久しぶりに楽器を吹こうとするときに ③高音を伸びやかに吹きたい

実習レッスンも3回目になりました。今回も先日と同じアマチュアのホルン奏者の方と探究をしていきました。生徒さんの許可を得た上で、その様子を紹介していきたいと思います。

前回の様子はこちら↓↓

久しぶりに楽器を吹こうとするときに ②響きのある音を取り戻したい

今回も、まず生徒さんがテーマとして取り上げたいことを聞いてみるところから、始まりました。

ここのところ、定期的に楽器を吹く機会ができたので、最初のレッスンのときに比べたらだいぶ音も出るようになってきたなと思うんですけど、まだ高音がしょぼいなと…。でも、そろそろ高音にチャレンジしてみてもよいかな、と思ったので、今日はそこをやってみたいです。

おっ、いいですね!自分でチャレンジしてみたいって思えることがあるのって、素敵だなと思います。ぜひ、今日は高音について一緒に探求してみましょう。

ということで、今回は「高音域を伸びやかに吹く」ということをテーマにして、レッスンを進めていくことにしました。

|高音を吹くときのイメージって、どんなイメージ?

高音を吹くときって、どんなイメージがありますか?

息のスピードですかね。速く吐くために、吐こうとするスピードで息を吸うとか…

ではいったん、それを意識して高音域を吹いてみると、どうでしょうか?

F〜、G〜、A〜、B♭〜、C〜、D……

出るけれど、ちょっと苦しいです。昔はもっと楽に吹けていた気がします。

やっぱり練習しないとですかね、、、

いやいや、練習も必要だと思いますが、とりあえず2つ実験をしてみたいと思うんですけど、提案してもよいですか?

はい、やってみたいです。

自分自身も経験があるのですが、「高音を出す=息のスピード」ということを考えすぎて、体の圧力が必要以上に高まってしまい、高音が苦しくなることがあり、この生徒さんも若干そういう傾向があるように見えたので、息のスピードとは違うアプローチをしてみることにしました。

|倍音列を意識して吹いてみる

1つ目は、アレクサンダーテクニークとはあまり関係ないかもしれないのですが、倍音列を意識して吹いてみるということです。

ホルンの倍音がどうなっているのか、ちゃんとは知らないんですけど、トランペットだと、下のB♭~Eまでが一つのセットで、次のF~B♭がまた次の倍音のセットになっているんですけど、

だいたい同じですかね

あぁ、よかったです…。

それで、音が上がっていくときに、一音一音登っていこうとするのではなくて、その倍音のセットごとに上がるという意識を持って吹いてみると、どうでしょうか?

次の倍音列につま先が引っ掛かったら、そのまま上に登れちゃう、みたいなイメージで…

あ、なるほど。
じゃちょっとやってみます。

F〜、G〜、A〜、B♭〜、C〜、D……

うーん、逆に上がりづらいです。

そうですか…。確かに、ホルンの上の方の音域って、倍音の間隔が狭いですものね。もともと意識せずともできていたことなのかもしれないですね。

じゃとりあえずこの実験はいったん置いておいて、次の実験の提案をしてみてもいいですか?

あ、はい。

これは、実は自分がトランペットのレッスンを受ける中で教えていただいたことで、それまで「高音は上から見下ろすように」といった表現で教わってきたことが、とても附に落ちたので、提案をしてみたのてました。

でも、生徒さん自身に「?」がついてしまった提案は、あまりゴリ押ししない方がよいかなと思い、次の提案に移ることにしました。

|アンブシュアモーションを活用する

そうしたら、下のB♭あたりの音から、リップスラーで上に上がっていってみてもらってもよいですか?

わかりました!

B♭~F~B♭~D~F~A♭~B♭~…

(上行するにつれて、わずかにマウスピースが左下に動くのが見えた)

あ、そうしたら、高音になるにしたがって、マウスピースと唇の接着面にかかる力が、真ん中から左下(実際には手で軌跡を描いて説明)に向かっていくように意識して吹いてみてもらってもよいですか?

は、はい…。こういう感じですか?

B♭~F~B♭~D~F~A♭~B♭~C~D~!

うわっ!出しやすいかも!
どういうことなんですか?

詳しいことはバジル先生のブログとかを読んでみるといいかなと思うのですが、「アンブシュアモーション」という考え方があって、アンブシュアのタイプによって、より高音を出しやすい軌跡、低音を出しやすい軌跡がきまってくるそうなんです。

今、演奏されているのを見て、高音に行くにつれて左下に動いていく軌跡が見えたので、それを大袈裟にやってみたらどうなるかな、という実験でした。

逆に、低音に行くときに右上、って思って吹くとどうなるか実験してみませんか?

はい!やってみます!!

B♭~A~G~F~E♭~D~C~B♭~…(すごく低い音)

出しやすいです!!これならオケの低い音も出せそう!

それはよかったです!
人によって違うのですが、Kさんの場合、高音に行くにつれて左下、低音に行くにつれて右上にいくようにすると、自分の特性を活かすことができるのかもしれないですね。

じゃおさらいで、アタマが動けて、からだ全体がついてきて、マウスピースが口のところにやってきて、高音に行くにつれて左下に密着する力が移動していく、と思って吹いてみましょうか。

はい!

B♭~F~B♭~D~F~A♭~B♭~C~D~!

あ~、割といい感じです!
ただやっぱり、上の音が出ても、歯を食い縛ったような音になるのが気になります…

なるほど…。そうしたらまた違う実験をしてみましょうか!

確かに音を聴いていると、高い音が鳴ったときに少し苦しそうな感じに聴こえるところがありました。表情も少しきつそうだったので、いったん「高い音をホルンで吹く」ということから離れてみようかと思いました。

|高音が響いているときの感覚を養う

ハミングで鼻腔のあたりに響かせる練習

そうしたら、まずハミングで、サイレンのように真ん中くらいの音域から高い音まで行ったり来たりしてもらってもよいですか?

こんな風に。
ん~~~ん~~~ん~~~♪

んーーーんーーーんーーー♪

そうそう、そんな感じです。
今やってみて、低い音から高い音にいくのと同時に、身体のどのあたりに響きがあったかって感じたりしたことがありましたか?

うーーん、あまり考えてなかったです。もう一度やってみてもよいですか?

あ、先に行っておけばよかったですね。すみません。

じゃ、顔らへんに注目してやってみてもらってもよいですか?

わかりました!

ん~~~ん~~~ん~~~♪

どうでしょう?

(鼻のあたりを触って)あ、このあたりかな。

そうしたら、そのあたりがよく響くように息を吐いてみよう、と思って、もう一度ハミングをしてもらってもよいでしょうか?

はい。やってみます。

ん~~~、んーーー、ん~~~♪

こんな感じですか?

はい!
そうしたら、そのハミングしている時の感覚を大事にしながら、楽器で高音を吹いてみましょう。

アタマが動けて、からだ全体がついてきて、マウスピースが口のところにやってきて、鼻の上の方がよく響くようにと思って、高音を吹いてみる…

アタマが動けて、からだ全体がついてきて、マウスピースが口のところにやってきて、鼻の上の方がよく響くように、高音を吹いてみる…

B♭~C~D~!

うん、何かいい感じかもしれないです。
ただまだちょっと、力が入って、歯を食いしばっているような音になっている気がします・・・

なるほど。ちなみに「これが正解」というものはないと思うのですが、Kさんはマウスピースを唇に当てるとき、上唇から当てますか、それとも下唇から当てますか?

んんーー、あんまり考えたことがなかったです。。
強いて言うならば、下からですかね、、、

じゃ、これは完全に実験なんですけど、仮に上唇から当ててみるとどうでしょうか?

アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、マウスピースが口元までやってきて、上唇を先に当てて、高音を吹いてみると??

わ、何か違和感・・・

初めてやったことだから、違和感があるのは当たり前だと思って、ちょっと吹いてみちゃいましょう!

は、はい。

B♭~C~D~!

あ、割といいかもしれません。これは何でなんですか?

完全に自分だったら、という話になるんですけれど、「歯を食いしばっている」と思って吹いているときって、下顎が固定されて動けない状態にあるなと思うことが多くて、なら下顎を自由に使いやすくするために、まず上顎の方にマウスピースを密着させてみるのはどうかな、と思って提案してみたんです。

ちょっとやってみて、使えそうだったら使ってみてください。

はい。ただまだやっぱり力が入っているし、昔吹けていたような太くて力強い音と比べると、こんな音じゃだめだ・・・って思ってしまいます。。

そうですか、、確かにしばらくブランクもありますし、練習はもちろん必要なんだと思います。
とりあえず、今日はもう一つだけ実験をしてみましょうか。

この一連のやり取りの中で、「昔はできていた」という記憶が、自分自身を悩ませる大きな原因になっていることもあるのだなと感じました。一度でもできたことは自分の実力ともいえるでしょうし、できていた感覚があることは次に成功することを導いてくれることもあります。その一方で、その感覚があるからこそ、できないときに苦しくなることもあるようにも思います。だからこそ、いったんそこを置いておいて、新しく可能性の引き出しを作ることも大切なのではないかということで、生徒さんの中にある高音のイメージに注目をして、何が原因として根深いのかを考えてみました。

|楽に高音を吹くことは、何もしていないわけではない!

高音を吹くときって、力が入っちゃいけない感じですかね?

またまた、そういうことを・・・

でも、力は入っていたらいけない気がします。

確かに、必要以上に力はいらないと思うのですが、楽器を吹くにはいつも普通に生活しているときより使う力は大きくなるし、ましてや高音となったらそれなりの圧に対応できるだけの力は必要なのだと思います。

普段生活しているのに比べたら、ホルンで高音を吹くなんて、結構尋常じゃないことをやっていると思いますよ。

そんなもんですかねえ、、

そんなもんだと思いますよ。
中学生で初めて楽器を吹こうと思ったとき、音を出すだけでも大変だったと思うんです。それが、コツがつかめてきて、普通に音が出るようになって、結果的に要らない力が抜けていって、必要な力だけでだんだん吹けるようになったんじゃないかなと。

手の指と指の間の膜みたいなところ、分かりますか?

あ、ここですか?

そうです。そこって、元々は水かきだったって聞いたことがありますか?

えっ、そうなんですか?!

そうなんですよ。
胎児のとき、最初は水かきがある状態で手がつくられていって、そこから必要じゃない部分の細胞がアポトーシスっていう、自分でいらない細胞が死ぬようにプログラムされている機能によって無くなって、指がつくられていくそうなんです。

こんな風に、初めはたくさん力を使ってみてもよくて、徐々に必要な力だけを使って、自分の出したい音を出せるようになっていけばいいんじゃないかと、私は思うのですが、どうでしょう??

なんだか上手いこと巻き込まれている気もするんですけど、とりあえずそんなものなのかなぁ。

とりあえず、信じなくてもいいので、実験してみませんか?

はい、やってみます!

そうしたら、上のB♭から始めて、1音ずつ上がっていって、スムーズに上がれないな、と思ったところで、さっきのハミングも思い出しつつ、息を吐く動作を強める、音が当たったら、そのまま息を送り続ける、というのをやってみましょうか。

アタマが動けて、からだ全体がついていきながら…

B♭~C~D…!

えっと、ハミングを思い出して、息を吐く動作を強めるっと…

あ、アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、視線が先に動くようにして、右を見て、左を見て、上を見て、下を見て、この空間は広いんだなーと思ってから、やってみましょうか?

はい。
アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、視線が先に動くようにして、右を見て、左を見て、上を見て、下を見て…、ハミングを思い出して、息を吐く動作を強めて、吹く。

B♭~C~Dー!

うん、さっきよりだいぶいいです!
私は、この「右を見て、左を見て…」というのをやってみるのがいいみたいです!
もうちょっと試してみてもいいですか?

はい。どうぞどうぞ。

(しばらく実験が続く)

B♭~C~D~E♭ーーー!!!

おっ、一気にE♭までいっちゃいましたね!

何か、行ける気がしたので、そのままいっちゃいました!

すごいですね!今の音は自分としてはどうでしたか?

はい、だいぶ良かったです!
最初に言われた「次の倍音列につま先が引っ掛かったら、そのまま上に登れちゃう」というのも、何か分かった気がします。

ちょっとこれで練習してみます。

途中で「右を見て、左を見て…」というのを追加したのは、生徒さんがだんだんと「高音を出す」ということに集中するあまり、視点が一点に集中し、全体的に力が入りすぎているように見えたからです。

今回は、それをやることで生徒さん自身が変化に気づき「上手くいかないと思ったら、まずアタマが動けて、からだ全体がついてきて、右を見て、左を見て…」ということをやってみようと思った、というところが大きかったように思います。

ただ今回も内容が盛りだくさんになってしまったので、もう少し生徒さんがゆっくりと消化できるペースで、また一緒に探究していけたらなと思います。

《生徒さんの感想から》

高音をあてられるようなレッスンをしてもらいました。提案してもらったことに乗っかってやってみて、それが上手くはまらなくてもまた別の一手を一緒に考えて試せたので無理なく課題に向かうことができました。

昔チャレンジしたままほっておいた曲があるので、それに取り組んでいきたいです。

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