「できない」ことを楽しんで上手くなる!

先日、サックス奏者でアレクサンダーテクニークを学ばれている泉山民衣さんが、ご自身のブログに次のような記事を書かれていました。
「できない」「難しい」「めんどくさい」の共通点

先週ちょうど部活で生徒に同じような話をしたところだったのですが、「できないって思ったら絶対できないから!」といった、どこか根性論的な話で終わってしまい、何だかモヤモヤしていました。何か他に言い方はなかったどうかと・・・。

そこにちょうどこの記事がTLに流れてきて、なんていいタイミングなんだろう!と思うと同時に、自分でもいろいろ思うところがあったので、指導する立場に立った時、生徒たちが「できない」という言葉を発したらどのように受け止めていけばいいのかを考えていきたいと思います。

 

「できない」「無理」という言葉の裏に隠されたものとは?

「できない」

「難しい」

「めんどくさい」

「無理」

「分からない」

これらの言葉は、授業をしていても、進路指導をしていても、部活で指導をしていても、1日1回は生徒の口から出てくる言葉です。私も決して言わないわけではありませんが、生徒がそんな風に言っているのを聞くと、「おいおい、もっと頑張れよ」と思ってしまうのが教員の性というやつです。

実際、生徒が「できない」「無理」と言ってきたときに、「いやいや、頑張ろうよ」と返してしまうことは多いように思います。でも、この「できない」「無理」という言葉の裏に隠されたものをきちんと読み取っていかなければ、生徒にとっては「頑張れって言われてもねぇ・・・」ということになりかねません。

せっかく何らかの思いを持って訴えてきた言葉を、どのように受け止めればいいのでしょうか。必ずしも当てはまるとは限りませんが、自分なりに言葉の裏に隠されている気持ちと、それにどう答えていけばいいのかを考えてみました。

 

①頑張っているが、上手くいかなくてめげそう

自分としては頑張って練習(勉強)しているけれど、結果が思うようについてこなかったりすると、弱音を吐きたくなったり、投げ出したくなることもあると思います。このような生徒に「まだ頑張りが足りないんだ!」と喝を入れてしまうと、さらに気持ちを追い込み、追いつめてしまうことにつながることもあります。

まずは、頑張っていることを認めてあげること。そして、思いの丈を聴いてあげること。それだけでも気持ちは軽くなるものだと思います。その上で、その生徒が抱えている課題を一緒に考え、次にどんな一歩を進んでいけばよいのか、具体的な提案ができるとよいように思います。

また、やろうとしている方向性ややり方に特に問題がなければ、「そのままもう少し続けてみよう。もしそれでも上手くいかなかったらまた別の方法を考えてみよう」といった声掛けができるといいかもしれません。

 

②やり方が分からなくて、困っている

この場合の「できない」「無理」という言葉は、①と同様、誰かにSOSを発しているようなものだと思います。

やろうとしているものの、どうやっていいかわからない。決してやりたくないわけでもないし、逃げているわけでもない。でも、どうやっていいのか分からない。そのような気持ちがあふれてくると、やはり誰かに助けを求めたくなるものだと思います。

こういう時には、まず「今どのようにしてやろうとしているか」を聴いてみることだと思います。もし自分の中にアイディアがあるようだったら、それを活かしたアドバイスをすればいいですし、もし全く思いつかないようだったら、少しずつヒントを出しながら相手が自分で方法を見つけていけるように促していけるといいような気がします。

こちらでいいと思う方法を1から教えてしまうという方法もありますが、そうするとどうしても押しつけがましくなってしまったり、万が一上手くいかなかったときに、「言われたとおりにやったのに・・・」という遺恨を残してしまうこともあります。「自分自身で選択した」と思えるように、選択の余地を残しながら、いくつかの提案ができるといいのかもしれません。

 

③自分にとって目標が高すぎて、尻込みしてしまっている

目の前にやらなければいけないことがたくさんあったり、今の自分の実力とはかけ離れた目標が課されたりすると、到底自分にできるとは思えないこともあるかと思います。

私が顧問をしている部活は中学生と高校生が一緒に活動していますので、高校生が取り組むのにちょっと骨がありそうな曲は、中学生にとっては「難曲」に見えることも少なくありません。しかも、高校生が吹いてくれるという安心感もあってか、「吹けません!」「できません!」「無理です!」と言って諦めてしまう生徒も中にはいます。

確かに、高い山に初めから登ることは無理なことかもしれません。でも、エベレストに登頂するような登山家であっても、初めは低い山から挑戦して、それとは別に基礎トレーニングをしたり、岩登りの練習をしたり、登山ガイドを雇って計画を立ててエベレスト登頂に結び付けたはずです。

高い山を見せることも、目指そうとすることも大切ですが、そのために必要な準備は何か、まず何をやればいいのか、小さな目標を課して、それをクリアしたら次の目標というように、だんだんと高い目標に近づいていけるようにガイドしていくのも指導者の役割だと思います。

子どもたちには無限の可能性があります。みんながみんな同じ分野で同じように力を伸ばしていくことは難しいと思いますが、課題設定をどうするか、それをどう乗り越えていけばいいのかを丁寧に伝えていくことで、今よりも力をつけること、少しでも目標に近づいていくことは十分可能なことです。

「自分にもできる」という課題設定と、ちょっと背中を押してあげることも必要なことなのだと思います。

 

④危険を回避しようとしている

「できない」「無理」と宣言しておくことで、いざやってみてできなかった時に、「ほら、できないって言ったじゃん!」と責任を回避したり、怒られたり指摘されたりするような危険を回避しようとすることもあるかもしれません。

危険回避は、動物の本能。仕方のないことかもしれません。確かに命にかかわるようなことだったら、危険をどう回避するのかは真剣に考えたいものですが、日々授業や部活をやっていく中では、命にかかわるような大きな危険はそうそうないものだと思います。

だからといって、「逃げるんじゃない!」と叱ってしまっては逆効果。子どもたちにとってはその「叱られる」ということは「危険」なことなのですから。

逃げずに立ち向かった結果、できなかったり、上手くいかなかったり、間違えてしまったりしても、自分に大きな危害が加わることはないという安心感を与えることで、安心して難しいことにも挑戦していける環境が生まれるようにも思います。

中には「そんな安心感を与えてしまったら、甘えてやらなくなるに違いない!」と思う方もいらっしゃるでしょう。確かに「叱られないから、何でもあり」のような雰囲気をつくってしまうと、楽な方へ流れていってしまい、結果として子どもたちの本来の力を伸ばすことができずに終わってしまうこともあるかもしれません。でも、「叱られるから、やる」というモチベーションは、長くは続きません。

私も、本来できるはずなのに、サボってやらない生徒を叱ることはあります。でも、その後で、サボらずにやったらできるようになることを分かってもらえるように、しつこく付き合うようにしようと心がけています。「できる」という自信は大きなモチベーションになります。「できる」と思ってもらえるように、具体的なやり方を伝え、やるところを見届け、できたら褒める。このサイクルを大事にしていけたらなと思います。

 

⑤誰かにかまって欲しい

これも結構ある話です。「できない」「無理」と叫んでみることで、「大丈夫、君ならできるよ!」と励ましてほしかったり、心配してほしかったり、不安な気持ちを支えてもらうべく、本能的に口にしてしまうこともあるのかと思います。

そういう人はかまってあげることも大事ですし、一人でできるという自信を持ってもらえるように仕向けてみることも必要だと思います。まずは言いたいことを全部吐き出してもらって、その上で「何がやりたいのか」「どんな風になりたいのか」「そのためにはどうしたらいいと思っているのか」ということを一つひとつ審問しながら話をしていくことで、ちょっとずつ前に進もうとしてくれることもあるのかなと思います。

 

⑥そう言うことが、カッコいい

中高生にありがちな感じでしょうか。反抗期だったりすると、大人が言うことや大人が決めたことに対して、「無理」「できない」と言ってみることがカッコよく感じたり、真面目にふるまうことがカッコ悪く感じたりすることもあると思います。

そう言ってくる子には、私は「え、なんで無理なの?」「え、できないの?」「ふ~ん、やらないんだ~」「別に自分が選んだことなら私には関係ないけどね~」と感情を揺さぶるようにすることが多いかもしれません。真面目に語りかけることももちろんありますが、反抗しても低反発クッションのようにエネルギーを吸われてしまうと感じると、「この大人は何言っても無理だ」と諦めてやり始めることも多いので、自然とそんな対応をするようになりました。

あとは、みんなの前だと反抗する子でも、個々に話すと全然違う雰囲気だったりすることもあるので、一人ひとりの性格や環境に応じて対応するようにしています。

 

以上はあくまで私見ですので、この他にもいろいろな考えや見方があると思いますし、対応方法も人それぞれだと思います。自分自身も、普段から一人ひとりとコミュニケーションをできるだけとるようにして、「この生徒が発している言葉はどんな意味で言っているのだろう」ということをじっくり考えられるように、これからも頑張っていきたいなと思います。

 

「挑戦してみることはカッコいい!」と思う指導をしたい

 今、自分が指導する上で一番悩んでいるのは、「自信がない生徒に、どう楽しく取り組んでもらえるようにするか」というところです。

もちろん人によって感じ方は違うと思いますし、自分が生徒の気持ちを動かしてやろうなんて奥がましくて言えません。でも、本当は授業も分かろうと必死でついてこようとしていたり、部活でも頑張って上手くなりたいと思っていたりするのに、「自分になんかどうせできないや」と思って投げてしまう生徒を見ると、もう少し挑戦してみたら、自分なりにできることももっとあるのになと歯がゆく感じるし、そのために自分にできることはないかなと思うわけです。

何でもむやみやたらに時間をかけて、「そのフレーズ100回さらって来い!」みたいな指導はあまり意味がないと思いますが、やはり何かを自信を持ってできるようになるためには、地道に真面目に練習することも必要です。すくできないからといって投げ出してしまったら、ずっとできるようにはなりません。でもただ同じことを繰り返すのも遠回りだし、飽きてしまいます。どうやったらできるのか考えて、工夫して、試してみる。その実験の積み重ねが、大きな発見に繋がるのだと思います。だからこそ、「実験すること、挑戦することはカッコいいんだ!」と思って、生徒たちが各々自分がやってみようと思うことを実行していって欲しいと思うのです。

できないことがあるからこそ、挑戦したいという気持ちも生まれるし、向上心が育つもの。できないことがあるのは、まだまだ自分が成長できる証だし、どうせならできないことがあることを楽しんで、それを克服するためにどんなことができるのか、まるでRPGゲームを攻略していくような気持ちで取り組めたら楽しいよなと思います。

それだけに、安心して実験できる環境をどうやって提供できるか、やってみたら面白いと思えるようなものをどう提案できるか。そういったことを自分自身も実験しながら考えている毎日です。

ともすると、何でもかんでもすぐに結果が求められる時代。幼い頃から受験勉強に追われて、間違うことや指摘されることを過度に恐れている生徒にとっては、いくら「間違えてもいいから、やってみよう」と言ったところで、そう簡単に気持ちがほぐれるわけもありません。

一つのヒントは、「できないことをできるようにするには…」と考えるのではなくて、「〇〇をしたいから、そのためには…」と同じことでも肯定形に置き換えて考える習慣を、指導者も生徒もつけていくことなのかなと思います。「できない」という意識は、自分に劣等感を持たせ、負の感情を湧き起こす呪文になりかねません。

できなくても焦らない。今日やった練習は必ず糧になるはず。明日やったらできるようになっているかもしれないし、何ヵ月、何年、何十年かけてようやくできることもあるかもしれません。でも、「〇〇をしたい」「〇〇になりたい」という気持ちを持って探究し続けていれば、絶対に過去の自分より成長した自分に出会える。そういったことを繰り返し伝えながら、ゆっくり自分のペースで歩いていけるように、子どもたちと付き合っていけたらなと思います。

 

まとめ

昨年ノーベル医学生理学賞を受賞した大隅教授が「若い世代は結果をすごく早く求められる状況が強くなっている。好きなことがやれる科学の世界になって欲しいというのが私の思いです」とおっしゃっていました。「科学」を「音楽」に置き換えてみると、吹奏楽部の状況も同じかもしれません。

「若い人には世の中にまだ分かっていないことがたくさんあることを知ってもらいたい」と大隅教授。分からないこと、できないことがあるのは悪いことではなくて、それだけ発見したり発展していく可能性が残されているということ。目の前の結果だけにとらわれず、長い目で見て育んでいくことも大切です。

最近はマニュアル的なものをすぐに欲しがる傾向も強くなってきている気がします。確かに安心だし、公平だし、必要なものかもしれませんが、実際は「臨機応変」とか「柔軟な対応」というものが求められていたりもします。そういった力を身に付けるには、どうしても自分で経験を積み重ねていくことが必要だと思います。

誰かが言っていることはあくまで「提案」であって、絶対的、普遍的なものではありません。マニュアルはあっても、それが絶対的な権力を持っているわけではありません。自分のものにするには、自分で考えて、自分でやるしかない。マニュアル通りより、それは大変かもしれませんが、紛れもない事実です。

そんな試行錯誤の実験だらけの人生だからこそ、何が起こるか分からなくて楽しい。それくらいに思って、いろんなことに挑戦して、たくさんの人に出会って様々な価値観に触れて、自分を成長させながら生きていけたら楽しいんだろうなと思います。

子どもたちにも、そんな実験を楽しみながら学校生活を送ってほしいものです。そのためにも、また明日から頑張っていこうと思います。

 

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