「未来の吹奏楽教育を考える」に参加して ②コミュニティバンドを育てる

今回は、8月11日に東京学芸大学で行われた公開講座「未来の吹奏楽教育を考える」に参加して感じたこと、考えたことをつぶやくブログの第二弾です。
→前回のブログ:①「叱らない吹奏楽部」の実践

文化庁から「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が出されたのが昨年末。吹奏楽部の活動の在り方も大きく変わってきました。今回の講座でも「短い時間になった部活動の中で、どのように効率よく練習すればよいのか」というテーマをもって参加された方も多かったように思います。

私の勤務校では、生徒の学習時間と休養時間の確保が目的で、数年前からこのガイドラインと同じくらいの基準になっていましたので、その頃から「効率の良い練習」というものについて考える機会も多かったのですが、今回はそれにとどまらず、どの子どもにとっても充実した吹奏楽の活動が行える仕組みづくりを考えるきっかけを頂けた気がします。

ただガイドライン作成の理由についての認識が、多くの参加者の方が「教員の働き方改革」を第一に挙げられていたことには少し驚きました。むしろ「教員のために部活が減らされている」という認識が多いのだとしたら、特に子どもたちがそのような認識だったとしたら、個人的には少し悲しいなと思いました。

確かに「教員の働き方改革」はニュースにもなっていますし、ネットでも大きな話題になっていますから、そのようにとらえられるのだと思うのですが、ガイドラインの“策定の経緯”には、次のように書かれています。

生徒の自主的、自発的な参加となるよう生徒が参加しやすいように実施形態などを工夫するとともに、生徒の生活全体を見渡して休養日や活動時間を適切に設定するなど生徒のバランスのとれた生活や成長に配慮することが必要

つまり、根本にあるのは「子どもたちの成長を願う」という思いでなのだと思います。結果的に教員の働き方改革につながり、それがまた授業などで子どもたちに還元されていくであろうというところももちろんあると思いますが、ここではガイドライン作成の経緯に従い、「子どもたちにとってどうか」という視点で書いていきたいと思います。

 

部員数が減ってきている現状をどう考えるか

少子化の影響や、吹奏楽部は練習が厳しいというイメージがあったり、一部の“強豪校”と呼ばれる学校に部員が集中したりして、部員数が減っている吹奏楽部も多いように思います。私が顧問をしている部活も、就職した頃(ちょうど映画『スウィングガールズ』の影響で人気がありました)には中高合わせて100人を超えていたにもかかわらず、現在では50人前後にまで減ってしまいました。

2017年の夏、吹奏楽コンクールの予選大会に2人で出場した学校があったことが話題になりました。この横浜桜陽高校の挑戦は、バンドジャーナルの記事にもなったそうで(→参考記事)、少人数の部活の希望の星になったのではないかなと思います。しかし、進学先の吹奏楽部の部員数の減少によって演奏活動を続けることを断念する子どもたちもいるようで、危機感を持って考えていかなければいけないと思っています。

こうした人数の少ない部活は、複数の学校と合同で演奏会を実施するところもあります。しかし、全日本吹奏楽コンクールの参加規定には、「同一中学校(小学校、高等学校)に在籍している生徒とする」というものがあり、現在のままでは複数の学校が合同で参加することは原則としてできません。この縛りによって、コンクールへの出場を断念している学校もあるわけです。

もちろん吹奏楽の活動はコンクールだけではありませんし、人数が少なければ少ないなりのやり方もあるでしょう。でもチャンスとして選択できないというのは悲しいことでもあります。

このような中で、吹奏楽コンクールと同じ全日本吹奏楽連盟が主催している「全日本小学バンドフェスティバル」が、2019年度の大会から「全日本小学バンドフェスティバル」と改称され、参加規定も「同一小学校に在籍、または校内外で活動する単独校・複数校混合の団体に在籍している小学生とすると改定されたそうです。これにより、単独校では部員が集まらなかったとしても、出場できる大会があるということになったわけです。

まだまだ小学生にのみ適用されている規定ですし、吹奏楽コンクールは従来通りの規定ですから、これからさらに規定が柔軟なものになっていく必要はあるように思いますが、画期的な改革であったと思いました。

 

「金沢文庫ブラスト・ファンクラブ」の取り組み

今回の講座では、実際に学校から離れたところで吹奏楽を楽しむ機会をつくろうという「金沢文庫ブラスト・ファンクラブ」(以降、ブラストファンクラブ)の取り組みが紹介されました。

ブラストファンクラブは、多世代交流音楽クラブとして、年齢制限なし、参加楽器は自由(吹奏楽の楽器に限らない)、1日だけ単発参加もOKという柔軟な活動をされています。

発足のきっかけは、小学校の「特別音楽クラブ」の練習時間が短く、校外で金管楽器の音を出せる場所が限られる中、公園で自主練習をする子どもたちの姿を見て、保護者の方がどうにかできないものかと考えたことだそうです。

講座では、ブラストファンクラブを立ち上げた伊川和美さんが、実際の活動を具体的に紹介してくださいました。

練習場所を借りるにはお金がかかります。公共施設を使ったとしても、その利用料金をすべて参加者だけで負担していては、「楽器を練習する」ということへのハードルは上がってしまいます。それをワークショップやコンサートイベントという形で毎回実施していくことで区民活動サポート補助金を得たり、単発参加OKで毎回申込みという形をとることで都合の良い時に参加しやすくしてみたり、きっと大変な苦労の中でつくられてきたのだと思いますが、その工夫と行動力には脱帽でした。

しかし、学校備品を校外での活動に利用することがよく思われないこともあるため、学校の楽器を利用している子どもは、持ち帰れない場合には練習することができないという課題も残されています。

学校で部活動の時間が短くなり、「もっとやりたい」と思う子どもたちをコミュニティバンドが支えいくという構図は、これからも多くなっていくはずです。しかし、結果として学校が大きな壁として立ちはだかっているという現状を伺い、学校に身を置く身としては複雑な気持ちになりました。

 

お金モノ

これらがそろわないと、どんなに良いアイディアも、どんなに熱意があっても実現できないこともあります。これらの問題を本気で考えていかなければ、吹奏楽の未来はないと、強く感じた実践報告でした。

 

多様なコミュニティバンドを地域で育てていく

ブラストファンクラブ伊川さんの実践報告と、玉川学園の土屋先生の報告を伺って、(影響されやすい私は)部活動とコミュニティバンドの連携こそが、子どもたちにとって多様な吹奏楽との関わりを生み出し、個々に応じた楽しみ方ができる方法なのではないかと考えるようになりました。

一部では「部活動は学校から完全に切り離すべきだ」という考えの方もいらっしゃいますが、私はあくまで部活動は縮小したとしても、完全に切り離さない方がよいと考えています。それは、次のような理由からです。

  • 子どもたちに、学校でクラスに限らず様々な居場所をつくることで、学校がより安心して過ごせる場所になる必要がある。
    →もちろん、その居場所がつらくなってしまうことも残念ながらありますが、心が揺れ動く思春期の子どもたちにとって、少しでも安心していられる居場所をできるだけ作っておくことは大切なことだと考えます。
  • 楽器や音楽と出会うきっかけは、身近にあった方がとっつきやすい。
    →授業の中で触れ合う機会をつくるという考え方もありますが、授業ではない、学校でやる特別な活動であるところに興味をもつ生徒もいるのだと思います。校外の活動だと、「新しいところに足を踏み入れる」というハードルはより高くなるのではないかと考えます。

 

ちょうど今、顧問をしている部活では文化祭に向けての練習が大詰めを迎えています。とはいっても、今年は顧問は最低限のアドバイスと事務作業のみにとどめ、生徒たちだけで選曲から練習、指揮まですべてを担うことに挑戦しています。難しさや大変さを感じているところもたくさんあると思いますが、自分たちで悩み、試行錯誤をしながら進めていく姿は頼もしいものもありますし、一人ひとりが責任を持って活動に取り組んでいるようにも見えます。

このような生徒たちの姿を見ていて、ふと「あぁ、部活って本来こういうものなのだなぁ」と感じました。顧問や指導者がすべてを決めてやらせるのではなく、子どもたちがやりたいと思って、上手くいかないことがあっても自分たちで工夫しながら達成していく楽しみを感じる場なのだなと。

もちろん子どもたちだけでは限界もありますし、子どもたちがやりたいことを実現するために大人の力を借りることも必要だと思います。可能性がいくらでもある子どもたちの力を埋もれさせてしまうことは避ける必要があります。

どのレベルで活動するか、何を目標として活動をするのかは一人ひとり違うものですし、学校によっても異なるものです。ガチで没頭したいと思っている生徒から、ちょっと音楽(楽器)に触れる時間があったらうれしいと感じている生徒、仲の良い友達と何かをすることを楽しみとしている生徒など、部活をやっている理由は本当に様々です。

だからこそ、自分たちで工夫しながらやっていける、その場にいる部員の合意がつくれる活動をベースラインとし、それを部活動が担い、その先は子どもたちの意識によって多様な選択肢があってもいいのではないかなと思うのです。

私が考える、学校とコミュニティバンドの連携の理想像は次のようなイメージです。

子どもたちの安心安全が守られることが絶対条件ではありますが、学校がもっと開かれた場となり、子どもたちと吹奏楽との関わり方にも多様性がもてるような環境を整えることで、コンクール一辺倒にならず、子どもたちが自分で吹奏楽との関わり方を選択していけるようになり、一人ひとりの興味に応じた活動につなげていけるのではないかと思います。そして、それが自主的に「やりたい」と望んで活動することにもつながり、効率の良い練習にも結びついていくような気がします。

まだまだいろいろな問題はあると思いますが、コミュニティバンドの可能性についてはこれからも考え続けていけたらと思います。

 

講座について、この続きはまたいずれ・・・

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「未来の吹奏楽教育を考える」に参加して ②コミュニティバンドを育てる” への2件のコメント

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