“まわりを聴くこと”とはどういうことか?

私が初めてオーケストラで演奏したのは高3の冬のことでした。
汐澤安彦先生指揮、東京ユースシンフォニーオーケストラで、フィンランディアとドボ8を演奏したのが最初です。
吹奏楽では目の前にホルンがいるのが当たり前で、もちろん弦楽器はコントラバスしかいなかったものが、オーケストラでは目の前がクラリネット、前方から聞こえてくるのはヴァイオリンやヴィオラ、チェロなどの弦楽器の音ばかり。
当たり前と言ってしまえば当たり前の話なのですが、初めてオーケストラのトランペットの席に座ったとき、吹奏楽と同じ位置なのに音の聴こえ方も周りの景色も全然違って戸惑ったことを覚えています。
恥ずかしい話、何より慣れるのに時間がかかったのが「指揮にどう合わせるか」ということです。これは大学に入学して管弦楽団に入団してからもしばらくかかりました。
どうにもこうにも、吹奏楽時代は「指揮の打点に合わせる」という習慣がついているため、指揮者に先振りされると、それに合わせてどんどん走ってしまうという現象が起き、よく指揮者やコンマスに注意されました。
では、どうやってタテを合わせられるようになっていったのでしょうか。
オーケストラの場合、コンマスの弓を見て合わせるという方法があります。コンマスがアインザッツを出してくれたらしめたものです。
でも、吹奏楽でもオーケストラでも「まわりの音を聴きなさい」とよく言われます。
しかし、科学的に考えれば、音速は約 340 m/s、舞台の奥行きが5 m だったとしても、一番後ろで出した音が一番後ろに到達するまでには約 0.015 秒かかってしまいます。これが往復となったら約 0.030 秒の誤差が生じるわけです。しかもホールではそれに残響が加わったり、練習場所と間隔が違ったりして聴こえ方が変わってくるということは容易に想像できます。だから、「聴こえてから吹く」では遅いのです。
それに対し光速は約 30万 km/sであり、見えているものに時間の誤差はほとんど生じません。
「迷ったら指揮を見ろ」というのはあながち間違いではないのだと思います。
しかも、「まわりの音を聴け」と言われると、聴こうとするあまり、自分の音を出し惜しみして、音が小さくなったり、微妙に後出しじゃんけんになったり、といったことが起こることもあります。これでは一向にタテが合った演奏にはなりません。
それでも私は、「まわりの音を聴きながら演奏する」ことは大切だと思います。
正確には、『自分の音を含めたまわりの音を感じながら演奏する』と言った方がよいかもしれません。
すごく感覚的なものになってしまって文章にするのが難しいのですが、自分の出し終わった音の響きと、全体の響きがマッチしているかどうかを感じながら演奏するイメージでいくと、結果的に良くなる気がしています。
自分もしっかり音を出して、響きをつくる。
まわりの響きに溶け込んでいるかを感じる。

それが、オーケストラやバンドの一員としての自分の役割であり、タテを合わせるだけでなく、ヨコの流れをみんなでつくり出す秘訣であり、アンサンブルをする醍醐味とも言えるのではないでしょうか。そんな気がしています。
そのために、自分が顧問をしている部活では「アンサンブル合奏」をやることがあります。全体で円陣を組んで、お互いの顔を見ながら、合奏をするというスタイルです。指揮者は最初の合図だけ出して、あとは適当に踊ってます(笑)
この練習は、お互いを聴きあう意識をつくったり、誰がどのようなことをやっているのかを確認する上でも役立っています。指揮でどうしても合わなかった場合、一度試してみる価値はあるかもしれません。
もちろん、最後は指揮で表現を引き出し、一つにまとめるのが指揮者の役割ですけどね(^^;

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