大切なのはどうやって達成できるかを考える「前向きな態度」 ~青学大陸上部 原晋監督の講演を聴いて~

青山学院大学理工学部創立50周年記念講演会、シリーズ第一弾は箱根駅伝で優勝した陸上競技部長距離ブロックの原晋監督。ということで、理工学部卒業生としては聴きに行かねば!と相模原キャンパスまで行ってきました。
演目は「箱根駅伝優勝への道のりと今後の展望」ということでしたが、原監督がどんな覚悟で青学にやってきて、どんなビジョンのもとにチーム作りをしていったのかを具体的に話してくださり、学級経営や部活指導に活かせるはもちろんのこと、人としてどのように生きていくのかというところまで考えさせられた講演となりました。
原監督が青学陸上部の監督に就任したのは36歳の時。
20代半ばで陸上競技を断念し、苦労を重ねながら「伝説の営業マン」と呼ばれるまでに業績を上げ、サラリーマンとしての実績を積んでいた時に降りかかってきた監督就任の話。縁もゆかりもない大学、しかも当初は3年契約の非常勤職員扱い。当然のことながら、当初は周囲の全員から反対されたそうです。監督自身も、中国電力に籍を置きながら、「出向」の扱いにならないものか考えたそうです。
そこで背中を押してくれたのが、当時の上司と、奥様の言葉だったといいます。
「中途半端な気持ちで行っても、今の学生には見透かされてしまうぞ」
「中途半端なもので人を感動させることはできるのか。中途半端ならやっても意味がない」
「人間、退路を断ってこそ本当の姿がでるものだ」
「反対だけど、“お前が止めたから”と一生言われ続けるのは御免です」
今の自分とほとんど同じ年齢の時のことだと考えると、今自分にそんな勇気いる決断は正直なところできないと思います。でも原監督は、それまで封印してきた陸上競技への想いを諦めずに青学にやってきてくれました。
そんな原監督が1年目から初めに学生たちに伝えていることがあると言います。それは、
チームビジョン「行動方針」
 ①感動を人からもらうのではなく、感動を与えることのできる人間になろう。
 ②今日のことは今日やろう。明日はまた明日やるべきことがある。
 ③人間の能力に大きな差はない。あるとすればほれは熱意の差だ。
ということです。
「タイムを速くしよう」「試合に勝とう」という目標ではなくて、「感動を与えることの人間になろう」「今自分にできることを精一杯やり続けよう」というメッセージを送っているところが、ただ根性論に頼るのではなく、一人ひとりのやる気を引き出して育てていくという監督のスタンスを表しているように思います。そして、こういう指導者についていきいなと改めて思いました。
奇しくも原監督が就任されたのは2004年。自分が就職した年と重なります。
それだけに「この11年間、死にもの狂いで頑張ってきた」という言葉がずっしり響いてきました。監督に就任し、グダグダに崩れていた部員の生活管理から始めて、優勝を争える結束力のあるチームにまで成長させるためにどれ程の力を注いできたのか。自分が想像できる以上に険しい道のりだったことと思います。その道のりを監督は4つのステージに分けてお話ししてくださいました。
ステージ1
*「私とあなた」 1対1の関係(中央集権)
*ティーチング
  →その業界の「核」となる部分を徹底させる(長距離走では生活管理)
    寮則で、競技力だけでなく、チーム力、人間力の向上を目的とすることを明記
    陸上競技を中心に生活をするが、競技生活と学業の両立に努める
    実際、留年する学生は殆どおらず、きちんと卒業していっている
*ステージ1の光と影
 <光>
  ・リーダーはチーム全体に基本方針を的確に指示できる
  ・規則を替える
  ・チームを同じベクトルに向かわせる
  ・「キーワード」に大きな違いがなければ必ず成長する
 <影>
  ・危機感をあおる →威圧することで支配
  ・様々な情報を遮断 →無知な人間
  ・個性を失う
  ・考える能力を失う
 ⇒コピペ世代には通用しない
ステージ2: 自覚期
*「リーダーと各責任者」という関係をつくる
 →各学年責任者に指示を出していく
*ステージ2の光と影
 <光>
  ステージ1の光に加えて…
  ・リーダー、スタッフに自覚が生まれる
 <影>
  ・監督の指示が行き届かなくなることがある
  ・学年間のつながりがうすくなる
ステージ3: コーチング期
*リーダーは各責任者にキーワードを伝える
*部員たちは縦横の関係を築き、考えるようになる
*ステージ3の光と影
 <光>
  ステージ2までの光に加えて…
  ・自主的に考えて取り組めるようになる
  ・ステージ2までの<影>は改善方向に向かう
 <影>
  ・自主性と自由を吐き違い、軽い空気が蔓延する恐れがある
ステージ4: 成熟期
*リーダーは外部講師も巻き込みながら、選手と相互に組み立てることができるようになる
⇒ステージ4,3と、ステージ2,1を行き来しないために、「人・組織としてどうあるべきか、理念を示すこと」を続けていくことが必要
これは、ティーチングからコーチングに至る過程を示した下図のような取り組みに近いなと感じました。

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それと同時に、自分が目標とするのはもちろんステージ3,4のように生徒が自主的に考えて行動できる部活だけれど、ステージ1,2をなくしてはそこにたどり着くことはできないのかもなということです。道筋を示さずに「ほら、自分の思うようにやってごらん」というのは責任放棄以外の何物でもありません。どの道を選択するかは生徒個人の自由だと思いますが、その選択ができるところまで土台をつくったり、いろんな選択肢を示すことは、指導者の役割なのだなと改めて思いました。
さらに原監督は、「箱根駅伝から学ぶ人材活用術」としていろんなアイディアをお話ししてくださいました。
①コカ・コーラ作戦 ~120%の力を発揮するために~
→コーラは蓋をしたままでは噴出することはないが、ちょっと外から刺激を与えることで一気に噴出する。それと同じように、管理者が蓋をきっちり締めすぎずに、刺激を与えられれば選手はパワーを出すことができる。
→でも、たまにふたを閉めないと炭酸は抜けてしまう。同じように、時として選手の気を引き締めることをしていくことも管理者としては大事なこと
⇒明るさはチームに様々な恩恵をもたらす
⇒朝の一言スピーチ、合宿時の自慢話タイム
⇒食事は楽しくみんなで食べる
②芝の移植作戦 ~前例にしがみついている学生に対して~
→芝は値をきちんと洗って移植しないと根腐れして枯れてしまう
→過去にどうだったかではなくて、これから自分たちで時代をつくっていこうと思えるかが大切
③柿の木作戦 ~目標をいつも達成できない学生に対して~
→はじめから木のてっぺんに柿を取りに行くのではなく、まず下の方の柿をとって美味しかったことを確認し、徐々に高いところの柿をとっていくのと同じように、手に届くような目標から徐々に高い目標に向かっていく。
⇒半歩先の成功体験を繰り返していくことを大切にする。
⇒「組織の目標」と「個人の目標」の両輪で目標設定をする。
⇒「ピーキング」のトレーニングをする。
   全体の流れをつかむ、練習の「目的」を理解する、目標管理ミーティングの実施、結果報告書の提出
この他にも面白い「〇〇作戦」をたくさんお話ししてくださり、監督がいかに「人を育てる」ということを大切にされているのかということを痛感しました。
そして、最後に原監督がおっしゃっていたメッセージがとても心に残りました。
「出来ない」「無理」「難しい」という先入観を払いのけよ、問題への態度がすべてを決める。
   ↓
大切なのは、どうすれば解決できるか、どうやって達成できるかを考える「前向きな態度」である。
   ↓
問題をこなせる能力があるかどうかではなく、取り組む姿勢が大切。

原監督が陸上界に一石を投じたことは、吹奏楽の世界にもつながることだに思います。
単なる妄想ではなく、達成可能な小さな目標を立てて成功体験を積み上げていくこと。
そのために必要なことをできるだけ具体的に考えて実践すること。
チームとしての理念を語りつつ、個人に寄り添い、共に歩んでいくこと。
競技力、肉体的なトレーニングだけではなくて、人間力を磨いていくこと。
誰にでもチャンスはあると信じて、組織内での競争力を高め、全体としてレベルアップにつなげていくこと。
みんなの前で自分の想いを語れるようにすること。
笑顔で明るい雰囲気づくりをしていくこと。

どういうチームにしていきたいのか、一人ひとりをどう育てていきたいのか、指導者が具体的なビジョンを持つことから全ては始まるような気がします。そして「自主性」と「自由奔放」をはき違えることがないようにしながら、一人ひとりがどうしたいか、どのように成長したいかを考えて取り組む環境をつくっていくこと。どちらもとても大事なことです。
今日、原監督から教えていただいたことを心に留めながら、生徒たちが生き生きと奏で、想いを込めて聴いている人を感動させる演奏ができる吹奏楽部をつくっていきたいものです。さて、頑張ろう。


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