久しぶりに楽器を吹こうとするときに ①息を吸うこと

アレクサンダー・テクニーク教師資格取得のためのレッスン実習がいよいよ始まりました。このブログでも、生徒さんの許可を得た上で、その様子を紹介していきたいと思います。


今回の生徒さんは、久しぶりに楽器を吹くというアマチュアのホルン奏者の方。



最初に、こんなやりとりがありました。

最近、本当に全然吹いてなくて…。今日が本当に久しぶりなんです。

そうなんですね。では、まずゆっくり音出ししてみてください。
とりあえず大丈夫かな、と思ったところで声をかけてください。

その後、だいたい10分くらいだったでしょうか。唇だけのバズイングにはじまり、とても丁寧に、じっくり楽器との再会を愛おしむように音出しをされていました。

ロングトーンやリップスラーなど、一通りウォームアップが終わったところで、「大丈夫です」との声がかかりましたので、まずは現状でどのように感じられているのかを伺ってみました。

今、音出しをしてみて、何か気になったことや、
久しぶりに楽器を吹いてみて、今日一緒に試してみたいことはありますか?

とにかく、息が入っていかないな…と思いました。
あとは、マウスピースがこんなに硬いものなのか・・・と。
これって、やっぱりずっと吹いて慣れていかないといけないものでしょうか?

そうしたら、今日はまず息を吸うことに注目してやってみましょうか?



ということで、生徒さんの「息が入っていかないな…」という最初の言葉が引っかかったので、今回は「息を吸うこと」に注目をしてレッスンを進めることにしました。


息はどこに入るのか?

まず「息が入る」というイメージを具体的なものにするために、呼吸のしくみを確認してみます。

息って、どこに入りますか?

肺、ですか?

ですね!
ところで肺って、からだのどのあたりにあって、どのくらいの大きさなのか知っていますか?

胸のあたり。
えっと・・・上は鎖骨らへんまで?いやもうちょっと下?? 下は・・・

じゃ、ちょっと図を見て確認してみましょうか!

こうして見てみると、結構大きいですよね。
一番上は、鎖骨の上あたりまで、下もみぞおちのあたりまであります。
体の前の方だけでなく、後ろの方も背骨近くまであるんです。

実際、どのくらいの大きさなのか、自分のからだをさわって確認してみましょうか。

うわっ、確かに大きいですね!!
こんなところまで肺ってあるんですね!

両手でろっ骨の前の方と後ろ側をはさんだ状態で、息を吸ったり、吐いたりすると、どんな感じがしますか?

息を吸うとふくらんで、吐くとへこみます。
結構動くんですね!

実際、楽器を吹くときには、いつも肺に目一杯の息を取り込もうということはあまりしないかと思いますが、小さいものにたくさん詰め込んで入れようとするより、大きいものに自然とたくさん入っていくことができるのだというイメージを持っていると、自分自身は無理なく息を取り込むことができるので、まず初めに肺の大きさを確認してみました。

肺はどうやって空気を取り入れているのか?

次に、息を吸うときに、からだの中ではどのようなことが起こっているのかを確認していきました。

そういえば、横隔膜って言葉は聞いたことはありますか?

はい、あります。

焼肉のハラミですね。私はよく本番の前にゲン担ぎで食べちゃうんですけど、
息を吸うと、横隔膜はどう動くでしょうか?

んんん…
肺がふくらむ、だから、横隔膜は下がる、ですか?

そうです、そうです!
ちょっと図でも確認してみましょうか。

え、かなり大きいんですね!

そうなんです!
肺がある部分と、腸などがある部分をへだてるようにして存在していて、
下から覗いてみるとドーム型をしており、背面まで覆っている大きな筋肉なんです。

普段は意識して動かしているわけではないですけど、
横隔膜が下がると、肺に空気が入ってふくらみ、
横隔膜が上がると、肺を押し上げて空気が出ていき
ます。

だから、吸うときはお腹を緩めていたときの方が、横隔膜が下がるスペースができるので、たくさん息が入りやすいとも考えられるんですよ。

あ、そこなんです。前にも同じようなことを言われたことがあるのですが、よく「お腹を使って吹け」とか「お腹で支えて」とか言われるじゃないですか。お腹を緩めちゃって吹けるのか、ずっとよくわからなくって・・・

「お腹を使って吹く」は決して間違いじゃないんですよ。
息を吐くときは、お腹周りの筋肉を使って、内臓をギュッとひとまとめにしてあげたら、横隔膜が下がるスペースがなくなって上に押し上げられるから、空気は上に向かって吐き出されます。でも、息を吸うときは、お腹周りの筋肉を固めていると、内臓の行き場がなくなって、大して横隔膜が下がってこれないから、ちょっと吸いにくくなることもあると思います。

ああ、そういうことだったんですね。ようやく何となく分かりました。
じゃ、息を吸ったときにお腹がふくらむ感じになるのも、肩が上がっちゃうのもいいんですか?

大丈夫ですよ。さっき触って確認してみたように、肺に息が入ったらろっ骨は広がるから、肩も動いて見えることもあります。横隔膜が下がってきたら、そこにいた内臓たちは行き場を求めて前や横に出てきますよね。どっちも動いて見えなくても吸えるし、動いていてもいいんです。

この時、ろっ骨を広げてくれる筋肉たちも、たくさんいるんです。これも、ちょっと図を見てみましょうか。

きょうさにゅうとつきん!!!
えっ、首のあたりからついてるんですね。

そうなんですよ!
だから、首のあたりが凝り固まっていると、呼吸にも影響することがあるんです。

実際に楽器を吹こうとしたとき、「息を吸うから、横隔膜を下に動かして、外肋間筋や胸鎖乳突筋のはたらきでろっ骨を動かして…」ということは、直接的に考えなくてもいいかな、と思っています。それでもこの説明を入れたのは、”自分のからだが持っている動きの可能性”を確認することで、「息をもっと深く吸いたい」という希望に近づけるかな、と思ったからです。



アタマが動けて、からだ全体がついていく

ここで、アレクサンダー・テクニークの考えをお話ししました。

アレクサンダー・テクニークの実習レッスンといいながら、ここまで全然触れていなくてすみません。改めて、 アレクサンダー・テクニークの基本的な考え方を一緒に確認出来たらと思うのですが、よいでしょうか?

あ、はい。そういえば、そうでしたね!

いきなりですが、アタマ、というか、背骨のてっぺんって、どのあたりだと思いますか?

えっと、どのへんだろう・・・

だいたい、耳の穴の高さくらいです。
実際にてっぺんの部分を触ることはできないのですが、ちょうど「うん、うん」って軽く頷くときに少しだけ動くあたりだと思ってください。

(頷きながら)うん、うん…

電車って、先頭の車両だけ機動力があって、後ろの方の列車は先頭についていく感じで動いていくと思うんですけど、同じように、その背骨のてっぺんの部分が動けると、その下にある背骨が1個1個ついていくようにして動けることができる、と思ってみてください。

逆に、背骨のてっぺんの部分を固めて動けないようにするとどうなるか、ちょっとやってみましょうか。

まずアタマを固めて、手を上にあげてみてください。

あ・・・あげにくいです・・・

では、今度はさっき頷いていただいたときのように、アタマが動けるな~と思って、手を上にあげてみてください。

おお・・上げやすいですね。

こんな風に、アタマが自由に動ける状態にあると、全身が動きやすくなることもあるんです。

息を吸うときも同じで、ろっ骨は背骨にくっついていますから、アタマが動けて、背骨が自由に動ける状態にあると、ろっ骨も広がりやすくなって、息も吸いやすくなったりするんですよ。

なるほど!

じゃ、今までのところを振り返りつつ、楽器を吹いてみましょうか。

アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、楽器を構えて、ろっ骨も広がることができるよ、と思って息を吸って、吹いてみます。

ぽーん!!(いい音)

おお!!めっちゃ音出ますね!!

息の感じはどうでしたか?

最初に吹いていたときより、全然吸えた感じがしました!
でも、ろっ骨を意識しようと思ったら、力が入っちゃったみたいで、少し苦しく感じました。

う~ん。そうしたら、さっき見ていただいた図の、ろっ骨周りの筋肉に注目してみましょうか。
まぐろの中落ち、スプーンで掻き出すやつです。 あのあばら骨についている肉だと思ってください。そこが自由に動けて、ろっ骨を広げてくれるんです。

まず、アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、ろっ骨の周りの筋肉たちも自由に動けるなと思って、上半身を左右にひねってみてください。

あ、結構後ろまでねじれますね。

で、動けるなと思ったら、楽器を構えて、息を吸うことを味わって、吹いてみてください。

ポーン!!!(めっちゃいい音)

すっごい吹きやすかったです!
自分にとって、ろっ骨の周りの筋肉が動ける、というイメージがちょうどはまりました!

最初におっしゃっていた「息が入らない」という感覚は、今はどうでしょうか?

だいぶいい感じです。ちょっと忘れないうちに、自分でも練習してみます。

それはよかったです!ぜひまた試してみて、何か分かったことがあったら教えてください。

本当に部屋に響く音が最初からどんどん変化していったので、改めて「奏者自身がイメージをどれだけ具体的に持って吹くか」ということの大切さを教えて頂いた気がしました。もちろん、今回は生徒さんの中に「奏でたい音」のイメージがあったからこそ、身体の使い方のアプローチと結びついて、結果にあらわれたのだと思います。

いつも、自分の中に望むことと、その答えがあって、アレクサンダー・テクニーク教師は生徒さん自身がそれに気づくお手伝いをしていく役割なのかもしれないな、ということを実感した時間となりました。


《生徒さんの感想》

1つの課題にたっぷりと時間をかけられたので、今日掴んだコツが覚えやすかったし、実践を繰り返しながら体で覚えることもできました。

息を深く吸う、その1点でレッスンしてもらえたのは、久々に楽器を吹く身としても負担が無くてよかったです。

今回は初めてだったということもあり、私が説明をする時間が長くなってしまいましたが、これからもう少し生徒さん自身が気づけたり、考えて試していけるように進めていけたらいいなと思います。

まだまだ始まったばかりなので、頑張っていきたいと思います。





…ちょうど、先日書いた記事と内容がかなり重なってしまいましたが、そこはあしからず・・・ということで。

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久しぶりに楽器を吹こうとするときに ①息を吸うこと” への1件のコメント

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