん外れてしまった子が再挑戦する道が極端に少なくなってしまっていたということもあったのだともいます。

友達関係も「みんな仲良く」が求められることが多く、「一人でいること=友達がいない子」という認識になっていることが多いような気がします。こうした集団意識をもつことで、「みんなで協力して頑張る」ことによって生産性を高めてきたこともあるでしょうが、同時に足の引っ張り合いなども起こってきたのだと思います。

これらのことだけが直接の原因だとは言えませんが、自分の意見を否定されることと同じくらい、「みんなと違う」ことを極端に恐れている子どもも少なくありません。そして、テストでも平均点や偏差値を気にするようになり、“自分自身がどうであるか”ということよりも、“まわりと比べてどうか”ということを子どもたちも意識せざるを得なくなっているようにも思います。

そのように育ってきてしまった子どもたちに向かって、「個性が大切」「自分を出して」「自分の考えを言えるようにして」「自主性が必要」と言ったところで、それまで抑え込んできてしまったものをいきなり出すのはとても勇気がいりますし、どうやって出せばよいのかもわからないかもしれません。

 

大人の対応次第で、子どもたちは自分らしさを取り戻す

では、子どもたちの自主性を育てていくためにはどうすればよいのでしょうか。

大事なのは子どもが自分の意思を伝えたとき、たとえそれがその時受け入れられないことであったとしても、どのように対応するかということだと思います。

私のツイートを読んで、トランペット奏者のメイさんが次のようなツイートをして下さいました。

これを読んで、とてもステキなお母様だなと思ったのですが、本当に「否定するときは理由も述べる」ということは、子どもの自主性を育むために大事なことだと思います。

頭ごなしに否定されると、「自分の言ったことは(本質的に)ダメなことなんだ」というダメ出しに繋がります。しかし、納得ができるように理由を説明してもらえれば、「言ったこと自体は間違っていないけれど、今はふさわしくなかったんだ」というように理解できるようになり、自尊心は傷つけずに、状況判断をすることの必要性を学ぶことになります。

学校でも、「校則だからダメ」と注意しても、生徒は到底納得できないこともあると思います。なぜその校則があり、守るべきなのかを教師が説明できなければ、その校則は意味のない、実態に合っていないものだと考えることができます。

とはいっても、朝の忙しい時に子どもが駄々をこねたり、混みあった電車の中で子どもが騒いで自分自身がパニックになったり、疲れている時に何かをせがまれても、なかなかゆっくり子どもと向き合って理由まで話すことは難しいことだと思います。学校でもたくさんの生徒の対応をしなければならず、一人ひとりにじっくり説明する時間をとることができないこともあると思います。つい「ダメなものはダメ!」と言ってしまいたくなる気持ちも分かりますし、自分も言ってしまうことはなくはありません。

それでも、やはり否定をしなければいけないときには、それなりの説明が必要なのだと思います。説明なしの否定は、自己肯定感を低下させ、受け身で指示待ちの姿勢を生み出すことに繋がります。

部活動などでも、散々生徒の意見を否定しておいて、「自分で考えろ!」「何で自分からやろうとしない!」と怒ったところで、子どもたちは「この大人、何言ってんだ」ということになるでしょう。

子どもたちの自主性を育むために、私は次の5つの姿勢が大事だと考えています。

  1. 頭ごなしに否定せずに、一人ひとりの声に耳を傾けること。
  2. 子どもの意思を尊重しながら、今は何をするのがよいのかを共に考えること。
  3. 自分が正しいと思う答えを、先に提示して強制しないこと。
    提示するときにはメリット・デメリットを含め、複数の選択肢を提示すること。
  4. 失敗する可能性は伝えつつも、挑戦する前に辞めさせることはしないこと。
  5. 失敗したときには、次の一歩を踏み出すためのフォローを忘れないこと。

なかなか自分もできないことが多いですが、常に意識していたいところです。

こうした大人の対応が積み重なっていくと、子どもたちは自分の意思を伝えても否定されないという安心感を得ることができるはずです。ちまたで言われているような、リーダーシップにもつながる「自主性」を伸ばしていくのは、そこから先の話だし、それからでも遅くないと思います。

 

「ダメでも大丈夫」という安心・安全の場をつくる

先ほどご紹介したメイさんのツイートには続きがあります。

私はこのツイートの中に、2つの大事なことが書かれていると思います。

一つは、前のツイートにあった「自分の中で一旦否定してから表に出してる」というところと、それを受けて書いておられる「『ダメでも大丈夫』というところまで想像する」というところです。

「ダメになったらどうしよう」という不安があると、自分の思っていることを外に出すことは怖いと思います。それだけに、ダメになった場合でも立ち直れる方法があることを先にイメージしておくことは、安心感につながるはずです。

先日放送されていたTV番組で、各国の子どもたちの間で面白いやり取りがありました。

日本「授業中発言して、もし失敗したらどうしようと思ってなかなか発言できない」
アメリカ「もし失敗しても、先生や友達がフォローしてくれる
中国「まず授業は聞くだけなので、質問されることはない」

もしかしたら、日本と中国はあまり授業中に発言をすることはないというのは、「従順に言うことを聞くのがいいこと」という東洋の儒教的なものが根本にあるのかもしれませんね。ただここで注目したいのは、授業中に活発に意見が交換されるアメリカの子の「先生や友達がフォローしてくれる」という言葉です。これも「失敗しても大丈夫」という安心感につながるものだと思います。

日本の学校では、失敗した時に怒られたり、注意されたりということが多いように思います。誰だって怒られたくはないですから、怒られるというリスクを回避するために「発言する」ということに挑戦しなくなってしまうところはあると思います。

もし、学校で自主性を育てたいというのであれば、まず失敗しても次に挑戦できる安心感を子どもたちに持たせられるような環境づくりを、教師も保護者もしていかなければいけないように思います。

 

メイさんのツイートでもう一つ注目したいのは、お母様が言われた「人格や背景は否定しない」というところです。

人格や、その人が育ってきた背景というものは、その人自身が変えることができないものです。意識して改善できることは指摘して、相手がそれに気づいて直そうとすれば直せるかもしれませんが、直しようのないものを否定することは、その人の尊厳を全否定することにもなります。それは絶対に避けなくてはいけません。

小さい頃は、子どもたちは比較的分け隔てなくいろいろな友達と付き合うでしょう。でも、それに対して親が「〇〇ちゃんは、△△だから」のような話をすると、子どもたちは親に嫌われたくないですから、〇〇ちゃんを避けるようになったりすることもあるのだと思います。

さらには、大人が誰かの悪口を言っていると、子どもたちの間でも悪口が始まります。誰かを否定することでつながり合う、集団いじめにつながってしまうこともありますし、子ども自身もどこかで自分の悪口を言われるのではないかという、他人への不信感を募らせ、できるだけみんなから浮かないように、自分を抑え込んでしまうこともあると思います。

子どもの前で、誰かのことを否定しないこと。これも大人の役割なのだと思います。

 

おわりに

昨年、ワークショップデザイナー育成プログラムというところで、ワークショップの企画や運営を学ぶ機会がありました。もともとは、最近学校現場でよく言われる「アクティブラーニング」をどのように実践していけばよいのかということを学ぶために受講しようと思ったのですが、そこでも大事にされていたのが「安心・安全の場であること」ということでした。

安心・安全な場であるということ

これからの時代、私たちを取り巻く問題はより複雑になってきます。逆に、単純な作業はAIが担っていくようになるでしょう。となると、私たち人間には、より複雑な問題を、各分野の専門家同士が協力して、共に解決策を考えて、実行に移していくことが求められると思います。学校現場で盛んに「アクティブラーニング」が取り上げられるのも、時代の流れともいえるでしょう。

ただ、アクティブラーニング的な手法を学んだところで、旧態依然とした主従関係を重んじる学校のシステムでは、懲罰を恐れて子どもたちは自分らしさを発揮できないまま、大人が意図した「自主性」を演じさせられるようなことになってしまいかねません。

「とりあえず、先生が喜ぶようにふるまっておこう」
「こんな発言をしておけば、怒られないだろう」

こうなってしまっては、真の自主性を育むことはできません。しかし、教員の中には“教師が思っている方向に生徒が進んでいくことを、生徒自身で決めたという事実をつくることが自治活動の指導”であり、それが生徒のためになることだと本気で思っている人が少なくないのも残念ながら事実です。

今まで長い間積み重ねられてきた学校の教育システムも、教員の意識も、容易に変わることは難しいとは思いますが、少しずつでも学校が「安心・安全の場」となり、子どもたちが自分の意思を自由に発信し、失敗しても次につなげていけるような学習環境を整えていけたらなと思います。

自分にできることはほんの小さなことしかありませんが、地道に頑張っていきたいと思います。

★メイさん、引用を快く受諾して下さり、ありがとうございました★

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子どもに「自主性」を演じさせないために考えたいこと” への5件のコメント

  1. はじめまして。
    ブログを読ませていただき、我が子に当てはまると思いコメントさせていただきました。
    うちの息子(中二)は吹奏楽部に入っています。初心者ですが部活が生きがい!というほど、毎日部活を楽しみに他のことも頑張っていました。
    しかし先日、顧問の先生から「やる気がない」という理由で二年生のほとんどが練習に参加させてもらえなくなりました。
    先生は理不尽なことをよく言うし、何を言っても怒られるので、子供たちは完全に萎縮してしまっているようです。そのせいで、音が上手く出せなかったり質問に答えられなくなり、やる気がないと怒られる。そして最後にはどうしたらいいか自分たちで考えなさい!となるそうです。まさに、こちらの記事に書いてある通りです。
    息子は落ち込み、もう部活には行きたくないと言い、腹痛もみられるようになりました。
    子供達が大人の顔色を伺わずに、安心しておもいっきり好きな音楽を楽しめるように
    なる為にはどうしたら良いのか。
    おのれーさんのように、子供たちの気持ちを考えてくださる先生ばかりだと良いのにと思いました。
    これからも、ブログ拝見させていただきます。

    • はじめまして。コメントありがとうございます。

      息子さんが吹奏楽や楽器のことを大好きで頑張っていらっしゃる様子がとても伝わってきました。

      大人のせいで子どもたちが萎縮してしまったり、好きなものが辛いものになってしまうのは本当に残念なことだと思います。でも私自身もこれまで接してきた生徒の中にはそのような思いをさせてしまった子もいるのではないかと思うことがあります。

      想像でしかありませんが、顧問の先生も、もしかしたらご自身の指導に行き詰まっていて悩んでおられるかもしれません。だからといって子どもたちにそのような当たり方をしてしまうのはまずいとは思うのですが、どうにか子どもたちが楽しく音楽に打ち込めるように、その先生もいろいろな世界とつながっていけたら変わるところもあるのかもと思いました。本当に難しい問題です…。

      保護者の方からのご意見、とてもありがたいのでまたお気づきのことがありましたらコメントいただけたら幸いです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

      息子さんがまた笑顔で部活に行きたいと思える状況に少しでも早くなることをお祈り致しております。

      • 返信ありがとうございます!

        先生も指導で悩んでおられるかも…そこは気づけませんでした。

        息子は部活を辞めたくないけど、今は辞めたい気持ちが強い、大好きだったのになんで嫌いになってしまったんだろうと泣きながら言っていたのには私も心が痛くなりました。
        子育ても同じなのですが、ダメ出しばかりでは子供のやる気どころか成長も止めてしまうのだと思います。
        上手くいかない時こそ、大人がフォローしてあげれば子供たちはどんどん成長していけるのに、その逆をやってしまうことの方が多い気がします。
        まだ解決策は見つかりませんが、明日担任の先生に相談してみることにしました。

        いろいろと参考になるお話、そして温かいお言葉ありがとうございました。

        • 息子さんの気持ちを思うと、本当につらいです。担任の先生がうまく間に入ってくださるといいですね。

          まだまだ自分たちがそうされてきたように、教員が強く出ることで生徒の気持ちを動かそうとする傾向はあるように思います。先生がどのような部活にしたいのか、どのような子どもを育てたいのか、ゆっくり話を伺ってみるのもよいかもしれませんね。関わる大人みんなで子どもたちを支えていけたらと思います。

          こちらこそ考えさせられるお話を伺えてありがとうございました。

  2. ピンバック: 「これからの部活動の在り方」を考える。 | とあるラッパ吹きのつぶやき

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