「指導者が一方的になってしまわないこと」
「受け身にならず、自ら能動的に楽しんでいくこと」
当然のことかもしれませんが、これがモチベーションを上げるために最低限必要な条件かと思います。
極端な話かもしれませんが、高校時代、授業が分かりやすい先生の科目は分かった気持ちになって自分でやらなかったためにテストで散々な点を取り、分かりにくかった先生の科目は自分で必死にやったのである程度の点数が取れたということがあります。
自分自身が授業をしていても、一斉授業で一方的に講義をしてしまうと、だんだん眠くなる生徒が増えていき、起きている生徒でもノートをとることだけに集中して、どこがわからないのかわからないという状態で授業を終えてしまうということがよく起きます。
このように授業でも一方的になってしまうと、モチベーションは下がります。
特に最近の子どもたちはインターネットの普及などにより、よりスピーディーに、双方向のコミュニケーションをすることになれていますから、なおさら一方的な授業というのは難しいのだと思います。
理想は、「生徒自身を動かし、能動的に考えられる授業」
今、教育現場で注目されている学習方法があります。それが上越教育大学教授の西川純先生が提唱されている『学び合い』です。
この『学び合い』ですが、上記の本では次のように紹介されています。
◎一斉授業では…
・先生が子どもに教える
・子どもは静かに座っていることが推奨されている。
・先生のペースで授業が進む。
・子どもは黙っている時間が多い。
・わからない子がいても授業はどんどんすすんでしまう。
◎『学び合い』では…
・先生は課題を与え、子どもは子ども同士で教え合い、学び合う。
・子どもはお互いを教え合うために、立ち歩くことが推奨されている。
・子どもはそれぞれのペースで授業内容を学んでいける。
・子どもがコミュニケーションし合う時間が多い。
・わからない子は、わかるまで友達に聞きに行くことができる。
実際やってみると、それまでテストで点数があまりとれなかった生徒や居眠りの多かった生徒でも生き生きと授業に参加するようになり、レポートや感想文などもだいぶ書けるようになってきました。まだやり始めたばかりなので今後どのように展開するかは試行錯誤中なのですが、やってみて改めて「双方向のコミュニケーション」をとることの大切さを痛感しました。
これは合奏でも同じなのだと思います。
授業よりもさらに合奏の方が、指揮者が絶対で、指揮者が一方的に練習を進めるというスタイルが日本の吹奏楽界ではよくみられることだと思います。確かに、指揮者が一方的に細かく指摘していくことも時には必要かもしれませんが、そこに演奏者の「こう演奏したい」という気持ちがなければ、その時良くなったとしても、次の合奏で元に戻ってしまいます。だからこそ、目標に近づくためのヒントを出しつつ、演奏者自身が考えて練習できるように仕向けたいと思うのです。
一昔前に巨大迷路が流行ったのは、ゴールまでの道筋を仲間と協力しながら見つけ出していくところにおもしろさがあったからだと思います。初めから答えもそれに到達する道筋も与えられていたら、迷路をやろうとは思わないはずです。音楽でも「こう演奏したい」という目標があって、その道筋を共に考えながら、そのバンド(オケ)にしかできない音楽を模索していくところに面白さがあるように思います。
以前、コピーライターの糸井重里さんがTwitter上で次のようなことをおっしゃっていました。
「うまく伝わらない」「受け手が無関心」「プレゼンテーションを
うまくやりたい」‥‥と質問されても、「なにをやりたいのか」「どうなりたいのか」がよくわからないことが多いので、答えようがない。コミュニケーションの前に、アイディアとか意思とかを持ってないとなぁ。
デザイナーでエンジニアの山中俊治さんも、
「絵がうまい人になりたい」よりも「〇〇をうまく描きたい」という動機の方が絵を上達させる。向上心だけで自分を鍛えられるほど人は勤勉じゃない。「なしたいこと」や、「なすべきこと」が結果的に人を鍛えるのだと思う。
とおっしゃっていました。
音楽でも同じだなと思うのです。「こんな風に演奏したい」「これを伝えたい」という想いがなかったら、どんな技術が必要かと言われても答えようがありません。もちろん共通する基礎的なスキルは大切だが、想いがあって初めて技術が生きる。そして想いを伝えるために技術を磨く。それを生徒自身に気づかせるように、どう言葉を投げかけていけるかが問われているような気がしています。
指揮者も演奏者の一員と考えると、本当は演奏者と対等に意見を出し合いながら、自分たちのやりたい音楽を引き出して、共につくっていけるとよいのだと思います。指揮者はそのヒントを出して、演奏者に考えさせる。互いに意見を交換できる場を作る。実際はその作業が難しいわけですが、そういう雰囲気をつくりだしていけるといいなと思って日々やっていきたいと思っています。