よく生徒から「タンギングができないんですけど…」「どうしたらタンギングがうまくなりますか?」という質問をされることがあります。
でも、かくいう私も、タンギングには苦手意識があります。
今日は、自分の経験やレッスンで教えていただいたことをもとに、タンギングの練習に行き詰ったとき、どう考えて練習していけばよいかをつぶやいていきたいと思います。
|タンギングって何だ?
「タンギング」を辞書で調べてみると、次のような定義で説明されていました。
大辞林 第三版の解説
管楽器の演奏で,舌を用いる奏法の総称。空気の流れを一時的に中断し,各音の出始めを明瞭にする。
世界大百科事典 第2版の解説
管楽器を演奏する際の,舌を用いた技法の総称。tやkの発音と同様の舌の動きによって各音の開始を与え,強弱を調節し,また空気の流れを瞬間的に遮断すること。タンギングには大別すると次の3種類があり,曲想やテンポ等に応じて主として奏者が使いわける。すなわち,シングル・タンギング(t‐t…)は,ゆっくりした楽句に,ダブル・タンギング(t‐k,t‐k…)とトリプル・タンギング(t‐t‐k,t‐t‐k,またはt‐k‐t,t‐k‐t)は,2~3音のグループから成る急速な楽句に使われる。
これを見てみると、共通しているのは、
- 舌を用いる奏法(技術)
- 空気の流れを一時的に遮断する
- 音の出だしを明瞭にする
ということだと言えそうです。
|「タンギングが上手くなる」ってどういうこと?
では、「タンギングが上手い」とはどのような状態を指すのでしょうか?
中高生と話をしていると、「タンギングが上手い人」というのは、
- タンギングが速くできる
- ダブル、トリプルタンギングを操れる
- 音の出だしがはっきりと出せる
と答える人が少なくありません。ですから、タンギングの練習というと、
- テンポ○○で16分音符で吹けるようにする
- 「タカタカ…」「タタカタタカ…」と速く言えるようにする
という練習が主となり、「舌を突きにいく」という動作に主眼が置かれることが多い気がします。実はこれが、タンギングに行き詰ってしまう一つの原因であるように思います。
|「舌を突きにいく」と「舌を離して、元に戻す」の違い
私が初めてタンギングを習ったのは、小学校のリコーダーの授業です。
「フー、フー」って吹くんじゃなくて、「トゥー、トゥー」って言えばいいんだよ!
と友達に教えてもらった記憶があります。
そのまま深く考えることもせずに、中学生の頃までは「タンギング=舌を突く」ことだと考えていました。舌の奥の方を固定して、舌の先端を前歯の裏あたりにあてるというやり方でずっと吹いてきたので、どうしてもタンギングが続くと息の流れが止まってしまい、のども締まって、バテるのが速くなる傾向がありました(これは今も克服しきれていません)。
しかし、高校生になってレッスンに通い始めて教えて頂いたのは、
「息の流れを止めるように舌で密封しておいて、舌を離したら音が出ると考える。舌は必ず元の位置に戻すようにして、次の音を出す準備をしておく」
「とにかく息はずっと流れていて、ただ舌は流れをせき止めているだけで、何か余計な破裂音を加えるために“突く”わけではない」
ということでした。特にスタッカートの練習ではよく注意されました。
しかし、頭では理解できるのですが、どのようにしたら密封できるのか、どうしたらはっきり輪郭のある音にできるのか試行錯誤のまま時間ばかりが過ぎていった気がします。
- 舌の位置を説明されても、実際に見えないから、違うのかもしれない
- 自分ではやっているつもりでも、出てきた音がイメージと違う
こんなことをずっと思いながら、やみくもに練習していました。
本当に、「これかもしれない」と思うことが増えてきたのは、最近になってからです。これは荻原先生のレッスンやアレクサンダー・テクニークの授業を通して、体の構造を勉強するようになってからのことです。
結論としては、結局「舌を突く」という思考から、体が抜け切れていなかったということが分かりました。元々ボソボソとしゃべる方ですし、日本語は口先だけでしゃべれてしまう言語なので、それも影響しているのかもしれません。振り返ってみると、口先だけでショボショボ発音していたなと。そして、舌先のことばかり気にして練習していたことに気づきました。
もっとダイナミクスに舌全体を使って発音してみる。言い換えると、
舌先だけでなく、舌全体も使うことができる
舌を動かすためには、顎も自由に動ける
そのように考えてみると、とても頭がスッキリしました。
|タンギングの練習をするときに大切にしたいこと
先日、荻原先生のレッスンで次のような指摘を受けました。
タンギングのと言っても、発音準備、発音、発音直後それぞれのクオリティを高めるためには、を理解した上でのこれら3つの流れの実践ですから、それのどこに練習の余地があるのかを見極めなければどんどんややこしくなり、解決しません。
— 荻原明(Ogiwara,AKIRA) (@ogiwara_a) 2016年8月31日
タンギングというと、つい発音する瞬間ばかりに目がいきがちですが、発音準備と発音した後の状態がどうかというところにも注目してみると、そこが上手くいかない原因になっていることも多い気がします。
下図のように、舌は思った以上に大きいものです。
それだけに、舌を動かそうとしたとき、先端だけを動かそうとすると、どうしても根元の方に力が入ってしまい、息の流れが阻害されてしまったり、動き自体が重たくなってしまうこともあるように思います。
また下図のように、舌の根元(舌根)を支持している「舌骨」という骨には、様々な筋肉がくっついています。これらの筋肉の中には呼吸にも影響があると考えられているものもあり、舌に力を入れてかためてしまうあまり、息の流れが悪くなって、余計にきれいにタンギングができない(発音のきれいな音にならない)原因にもなると考えられます。
発音の前後で、
- 舌の位置がどうなっているのか
- 口の中の様子がどのようになっているのか
を知ろうとすることは大切なことですし、ある程度ボディマッピングができていた方が、自然に体が動いてくれることはあると思います。
しかし、「うまくいく」と考えられる体の状態を再現すれば、いい音が出るのかと言えば、そうとも限りませんし、上手なプロ奏者と同じポジションで吹けばよいかと言えば、一人ひとり体の構造も歯並びも舌の大きさも少しずつ違いますから、必ずしもあてはまるわけではありません。
大事なのは、
- まず、息が流れていること
- その流れを一時的に遮断するために、舌をどこに密着させればいいか
- どのように舌を離せば、空気が一気に流れるか(滑舌よくしゃべるにはどう発音すればいいか)
- 音が出たときに、一番いい響きがするときの口の中の状態はどうか
- 発音した直後に、一番いい響きがする状態まで持っていけるか
- 息の流れは保ったまま、元の位置に舌を戻すことができるか
といった一つ一つを、実際に自分で音を出しながら研究することだと思います。
まだまだ自分は研究段階にいます。焦らず、要素を分解して苦手を克服していきたいなと思っています。
|まとめ
「タンギングが上手くできる」ということは、「表現しようとする音のクオリティを上げること」「伝えたい音楽を、聴き手に分かるように滑舌よくしゃべって伝えること」です。決してタンギングができること自体が目的ではありませんし、まして速く舌を動かすことが目的でもありません。
息が流れていかなかったら、音は鳴りません。舌に注目することは大事なことである一方で、息の流れがないがしろになってしまったら、せっかくどんなにきれいな発音ができていたとしても、音にはなりません。
まず息が流れていて、いい響きの音が鳴っていること。
それを、タンギングという技術の助けを借りて、さらに美しく際立たせること。
そのように考えて練習していけたらいいのかもしれません。
結局のところ、苦手意識のあることに対して、絶対克服してやろうという意志をもってがむしゃらに練習するのは悪いことではないけれど、何が上手くいかない原因なのか、どうしたら上手くいくのかということを客観的に分析して試してみないと、ただ根性だけでは改善しないよなと思います。
大切なのは、自分から湧いてきて、楽器から出てくる音楽がどうかということ。機械的に完璧に音を並べることよりも、人だからこそできる表現が優先されるべきなのだと思います。言うは易しですが、少しでも表現できるものの幅が増えるように、感性を研ぎ澄ませると同時に技術も磨いていきたいものです。
貴殿の助言大変勉強になりました、私も信号ラッパの発音に大変苦労しております、発音を録音し再生し確認確認しておりますが、思う音が吹けなく試行錯誤で練習を重ねております、ありがとうございました。
コメント頂きありがとうございます。またお気づきのことがありましたらお寄せいただけましたら幸いです。