観察するということ

自分自身を成長させたり、教えるという立場に立って誰かに何かを伝えようとするとき、大事な要素として「観察する」ということがあげられます。

どんなに有名な人がやっていることであっても、どんなに一般的なことであったとしても、その時、その状態である、その人に当てはまるかといえば、必ずしもそうではありません。

一人ひとり個性も違えば、一人ひとりの状態も、刻一刻と変わっていくものです。それだけに、有用なアドバイスというものも、その場で変わってくるはずです。

だからこそ、「今、その人がどんな状態にあるのか」ということを観察することはとても大事なことです。今日はそんな「観察する」ということについてつぶやいていきたいと思います。

 

「観察」で見えてくるものは絶対的なものではない!

私は大学時代、神経化学という分野を専攻していました。毎日顕微鏡の画面とにらめっこしながら、実験をしていました。その時の経験を少し思い返してみたいと思います。

私の研究は、タンパク質の溶液に小さなゴム製のビーズを入れて、それがどのように動き回るかを観察することで、そのタンパク質がどのような構造を作り出すのかを調べるというものでした。

初めは1つのビーズを追いかけていたのですが、ある日、濃度を間違えてたくさんビーズを入れてしまい、画面がビーズだらけになってしまいました。普通ならそこで失敗となって実験やり直しになるわけですが、教授がそれを見て「面白いじゃない!」とおっしゃり、そこから条件設定を変えて実験をすることになりました。そこからたくさん面白い結果を得ることができ、無事に論文を書き上げることができました。

 「固定観念を持たずに見ると、面白い発見をすることができる」

この時の教授のように、「ある結果以外は間違いである」という固定観念を持たずにものを見ることができると、同じものを見ても別の違った発見をすることができるものです。観察というものは、人によって、その時の状況によって見えてくるものが変わるものだとも思います。

 

またこんなこともありました。

実験結果の信頼性を高め、論文を説得力のあるものにするためには、何度も同じ実験を繰り返して再現性を得る必要があります。私も2年間同じ実験をひたすら繰り返し行っていました。

ずっと同じ実験をしていると、結果を予測することができるようになってきます。むしろ、「こうなるはずだ」という視点が強くなってきて、結果が自分の解釈に有利に見えるようになってきたりもします。

例えば、次のようなグラフを解釈するとき、どのように読み取ることができるでしょうか?

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実はこのグラフは同じデータを基にしてつくられています。しかし、目盛りの取り方の違いで、全く異なる印象を与えているのです。

「数字」というものは絶対的なデータであると思われがちですが、何を基準にするのか、何と比較するのか、母集団はどうなっているのかなどによって違ってくるものですし、同じ数字でもデータ分析の方法次第では異なる解釈をすることも可能です。

 「見えてきたものに主観が入ってくると、その結果はいかようにも解釈できる」

 「経験が積み重なっていくと、見えてくる情報がその経験に基づくものになっていく」

つまり、「自分はこんなデータが欲しい」と思ったら、そのように解釈できるようにものを見てしまうことも実際にはあるのだと思います。型にはめて見てしまうことで、その型と同じかどうかを比較し、そうでないものは失敗としてとらえることさえできてしまいます。

このように、観察することで、新たな発見ができることもあれば、自分の考えを裏付けていくこともできるのです。そう考えると、観察しただけでは同じように見えたとしても、人によって、状況によってそこから解釈できること、ましてや人にアドバイスできることは多様に広がっていくということが分かるかと思います。

 

どこに注目して観察すればいいのか?

初めに書いたように、自分が練習するときにも、生徒や後輩を指導するときにも、今何が起きているのかを観察することは必要です。

しかし、何も目的意識を持たずに観察しようと思っても、見えてくることに一貫性が持てず、注意しなければと思うことが広がっていきすぎてしまって、練習でも指導でも大切なところが分からないまま、浅く広くダメ出しをして終わってしまうこともあるような気がします。

もちろん、初めは全体像をつかむために、何も前情報を頭に入れない状態でとにかく見て(聴いて)みることも必要かもしれません。また行き詰ってしまったときにも、今までの固定観念を捨てて、新しい視点をつかむために、ありのままの情報を受け取ることも必要だと思います。一つのことにこだわりすぎて、全体像を見失わないようにすることも大切なことです。

ただ、物事を突き詰めていこうとする時には、ただやみくもに入ってくる情報をすべて受け取ろうとするのではなくて、何かに注目をして情報を受け取ったり、そこに重点を置いて試行錯誤の過程をつくっていくことも大事だと思います。

例えば吹奏楽部の練習だったら、

  • 一人ひとりの音の響き
  • 音楽の流れ
  • 音程やタテを合わせる
  • バランス
  • 人間関係
  • 一人ひとりの体調、精神的な面

など、顧問として、指揮者として注目するポイントはたくさんありますし、どれもはずせない要素かもしれませんが、「一人ひとりの音の響き」に注目することで音程やタテ、バランスを合わせていくことにつながることもあるでしょうし、人間関係に注目することで音楽の流れがスムーズにいくこともあるかもしれません。

まずは欲張らず、焦らずに、一つのことに注目して観察をしてみること。いつもとは違う何かが見えてきたり、自分の習慣がどのようにつくられているのかに気づけたりすることもあるかと思います。それが、成長へのヒントになるはずです。

 

練習でも指導でも、「なぜ起きているのか」を考えることが重要

どのようなことであっても、「原因」は一つではなく、複合的なものなのだと思います。常に全体を俯瞰してみる目を持ち続けることも大切なことです。しかしだからこそ、一つのことに注目をして観察を続けることで、どのような工夫をしたらもっと良くなっていくのかというアイディアが湧いてくることもあるように思います。

今起こっていることを観察すること。「何が起きているのか」を把握しなければ、その状況を改善するための策を考えることはできません。ですから、まずはとにかく五感を研ぎ澄ませて、観たり、聴いたりして感じたことを自分自身が受け取ることから始める必要があります。

しかしながら、観察したことをそのまま伝えるだけではうまくいかないこともあります。やみくもに決められた練習メニューをこなしていれば上達するというわけでもありませんし、ただ自分でも気づくようなことを注意されたり、画一的な言葉をかけるだけであれば、生身の人間が指導しなくても、映像教材などを見て自分で練習すればいいだけの話です。

観察することの次に考えたいことは、それが「なぜ起きているのか」を考えることです。「結果」として表れていることには、「原因」やその結果に結びついていく「過程」があるはずです。その原因や過程を丁寧に追っていくことで、改善するためのヒントが見えてくることはあるかと思います。

「なぜ起きているのか」を見つけるためには、経験を重ねたり、その人のことをよく知ることも必要です。もちろん一般的なことをあてはめて解決することもあるかと思いますが、どんな時に起きやすいことなのか、その人のどんな経験が影響しているのか、どのような意識が関係しているのかなども考えていかないと分からないこともあると思いますし、観察をし続けていくことで初めて気づくこともあるような気がします。

自分(相手)に起きていることを観察し、それが何によるものなのかを考察する。その繰り返しが練習することであったり、指導するときに大切なことであったりするように思います。

 

まとめ

観察したからといって、必ず発見があるわけでもありません。

観察したことが、必ずしも真実を表しているわけでもありません。

でも、自分が成長しようと思ったら、自分自身のことを観察して、今の自分自身のことをまずよく知ってあげることは必要なことです。気合いで頑張って努力を続けたとしても、それが自分に合わない努力だったら、残念ながら結果にはつながりません。

指導をするときにも、ただ一方的に自分の思い込みを生徒に伝えるのでは上手くいきません。授業をしていても、同じ内容の授業でもクラスによって反応は違いますし、そのクラスの雰囲気や状態によってどんな説明の仕方がいいのか、どのような展開にした方がいいのかは、その場その場で変えていくものです。相手が生身の人間だからこそ、一人ひとりの生徒であったり、目の前のクラスなどの集団に対して何がベストなのかをいつも考えながら指導にあたることが必要です。

すぐに結果に結びつかなかったとしても、観察し、気づいたことを基に次にやることを決めて、挑戦してみる。そしてまた観察して、気づいたことから次にやることを決めていく。そのような実験の繰り返しによって、上達であったり成功であったりがあるような気がします。

初めは決められたことをやるので精一杯だと思います。型にはまったことからはじめるのも悪いことではありません。でもいつまでも人の真似をしたり、人に言われたことだけをやっていてもそれ以上成長することはできません。経験を積んで、少しずつ観察する余裕ができてきたら、観察したことをもとにいろいろ試してみると、今まで気づけなかったことに気づいて、成長し続けていくことができるようにも思います。

私も試行錯誤の過程を楽しみながら、自分自身を成長させたり、生徒たちの力を伸ばすお手伝いをしていけたらなと思います。

 

 

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