もしもヒトに背骨がなかったら?

先日もアレクサンダーテクニークとは何か、ということを初心に帰りつつ、今の自分の考えをまとめてみましたが、今回もその続きです。

今回はアレクサンダー・テクニークの基本中の基本でもる「軸骨格の構造とプライマリーコントロール」について、これまでに学んできたことを元にしながらまとめていきたいと思います。

 

なぜ、アタマとセキツイの関係が大切なのか?

アレクサンダーテクニークを学ぶとき、「アタマとセキツイ」だったり、「頭が動けて、体全体がついてきて」という言葉が使われることが多々あります。ではなぜ、「アタマ」や「セキツイ」に着目しているのでしょうか?

ヒトの骨格は、全部で約200個の骨で成り立っていることが知られています。中でも、「軸骨格」とよばれる頭蓋骨、肋骨、胸骨、脊柱(頚椎、胸椎、腰椎、仙骨、尾骨)あわせて80個の骨が人間にとって、体の支えとなり、動きの軸となっています(下図の青い部分)。

上の図を見てもわかるように、腕や足の骨格というのは軸骨格につながっており、「付属肢骨格」とも呼ばれています。ですから、まずは軸骨格が自由に動ける状態をつくっておかないと、腕や足の動きにも影響が及んでしまうのです。

実際、首を意図的にギュッと固めた状態で腕を上げようとすると、非常に上げにくくなります。もちろん手だけではなく足も動かしにくくなりますし、呼吸もしづらくなったり、あらゆる動作がしづらくなるということが起こります。このように、軸骨格を固めて使いづらい状態にしてしまうと、身体の機能全体に影響が及んでしまうこともあるのです。

 

「アタマとセキツイの関係」を探ってみる!

このように、「アタマとセキツイの関係」は身体を動かすときに大きな影響を持っています。それに注目したのが、アレクサンダー・テクニークの提唱者であるF.M.アレクサンダー氏です。

F.M.アレクサンダー氏は、オーストラリア出身の俳優です。将来を有望されていたF.M.アレクサンダー氏でしたが、ある時、原因不明の声の不調に悩まされることになります。そして、自分自身のことを観察し、分析し、実験を重ねていった結果、自身の体の不調の原因が「頭と首と胴体の関係にある」ということを発見しました。F.M.アレクサンダー氏は、この「頭と背骨全体の機能を邪魔していなければ、その人全体がうまくはたらく」という原理を、のちに『プライマリーコントロール』と呼びました。

アレクサンダー・テクニーク教師であるバーバラ・コナブルとウィリアム・コナブルが書いた『アレクサンダー・テクニークの学び方〜体の地図づくり〜』という本には、プライマリーコントロールについて、次のような記述があります。

プライマリーコントロールとは、体を支え、バランスをとるための本来的、生来的メカニズムです。このおかげで、私達は努力せずに直立することができ、また動きが支えられ流動的になるのです。だんだんにわかっていくことですが、プライマリーコントロールは、運動中も静止中も頭と脊椎の動的な関係を保持し、再生するということで決まるのです。

つまり、何か体に不調を抱えているとき、どこか一部分の使い方を部分的に直していくのではなく、頭と脊椎の関係に注目をし、本来持っている”プライマリーコントロール”というシステムが正常に機能できる状態をつくることができれば、より自由に効率よくからだを使っていくことができると考えることができます。

“プライマリーコントロール”は、言い換えると軸骨格が自由に使える状態にあることだとも考えることができます。だからこそ、「頭が動けて、からだ全体がついていく」ことで軸骨格が自由に使えるようになり、からだ本来の機能を十分に使える状態にすることで、やりたいことをよりやりやすくするのがアレクサンダー・テクニークであるとも言えるでしょう。

 

もし、ヒトに背骨が無かったら?

では、もしヒトに背骨が無かったらどうなるのでしょうか?

脊椎動物の骨格は内骨格とよばれ、生命維持に大切な臓器を外部の衝撃から守ると同時に、筋肉が付着するための土台となり、体を動かすための支持装置として重要な役割を果たしています。

これに対し、エビ・カニ・昆虫などの無脊椎動物は、外骨格(殻など)を発達させて硬く丈夫にすることにより、身体を守り、支えています。しかし、外骨格を丈夫にしようとすると身体の外側が重くなり、動きが鈍くなる傾向があります。動きが俊敏かつ柔軟であるためには、脊椎動物のように内骨格が発達し、外側は柔軟であることが必要です。

例えば建物を建てる時、柱がないけれど外側が立派な建物と、柱が頑丈な建物だったら、どちらの方が耐久性が高いでしょうか?

建築中の家のイラスト

答えは、柱が頑丈な建物です。

どんなに外側が立派だったとしても、柱がしっかりしていなければ、地震などには弱い建物になってしまいます。それと同じように、生物の身体を見たときにも、建物でいう柱となる内骨格、特に大黒柱ともいえる脊椎が機能しているかが、より構造を大きくしたり、動きを多様なものにしたりと、身体全体に大きな影響を与えることになります。

 

もし、背骨が1本の骨だったら?

では、具体的に背骨とはどのような構造になっているのでしょうか?

上にも書いたように、背骨(脊柱)は頚椎、胸椎、腰椎、仙骨、尾骨からなっています。そして、それぞれの部位は椎骨という小さな骨が重なっています。

椎骨の数は下図のように、頚椎が7個、胸椎が12個、腰椎が5個、さらに仙骨が1個、尾骨が1個(2~3個と数えることもあるようです)あり、合計26個あります。もしこれが1本の「背骨」という骨だったら、私たちの身体は折りたたむことも、ひねることも、反りかえることもできません。これら26個の椎骨が、椎骨と椎骨の間で椎間関節をつくり連動することで、大きく動くことができるのです。

椎間関節の一つ一つは、わずかな可動域しかもちません。しかし、縦に連なる複数の椎間関節が同時に稼働することにより、脊柱を全体として動かすことができます。また、椎間関節は、部分によって役割が異なっており、得意とする動きも異なります。

体幹を動かす胸椎と腰椎の可動域を比較させてみると、体幹を屈曲(折りたたむ)・伸展(反り返る)のは腰椎の椎間関節、回旋(左右にひねる)のは胸椎の椎間関節によって行われているといえます。

実際に骨の形を見てみても、肺や心臓など生命にかかわる臓器を守らなければいけない胸椎は棘突起(椎骨の後端が隆起し、突出したもの)が長く下を向いており、屈曲・伸展の方向には動きにくくなっています。

一方で、腰椎の棘突起はほぼ水平に突出していて、胸椎よりは短くなっており、屈曲・伸展の方向には動きやすい構造になっています。しかし、上体の重みを受け止め、身体を支える役割がより大きくなっているため、回旋する動きは苦手です。この構造を初めて見た時、「何て人の身体って上手にできているのだろう」と感動しました。生物が、自らの種が生きながらえるために、何代も命をつないでいく中で、この構造を生み出したのかと思うと、生命40億年の歴史を感じずにはいられません。

アレクサンダー氏も、著書の中で「All together, one after the other(すべて一緒に、一つずつ順番に)」という言葉を残しています。これは、頭が動けると、それに連動して脊柱の1個1個が一つずつ順番に、かつすべてが連動して一緒に動いていくという様を表しています。下図のように、つなげたクリップの先端を動かしたら、つながっているものがそれについて動くようなものだとも言えるでしょう。

もちろん、人間の体は複雑にできていますから、このように単純ではなく、それに付随していろいろな動きが生じていく可能性もあります。ただ、この「背骨は1本ではなくて、たくさんの脊柱という骨が連動しているもの」という認識をもって身体を動かしていくと、より身体の可動域が広がるような気がします。

 

アレクサンダーテクニークを学び始めた頃、私は「アタマとセキツイ」という言葉を聞いて、頭や首のあたりを意識するあまり、首がとても痛くなってしまったことがありました。「枝葉を見て、幹を見ず」という言葉があるように、身体の一部分だけを考えてしまうと、うまくいかないことがたくさんあります。

今はどうしているかというと、「アタマとセキツイ」という言葉を思う時、視線を空間全体を認識するように上下左右に動かすことで「頭が動けて」という状態を確認し、その後で脊柱1個1個が上から順番に、骨と骨の間の間隔を広げながら、頭について動いていくという意識を持つようにしています(あくまで、現時点での意識を言語化するとこんな感じかな、というところですが)。

アレクサンダーテクニークを学んでいく中で、軸となるのは”プライマリーコントロール”(=アタマとセキツイの関係)ですが、必ず思っていたいのは「からだ全体」、さらに言えば「自分という一人の人間全体」ということです。この「全体性」を大切にしながら、これからも探究の旅を続けていきたいと思います。

 

※図の一部は、「いらすとや」「イラストAC」のものを利用。

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