行き過ぎた部活動が教員の長時間労働につながっているなどとして、文部科学省が「部活動に週1日以上の休養日を求める」ということが話題になっています。
今回の記事は、このニュースの元となっている文科省の「学校現場における業務の適正化に向けて」という報告を読んで書いた(上)”http://rapparapa.at.webry.info/201606/article_7.html 、(中)”http://rapparapa.at.webry.info/201606/article_8.html の続きです。
(中)まででは、この報告の背景や、今後の部活の在り方をどうしていこうとしているのかという文科省の報告と、それに対して自分がどのように感じたのかということを書いてきました。本当はさらに教員の長時間労働改善に向けてのプランが書かれているので、それについても触れるべきかと思いましたが、私は基本的に「長時間労働」と「部活の課題」はまず切り離して考えた方がいいというスタンスなので、今回はその部分についてはいったんおいておきたいと思います。
下の図は、文科省の報告の中で、今後どのように部活の在り方を変えていくか、そのタイムスケジュールを表したものです。
これを見ると、部活動改革の方針として、大きく2本の柱が立てられていることが分かります。
一つ目は、「休養日の明確な設定を通じ、部活動の運営の適正化を推進する」ということです。
今年度中に活動の実態調査を行った上で、来年度中に改善項目を具体的に決めて徹底し、再来年度からガイドラインの普及・啓発をしていくというのが当面のスケジュールのようです。
注目すべきは、大会運営の見直しなどが「中体連(日本中学校体育連盟)」に特化して書いてあるところです。「高体連」「高野連」、そして文化系部活動の組織には触れられていません。もし本気で抜本的な見直しをするのであれば、そのあたりにも踏み込んでいかないと変わらない気がします。
また、学校に対して求められているのが「休養日の設定・複数顧問の配置など、教員の負担軽減に配慮した校長のマネジメント力の発揮」とあります。いずれも必要なことだとは思いますし、上げ足をとるつもりはないのですが、ここもいくつか気を付けた方がよいと思う部分があります。
まず、休養日の設定方法についてです。国としてスポーツ医科学的な観点での調査があり、それを元にどのくらいの活動日数・時間が必要なのかということが発表されるかと思います。運動部の多くは、平日に練習し、土日は試合ということが多いかと思います。大会運営の見直しの要請もされる見込みですが、顧問が個別に決める練習試合なども考えると、結局は現場の采配に委ねられる面も多いような気もします。だからといって、「月に試合は練習試合も含めて何日まで」と一律に決めることも難しいと思います。結局は、平日の練習日が部活の休養日として設定される可能性が高いように思いますし、それは教員の勤務という面では、勤務時間の短縮にはなるかもしれませんが、休日出勤は変わらないため、勤務日数という面ではあまり変わらないようにも思います。
休養日については、その目的を明確にすることも大切だと思います。もともと完全学校週5日制は、学校生活にゆとりをもたせ、生徒に学校以外の経験も大切にしてほしいという観点で打ち出されていたかと思います。この背景には、もちろん教員の長時間労働の問題も含まれていました。今ではすっかり定着してきた週5日制ですが、授業時間数を削減したことが、授業内容の削減につながったことで、いわゆる「ゆとり教育」批判というものが起きました。今は授業内容を戻し、足りない時間は長期休暇を削ったり、週6日制に戻したり、0時間目や7時間目を増やすなどして対応しているかと思います。休養日を設けるという動きがまず改革の第一歩かもしれませんが、ただ休養日を設けるだけでは、ゆとり教育の二の前になってしまうこともあり得る話です。
子どもたちの感じ方もいろいろです。365日ずっと部活に打ち込んでいたいと思う部活命の子もいれば、ちょっとその競技をかじれたらいいという子もいます。部活が居場所になっている子もいれば、そうでない子もいます。
家庭の考え方もまた様々です。休みの日も部活で学校に行ってて欲しいという方もいらっしゃいますし、休みの日くらい家族で過ごしたいと思う方もいらっしゃいます。中高生の時くらい一つのことに無我夢中になって取り組んで欲しいという方もいらっしゃれば、部活だけでなくいろいろなことをさせたいと考えておられる方もいらっしゃいます。
また、1970年代後半から80年代前半にかけてのいわゆる「校内暴力」が問題になった時代、部活動に打ち込ませることで生徒に居場所をつくりら非行に走らせないようにするという取り組みも地域によってはあったように思います。
そうした様々な考え方や感じ方がある中で、すべての人が満足するような部活動の運営は難しいことだと思います。
ただ、考えられることとしては、先程述べた「休養日」の意味付けにもつながるのですが、部活を休みにした分、地域とのつながりやNPO団体などと協力して、生徒の居場所となれるような、様々な経験ができる場を設けることも必要な気がしています。
週休2日になった時や「ゆとり教育」が問題視された時、子どもを塾に通わせたり、土曜授業のある私学に入れたり、スポーツチームに入れたりする家庭も多かったように思います。しかし、これらは経済的に厳しい家庭ではなかなか難しい面もあり、所得の差が教育格差につながったとの指摘もあったかと思います。
休みが増えた分、家庭に子どもたちを帰すというのも「学校週5日制」の言い分だったかと思いますが、実際はこうした格差を生み出す一因にもなったと考えられます。
すべてを学校が担うのは無理です。それならば、勉強がもっとしたい子には勉強が教えてもらえるような、部活をもっとやりたい子には専門的な技術を教えてもらえるような、いろんな経験ができるプログラムを地域と連携してつくることができたら、部活の「休養日」は文科省の報告にあるような「子どもたちの視野を広げる機会」になるような気がします。
次に複数顧問制度ですが、後述の「部活指導員」制度と同じく、生徒を複数の目で見ること、一人の教員の負担を減らすという意味ではとても意味のあるものだと思います。
実際、全国大会に出てくるような学校は一体何人顧問の先生がいるのだ!?と思う学校もありますし、技術指導と事務仕事、引率などを分担することで能率良く運営している面はあるかと思います。
自分が顧問をしている部活も顧問は3人います。メインで指導される音楽の先生と、ベテランの社会の先生、私です。3人とも吹奏楽経験者なので合奏もしたりしますが、ちょっとずつ仕事を分担しながらやっています。
でも、どこの学校でもそうだと思いますが、やはりメインの先生にかかる負担はとても大きいと思います。私がこんな風にあれこれ外に出て学ばせてもらっているのも、サブでやらせていただいているからこその面は否めません。
また、顧問間の連携も難しいところです。当然のことながら部活外の仕事もしていますから、常に密に連絡を取り合えているかというと、そうでもないこともあります。連携を取るための打ち合わせ時間、そのようなことも考えると、一人でやるよりも大変な面があることは確かです。
さらには、複数顧問をつけようとしても、小規模校などでは物理的に配置が厳しいこともあります。顧問選択制や育児・介護時短で部活顧問を持たない先生もいます。中には3つくらいの部活の顧問を担当されている先生もお会いしたことがありますし、校長や教頭までもが試合の引率に出かけている学校もあります。
人件費にも関わる問題ですし、なかなか一筋縄ではいかないのかなとも思ったりします。そのあたりの対策も文科省には考えていただきたいところです。
二つ目は、「部活動指導員の配置など、部活動を支える環境整備を推進する」ということです。
これについては、今年中に部活動指導員を法令上明確化し、来年度からは部活動指導員を配置していくという早急なスケジュールとなっています。
基本的には、私は部活指導員制度は賛成です。顧問といえど専門的にその競技を学んできたわけではないですし、専門性を兼ね備えた方が入ってくださることで、教育的にも大きな意味があるように思います。
一方で、すべての学校のすべての部活に、学校教育の方針を理解した上で指導してくださる方を見つけることも大変なことのようにも思います。顧問との連携も一つの課題だと思います。
早急に取り組んでいくことはとても素晴らしいことだと思う反面、慎重にやっていく必要もあるのかなと思ったりします。
だいぶ言いたいことばかり並べて、タイトルからはずいぶん離れてしまったかもしれませんが、このガイドラインが定められただけでは現場は大きく変わることはないように思います。本気で変えようと現場が動くことができるのか、地域や社会全体を巻き込んで子どもたちを育てていく覚悟を決められるのか、そこが今問われているような気がします。
これまでの長文をお読み頂きありがとうございました。自分自身、もう少し勉強していきたいと思いますし、まずは目の前の子どもたちと真剣に向き合う時間を大切に考えていきたいと思います。
(終わり)