吹奏楽部員なら知っておきたい中学理科 ①音の伝わり方

私の本業は理科の教員です。ちょうど今、中学生の授業で「音の性質」を教えているのですが、改めて授業の内容を吹奏楽部員向け(音楽をやっている人向け)にまとめ直してみたいと思ったので、3回に分けて連載していきたいと思います。

・・・本当は高校物理くらいまでいくともっと面白いのですが、とりあえず今回は中学理科の教科書を元ネタとして書きますので、ご了承ください。。

 

音を出しているものをさわってみよう!

音を出しているものを実際にさわってみると、どのような共通点があるでしょうか。

例えば、太鼓の皮に細かくちぎった紙をのせて、たたいてみます。

このように、太鼓をたたいて音を鳴らすと、太鼓の皮が振動して、のせていた紙片が動くという現象が見られます。

しかし、太鼓の皮を手で強く押さえてたたいてみると、振動が止まってしまい、音が出なくなります。

では、今度は自分の喉を触りながら、低めの声を出してみるとどうでしょう?

恐らく、喉が振動しているのが伝わってくるのではないでしょうか。そして、太鼓と同じように喉を強く押さえて声を出そうとすると(苦しくない程度に)、声が非常に出しづらくなるかと思います。

このように、「音を出しているもの」は振動していることが分かります。そして、この「音を出しているもの」のことを『音源』または『発音体』と呼んでいます。

吹奏楽にあるような楽器であれば、例えば木管楽器なら「リード(とマウスピース)」、金管楽器なら「唇」が音源(発音体)にあたり、それぞれ音源にあたるものが振動して音を発生しています。

各楽器の音が出る仕組みを解説した動画がYouTubeにありましたので、参考に見てみましょう。

◎エアリード(フルート)

◎シングルリード(サックス、クラリネット)

◎ダブルリード(オーボエ、ファゴットなど)

◎リップリード(金管楽器)

このように、どの楽器も発音体で生じた振動が“音のもと”になっています。逆に考えてみると、この振動を止めてしまったら音も止まってしまいます。

管楽器の場合、その振動をつくりだしているものは息です。それだけに、発音体がもっとも効率よく振動するためにはどうすればいいのか、どのように息を送り出していくのか、ということが楽器の演奏上で大事になってくるわけです。

 

 

音を伝えているものって何?

同じ高さの音がなる音叉(おんさ)を2つ用意します。

片方の音叉をたたいて鳴らすと、たたいていない方の音叉も音が鳴り始めます。たたいた方の音叉の音を止めても、もう一方の音叉は音が鳴ったままです。このような現象を「共鳴」と呼んでいます。

◎音叉の共鳴NHK School Onlineより)

 

では、なぜたたいていない方の音叉も鳴り始めたのでしょうか?

音叉をたたくと、振動が生じます。その振動はまわりの空気に伝わり、空気が振動します。空気の振動は連鎖的に進んでいき、もう一方の音叉に届きます。すると、たたいていない方の音叉も振動しはじめて音を出し始めます。

 

つまり、空気が音の振動を伝えていたのです。ですから、2つの音叉の間に板を置くなどして空気をさえぎってしまうと、振動が伝わることができないので、たたいていない方の音叉が鳴り始めることはありません。

空気のように、音を伝えている物質を「媒質」といい、水などの液体や、金属などの固体も媒質になることができます。したがって、水中でも音は伝わるので、シンクロナイズドスイミングの選手は、水中のスピーカーから流れてくる音を聴きながら演技をすることができます。

逆に、真空中や宇宙空間など、媒質のない空間の中では音は伝わりません。

 

 

「音を飛ばす」ことはできるのか?

吹奏楽指導の現場では、よく「もっと音を飛ばして!」という表現を使うことがあるように思います。音が奏者の手元で止まってしまい、客席まで聴こえないような時によく使われる表現です。

しかし一方で、「飛ばそう!」と頑張って息を吹き込んでしまうあまり、かえって力んでしまって、“大きい音なのだけど、客席まで響きが届かないような音” になってしまうことも少なくありません。

上に書いたように、音は空気の振動が伝搬していくことによって遠くまで伝わっていきます。ですから、手元で鳴らした音が客席までワープして「飛ぶ」ということはありません。「点から点」のように伝わるのではなく、「空間をじんわりと伝わっていく」と考えた方が実際の伝わり方には近いのだと思います。

そんなわけで、私は指導をする時に「目の前にいる空気の分子たちをいっぱい震わせてあげて、遠くにいるお客さんの周りにいる空気の分子たちまで、そのにぎやかな振動を伝えてあげよう」という表現を使うことがあります。

ちょっとマニアック過ぎて伝わりにくいような気もするのですが、私の中でのイメージは次のような感じです。

 

もちろんこんなことを考えなくても、楽器の「ツボ」をとらえて、それに見合ったバランスの良い息を流してあげればpppでもfffでも客席までじっくり響き渡るような音で奏でることはできると思いますし、そういう吹き方を心がけていくことが大切です。

ただその時に、息の流れが体の中で止まってしまっていたり、楽器で止まってしまったりすることはたくさんあって、その中で「音を飛ばして」とか「紙飛行機を飛ばすように」とか、いろいろな表現が考えられてきたのだと思います。

私たちが生きている空間には、空気が満たされています。音を出したときに振動する空気は必ずしも前方向だけではありませんので、音は空間全体に四方八方に広がりながら伝わっていきます。それだけに「前に飛ばす」というイメージよりも、「周りの空気を振動させていく」と考えていった方が、より空間全体を意識して、音で空間を満たしていくというイメージで演奏できるような気がしています。

もちろん、この「空気の分子たちを震わせて…」という表現も指導上のいろいろな表現の一つだと思いますし、必ずどの人に対してもピッタリくる表現ではないかもしれません。ただ、音の伝わっていく仕組みと共に、ちょっと意識してみると、無理をせず、必要な力を使って楽器をいい状態で響かせるきっかけになる気がしています。

ぜひ試してみて下さい。

 

まとめ

  • 音の正体は「振動」である
  • 音を出しているものを「音源」または「発音体」という
  • 音は「空気」などの媒体が、発音体で生じた振動を伝えることによって伝わる

 

次回は「音の速さ」について書いていきたいと思います。

 

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