個人練習のススメ ~自主的に課題を乗り越える力を身につけるために~

吹奏楽部の練習メニューを見ていると、合奏、パート練習、セクション練習など、人と合わせる時間を多くとる傾向があるように思います。もちろん、最終的にはtuttiで合わせることで生み出される音楽ですから、そのような傾向になるのは当然のことかもしれません。
でも、合奏というものは個性を潰して統制するものではなくて、一人ひとりが個性を出し合ってこそ面白くなるものだと思います。そのためには、一人ひとりが個性を発揮するための技術を磨く時間や、自分と向き合ってどんな音楽を奏でたいかを見つめる時間も大切です。
部活動の時間は限られていますし、なかなかどのように練習を組んでいけばよいのかということは難しいところでもあります。限られた時間の中で効率よく上達していくためには、教員が張りついて教え込んだ方が速い面もあるかもしれません。
いろいろな考え方があると思いますが、私は部活動はプロを育てる場所ではなく、部活動を通して自分で計画や目標を立て、自分の力で実行していく力を養っていく場だと思っています。もちろん吹けるようになったら楽しくてもっと自分でやりたいと思う気持ちも強くなるでしょうし、いつまでたっても上達を感じられなかったらつまらなくなってやる気もなくなるかもしれません。
ただ、受け身で言われたことをやってればよいというのは、その場ではうまくいくことはあるかもしれませんが、やはり自分で考えて意味を理解して練習する環境づくりはとても大切なことだと思います。
先日箱根駅伝で2連覇を果たした青山学院大学の陸上部。彼らが行っているトレーニングは、旧来の決められたトレーニングを繰り返すというものではなく、骨格模型を使って徹底的に鍛えるべき筋肉について学んだ上で、個々の状態に応じてメニューを考え、選手自身がトレーニングの意味を理解して行っているそうです。言われたままに従って根性論で練習をこなすのではなく、自分で納得して必要な練習を効率的に行うことで、あの強い青学を生み出したのだと思います。
自分自身、ありがたいことに生徒に任せてくれる自由な雰囲気の中で育ってきました。上手くいかなかったことだらけですが、自分たちでつくりあげていく楽しさを感じられたことは、とても糧になっていると思います。それだけに教員になってからも生徒の自主性を大切にしたいと思ってこれまでやってきました。
でも、自主性を重んじるという名の元にあまりにも生徒一人ひとりを放置していないか、と思うこともあります。どこまで手をかけてどこから手を離すか。手をかけるのも手を離すのも簡単なことですが、バランスを見極めることは難しいものです。自主的にやりたいと思って、考えてやれるところまでもっていけるか。それは教員の腕の見せどころともいえるでしょう。
言われた通りにやって統制がとれた演奏も悪くはありません。でも、ちょっと粗削りでも、一人ひとりが「こう奏でたいんだ!」という思いを持ってつくりあげた演奏の方が気持ちを動かされるような気がします。音楽は中高の6年間だけのものではない。一生もの。だからこそ、生徒たちが自分自身の力で楽しめる環境をつくっていきたいと思っています。
偏見かもしれませんが、最近自分たちの世代も含めて、どこかマニュアル依存、指示待ち傾向が強くなっているような気もします。それだけ大人が失敗を許さない雰囲気をつくっているのかもしれません。もっと自由に、やりたいことを思い切りやって、失敗しても立ち上がれる雰囲気をつくれるか。そこなのかなとも思います。
話が少し脱線してしまった気もしますが、つまりのところ、部活動でも個々が自分自身と向き合い、自分自身の課題に応じて、試行錯誤しながら上達していくための時間や環境を確保することは絶対に必要だということです。
この仕事をやっていると、自分ができなかったこととか、自分の夢とかを気づかないうちに生徒に押し付けてしまっているのかなと考えさせられることもあります。一人ひとりの思い、希望、夢をちゃんと聴いて受け止めることができているか。その思いを実現するための手助けができているか。一人ひとりの力を信じて任せることができているか。その上で、一人ひとりが自分の足で歩いていけるような道筋を、共に作っていきたいものです。
時間がかかったとしても、生徒が自ら考えてやる練習の時間をこれからも大切にしていきたいと思います。

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