演奏をするための基礎力と体力とは…

私が顧問をしている部活では、よくコンクールの審査員の先生方には「表現力はあるが、基礎力や体力をもっとつけましょう」といった言葉を書かれることがあります。
今回のブログでは、そのことについて書いた部内通信をご紹介したいと思います。
—————————————
練習を進めていく中でも、前に立っている人たちが「いっぱいいっぱいにならないで」「力を抜いて」「もっと楽に音を飛ばして」といった指示を出していることが多いように感じています。当然のことですが、「楽器を吹く(弾く、叩く)」ことで一生懸命になってしまっては、これらのことは達成できませんし、表現どころではありません。
審査員の先生方にも、恐らく「こういう音楽をやろうとしているのだろうな」というところまでは伝わっていたのだろうと思いますが、それだけに基礎力や体力が不足することによって、伝わりきらないところを歯がゆく思われたのではないかなと思います。
確かに以前と比べると、一人ひとりがだいぶ楽器を鳴らせるようにはなってきていると思います。練習の進め方も、だいぶ自分たちで意見を出し合いながらよりよい方策を考えて進められるようになってきていると思います。このように少しずつ底上げされてくると、できる音楽の幅も広がってきます。しかし、もっと高度な表現を目指そうとすると、それに見合った基礎力や体力をつけていかないと対応しきれません。
さて、みなさんは次の質問に対してどう答えますか?
・ロングトーンは何でやらなくてはいけないのですか?
・音階練習は何のためにやっていますか?
・「ブレスを深くとる」と言われたときに、どんなことに気をつけていますか?
・一つ一つの音符の長さをどの程度意識して練習していますか?
  例)テヌート、スタッカート、マルカート、アクセント(>,∧)の違いを人に説明
    しろと言われたら、どのように教えますか?
・高い音はどうすれば輝かしく聴こえますか?
・低い音はどうすれば豊かに響きますか?
・かわいらしいpはどうすれば出すことができますか?
・力強いfは、どのようなことに気をつけて出せばよいのですか?
・音程が合わない原因は何ですか? どう直せばよいのですか?
・リズムがとれない時は、どのように練習すればよいのですか?
ここでは、あえて私が解答することは控えておきます。それは、みなさん一人ひとりにじっくり考えて欲しいからです。みなさんは、すでに自分たちの演奏の弱点を見つける力を持っています。次は「どうすれば改善するか」を考えること、工夫することが求められます。いつも言っていることですが、基礎練は何となくやっても意味がありません。みなさんは曲を舞台で演奏するために練習をしているはずです。つまり、曲で求められていること(=音楽を表現する上で必要なこと)と基礎力が結びつかなくては意味がないのです。ただの基礎練の達人になってしまって、本番では力を発揮できなくては悲しいですよね。
だからこそ、もう一度「なぜ、今その練習をしているのか」ということを一人ひとりが考え直して、能動的に練習に臨むようにして欲しいと思います。誰に聞いても、「今、自分(たち)の課題は○○で、それを改善するには△△は必要だから、この練習をしています」と答えられるようになって欲しいのです。そのためのヒントはコーチや先生方、先輩方からもたくさんもらっているかと思いますし、引き出しをどんどん開けてくれればまだまだ出てくると思います。
そして、「できるようになるまで繰り返すこと」「できるようになっても続けること」を実践してください。妥協せずに、できないところを抜き出して、繰り返し練習することから逃げないことって、本当に大切なのです(勉強も同じです)。さらに、1回できても、まぐれでできてしまうこともありますから、「3回連続でできるまで繰り返す」「翌日もできるか確認してみる」など、しつこくしつこく練習を積み重ねていくことが絶対に必要です。これはどんなに上手な人でも、プロでも、絶対逃げてはいけないことなのです。できない自分と向き合って、それでも練習を続けていくことは辛いときもあるかもしれません。でも、できるようになった時、本番でお客様に盛大な拍手をしていただけた時、すべては報われるのです。そして、それを続けていく中で、演奏するための体力も身についてきます。
でも、「体力」といってもいろいろあります
演奏するための体力には、二通りの考え方があると思います。一つは、長時間練習していてもバテにくくするための体力、もう一つは、生活上疲れにくい体をつくるための体力です。今も部活で準備運動やストレッチをやったり、腹筋運動をしたりすることがあるかと思いますが、これはどちらかというと後者に必要なことだと思います。
文部科学省が1964年から行っている「体力・運動能力調査」によると、部活動などで運動を日常的に行っているかいないかで、その体力に大きな差が出ています。普段から運動を続けていくことで健康を維持するための体力が身につくと、当然のことながら疲れにくくなりますので、「今日は疲れたからやりたくないな…」「ちょっと集中力が持たないな…」ということが起こりにくくなります。これは運動不足の自分に対する苦言でもあるのですが、ちょっとしたことで疲れてしまうようでは、楽器を演奏する以前に健康管理という面でも問題です。そういう意味では、毎日しっかり体を動かすことで、安定した演奏をするための土台をつくることができると思います。
しかしながら、持久走や腹筋運動をしたりすることで、楽器が吹けるようになるかというとそれはまた別の話です。もちろん、ストレッチをすることは体の力(りき)みをとり、必要なところにだけ力を集中させて演奏するには効果的です。毎日の準備運動はとても大切なことだと思います。でも、楽器を吹くためにものすごく肺活量が必要ということはないです(私も全国平均以下ですが、あまり困ったことはありません)し、腹筋運動で身につけられる筋肉と楽器を吹くために必要な筋肉は厳密には違います。もちろんあったら体力的には有利になるのかもしれませんが、ただでさえ限られた練習時間に腹筋や持久走の時間をとるくらいなら、その時間は楽器を練習するために使った方が上達は早いでしょう。
楽器を演奏するのに直接関わってくる体力は、楽器を練習することでしか身につきません(呼吸法も含む)。ロングトーンやアルペッジョ、リップスラーなどの練習は、ブレスやアンブシュアの安定性を高める意味合いもありますし、きれいに演奏するためには必要なところに力を入れ、他は脱力することが必要なので、力の入れ方をコントロールする練習にもなります。ぜひ毎日少しずつでも良いから、継続して取り組んでください。
いずれにせよ、「基礎練」でも「曲の練習」でも、“今、何のためにこの練習をしているのか”を考えて練習に取り組むことが大切です。ぜひ、これからの練習では、一人ひとりが今やっていることの意味を考えて取り組んでいきましょう。
—————————————
自分でも学生時代のように毎日吹いていたころと比べると、「体力が落ちたな~」「基礎力が落ちたな~」と感じることがたくさんあります。特に社会人の方は、限られた練習時間の中でどのように基礎力・体力を維持していくかは大変大きな課題だと思います。それについてはまたいずれ、この場で考えていけたらなと思います。

iQiPlus

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。