自分自身の潜在能力を高めるために ~演奏家のための「こころのレッスン」を読んで~

職場の先輩が「これ読んだことある?」と借してくださったのが『演奏家のための「こころのレッスン」』。

演奏家のための「こころのレッスン」―あなたの音楽力を100%引き出す方法
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少しだけ読んでみたけれど、本の中に出てくる「インナーゲーム」の考え方とアレクサンダーテクニーク、心の使い方という点ではどこか通じるところがありそうで大変興味深いものでした。そこで、これからゆっくり読み進め、読書日記もしたためていくことにしたいと思います。
インナーゲームの方程式
P=p−i
潜在能力pの向上だけでなく、障害iを減らし、その結果、実際の演奏Pを潜在能力pに近づける。

自分が理系だからというわけではなく、この方程式はとてもしっくりきました。
潜在能力pをいくら高めたところで、障害iが大きければ実際の演奏Pは下がってしまいます。
もちろん潜在能力を高めなくていいわけではないけれど、最も手っ取り早く、自分自身の力を発揮するには、自分自身がつくり出している障害をできるだけ取り除いてあげればいい、すごく納得できる考え方でした。
内部の敵に打ち勝つには、学習能力の向上を経験し、演奏と成果のレベルを高め、その結果、自分のしていることをもっと楽しむ必要がある。

「できた」「できるようになった」という経験は、自分自身に自信をもたらします。少しでもできるようになった自分を認めてあげることで、自信は生まれます。「楽しいから練習する」→「その結果できるようになることが増える」→「自信がつく」→「もっと楽しくなるから練習したくなる」→… といったプラスのサイクルができてくると、内部の敵、つまり障害を減らしていくことができるのだと思います。
私たちは特定の状態になると、自分自身を疑い始めます。いったん疑い始めると、たとえその疑いが自分の内部から湧き出たものであろうと他人から吹き込まれたものであろうと関係なく、「もっとがんばる」という反応を必ず示します。その結果、私たちは緊張し、思うような演奏ができなくなるというわけです。

これを痛感したのは、大学4年生の時、ヘンデル作曲のオラトリオ『メサイア』の中の一曲、「The trumpet shall sound」のピッコロトランペット・ソロを吹いた時でした。練習段階から自分が思うようには吹けていなかったけれど、それでも何とか吹けるようになり、源三先生のレッスンでも「あとは運だな」と言われるくらい、直前の練習では2回通しても大丈夫なくらいには仕上がっていました。でも、「本当に吹き切ることができるのだろうか」といった疑念が最後まで払拭されないまま、舞台に上がることとなり、心臓が飛び出るとはこういうことかと思うような今まで経験したことのないような緊張に見舞われ、楽器は口から離れていくは、震えは止まらないはで結局思うような演奏をできず、とても悔しい思いが残りました。
今思うと、「ソロだから決めなくてはいけない」「もっと頑張らないといけない」という「~いけない」思考が自分を支配してしまっていたのだなと思います。「頑張る」「努力する」という言葉は一見してプラスの言葉にとらえがちですが、行き過ぎると『力み』や『緊張』を生み出します。そのことを頭の片隅に入れて、「音楽を楽しむ」「ラッパを吹くことを楽しむ」ことができれば、疑念からくる緊張を払拭できるように思います。今更ながら、あの時の自分は、楽しめていなかったな、自分で自分の首を絞めていたな、と思います。
音楽を奏でたり歌ったりしている時に、自分が努力している状態にあると気づいたら、努力することをやめて、まずは一時的に、何かひとつの動きに意識を集中するのです。自分の身体をよく観察して、身体の力が抜けて正確な演奏へと移行していくのを見守るのです。

人は頑張りすぎると周りが見えなくなってしまうものです。「努力している自分」に陶酔していたとしても、どこかで「頑張っている」という意識がはたらいている限り、身体の力みはとれないように思います。その時に、この「一度立ち止まる」という作業は大変重要な意味を持ち合わせると思います。冷静に、客観的に自分の身体を観察すること、アレクサンダー・テクニークでいうところの”Body Thinking”なのでしょうか、それをすることで、無駄なところに力が入り、必要なところに力が入っていないことに気付くことがあります。この「気づき」ことが自分の潜在能力を高める最大のきっかけになるように思います。
失敗するのを許せば、許されない時の演奏で感じるような心配を避けることができるので、障害から解き放たれて目前の仕事を達成しやすくなるのです。つまり努力することをやめて、音楽の一部になることができるのです。

まさにこの間の本番で経験したことだなと思います。「金管楽器たるもの、音は外れるものだ」と割り切って、「失敗したとしても、自分の音楽をやろう」というプラスの意識を確認したうえで、自分が音楽の一員として体の底から音楽の流れにのったとき、緊張は解け、周りからも「楽しそうに吹いていたね」と言われるくらい、伸び伸びと、しかも大きな失敗もせずに吹き切ることができました。
まずは今の自分自身を認めてあげること。その自分ができる最高のパフォーマンスを引き出すためにも、障害となる思考を取り払うこと。そのようなことを繰り返しながら、演奏者として、指導者として、さらに成長していきたいなと思うのでありました。

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