「自分の中の先生」を育てて、練習をより意味のあるものにする!

誰かに客観的に自分の演奏を聴いてもらうと、自分では見えてこなかった良さに気づくこともあるでしょうし、逆に改善点が明確に見えてくることもたくさんあります。
人に聞いてもらうのは緊張すると思いますが、誰かに聴いてもらって「どのように聴こえるか」アドバイスをもらうことは、上達のためにとても役立つことです。
しかし、アドバイスはもらったままにしてしまうと、宝の持ち腐れになってしまいます。もらったアドバイスを活かして、実際に課題の改善や上達につなげていくためには、「自分の中の先生」を育ててあげることがとても大切です。
今日はそんな「自分の中の先生」をどうやって育てていくのか、ということについてつぶやきたいと思います。
準備編
① まずは、これから奏でようとする音楽を知ること

先生がこれから教えようとすることを「まったく知らない」ということはないはずです。「教える」ためには「知っている」ことがまず必要です。もちろん、先生も人間ですからすべてを初めから完璧に知っていることはありませんし、分からないことがあったら、その度に調べたり、人に聞いたりすることもあります。
曲を演奏しようとしたときも同じです。譜面に書いてあることが分からなかったら、楽器をいくら上手に操る技術があったとしても、その曲を演奏することはできないですよね。そういう意味でも、譜読みをていねいにして、せめて自分のパートくらいは「ここはこうだから、こういう風に吹く」と人に説明できるくらいにしていこうとする必要があると思います。
② 自分がどのように演奏したいのかイメージを持つこと
先生ができる限りの準備をした上で、「何を伝えたいのか」ということを明確にして授業に臨まなかったら、生徒は「先生何が言いたいのだろう」と首をかしげてしまいます。私はつい伝えたいことが多くなりすぎて、整理できていないままいろいろ言ってしまって混乱させてしまうこともありますが、それでは分かりやすく教えることはできません。
音楽でも同じことが言えます。「表現する」とは「人に伝える」ということです。これから伝えようとすることが自分でもあいまいなままだと、相手にとっては「この人は何を伝えたいのだろう」と首をかしげてしまいます。まずは自分がイメージを持つこと。「どのような曲で、自分はどのように表現したいのか」という具体的なイメージがなかったら、それ以上の表現をすることはできません
指揮者の小澤征爾さんがこんなことを仰っていました。
「音楽はまず声から出発するんだ。全部の楽器は全部人間の声の代理なんだ」
まず自分が奏でようとする音楽を歌えるようにすること。上手に歌えるかどうかはこの際関係ありません。このフレーズをどう歌うのか、ブレスはどのようにとるのか、音のイメージはどんな感じなのかを考えて歌えるようにすると、それが楽器の演奏にもつながっていきます。そして、具体的なイメージがあると、「こんな風にやりたい」という願望も生まれてくるものです。「やらされている」練習は辛いけれど、「やりたいことをかなえる」ための練習は苦にならないものです。まず、自分は何がしたいのか、考えてみるといいと思います。
③ どんな練習をすればいいか、1回1回計画を立てること
普段の授業で、先生が教室に入ってきて「今日は何をするのですか?」と生徒に尋ねることはまずないと思います。それは、先生の頭の中に「今日はこの内容について、こんな風に授業を進めよう」という計画があるからです。想定していた通りにいかないこともありますが、何も計画がなかったら授業を進めることはできません。
同じように、楽器の練習でも計画することは大事なことです。もちろん、部活全体の計画は先生やリーダーが決めていますし、「自分で計画なんか立てられないよ!」と思う人もいるかもしれません。確かに、「何の曲をやるか」「どこの部分をやるか」などは自分で決められないこともあるかもしれませんが、「どんな意識でやるか」「どこに気をつけてやるか」というところは、一人ひとりが決められることです。
例えば、基礎練でロングトーンをするとします。ロングトーンは「まっすぐ音をのばすこと」だけが目的ではありません。音色や響きを研究したり、息の使い方を確認したり、苦手な音を鳴らすにはどうすればいいか試してみたり、複数でやるときには音を合わせたり…というように、考え方によっていろいろな練習になります。
今、自分にはどのような課題があるのか、自分が表現したいと思う音楽を奏でるためには、何が必要なのかということを思い浮かべた上で、一つひとつの練習に意味を持たせてやること。それが、上達の早道だと思います。
実践編
① 自分の音も、まわりの音もよく観察する
多くの先生たちは、できるだけ生徒の反応を見て、自分の言っていることが伝わっているかどうかを確認しながら授業を進めているはずです。このように、その場で起きていることを観察することはとても大切なことです。
楽器の練習においても、まず「どんな音を出しているのか」ということをしっかり聴くことが大切です。大切なのは「吹くこと」ではなく、「出ている音がどうか」ということです。一生懸命吹いていても、音が出ていなかったら、人に伝わることはありません。仮にあまりいい音がしていなかったとしても、まずはそれに気づくことが必要です。気づけなかったら、直しようもありません。自分の出した音に最後まで責任を持つこと。それは「聴く」ことから始まるような気がします。場合によっては、実際の練習を録音してみて、それを客観的に聴くことをしてみてもよいように思います。
② どんなことに意識をすればいいかを考える
分からない問題があったとき、すぐに答えを教えてくれる先生は優しい先生です。でももっと素敵な先生は、問題を解くための道筋を教えてくれる先生だと思います。前者はすぐに問題が解決するかもしれませんが、似ているけれど違う問題になったときに歯が立たないことがよくあります。
自分の中の先生も、後者のように「できるようになるための道筋を一緒に考えてくれる」先生であるといいなと思います。できなかったときに、「お前はできてない!ダメだ!」と言ってしまう先生が自分の中にいると、「ダメな自分」が強くなっていき、自信を無くす原因になりかねません。逆に「できてないけど、まいっか」という先生だと、それ以上の上達にはつながりません。できていないことがあったとき、「上手くいかないのは何でだろう?」「こうやってみたらどうかな?」と考えてくれる先生を自分の中に持つこと。1回1回、その先生に問いかけてもらうことで、自分が次にすべきことが見えてきたり、工夫する楽しみが生まれてくるような気がします。
③ 望みが叶うまで、繰り返し実験を試みる
できていないことに気づいたとき、そのまま根性だけで反復練習をしたところで、なかなかできるようにはならないと思います。その昔は「何でできないんだ!気合が足りねぇぞ!」という先生もたくさんいましたが、「何でできないんだ!」と言ったところで、その原因を考え、次はどのようなアプローチでやってみるのかを考えてみなくては、スペルを間違えたまま英単語の練習をするのと同じで、「できないことの練習」になってしまうこともありえます。気合いでできるようになるなら簡単です(時間をものすごくかければ気合いでもできるかもしれませんが、非効率的だと思います)。
しかし、やっぱり物事ができるようになるためには、反復練習をすることが絶対に必要です。いくらどこに気をつけたらいいのか分かっていたとしても、それを意識した上でできるようになるまでしつこく繰り返し練習しなければ、できるようになることはありません。でも、反復練習はただただやっていると退屈なものになりがちです。反復練習を退屈なものでなく、建設的なものにしていくには、ただ繰り返すのではなく、1回1回、次にできるようにしたいことを明確に持って、目標を決めた上で取り組むことが大切です。
これらの過程は下のように化学実験とよく似ている気がします。うまくいかないことがあったら、何でもいいから違うことを試してみる。いい傾向になったら、それが再現性のとれるものなのか試してみればよいし、ダメだったら他の方法を試してみる。それは音楽でも化学でも同じで、実験して観察して考察して次のプランを考えてみることが必要です。そうやって、自分自身で工夫してこそ上達があるように思います。
【化学実験】
「こうなるのではないか」という仮説を立てる
  ↓
それを実証するための実験を計画する
  ↓
実験を行う
  ↓
結果を観察する
  ↓
観察したことから気づいたことを書き出す
  ↓
データをグラフや図にまとめ、さらに気づいたことを書き出す
  ↓
グループでディスカッションを行い、さらに考えを練っていく
  ↓
改善点を考え、次のプランを立てる
  ↓
改善点を考慮した上で、再度実験を行う、
もしくは、再現性をとるために同じ実験を行う
  ↓
【音楽の練習】
「こういう音楽を奏でたい」という目標を立てる
  ↓
それを実現するための練習を計画する
  ↓
練習する(音楽を奏でる)
 ↓
「出てきた音」をいろいろな視点から観察する
 ↓
観察した結果、気づいたことをリストアップする
  ↓
気づいたことを部員同士で共有する
  ↓
部員同士でディスカッションを行い、さらに考えを練っていく
  ↓
改善点を考える
 ↓
改善点を考慮した上で、練習の再計画を行う、
もしくは、できたことがもう一度できるか試す
  ↓
練習する(音楽を奏でる)
  ↓
(部内通信より)
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と、偉そうに生徒に対してつぶやいてしまったので、自分も「自分の中の先生」を育てて、生徒たちとよりよい音楽づくりをしていけるように頑張りたいと思います。

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