この春、初めて吹奏楽部の顧問になられた先生へ

先日、この春初めて吹奏楽部の顧問になったという先生からご相談を受けることがありました。私もまだまだ勉強することだらけではありますが、1◯年前の記憶と、これまでの経験で感じたことをお伝えしました。

それを簡単にまとめたのが、次のツイートです。

このツイートに対して、意外と反応も多かったので、今日は「この春、初めて吹奏楽部の顧問になられた先生へ」という形でつぶやいていきたいと思います。

 

「教える」「指導する」と考えないで大丈夫!

“教員”という職業の名前からして、「教えなければいけない」という義務感や使命感を感じる方は非常に多いように思います。

もちろん、音楽(特に管打楽器)を専攻されていて、音楽や吹奏楽、楽器についても専門的に勉強されてきた方は「教える」「指導する」ということが知識的にも技術的にも十分できると思います。しかし、他教科が専門だったり、加えて楽器や吹奏楽の経験がない方がいきなり顧問になった場合、初めから「教える」「指導する」ことは無理な話ですし、当然のことだともいえます。

前任の先生がベテランだったりしたら、生徒や保護者からのプレッシャーはさらに大きくなることでしょう。でも、だからと言ってやったことがないこと、できないことを知ったかぶりで教えるのでは、余計に信頼を得られません。

このような場合、「教員だから教えなくては」と焦らないことが大切です。あくまで部活動の目的は「子どもたちの成長」「子どもたちが楽しめること」だです。一緒に体験してみたり、学んでみたり、一歩一歩共に歩んでいけばいいのだと思います。

私も吹奏楽やオーケストラの経験はありましたが、自分がバンド指導をすることになるなんて微塵も思っていませんでした。新人の頃は、とりあえず行けるとき(実際は会議や補習で週1、2回行ければいい方でした)は部活に顔を出して生徒に話しかけたり、楽器運搬やセッティングを手伝ったり、顧問というよりは新入部員の気持ちでいました。

そのうち部員の方から「先生はトランペット吹いてるんですよね?一緒に合奏乗ってください!」と声をかけてくれて、パート練習や合奏で一緒に吹くようになりました。そこからいろいろ会話が生まれたり、一緒にできるようになるまで練習したりする中で、生徒との距離も縮まっていきました。生徒もよく「先生」ではなく「先輩」と呼び間違えるくらいでしたので、「顧問(指導する人)」というよりは「一緒に練習してくれる楽器の先輩」くらいに思っていたのではないでしょうか。

まずは自分のできることを少しでいいからやってみることなのかなと思います。楽器が吹けなくても、1日5分だけでも顔を見せてみる、たまに合奏を聴きにいって拍手をおくる、一人ひとりの生徒に声をかけてみる、それだけでも「自分たちのことを見てくれている」先生がいることは子どもたちにとっては嬉しいことであるはずです。

教えられなくても、指導できなくても、少ししか顔を出せなくても、ゆっくり生徒一人ひとりとの関係をつくっていくことがまず初めにやることなのかなと思います。

 

人の力は積極的に借りる!

楽器の技術や音楽そのものについては、専門家の力をできるだけ借りれたらと思います。自分が顧問をしている部活は主顧問が音楽の先生ですが、やはり音楽を専門で学ばれてきた方は、体の底から音楽が湧き出てくる感じがしますし、ちょっとやそっとのことで真似はできないなと思います。やはり専門家の力を借りてくことは、生徒の成長にとっては欠かせないことです。外部講師の方に助けていただくことも積極的に考えるべきです。

しかし外部講師を依頼しようと思っても、経済的に厳しいことも少なくありません。学校でのレッスンについてはご厚意で安くみて下さる方もいらっしゃいますが、専門的に見ていただくわけですから謝礼はケチるわけにはいきません。通常、個人レッスンで楽器を習おうとしたら安く設定している方でも1時間5,000円が相場です。半日みていただくのであれば、本来ならば10,000円はお支払いしたいところです(実際できていないので心苦しいばかりです…)。自治体によっては登録されている指導員を紹介してくれ、指導費も自治体持ちになるところもあるようですが、そうもいかない学校も多いことでしょう。

そのためにも、年度当初に年間計画と同時に、具体的な予算案を保護者にお伝えし、部費やレッスン代を集めることをご理解頂けるように話す場を作れるとよいかと思います。もちろん、年度末には決算報告も必要です。でも決して自腹は切らないでください。1回自腹を切り始めるとそれが当たり前になり、自分自身も、生徒や保護者からも止められなくなります(経験者は語る…)。

自分自身が指導できない場合は特に、外部講師の方の力をお借りしたり、ベテランの先生がいる他校と合同練習をさせてもらったりというように、ノウハウやスキルを持っている方の力をどんどんお借りすることも必要なことだと思います。生徒たちが基本的な奏法や練習の進め方などを身につけることができたら、教員が音楽的な指導をせずとも、普段は生徒主体で部活運営をしていくことも可能なはずです。

私がトランペットを教えていただいている荻原明先生、トロンボーン奏者の福見吉朗さんが、私のツイートを引用して次のようなツイートをされていました。

素直に「自分にはできないけれど、よく知っている人を呼んでくるから」とか、「少し自分も勉強してみるね」と伝え、背伸びすることなく関わっていけたら、負担も軽減するでしょうし、生徒たちとも良好な関係を築いていけるような気がします。

 

先生が無理しないことが一番!

確かに先生が頑張って勉強して、音楽のことをよく理解するように努めて、生徒とも密にコミニュケーションをとり、毎日の練習にずっと張り付くことができたら、部活のレベルアップは間違いないでしょう。

私自身、「顧問になって3年以内でコンクールで結果を出せなかったらダメだね」と他校の指導者の方に言われたことがありますが、個人的にはそんなことはどうでもいいと思っています。

もちろん、目標を高く持つことは大切ですし、もし指揮を振ることにでもなれば、指揮者の心構えや音楽に向かう姿勢は、そのまま生徒たちに伝染していきますから責任重大です。

しかしだからこそ、先生があまり乗り気でないのに無理をしていたり、本来の業務であるクラス経営や教科指導で疲弊しているところ準備もままならないまま無理をしていたりすると、生徒たちにはそれが伝わってしまうものです。

確かにコンクールで結果を残したら、演奏会に多くの人が足を運んでくれますし、日々、生徒たちが努力してつくってきた音楽を、たくさんの方に聴いて頂けくことができます。生徒たちがせっかく努力してきたのだから、達成感や喜びを体験させたいと思うことは、きっと教員として当然なのだと思われることでしょう。

教員自身が、生徒と一緒に部活をやっていくことを楽しめるのであれば、それに越したことはありません。教員が誰よりもみんなで音楽ができる喜びを感じていたら、生徒たちにもそれは伝わるはずです。

でも、部活が重荷に感じるのであったら、無理して頑張らなくてもいいと思います。生徒も「部活が重荷」と思っている先生の指導なんて受けたくないと思います。それならば、思いっきり割り切って、「顧問は事務処理のみ、指導は外部講師」という選択もあるのだと思います。
吹奏楽部の顧問の仕事とは、「子どもたちが本気で楽しんで音楽と向き合える」環境を整えることだと思います。音楽的・技術的な指導をすることは必ずしも顧問の仕事でなくてもいいのです。練習場所を確保したり、予算を立てたり、年間計画を立てて必要な書類を揃えたりといったことをしっかりやるだけでも、それは環境を整えることにつながります。

もちろん、やっていく中で吹奏楽が楽しくて、もっとやりたいと顧問自ら思うのであれば、自分自身のスキルを上げるために本やDVDで勉強したり、講習会や研修に出かけてみたり、他校の先生から話を聞いてみたりと、どんどん勉強して、指導力も高めていけたらいいと思います。

 

おわりに

私も今年で吹奏楽部の顧問になって16年目ですが、他に主顧問と副顧問が一人ずつ、計3人の顧問がいますし、どんな立ち位置で関わればいいのか迷い、悩み続けています。とりあえず今は指揮を振ることもありますが、「生徒の声を聴く」+「雑用係」という役割を自分の中では決めつつ、少しでも役に立てばとラッパのレッスンに通ったり、アレクサンダー・テクニークの勉強をしたりしてみています。

もっと顧問がちゃんとしていたら、伸ばせた力も、楽しめたこともあるのではないかと思うこともたくさんありますし、申し訳ないことをしてしまったなと思うことも多々あります。そのたびに、自分が顧問をやっていていいのか、辞めたほうがいいのではないかと思ったりしますし、好きなはずの音楽を耳にするのも辛く感じてしまう時期もありました。

でも、顧問がそんな風に感じて無理を押してやり続けていたら、部活にとってはマイナスです。自分だけで頑張りすぎず、いろいろな人の助けを借りながら、生徒が部活に来たときに安心して音楽にのめり込める環境をじっくりつくっていけばいいのだと思います。

本気で目の前の生徒と向き合っていなかったら、どんなに美辞麗句を並べても見透かされるものです。確かにどんなに頑張っても伝わらないかもしれまえん。でも、一人ひとりの成長を心から願って、自分にできる精一杯を積み重ねていったら、伝わるものもあるはずです。そう信じて、言葉よりも姿勢や行動で示していけるように少しずつ、一歩一歩頑張っていきたいものです。

初めて顧問になった先生が、部活に潰されてしまうことなく、生徒たち一人ひとりの普段とは違う表情を引き出し、生徒たちの可能性を信じながら一緒にやっていけるように、相談したり、発散したりできる場もつくれるといいのかなと思います。

まずは健康第一。くれぐれも倒れるまで頑張らないでください。

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