久しぶりに楽器を吹こうとするときに ②響きのある音を取り戻したい

実習レッスン2回目も、先日と同じアマチュアのホルン奏者の方と密度の濃い時間を過ごすことができました。今回も 生徒さんの許可を得た上で、その様子を紹介していきたいと思います。

前回の様子はこちら↓↓



今回は、次のような会話で始まりました。

先週吹いたので、この間よりは吹きやすくなっているんですけど、何か音がこもっているというか、手元で鳴っている感じがして、昔はもっと吹けていたのではないかと思うんですよね…

う~ん、なるほど・・・。
そういえば、そもそもホルンの音は、どうやったら鳴るんでしたっけ?

唇の振動とか・・・息とか・・・

ですね!では、前回は「息を吸う」ことに注目をしてみたと思うので、今日は逆に「息を吐く」ことにまず注目をしてみましょうか。

あ、はい。

ということで、前回「息を吸うこと」に注目したので、その逆の「息を吐く」を自分自身が取り上げたかったということもちょっとはあるのですが、生徒さんの「手元で鳴っている感じ」という言葉が気になったので、今回は「息を吐く」ということにスポットを当てて進めていこうと思いました。


息を吐くとき、体の中で起こっていることとは?

この間、息を吸うときのことは説明したと思うんですけど、息を吐くときって、体の中でどんなことが起こっているのかは知っていますか?

えっと、はい。吐くときだから、吸うと逆だから…ろっ骨を締める感じとか…

吸うときは広がっていましたものね。吸うときは「外肋間筋」という筋肉などがろっ骨を広げる動きをしてくれていたと思いますが、今度は同じようにろっ骨についている「内肋間筋」という筋肉が胸郭を狭める動きを手伝ってくれるんですよ。

あと、何か使えそうなものはありそうですかね?

腹筋を使う、とかですか?

そうですね!
他は何かありますか? 例えばハラミのあたりとか・・

ああ、横隔膜が上に上がっていく、でしたね!

でしたね!腹筋が腸とか内臓をギュッと中心にまとめてくれると、横隔膜が上に上がるしかなくなって、息を上に押し出してくれそうですよね。

では、アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、息を吐くときには、ろっ骨についている筋肉や、腹筋がはたらいてくれて、横隔膜は上に上がって、肺に入っていた空気が上に押し出されていくことを思い出しつつ、息を出し続けていれば音はなってくれると思って、楽器を吹いてみるとどうでしょうか?

♪~~(ホルンの力強い音)

うん。音は手元で止まらなくなって、先まで響いていていい感じです。

でも、たぶん久しぶりに吹いたからだと思うんですけど、って全部に言えちゃうと思うんですけど、吹いているとお腹がブルブルしてきてしまいます。。。

聴いていてもすごく力強くていい音でしたよ!

確かに久しぶりに使われた腹筋たちが、「もう疲れたよ~~」と言っているのかもしれないですね。でも、逆に言えば、腹筋たちがはたらいてくれる証拠でもありますよね。

そうしたら、ちょっと1回立ってみましょうか。

あ、はい・・・

生徒さんを見ていて、「腹筋を使おう」という意志を強く感じるとともに、音も最初に比べてとても力強くなっていたのですが、全身を押し縮める方向に力いっぱい頑張っているように見えたので、いったん身体全体の話をしてみることにしました。


息が上に向かって流れていきやすくするには?

では、 アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、 視線が先に動き出すように、上を見て…、下を見て…、右を見て…、左を見て…、前を見て… とやってみましょう。

(上を見て…、下を見て…、右を見て…、左を見て…、前を見て… )

自分の周りを見回してみることで、自分がどんな空間にいるのかな、というのをちょっと感じてもらえたらと思ってやってみました。

そうしたら、足の先が真ん中より30°くらい右側を向くように立ってみてください。

(つま先を30°くらい動かして)えっと、こんな感じですか?

あ、そうそう、そんな感じです!
そうしたら、 アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、 足首、ひざ、股関節を曲げていって、お尻がいすについたら、股関節を回すようにして体を起こして、座ってみてください。

(アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、 足首、ひざ、股関節を曲げていって、お尻がいすについたら、股関節を回すようにして体を起こして、座る… )

ではその状態から、楽器を持って、構えて、音を出してみましょう。

♪~~(ホルンのよく響く音)

おおお!すごく楽に息が出ていきます。腹筋のブルブルも、さっきよりは減った気がします

もう一度、自分でもやってみていいですか?

どうぞどうぞ!

(アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、 自分の周りの空間を感じて…、足先を30°右に向けて…、足首、ひざ、股関節を曲げていって、お尻がいすについたら、股関節を回すようにして体を起こして、座って…、楽器を構えて、音を出す… )

♪~~(ホルンのよく響く音)

え、何でですか??

ホルンって、構え方がちょっと非対称じゃないですか。だから、そのまま楽器を構えると、胸のあたりで体をひねってマウスピースを口にもってくることになるので、そのひねりを下半身でやってみたらどうなるかな、という実験でした。感触はどうですか?

確かに、お腹の周りが自由になって、より腹筋が自由に使えるようになった気がします。なるほど、そういう影響もあるんですね、、

ただ、今度は息が入りすぎてしまって、アンブシュアがぶれてしまう感じが出てきました。

「息が入りすぎてしまう」、いいですね! 最初の目標達成ですね!

アンブシュアがぶれてしまうということについては、また別の実験をしてみましょうか。

できることが増えていくと、次々に望みが湧いてくる。そんな場面に立ち会えると、とてもうれしいものだなと改めて思います。普段学校の授業をしているときも、あまり一気にいろいろやってしまうと自分で消化しづらくなる面もあるなと思うのですが、ついつい目の前の望みに応えたいと思うのも教師の性なのかもしれません。ということで、今回はあともう一つだけ実験をしてみることにしました。

アンブシュアの”ブレ”を減らすには?

そうしたら、いったん楽器を両手で持って、頭の上まで10回持ち上げたり、下ろしたりを繰り返してみてください。

せーの、いち、に、さん、し…

…ご、ろく・・、しち・・・、はち・・・・、きゅう・・・・・、じゅう!!!!

疲れました、、、

お疲れ様です。すみません、筋トレみたいになってしまって。ホルン、重いですものね、、

では、アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、「マウスピースが口にやってくる」と思って、自分は今のところに居続けながら、マウスピースをお迎えしてみてください。

(アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、マウスピースが口にやってくる…)

うわっ、何かマウスピースが近い!!

そのまま吹いてみちゃいましょう!

ポーーーン♪(ホルンの素敵な音)

あっ、これいいですね~~! もうちょっといろいろ吹いてみてもいいですか??

どうぞどうぞ。好きなだけどうぞ。

その後、いろいろな音を試しながら、感触を確かめられていました。

自分がこのように提案したのは、生徒さんがマウスピースの方に体をかがめて吹いているのが、少し苦しそうに見えたからです。どうしてもホルンは楽器も重いですし、支えるにはそれなりに筋力も必要です。それを、頭の上まで持ち上げてみることで、普段楽器を構えるとき以上の力を使ってみて、身体を使う準備体操を取り入れ、楽器を自分の方まで引き寄せやすくできたら、マウスピースと唇の密着度も上がって、アンブシュアが安定するのではないか、という提案でした。


今日はいろいろやってみたと思うんですけど、どうでしたか?

最初に比べたら本当によくなりました!

ただ解放のFは割と良くなったんですけど、それより高音はアンブシュアが安定しなかったり、音がつぶれるのはまだちょっと気になります。でもブランクもあるので、またこれで少し練習してみます。


今回の実習レッスンを通じて、生徒さんの中に「出したい音」「なりたい自分」があるからこそ、次々に課題が見えてきたり、またその課題をクリアしたいという欲求が高まってくるのだなと思いました。そんな時に、「自分自身は今どんな状態になっているのだろう」と観察してみて、「自分本来が持ち合わせている力を発揮するために使えるものはないかな?」と考えて、いろいろなプランで実験してみると、見逃していた自分の力に気づくことができることもあるのだな、と改めて教えられた気がします。今回も、自分自身が学ぶことの多い時間となりました。

まだまだ始まったばかりなので、1回1回の時間を大切に、継続していきたいと思います。

《生徒さんの感想》

最初にこちらから何を課題にしたいか話す際、かなりふわっとした判然としない内容だったにも関わらず、今日のレッスンの糸口をつかんで頂けて助かりました。
前回のレッスン内容と繋がった内容だったので、復習がてら1つずつ意識することを積み上げていけました。整理すればそれがそのまま自分の楽器を吹く前のルーティンにできると思いました。

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