私たちが生きていく上でも、管楽器を演奏する上でも欠かせない「呼吸」。
今回は、呼吸のしくみについて、吹奏楽部員が知っておきたい「呼吸」のしくみについて、できるだけかんたんに紹介していこうと思います。
|息はどこに入る?
まず、吸った息はどこに入るでしょうか?
ーーーはい、答えは「肺」です。
では、肺はどのあたりにあって、どのくらいの大きさでしょうか?
ーーーまず、下の図を見てください。
肺は、ろっ骨に守られるようにして存在している、比較的大きな器官(臓器)です。
一番上は、鎖骨の上あたりまであり、下もみぞおちのあたりまでありまし、体の前の方だけでなく、後ろの方も背骨近くまであると考えると、かなりの大きさがあることが分かるかと思います。
ここで実際に、自分の
・鎖骨の上あたり
・みぞおちのあたり
をさわって、それぞれ場所を確認してみてください。
それから、ろっ骨全体を、じっくりさわってみましょう。
・どのくらいの幅があるかな?
・どのくらいの厚みがあるかな?
・どのくらいの硬さかな?
など、自分の肺や心臓を守ってくれている骨がどうなっているのか、じっくり観察してみましょう。そして、「この中に肺が入っているんだな~」「ここに息が取り入れられていくんだな~」ということをじっくり味わってみてください。
一人ひとり、大きさは違いますので、まずは自分のからだがどうなっているかをよく知ることも、大事だと思います。
では、自分の肺を十分に味わってみたところで、肺には、どこを通って空気が入っていくのかを確認しておきましょう。
まず、からだに空気を取り入れる入り口はどこでしょうか?
ーーー答えは、「口」と「鼻」です。
口や鼻から取り込まれた空気は、「気道」を通って肺に入っていきます。
食べ物が通る「食道」は、気道よりも後ろ(背中側)にありますので、あまり奥の方まで息を入れようと思うと、むせてしまったり、逆にうまく息を肺に送れなかったりすることもあるのかな、と思います。
では、空気が体から出ていく出口は、どこでしょうか?
ーーーはい、これもやっぱり「口」と「鼻」です。
ただし、管楽器を吹くときは、口から空気(息)を出しますね。
まれに鼻でリコーダーを吹くとか、そういう技を持っている人もいるかと思いますが、基本的には管楽器は口に当てたり、口でくわえて演奏するようにつくられていますから、口から息を吐く、という練習をするとよいかと思います。
|横隔膜と呼吸
では、息を吸ったり、吐いたりするときに、からだの中ではどのようなことが起きているのでしょうか?
ーーーそのカギを握っているのが「横隔膜(おうかくまく)」です。
横隔膜は、胸腔(肺などがある部分)と腹腔(腸などがある部分)をへだてるようにして存在しており、下から覗いてみるとドーム型をしており、背面まで覆っている大きな筋肉です。
しぼんだ風船と、ふくらんだ風船。どちらが中に空気がたくさん入っていますか?
ーーーそれは、ふくらんだ風船ですよね。
肺も同じで、空気がより入っているときは、ふくらんでいる状態です。
逆に、肺から空気を送り出していったら、肺はしぼんでいきます。
なので、下の図にあるように、
〇息を吸うとき
横隔膜が下がって、肺が存在できるスペースが大きくなると、肺は空気を取り入れて、ふくらむことができる
〇息を吐くとき
横隔膜が上がって、肺が存在できるスペースが小さくなると、肺から空気が出ていって、肺はしぼむ
と考えることができます。
私たちは、楽器を吹いていない時も、意識しなくても呼吸をしています。
これは、この横隔膜が意識しなくても動いてくれているからです。
でも、楽器を吹くときには、意識的に、よりダイナミックに、息を吐きだしたり、そのために吸ったりすることが必要になってきます。
では、楽器を吹くために必要な呼吸は、どのようにしてつくりだしていけばよいでしょうか?
|息を吸うときに助けてくれる筋肉たち
息を吸うには、より肺が広がることができるようにしてあげる必要があります。
そのためには、
・横隔膜が、できるだけ下まで下がれるようにする
・ろっ骨が広がれるようにする
ということが必要です。
まず、横隔膜ができるだけ下まで下がれるようにするためには、下がった先に邪魔者がいないことが必要です。
横隔膜の下には、腸などの内臓が存在しています。でも、肺や心臓がろっ骨という骨に守られているのとは違って、腸などを保護しているのは筋肉たちで、骨で頑丈に守られてはいません。
したがって、お腹の周りの筋肉がゆるんでいる状態であれば、腸などは割と自由に動くことができるので、横隔膜も思い切って下がることができます。
次に、ろっ骨が広がれるようにするためには、どうすればよいのかを考えてみます。
先程、じっくりさわって観察してみた「ろっ骨」。
・・・あんなに硬いものが広がるなんて、にわかには信じられませんが、広がるんです。
ちょっと、ここで一つ実験をしてみましょう。手順は以下の通りです。
- 右手の手のひらを胸にあてます。
- 左手の手の甲を背中側にあてて、両手で肺(ろっ骨)をはさむようにします。
- 大きく息を吸って、吐きます。
- このときの様子をじっくり観察してみます。
ーーー意外と、息を吸ったり吐いたりすることで、ろっ骨が動いていることが感じられるのではないでしょうか?
このとき、ろっ骨を広げる動きを手伝ってくれている筋肉たちを紹介します。
ろっ骨にくっついている「外肋間筋(がいろっかんきん)」や「斜角筋(しゃかくきん)」をはじめとして、鎖骨や胸骨にくっついている「胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)」などは、ろっ骨を持ち上げて、ろっ骨を広げる動きを手伝ってくれています。首あたりにある筋肉までもが、手伝ってくれているのですね。
|息を吐くときに助けてくれる筋肉たち
息を吸うには、より肺が縮まることができるようにしてあげる必要があります。
そのためには、
・横隔膜が、できるだけ上まで上がれるようにする
・ろっ骨が狭まるようにする
ということが必要です。
まず、横隔膜ができるだけ上まで上がれるようにするためには、逆に「横隔膜が下がれないようにすること」が必要です。
横隔膜の下には、腸などの内臓が、かなりの量存在しています。それを取り囲んで保護しているお腹周りの筋肉たちを総動員して、内臓が広がることができないようにギュッと集めてあげれば、横隔膜は上に押し上げられていきます。
このとき活躍してくれるのは、いわゆる腹筋運動で鍛えるような「シックスパッド」と呼ばれる「腹直筋」ではなく、腹筋の中でもわき腹や、少し深いところにある「外腹斜筋(がいふくしゃきん)」「内腹斜筋(ないふくしゃきん)」「腹横筋(ふくおうきん」と呼ばれる筋肉や、骨盤の下に張り付いている「骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)」などです。体の奥底で、内臓を押し上げ、横隔膜を押し上げてくれる筋肉たちがいるのだ、と思っておくとよいかもしれません。
同じように、ろっ骨が狭まるようにするために使われている筋肉もあります。代表的なものは、ろっ骨の間にはりついている「内肋間筋(ないろっかんきん)」です。
階段などをかけ上がったりすると、呼吸が激しくなり、肩が上下するようなことはないでしょうか?
このとき、息を吸うと肩が上に上がり、吐くと下がると思います。この下げる動きをしているのが「内肋間筋」です(ちなみに上がるときは「外肋間筋」が使われています)。
あと、楽器を吹こうと思って息を吐くとき、一気に勢い良く吐くだけなら上に書いたことでいいのですが、時として、長い息を少しずつ吐き続けるといったことを曲中で求められることもあると思います。
そのようなときは、一気に息を絞り出してしまうと息が足りなくなってしまうので、息を吸うときに使っていた「ろっ骨を広げる筋肉」たちに、一気にろっ骨が狭まってしまわないように、助けてもらう必要があることもあります。これも知っておくとよいかもしれないですね。
以上のことをざっくりまとめると、
〇息を吸うとき
・お腹を緩めておく
・肺の大きさをイメージする
・ろっ骨が前後左右上下に広がっていくのを感じる
〇息を吐くとき
・お腹まわりの筋肉を総動員する
・下から横隔膜を押し上げ、息を上に送り出すイメージを持つ
という感じになるかなと思います。
毎日、楽器を吹く前に確認しておくと、「これから楽器を吹くモード」にからだを切り替えるスイッチ代わりにもなると思うので、ぜひ試してみてください。
|体の軸となる骨格と呼吸の関係
ここまで呼吸のしくみについて見てきましたが、これらのからだの機能が十分にはたらくためには、からだの軸となっている部分が、自由に動ける状態にあることも必要です。
下の図は、私たちのからだを支えている「軸骨格(じくこっかく)」とよばれる部分を青色で塗っています。
これを見てみると、軸骨格には、ろっ骨が含まれていますね。
そして、ろっ骨は、脊椎(せきつい、いわゆる背骨)にくっついて存在していることも分かるかと思います。
つまり、私たちのからだを支えている軸骨格が自由に動ける状態にないと、ろっ骨も連動して固まってしまい、本来はもっと動くことができる機能を持っていたとしても、十分にその機能を果たせなくなってしまうこともあるのです。
今回は詳しく触れることはしませんが、呼吸を考えるときにも、私たちが本来持ち合わせているからだの動きの可能性を、十分に引き出せる状態にあるか、まず自分自身で確認してみてからやってみると、より自分の可能性も広がっていくのではないかな、と思います。
↓↓軸骨格についてくわしくはこちら
|おわりに
このように、私たちが息を吸ったり、吐いたりするときには、体の中でたくさんの筋肉たちがはたらいてくれています。そして、それにともなうからだの動きもたくさんあります。
もちろん、楽器を演奏するときに「この筋肉を動かそう」ということばかり意識してしまい、最も大事な「どんな音楽を演奏したいか」ということが後回しになってしまったら本末転倒ですが、「自分にはこんなにたくさんの機能があるのだ」ということを知っていると、何か上手くいかないことが生じたときに、原因を突き止めたり、改善策を考えたりするときに大きなヒントになることもあると思います。
ここに書いたことは、呼吸のしくみのほんの一部です。小中学生にもわかるように、できるだけ分かりやすい言葉を使うように心がけたので、専門用語としてはあまり使われない表現もあるかと思いますが、参考にしていただけたら幸いです。
※文中のイラストは「イラストAC」「写真AC」「いらすとや」のものを使用させていただきました。