すわって吹くときの脚の使い方を考える

先日のブログ記事にも書きましたが、私はどうしても上半身で楽器を吹こうとする傾向が強く、これまで脚の存在をないがしろにしてきました。

”脚を使って吹く”ってどういうこと?

アレクサンダー・テクニークを学ぶようになり、からだ全体がつながっていて、それぞれの部分が連携して動いているという意識を持つようになってからも、なかなか脚は置いてけぼりになっていることも多かったように思います。

今、改めてセルフクエストラボで学ぶ中で、あまりにも脚に無頓着な自分が面白くなってきて、いろいろ探究を始めました。

前回のブログは主に立奏の時の話を書きましたが、今回は座奏のときにどう脚を使っていくかを考えてみたいと思います。

 

そもそもどうやって座ればいいのだろう?

アレクサンダー・テクニークには「チェア・ワーク」というものが存在するくらい、椅子に座る、立ち上がるという動作に注目することが多いです。それだけ普段の生活の中で基本的な動作だからこそ、丁寧に自分を使うことが大事なのかもしれません。

多くの人は座るときに、座面にお尻をつけてから背筋を伸ばそうとするそうです(図1)。これは、重力に負けないために起こる自然な動作だと考えられています。私も例外なく、そのような動作をしていました。

図1.意識しないで座ると起こりやすいこと

しかし、必要以上に背中が反ってしまうことで、腰を痛めたり、楽器を演奏するときには呼吸がうまくとれなかったりという弊害が生じてしまうこともあります。

そこで、後から背中を反らせることでバランスをとるのではなく、座り始めるところからバランスを考えて座る方法を考えてみます(図2)。

  1. 頭が動けて、からだ全体がついてきて、
  2. 「お尻はうしろ、ひざは前」と意識しながら、股関節・ひざ・足首を曲げて(屈曲して)いく
  3. お尻が椅子の座面についたら、大腿骨を回して(股関節を伸展して)、ちょうどよいところまで身体を起こす

図2.座り始めからバランスを考えて座る

このようにしてみると、背中を反らせずとも重力とのバランスがとれた座り方ができます。

実際、このように座るようになってから、長年悩まされてきた腰痛や股関節痛がだいぶ緩和しました。また、自分自身では「背筋をピンと」どころか、初めは若干猫背になっているのではないかくらいの感覚だったのですが、見た目にも「姿勢がいいですね」と他人から言われることが増えました。

 

座っている間もバランスは動き続けている

しかし、せっかくバランス良く座れたところで、その姿勢を保とうとしたら、またからだ中でいろいろな力がはたらきはじめるものです。

試しに実験。

静かな状態で椅子に腰かけ、目を閉じて、じっくり自分の身体の様子を観察してみます。

呼吸をすると、どんな動きがあるだろう?
頭の重みに対して、身体はどうやって支えようとしているだろう?
動きを止めて、同じ体勢をとろうとすると、どんなところに力が入るだろう?

こんな風に自分自身をよくよく観察してみると、自分では止まっているつもりでも、いろいろな動きを感じることができるのではないでしょうか。

このように、人間は自分で意図しなくても、バランスをとるために常に繊細に動き続けています。この繊細な動きに逆らって、無理に「いい姿勢」を保とうとすると、いろいろなところに無駄な力が入っていき、体全体が「固まる」状態になりかねません。

逆に、その自然に起こる繊細な動きのことを許容して、意識的にバランスをとろうとしてみると、より効率よく身体を使うことができるようにも思います。

 

では座っているとき、どのようにバランスをとっていけばよいのでしょうか。

アレクサンダー・テクニークの授業では、よく「坐骨で座る」という表現が用いられます。坐骨とは、お尻にあるちょっと出っ張った骨で、硬い椅子に長時間座っていると痛くなりやすいところです(図3)。

分かりづらい場合は、手の上に座ってみます。ちょうど坐骨に体重がかかると、ゴリゴリいって分かりやすいと思います。

図3.坐骨

坐骨は、上半身を支える台座となっている骨です。頭が脊椎の上にのって、坐骨にうまく体重を乗せることができれば、骨格で体重を支えることができ、体重を支えるための筋力は最小限に抑え、負担を減らすことができます

 

立っている時は、地面との接着点は足の裏であるわけですが、座っている時は足に加えて坐骨も地面との接着点です。坐骨は”第二の足”と考えてもよいのかもしれません。

ですから、立っている時に、足首・ひざ・股関節が柔軟に連携してバランスをとり、足の裏から地面に体重を伝えていたのに対し、座っている時は、より股関節が柔軟に動けるようにして、坐骨からも地面に体重を伝えているという意識をもてるとよいのかなと思います。

 

座って楽器を吹くときに考えたいこと

では、座るだけでなく、座って楽器を吹くときにはどのようなことを考えてみるとよいのでしょうか。

以前、アレクサンダー・テクニーク教師のトミー・トンプソンさんの個人レッスンを受けた時に、次のようなエクササイズを教えて頂きました。

①両足の足の裏全体で立つことを意識する
②足の裏で円を描くように体重移動をする
③その円をだんだんと小さくしていく
④頭は上にいき、足の底は地面の方へ向かっていくという関係性を意識する
⑤楽器を吹いてみる

このときは立奏で見て頂いたのですが、これを応用して、「足」を「坐骨」に置き換えてやってみたところ、割といい感じで息が流れ、伸び伸びとした音で吹くことができました。

 

ただ、坐骨ばかり意識すると、これまた脚がないがしろにされてしまうこともあるような気がします。

また少し理科っぽくなってしまうのですが、地球上にある物体にはすべて「重力」がはたらいていると同時に、それとつりあう力として「垂直抗力」という力がはたらいています。

この「垂直抗力」は、「面が物体を押す力」のことで、物体が面に触れていれば必ずはたらいています。(と、偉そうに言っていますが、理科の教員のくせに物理はあまり得意ではありません…)

図4.重力と垂直抗力

ということは、座っているとき、坐骨は椅子の座面と接していますから、「座面が坐骨(身体)を押す力」がはたらくと同時に、足が床についていたら「床が足(身体)を押す力」もはたらくと言えます。

それであれば、体重のすべてを坐骨にあずけてしまうのではなく、足(脚)も使ってあげた方が、それぞれの部位にかかる体重は減るわけですから、より自由に身体を動かし、繊細にバランスをとっていけるはずです。

ということで、今、座って吹くときは下の図5のようなことを意識をして吹くようにしています。坐骨はもちろんのこと、足へも地面からのフィードバックが感じられると、立奏でうまくいっている時と同じように演奏できるように感じます。

図5.座奏で意識していること

 

ただ、やはりこれまでの習慣は「重心を下に」「力を内に込めて」を意識して、足腰で踏ん張って吹くというものでしたから、気づくとその状態に戻っていることもあります。新しい習慣を使うことを意識的に選択して、少しずつ座奏への苦手意識を減らしていけたらと思っています(図6)。

図6.以前の習慣と新しい習慣

ということで、以前の習慣と、新しい習慣で、出てくる音に客観的にどのような差が生じるのか、現時点での記録をいったん残しておきたいと思います。

椅子の種類によっても、座り方は変わってくる

あと最近興味を持っているのは、椅子の形状と座り方の関係です。

ピアノ椅子やコントラバス、ティンパニ用の椅子が高さを調節できるのですから当然といえば当然なのですが、大学生の頃、練習場所やホールによって椅子が違うことで、何だか調子が悪いなと思うことがありました。

個人的に吹きやすいなと思っていたのは、図7に示したようなピアノ椅子、学校の椅子に加え、板張りの長椅子など、座面が平らでやや硬めの椅子でした。

図7.座面が平らな椅子

改めてこれらの椅子に座って吹いてみると、坐骨で座っている感覚がつかみやすく、足とのバランスもとりやすいように感じました。若干浅目に座ると座りやすいのも特徴だと思います。また、座面が平らな分、股関節の屈曲がしやすく、股関節に負担がかからないため、より上半身を自由に使えるように思いました。

 

一方で苦手に感じているのは、人間工学に則って作られた、座面にカーブがある椅子です(図8)。

図8.座面にカーブのある椅子

これらの椅子は、深く座って長時間リラックスして座るには優れていると思いますが、坐骨で座ろうとすると、股関節が少し内側に食い込んでしまう感じがして、座りにくいと感じました。

ちょうど部活の時に使う教室の椅子がこうした椅子だったので、生徒と一緒に合奏に乗ったとき、何だか脚まわりに違和感がたっぷりで、脚のやり場に困ることがありました。

 

そこで、セルフクエストラボの授業のときに、このような椅子に対してどのように座ればいいか、先生に相談をしてみました。

座面にカーブのある椅子は、中央が低く、外側に向かって高くなるようなカーブがつくられています。したがって、座ったときには、ちょうど股関節が座面に下から持ち上げられたような状態になります。

そこで、「股関節を屈曲(前に曲げる)させるだけでなく、外旋(がに股方向にひねる)も加えてみる」というアイディアを頂き、実験してみることにしました。

図9.股関節の外旋と屈曲

すると、座面によって持ち上げられていた股関節を外旋することで、脚(太ももより先)の高さが低くなり、狭苦しく感じていた股関節が解放されました。そこに合わせて足の先の位置なども調整して、一番足と坐骨にバランスよく体重がかかっている状態をつくってみると、座面が平らなときと同じような感覚で吹くことができました。

これをヒントにしながら、自分でも身の回りにある椅子に手あたり次第座ってみて、どう座ったら心地よいか、いろいろ実験をしてみました。その中で改めて、頭と脊椎の関係がうまくいっていて、その上での脚の置き場だなぁと思ったり、でも工夫次第である程度環境を自分の味方につけていくことはできるのだなぁと思ったりしました。

どうしても、吹奏楽やオーケストラなど、座奏で演奏する機会の方が多いので、これからも探究を続けていきたいと思います。

 

★参考文献

※記事中の図は、我が家にある骨格標本を写真に撮って加工したものなので、実際の骨格とは若干異なっていることがあります。ご了承ください。

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すわって吹くときの脚の使い方を考える” への1件のコメント

  1. ピンバック: 「重心を下に」という言葉を考える  | とあるラッパ吹きのつぶやき

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