チューニングの時に考えたいこと ~チューナーとの正しい付き合い方~

私が顧問をしている部活では、合奏の前にインスペクターの生徒が基礎合奏とチューニングをしています。なかなか行けないことも多いのですが、自分はできる限りチューニング中に合奏部屋に行って、生徒がどのようにチューニングをしているか、一人ひとりがどんな風に吹いているのかを観察するようにしています。
途中で口をはさむこともありますが、基本的には生徒たちに一通りやってもらいます。前に立っている生徒がどのように指示を出しているのか、それに対してどんな反応があるのかを客観的に見ることはとても勉強になります。自分では気づかないようなことを生徒が言っていることもありますし、逆に「これは自分がかつて言ったことだな」と思いつつ、冷静に考えると伝わりにくい言葉だったりするなと気づかされることもあります。つい自分が前に立つと見えなくなってしまうことも、客観的に見ることで見えてくることはたくさんありますし、生徒たち自身も試行錯誤しながら仕切ろうとするので、自分たちで音楽づくりをしようという意識が高まる気がしています。
さて、先日のチューニング中、ちょっと気になることがありました。
インスペクターの生徒が出している指示は最もだなと思ったのですが、演奏している生徒たちを見ていると、視線が下がっていて、後ろから見ると背中が丸く、いかにも吹きにくそうな姿勢をしていました。なぜだろうと思ってよく見てみると、どうやら譜面台の上に置いてあるチューナーを見て必死に合わせようとしているのです。せっかく全員でB♭の音を鳴らしているのに、一人ひとりがチューナーとにらめっこして、険しい顔をしています。さすがこれはマズいなと思ったので、「チューナーの電源切って、耳で合わせよう」と口をはさんでみました。
すると、一発で合いました。
インスペクターの生徒もびっくりした様子でしたが、すかさず「今、視線が上がってとてもいい姿勢でした。音もとても合っていたと思うし、よく響いていたと思います。これからはチューナーを使わずに合わせることもしてみてください」と私が言いたかったことを全部言ってくれました。
毎日生徒の書く練習日誌を読んでいると、「音程に気をつけたい」「ハーモニーが合わない」ということを書いてくる生徒が非常に多いのですが、声で歌ってみてもらうと、決して音痴なわけではありません。みんな聴いて合わせる耳も持っているし、音程感も悪くないのです。しかし、ちょっと「音程が悪い」と言われてしまうと、とたんに自分自身に自信が持てなくなり、チューナーとにらめっこをはじめ、結果として無理して針に合わせようとするあまり、無理な吹き方になったりしてかえって音が合わなくなってしまうことが多いのかもしれないなと改めて思いました。それと同時に、自分の力を信じて思いきり吹いてみることの大切さを再認識しました。
チューナーが示してくれるのはあくまで「音が高いか低いか」ということだけであり、「音色」や「音の響き」までは測ってくれません。そのあたりを理解して使わないと、チューナーに支配されて、一番大切な「音作り」がないがしろになってしまうこともあります。
では、チューナーは悪者なのでしょうか。
それもまた違う話だと思います。
チューナーも音程を「確認する」ためには便利な道具だし、上手に使うことで楽器のツボをつかんで音程感を養ったり、音程のクセを知ることもできます。
私自身、初めて自分のチューナーを手にしたのは中学2年生の時でした。コルグのAT-1というチューナーをお年玉をはたいて買ったのですが、部活にも1台しかなかったチューナー、個人持ちはもちろん私だけで、すごく自慢げに使っていた気がします。でも逆に自分くらいしか持っておらず、合奏前のチューニングはオーボエに重ねていく(考えてみたらハーモニーディレクターも無かった)ので、耳で合わせる習慣は自然に身に付いていた気はします。

画像(懐かしのコルグAT-1)

でも、個人練習の時にはその威力を発揮してくれました。基礎練でアーバンをさらう時、曲の練習をする時、チューナーで自分の音程の癖を徹底的に調べました。その結果、どの音が高くなりやすいか、低くなりやすいかとか、どんな音の並びになると音程をとりづらくなるのかということが何となく分かるようになり、それを意識して練習することで、だんだん音のツボに当てて鳴らすことができるようになってきました(録音して聴くというのも並行してやりましたが)。
あとは、ゲーム感覚で、狙った音を一発でメーターの中心(緑色ランプ)に合わせられるように吹くという練習もしたことがあります。特に新しく楽器を買ったころにそれをやりまくっていたお陰もあってか、今でもその楽器で吹く時にはどんな風に吹けばツボに当たるか、音程の良い響きで吹けるかが何となく分かる気がします。これらはチューナーを個人練習の時の一つの基準として利用した結果得ることができたものだと思いますし、チューナーがあってよかったなと今でも思うことです。
しかし、ただメーターに「合わせよう」だけすると、奏法や姿勢に無理が生じて「合いにくい」音で吹いてしまうこともあります。例えば音が低くなりやすいからといって、無理やり口を締めてメーターに合わせたとしても、音には響きがなくなり、他と混ざりにくい音色になってしまいます。音が高いからといって、むやみに主管を抜いたところで、楽器の持つ本来の良い響きが得られなくなってしまうこともあります。そこまでして音程にこだわるくらいなら、自分は音色や響きにこだわった方が余程音楽的なのではないかなと思います。
どんな道具も使い方が大事です。
何のために音程を気にするのかと言えば、みんなで響きを合わせて、美しいハーモニーをつくるためだと思います。合わせる必要があるのは、チューナーのメーターではなく、一緒に吹いている人の音。せっかく合奏をするのだったら、まずチューナーから離れて、一緒に奏でる仲間の音に耳を傾けたいものです。そして、自分自身の音にも敏感に、いい響きで、誰もがうっとりするような音色で吹きたいものです。
最近は一人一台チューナー時代になりましたし、スマホのアプリでもチューナーがあるくらいで、便利な機械が手軽に使える時代になりました。でもこのような時代だからこそ、アナログの人間の耳、感性といったものを大切にしたいと思いますし、人間が機械に支配されることがないようにプライドを持ってやっていきたいところです。
チューナー教、メトロノーム大先生になっている人は、一回目を覚まして、自分自身の力に気付いてほしいなと思います。その上で、便利なものを操ることのできる自分になれたらいいなと思います。

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