必要な力を積極的に使うことで脱力する

「必要な力を積極的に使うことで脱力する」
などと一見矛盾している上に、大それたタイトルをつけてしまいましたが、最近「力が入ってしまって」「脱力できなくて」という相談を受けることが多いので、どのように考えたらいいのか、自分なりにまとめてみたいと思います。
極端な話になりますが、本当に脱力してしまったら楽器を吹くどころか、立つことも座ることもできません。
赤ちゃんは初めから自分で起き上がったり、立ったり、歩いたりすることはできません。でも、少しずつ動いていくうちにだんだん体の使い方を覚えていって、自然に力をどこにいれればいいかを学んで、次第に自分自身の力で立ち上がり、歩くことができるようになっていきます。
小さい子どもの動きを見ていると、実に上手に体を使っているように見えます。必要最低限の力で立って、歩いて、ちょっと転びそうになったり、危ないように見えたりもしますが、とてもうまくバランスをとりながら動いています。それが、小学生になり、中高生になり、大人になっていく過程で様々な活動をする中で、身体の特定の部分を固めてしまったり、余計な力を使うようになったりして、だんだんと体の使い方に無理が生じてしまうのです。
そこで、本来の体の構造や仕組みを知り、脊椎動物が本来持ち合わせている身体の動きを取り戻し、自分の望みに近づいていく方法の一つとして、アレクサンダー・テクニークがあり、私は現在それを学んでいるところです。
話が少し脱線しましたが、大切なのは脱力することではなくて、『必要な時に、必要なところに、必要な分の力を使えること』です。その必要な力を効率よく使おうとしたとき、邪魔する力がはたらくことがあります。邪魔する力を抜くことを「脱力」とよんでいるのだと思うのですが、「力を抜こう」と意識しすぎると、かえってその場所に意識が向きすぎて力みが強くなってしまうこともあります。それよりは、「必要な力を積極的に使おう」と考えていった方が、身体がいい方向に反応してくれることが多いように思います。
楽器を吹くにはやっぱりパワーも必要だと思います。
「脱力」は力が入っているから使える言葉で、初めから脱力を意識してしまうと、必要なところにも力を入れられなくなってしまい、逆に演奏に必要なパワーが不足してしまうこともある気がします。
では、必要な力とはどのようなものなのでしょうか。
もちろん理論的に「○○筋を使った方がいい」といったことは知っていると助けになることもたくさんあります。でも、必要な力は、まず音や音楽に焦点をあてていくことで、自然に集まってくるもののようにも思います。その上で、力を使いたいところにより意識を向けられたらいいのかもしれません。
先日、先輩AT教師の方のレッスンを受ける機会があったのですが、そこで言われた「息の流れ」と「肋骨の広がり」を意識して練習していたら、ものすごくラッパの調子が良くなりました。あくまで「脱力」とか「どこに力を入れよう」ということは考えませんでしたし、ただ息のことだけに意識を向けてやった結果、不要なところの力が抜け、逆に必要なところに力が入って、それが音にも結びついた気がします。
このように体の使い方というのは、奏でたい音楽を実現していく中で自然と身に付いていくものだと思いますし、「こう奏でたい」という望みなしに身体の使い方だけ意識しても、いい音、いい音楽にはつながらないように思います。もちろん身体の仕組みをよく知って、どこがどのように使うことができるのかを知っておくことは大事ですし、必要なところに必要な力をかけるというイメージは格段に使いやすくなります。
そういう意味でも、奏法が先にくるのではなくて、いい音楽が奏でられるようになった結果、後から分析して、「こう吹くときはこうした方がいい」という考えに繋がっていく気もしますが、まずは音や音楽に注目して奏でることを大切にできたらと思います。その上で、それを実現していく時の自分の「在り方」は丁寧に観察したいものです。
方法にこだわるのでもなく、とにかく音楽に集中してみること。その中で自分に合ったいい吹き方も見えてくるだろうし、結果として奏法や力の使い方という方法論が明確なものになっていくように思います。どちらも音楽を奏でるには大切なことですし、どちらかがいいとか間違っているということはありません。
力任せになるのでもなく、「必要な力は積極的に使っていこう」くらいに思って、力を使っているかどうかより、いい響きで吹けているかに意識を向けたいところです。それが、結果的に「(不必要な力の)脱力」につながるように思います。
「脱力したい」わけではなくて、「より奏でたい音楽に近づきたい」というのが本来の望みだと思います。それを忘れないようにして、自分の体とも、音楽とも上手に付き合っていきたいものです。

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