吹奏楽部員なら知っておきたい中学理科 ③音の三要素

授業でやっていたら気になり始めてしまった吹奏楽部員向け中学理科ブログも、「音の伝わり方」「音の速さ」と連載してきましたが、音シリーズ最終回の今回は「音の三要素」について書いていきたいと思います。

 

音の特徴を決めるものって何だろう?

「音楽の三要素」と言えば、メロディーリズムハーモニーがあげられるわけですが、「音の特徴を決める要素」として理科の授業では、次の3つの要素をあげています。

1つは、音色

ピアノ、トランペット、ヴァイオリン、クラリネット・・・と楽器の種類が違えば音色も違います。さまざまな音色の違いがあるからこそ、吹奏楽やオーケストラなどは色彩感の豊かなハーモニーをつくりだすことができるのだと思います。同じ曲であっても、楽器の組合せが異なるだけで、だいぶ印象も変わるものです。

ここでは、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の第1楽章で比べてみましょう。

◎オーケストラ

 

◎吹奏楽

 

◎ピアノ

 

◎パソコン打ち込み(MIDI)

 

楽器をやっている人なら、同じ楽器でも演奏者による音の違いも分かるでしょうし、そうでなくても、人の声を聴いただけで誰がしゃべっているのかを聴き分けることは、多くの人ができることだと思います。

このように、「音色」というのは音の特徴を決めるための一つの大きな要素になっていることが分かるかと思います。

 

2つ目は、「音の大小」

大きな音と小さない音は、人に与える印象も大きく変わるものです。

音楽をやっていても、楽譜にわざわざ「p」とか「f」とか音の強弱を表す記号や標語が書いてあることが多いかと思います。

ラヴェルの「ボレロ」という曲は非常に小さな音で始まり、極度の大音量で終わるので有名です。演奏する楽器は移り変わっていきますが、基本的には同じフレーズが延々と続くこの曲。でも最初と最後では曲の印象がだいぶ異なって聴こえるから不思議なものです。

◎ボレロ

このように音の大小というものも、音の特徴を決める要因になっているのが分かりますね。

音の大小は、下の動画にあるように、振動の幅の大きさによって変わります。大きな音では大きく振動し、小さな音は小さく振動することが分かります。

◎音の大小と物の振動 (NHK School Onlineより)

 

3つめは、「音の高低」です。

確かに、音の高低がなかったら、音楽はリズムだけで終わってしまいます。もちろん、リズムだけで構成されている打楽器アンサンブルなどの曲でも素敵な曲はありますが、全ての音楽がそうだったら、ちょっと寂しいですよね。

音の高低は、振動数(周波数)で決まっています。振動数とは、「1秒間に何往復振動するか」を表しており、単位は「Hz(ヘルツ)」で表します。

次の動画にあるように、高い音を出しているものは振動が細かく、低い音を出しているものは、ゆっくり振動しています。

◎音の高低と物の振動 (NHK School Onlineより)

よくチューニングの時に基準として「440Hz」とか「442Hz」という値が用いられると思いますが、これはピアノのA(ラ)の音の持つ振動数が「440Hz」であるところからきており、近年はやや高めの明るい音が好まれる傾向があるために、吹奏楽やオーケストラでは「442Hz」を基準にチューニングをすることが多いのです。

◎440Hzと442Hzの「A」の音の比較

下の動画は、人の耳に聴こえる範囲の音(20Hz~20000Hz)がどのような高さの音か分かりやすく示していると思います。ちなみに、人の耳では聴き取ることができない音を「超音波」と呼んでいます。

◎周波数と音の高さ

この動画は音の大きさにも注目してつくられていますが、高低だけに注目しても、周振動数が小さい音は低い音であり、振動数が大きくなっていくにつれて高い音になっていっているのが分かるかと思います。

 

このように、「音色」「大小」「高低」というものが、音の特徴を決めるものとして重要な要素だということができます。音楽を奏でていく上でも、これらの要素に注目して音づくり、音楽づくりをしていくことで、聴いている人に与える印象もいろいろ変えていくことができるように思いますし、一人ひとりが技術として磨いていく要素としても大切なものなのかなと思います。

 

 

「音の三要素」を「目」で見てみる!

音は原則として耳で聴きとるものです。しかし便利なことに、音を可視化して見るための道具があります。その代表的な例が「オシロスコープ」です。

オシロスコープは、音を「横波」として表示し、「音色」「音の大小」「音の高低」というように、まさに「音の三要素」を目で確認することができる便利な道具です。

では、オシロスコープに表示される波のどこをみれば、「音の三要素」を読み取ることができるのでしょうか?

上図に示すように、波形が音色振幅(波の高さ)が音の大小振動数(波の間隔)が音の高低を表しています。

 

◎音を見るNHK School Onlineより)

 

ちなみに、楽器が異なると次のように波形が変わります。

このように、”音の違い”というものは、ただ耳で聞いて感覚的に違うというだけではなく、物理的に見ても明らかに異なるものだということが分かるかと思います。

 

 

「音の三要素」を演奏に活用する!

ここまで、音の特徴を決めるものは何かということについて書いてきましたが、これらの知識を演奏に活用しない手はありません。ここでは、「音の大小」と「音の高低」に注目して、演奏へどうやって活かしていくかを書いていきたいと思います。

 

① クレッシェンド、デクレッシェンドへの応用

クレッシェンドをしていくとき、管楽器の場合は「息を増やしていく」と考えることが多いかと思います。もちろん、実際にはそうなるかと思うのですが、「音の大きさは波の振幅で決まる」ということを意識してみると、やみくもに息を吹き込まずともクレッシェンドをかけることができるかもしれません。

具体的には、
「だんだん大きくしていく」=「だんだん振動の幅を増やしていく」
と考えてみます。

特に金管楽器の場合は唇の振動で楽器を鳴らしているので、「唇の振動の幅を増やす」というイメージは、比較的演奏に結び付けやすいように感じています。

「大きな音吹かなきゃ」
「吹き込む量を増やしていかなきゃ」

と考えると必要以上に力んでしまい、響きが失われた音になって、かえって遠くまで音が届かないことも多いかと思います。「音は空気が振動して伝わっていく」ということとも結びつけて、

「自分がつくりだした振動の幅がだんだん大きくなって、空気の分子たちもだんだんにぎやかに振動しはじめていく」

というように振動の伝達に注目して、それを息がサポートして遠くまで伝わっていくようなイメージも1つのアイディアとして使えると思います。

 

また、デクレッシェンドの時は、「息の量を減らしていく」ということだけにとらわれてしまうと、音がぶら下ってしまったり、途中で切れてしまったりすることもあるかと思います。クレッシェンドの時と同じように振動の幅に注目してあげて、

「だんだん小さくしていく」=「だんだん振動の幅を小さくしていく」

と考えてあげると、音を出すための振動は続けていこうという意識がはたらくので、音が途切れてしまうことなく、一定の音程を保ちながらデクレッシェンドをすることができるかと思います。

これらのことは大学時代、シベリウスの『交響曲第2番』の練習をトランペットの先生にみて頂いた時、「クレッシェンドは、ビブラートの幅を増やしていくような感じでやり、pはビブラートの幅を小さくして吹くといい」とおっしゃっていたことにもつながるなと改めて思います。

ちなみに、かつてそれを意識して吹いてみたときの、シベリウス『交響曲第2番』第2楽章の一節です(それでもちょっと力んでいる気もしますが…)。

 

特に曲の最後の最後が伸ばしで終わるような曲の場合、トランペットがクレッシェンドしていくと迫力を出して曲を閉じることができるのですが、このイメージで吹くと、息を無駄に使い過ぎずに、指揮者が長く伸ばしてもある程度のクレッシェンドをかけることができたように思います。また、pで高音でやわらかいフレーズを吹く必要があるところも、「振動=響き」ととらえて、「音を小さく」「息を少なく」という抑制系の意識ではなく「幅の小さい響きで吹く」という意識を持つことできれいに吹くことができました。

 

②響きのある高音や低音のために

高い音というと、「息のスピードを速く」というような指示をされることが多いかと思います。確かにスピードの速い息は必要だとは思いますが、このイメージを持ちすぎるあまりに必要以上に力んでしまったり、勢いのある高音は出せても柔らかい高音がなかなか出せなかったりすることもあるように思います。

反対に低い音は「息のスピードを弱めればいい」と考えてしまって、音楽を前進していくのに必要なスピード感まで失ってしまうこともよくあることです。

このように、「息のスピードの緩急」だけで音の高低を決めてしまうと、場合によっては出そうとする音の響きに影響を与えてしまうこともあり得ます。

「高い音=振動の細かい音」
「低い音=ゆったりした振動の音」

ととらえてみると、息だけが独り歩きすることなく、「息が振動をつくりだし、その振動を息が支えている」という意識をもつことができ、響きの豊かな音で奏でることができるようになるかと思います。

いずれもイメージの問題で、実際にあてはまる人とそうでない人がいると思いますが、より「音」のイメージを具体的に持つことで、体の必要な部分がはたらき始めることもあると思います。特に金管楽器では、自分でやってみても、生徒にアドバイスしてみてもしっくりくることが多いので、ぜひ試してみて下さい。

 

まとめ

  • 「音色」「音の大小」「音の高低」を『音の三要素』という
  • 「音色」は音波の「波形」で表される
  • 「音の大小」は音波の「振幅」で表される
  • 「音の高低」は音波の「振動数」で表される
  • 「振動数」とは、1秒間に何回振動するかを表しており、Hzという単位で表す。

 

これでいったん「吹奏楽部員なら知っておきたい中学理科」の「音」シリーズは終わりにしたいと思います。

いずれ音については高校の「物理基礎」範囲に踏み込んだシリーズも書いてみたいと思いますし、他の分野でも吹奏楽部の活動に活かせる中学理科があれば、またこのシリーズを続けていきたいと思います。もし、ご希望ありましたらご連絡ください!

 

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