アレクサンダーさんの発見の話

こんにちは。おのれーです。

またしても、久しぶりの更新になります。コメントなどもチェックできておらず、お返事できていない方、申し訳ありません。

今日は、これまでも何度か書いてきたのですが、アレクサンダー・テクニークを学ぶ上で軸となる「プライマリー・コントロール」について、セルフクエストラボの口述試験で話したことを改めてまとめておきたいと思います。よろしければお付き合いください。

演劇をやっていたアレクサンダーさんは、声が出づらくなってしまったときに、どうすれば良くなるだろうかと、自分自身の身体の動きを鏡を使って観察を続けました。そして「頭を後ろに引く」ことが、声を出づらくしているのではないかと考えるようになりました。

実際に、首をすくめて、ギュッと力を入れてみてください。
そして、手を挙げてみてください。

では、力を入れるのをやめて、手を挙げてみてください。

どうでしょうか?
首に力を入れた時と入れなかった時で、違いはありましたか?

背骨の一番上、頭とつながっているところは、だいたい耳の穴の高さです。このあたりが自由に動ける状態にあるかないかで、身体全体の動きの自由さもだいぶ変わってきます。

人間は、直立二足歩行をするので、頭は身体の上にあります。でも同じように背骨を持つ脊椎動物たちの頭は身体の前にあって、前に進もうとしたら、頭から進みだし、背骨がそれについていくような動きをします。魚が泳いでいる姿や、へびが這って前に進んでいる姿を思い浮かべると、頭から動き出して、身体がくねくね動きながら前に進んでいると思います。

人間は必ずしも頭から進もうとしなくても前に進めてしまうし、重い頭が上にある分、重力の影響で力を入れていなくても、頭と脊椎がおしつぶされて、本来持っている自由な動きができない状態になっていることがあります。

だからこそ、何かやりたいことがあって、どこかうまくいかないことがあったときに、この頭と脊椎の関係を思い出してあげると、動きに自由さが増して、できるようになることが増えることもあります。アレクサンダーさんは、この頭と脊椎の関係を、プライマリーコントロールと名付けました。そしてこの関係が、アレクサンダー・テクニークの根本となっています。

もともと首は大切なところで、危険を察知したときには無意識のうちに固めるようになっているので、いつも必ずしも自由に動ける状態を保っていなくてはいけない、ということではありませんが、頭と脊椎の関係を思い出して、本来持っている動きの自由さをつかってあげるという選択肢をもっていることも、自分自身の可能性を広げてくれるのではないかなと私は思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

【これまでの参考記事】

もしもヒトに背骨がなかったら?

自分本来の力を十分に発揮するためにやりたいこと

「アレクサンダー・テクニーク」とは何者か?

「頭が動けて、からだ全体がついてきて…」の謎に迫る!

「重心を下に」という言葉を考える 

こんにちは。おのれーです。
だいぶ久しぶりの記事になってしまいましたが、またちょっとずつ書いていこうと思います。どうぞよろしくお願いします。

さて今回は、管楽器や声楽をやっている方であれば一度は耳にしたことがあるであろう「重心を下に」という言葉について考えてみたいと思います。

私自身も学生の頃から幾度となく「もっと重心を下にして吹け!」と言われてきましたし、指導する立場になってからも周囲でよく聞かれる言葉でもあります。もちろん「重心を下に」と考えて演奏することで上手くいったことも少なからずあります。しかし私の場合、その言葉にとらわれすぎて不自然に力を入れることで、力任せに演奏する習慣が身についてしまい、その呪縛から逃れるためにだいぶ苦労をしています。

このように、指導の現場で用いられる言葉が、解釈によっては本来伝えたかったことが伝わらずに独り歩きしてしまうことも少なくないように思います。これから少しずつ、そうした言葉を取り上げて、自分なりに考えてみたことをまとめてみたいと思います。よろしければお付き合いください。

|「重心」って何?

理科教員とはいっても物理は専門ではないのでツッコミどころ満載かもしれませんが(ただの言い訳…)、できるだけ物理や数学が苦手な方にもイメージしやすいように説明していきます!

さて、地球上にいたら、人でも動物でも、本でも楽器でも、どんな物体にもはたらいている力があります。

ーーー それは、重力です。

重力は、正確には下図に表すように「地球上の物体にはたらく地球の引力(万有引力)と地球の自転による遠心力の合力」と定義されていますが、ここではとりあえず「地球が物体を引く力」と考えてみたいと思います。

では、重力は物体のどのあたりにはたらいているのでしょうか? 
言い換えると、地球は物体のどこを引っ張っているのでしょう?

答えは・・・ 
物体の各部分、あらゆるところ全体にはたらいています(下図のイメージ)。
地球は、物体のすべての部分を引っ張っているのですね。

目には見えない「力」ですが、物理の世界では、はたらいている力を矢印で表すという約束があります。ただ重力のように、物体のあらゆるところにはたらく力を表すときには、上図のようにたくさんの矢印で書き表さなければいけませんし、むしろ隙間なく矢印を書きまくらないといけなくなってしまうので、はたらいている力を代表して1本の矢印で表します。このとき、物体の質量はすべて1点に集まっていると考えます。

図で表すと、こんな感じです↓

この重力を1本の矢印で表すとき、作用点(矢印の根元、図中の●、力がはたらく点)にあたる部分が「重心」ということになります。(どうして1本にまとめてよいのかという説明をし始めるとちょっと長くなりそうなので、ここでは先に進みたいと思います…)

|「重心」はどこにある?

…とはいっても、重心ってどこにあるものなんでしょうね?

重心は多くの場合、だいたい物体の中心にあります。
…と説明してしまうと、

だから、物体の中心ってどこ???

という話になってきますよね。大丈夫です。ちゃんと説明するようにします。

小さい頃(でなくてもいいですが)、本やペンなどを指一本でバランスをとって、どのくらいの時間保ち続けることができるか、遊んだことはありませんか?

重心とは、このようにその点を支えると、物体全体の重さを支えることができる点とも考えることができます。つまりは、重さ的にバランスのとれる点といえるでしょう。

形状が球、直方体、棒状などで、すべてが同じ材質でできているなど、密度が全体で一定であるような物体の場合、この重心は物体のど真ん中(中心)になります。

しかし、私たちの身体のように、複雑な形をしていたり、場所によって重さが違ったりする物体の場合は、必ずしも物体の中心に重心がくるとは限りません。このような場合、重心はどうやって探せばよいのでしょうか?

①物体を糸でぶら下げてみる

下図のように、物体の1点を糸でつるして静止しているとき、重心は糸の張力(糸が物体を引く力)の作用線(作用点を通り力の方向に引いた直線)上にきます。もし重心が作用線上になかったとすると、バランスがとれず物体が動いてしまいます。静止してつり合っているということは、張力の作用線上のどこかに必ず重心があるといえます。

これは、つるす位置が変わっても同じです。糸の位置を変えて再度つるしたときも、張力の作用線上のどこかに重心がきます。同じ物体であれば重心は1点ですので、2つの作用線の交点が重心だと考えることができます。

このように、物体を異なる2点でつるせば、重心を見つけることができます。

②人間の重心を測定する方法

とはいっても、人間をぶら下げるのは現実的ではないですよね。。

人間の重心を測定する方法にはいろいろあるようですが、ここでは「重心は力がつり合っている点である」ということに注目して、人間の重心を求める方法を考えてみます。

(1) まず、人を下図のような台の上に寝かせて、測定をします。

(2) いわゆる「てこの原理」を使って、計算で重心位置を推定します。

足を基準に考えると、
 
体重計Aから重心までの距離LA×体重W=身長LB×体重計Bが支える力FB
 体重Wの大きさ=体重計Aが支える力FAの大きさ+体重計Bが支える力FBの大きさ
となるので、

身長165 cmの人で、体重計Aが30 kg、体重計Bが35 kgを示したとすると、体重計A(足先)から重心までの距離LAは、
  LA [cm] × (30+35) kg = 165 cm × 35 kg
          LA = 88.846… ≒ 89 cm
となり、足元から89 cmの高さに重心があると求めることができます。おおよそおへそより少ししたくらいの高さになりますので、いわゆる「臍下丹田」といわれている場所とだいたい一致するとも考えられます。

しかし、人間は頭、腕、胴体、脚…とそれぞれの部位で重さが違いますし、体を伸ばしたり折りたたんだりすることもできるため、体勢によって上図の体重計A,Bが示す重さや、身長 LB に相当する長さも変わってきます。さらに言うと、上の計算式では「高さ」しかわかっていないので、「深さ(体の表面から何cmか)」まで組み合わせて考えるとさらに複雑になってきます。

このように、体勢によって重心は変わってきます。姿勢によっては、体の外側に重心がくることもあります。上の式で求められるのは、あくまで「直立不動」の状態での重心であり、重心がいつも同じ位置にあるとは限りません。

楽器を演奏しているときでも、呼吸だったり、指や腕を動かしたりすれば体のバランスは絶えず変化します。ましてや、重心は自分がどのような体勢になっているかで勝手に決まるものですから、結果として重心が動くことはあっても、自分が意図した場所に重心を固定するということは、ほぼほぼ無理な話です。

ということで、「重心はいつも勝手に動き続けているものだ」と思って、次の話を進めていくことにしたいと思います。

|「重心を下に」という言葉の真意は?

ここまで「重心」についてウンチクを並べてしまいましたが、ここからが今回の本題です。
なぜ「重心を下に」という言葉を使って指導されることが多かったのでしょうか?

先日のセルフクエストラボの授業の中で、「重心を下に」という言葉の中にはどのような意味が含まれているのか、相談させていただく機会がありました。先生や仲間のお話も伺う中で、今自分で考えてみていることを3点あげてみたいと思います。

①脚や下半身の存在を思い出すため

楽器演奏をする際、楽器を構えるのは主に腕です。音を変えるときには、口の中の状態や指が関係してきます。空気は肺を出入りします。譜面や指揮者のことは目で見ます。このように考えると、主だった動作の多くが上半身に関係しているともいえるでしょう。

それだけに、無意識のうちに上半身ばかりに意識が向いてしまい、下半身、特に脚の存在を忘れてしまうことも少なくないかと思います。特に座奏の場合はよりその影響が大きくなるような気がします。

しかし、以前の記事でもとりあげたように、脚の周りにも呼吸に関係している筋肉が存在していたり、体全体の可動性が大きくなるため、下半身を使えるようにしてあげることで、より柔軟にエネルギーをつくりだすことができ、より演奏しやすくなる状態になります。

過去記事↓↓

”脚を使って吹く”ってどういうこと?

「重心を下に」と言われると、その忘れていた下半身や脚の存在を思い出すきっかけにはなると思います。ただ、あまりにも「重さを下げよう」と思いすぎてしまうと、体全体を押し下げようとしたり、力が入りすぎて腹直筋や股関節などが固まってしまい、呼吸に悪い影響が出てしまうこともあるので、同じ効果を期待するならば「脚のことも思い出してあげよう」という声掛けでもよいのかなと個人的には思います。

やはりここでも、体全体が連動していること、その体全体が自由に動ける状態にしておくことが、自分が本来もつパフォーマンスを十分に発揮するために必要なことであるといえるでしょう。

②重力もあれば抗力もある

①でも書いたように、上半身ばかりに目が向いている人には、「重心は下に」というアドバイスは、下半身を思い出させるために有効であることもあるかと思います。しかし、「重心は下に」という言葉の呪縛によって、体全体を押し下げていたり、腹直筋や股関節が固まっている状態が続いてしまうと、演奏に不利な状態になってしまうこともあるでしょう。

だからこそ忘れたくないのは、たとえ静止していたとしても、面に置いてある物体には重力とつりあう反対向きの力である「垂直抗力(抗力)」がはたらいているということです。

私たちは地球の中心に常に引っ張られていますが、もしその力しかはたらいていなかったら、地球の中心までズルズルと引き込まれていってしまうはずです。そうならずに、床の上に立っていられたり、椅子の上にすわっていられたりするのは、床や椅子が私たちの身体を上向きの力で押して支えてくれているからです。

実はこの垂直抗力、物体が床を押すことで床がわずかに変形するので、床が元の形に戻ろうとする力(弾性力)だと考えられています。つまり、重力によって物体が床を押すからこそ生じる力です。※諸説あります

もし、静止している物体だとしたら、この重力と垂直抗力はちょうどつり合っています。でも、当たり前にはたらいている力であるために、普段私たちはこの力がはたらいていることを忘れがちです。わざわざ意識することもないかもしれませんが、身体を起こしておくための筋肉たち(脊柱起立筋群)の活性が落ちて、いわゆる「脱力」とか「身体を押し下げた状態」という状態になっているときに、この垂直抗力の存在を思い出してあげると、いざ身体を動かそうとしたときに有利にはたらいてくれることもあるかなと思います。

ここで、相撲の立ち合いを考えてみましょう。

お相撲さん・力士のイラスト

お相撲さんたちは腰を落としてどっしり構えているように見えますが、相手にぶつかられたときの衝撃を受け止めることもできれば、立ち合いと同時に自分から前に進んでいくことも、咄嗟に横にかわすこともできますよね。

もしも重力だけを意識して、ただ重心が下になるようにしているだけだったら、これだけの安定感と瞬発力を同時に生み出すことはできないでしょう。傍から見ていたら同じ体勢をとっているように見えていたとしても、足のどの部分により体重をかけるかで身体の重心は変化しますし、接地面積が増えて重力が分散すれば、それに対する垂直抗力の単位面積当たりの大きさも小さくなりますし、またその逆も起こるわけですから、常にバランスは変化し続けているはずです。

このように、どこにでもいけるという動的なバランスを保っているからこそ、安定感をもちながら、すばやく動くこともできる状態に自分を置いておくことができるのだと思います。

また、さらに瞬発的に強いエネルギーが必要な時には、意図的に足で地面を押す力を利用することもできるでしょう。足で地面を押せば、その反作用の力として、地面が足を押す力が生じます。この上に伸びあがるような力を、演奏をするために必要なエネルギーに変えることもできるかと思います。もちろん、これもやりすぎには注意だとは思いますが・・・

このように、重力(下向きの力)だけでなく抗力(上向きの力)が存在していることも頭の片隅に入れておくと、自分の身体のバランスがどうなっていて、今はよりどちらの意識を強くした方が効率的かなど、選択肢が広がってくるように思います。

バランスは常に一瞬一瞬で変わり続けるからこそ、より重力を意識した方がよい場合と、より抗力を意識した方が良い場合があるのだと思います。そのバランスの変化を楽しみながら、自分がやりたいことをやるためにいろいろ試していけたらよいのかなと思います。

過去記事↓↓

すわって吹くときの脚の使い方を考える

③息を吐くときに、吸うときのような力を使ってコントロールすることもできる

管楽器を演奏するときのことを考えると、息を吸うときには、横隔膜が下がって空気が口や鼻から肺に取り込まれます。横隔膜が下がって内臓が押されると、お腹がふくらんで重くなった(重心が下にいった)ような感覚になるかもしれません。しかし息が肺に入ると胸腔を広がるため、肩が持ち上がる動きも同時に生じています。お腹だけでなく、背中側も含めた肋骨周りにも目を向けることで、より多くの息を取り込むことも可能です。

同様に、息を吐くときには、横隔膜が元の位置に上がって、息は肺から口に向かって上向きに出ていきます。内臓も元の位置に戻れるので腹腔は広がった状態から元に戻りますし、胸腔も肺から息が出ていくことで狭くなりますので、肩が下がる動きも同時に生じます。

このように、息の出入りに伴う動きは、決して上下方向どちらかに決まっているわけではありません。上下前後左右、風船があらゆる方向に膨らんだり、しぼんだりするように、胸腔の大きさは変化します。それを上手く使うことで、息をコントロールすることができれば、楽器演奏にも役立てるはずです。

その「息のコントロール」をしようとするときに、「重心を下に」「腹の支えを作って」といった言葉が使われることがあります。

息を吐くときに、一気に横隔膜が持ち上がって、一気に肺から空気を追い出そうとすると、長いフレーズなどは吹ききれません。息が一気に出ていかないように、ちょっとずつ調整しながら息を出し続ける必要があります。このとき、横隔膜が簡単に上がっていかないように、息を吸うときのようにわざとお腹を膨らませるような方向に力を使ってみるという技が使えます(→呼気時の吸気的傾向)。

この技を使おうとすると、体の感覚としてはお腹に力が入っていくように感じたりもします。この感覚を伝えるために「重心を下に」という言葉を使っているとしたら、恐らく、息のコントロールがうまくいっていない生徒に対して、横隔膜が下がっている状態を保つことで、吐く息のコントロールをさせたいという意図があるような気がします。このあたりの仕組みも、時間をとって説明すれば生徒たちも理解できると思うので、「重心を下に」だけで片付けてしまわないようにしたいものです。

※呼気時の吸気的傾向については、次回「お腹を膨らませて吹く」「お腹の支え」という言葉について考えてみたいと思うので、そこで詳しく触れてみたいと思います。(いつになるか分かりませんが、頑張ります・・・)

吹奏楽や合唱だと、どうしても一斉指導が多く、時間も限られた中で指導をしなければならず、個々の生徒の状態に応じた言葉で説明することが難しいことも多いかと思いますが、できるだけ生徒が指導者の発した1つの言葉だけにとらわれることなく、自分の状態に応じていろいろな選択肢を選び取っていく力を身につけられるように、私自身も努力していきたいものです。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

久しぶりに楽器を吹こうとするときに④楽器を楽に持ちたい!

アマチュアのホルン奏者の方との実習レッスンもだいぶ進んでまいりましたが、ブログの更新はちょっと滞っております・・・。今回も生徒さんの許可を得た上で、4回目の実習レッスンの様子を紹介していきたいと思います。

前回の様子はこちら↓↓

今日はいまさらなんですけど、楽器の持ち方を見てもらうことってできますか?

はい、もちろんです。
どんな風に持ちたいとかってありますか?

これまでのレッスンで、だいぶ吹けるようにはなってきたんですけど、たぶん練習不足なんだと思うんですけど、しばらく吹いているとだんだん楽器が支えられなくなってきて…

もう少し、楽に持ちたいというか、ずっと持っていても疲れない持ち方というか、それを知りたいです。

なるほど、そうだったんですね。
では今日は楽器の持ち方について探究してみましょうか。

ということで、今回は「できるだけ楽に、長時間楽器を構えていたい」ということを生徒さんの望むことととらえ、一緒に探究していくことにしました。

|「腕」ってどんな構造になっているの?

楽器って腕で持ち上げると思うんですけど、まず腕について一緒に確認していきましょうか。

ちなみに、腕の付け根ってどのあたりだと思いますか?

え、付け根ですか??
うーん、(肩のあたりを指して)このあたりですかね?

…と思いますよね。私もそうだと思っていたんですけど、身体の軸とのつながりを考えると、実はここなんです。

胸骨(きょうこつ)という骨と鎖骨(さこつ)の関節なので、「胸鎖関節」とよばれています。

えっ、こんなところが腕の付け根なんですか!!??

そうなんですよ。びっくりですよね。

試しに、この胸鎖関節のあたりを触りながら、腕を動かしてみてください。

はい…えっと、胸鎖関節を触りながら、腕を動かしてみる、と。

あ、確かにここも動いてる…

じゃちょっとここで、腕がどうやって身体の軸と繋がっているのか、図で確認してみましょうか。

下の図で、青いところが「軸骨格」とよばれている部分です。

で、次の図の青い部分が「腕」とよばれる部分です。

では、円を描く道具のコンパスを思い出してもらって、この胸鎖関節がコンパスの針で、自分の手の先が鉛筆の先だと思って、腕を長く使って楽器を持ち上げてみてください。

ほぉ、なるほど・・・。確かに楽に持ち上がるような気がします

そうしたら、もうちょっと助けてくれることがあるので、紹介しておきますね。

さっき「腕の付け根は胸鎖関節」という説明をしたのですが、もうちょっと詳しく見てみると、軸骨格から腕にたどり着くためには、鎖骨や肩甲骨を介する必要があるので、腕を動かそうとしたときに、肩甲骨も一緒に動くことができるんだ、と思うと可動域が広がるんです。

※補足
上腕骨は肩甲骨と肩関節をつくっており、その肩甲骨が鎖骨と肩鎖関節をつくり、さらに鎖骨が軸骨格でもある胸骨と胸鎖関節をつくっている、というように、上腕骨から軸骨格にたどりつくためには、肩甲骨や鎖骨を介さないといけないということが分かります。したがって、軸骨格を中心として考えてみると、腕の付け根は胸骨と鎖骨でつくられる胸鎖関節であり、鎖骨と肩甲骨が、肩や腕の動きの土台となると考えることができます。

で、この肩甲骨なんですけど、めちゃくちゃ良く動くんですよ。ちょっと試してみましょうか。

もし良かったらでいいんですけど、私の肩甲骨を触ってもらってもよいですか?

は、はい。・・・このへんですか?

はい、そこで大丈夫です。そうしたら、これから私が腕を思いっきり動かしまくるので、ずっと肩甲骨を触り続けようとしてもらってもよいですか?

はい、いきますよ!

(私が大きく前後左右上下に腕を振り回しまくる)

おお、結構たくさん動きますね。こんな動くんですか?!

そうなんですよ。もしよかったら、逆も試してみますか?

はい、お願いします。

(生徒さんが 大きく前後左右上下に腕を振り回しまくる)

実際やってみると、肩甲骨って結構動くものなんですね。

そうそう、だから肩甲骨も腕と一緒に動いているって思ってみると、軸から考えたとき肩甲骨の先に腕があるので、土台が自由に動ける分、ものすごくダイナミックに腕を使うことができるんですよ。

あとは、背中側には大きな筋肉があるので、腕だけで楽器を持ちあげようとするのではなくて、背中全体を使って楽器を持ちあげてみようと考えてみると、結構楽になるかなと思います。

余談ですが、昔ジム通いをしたときに、大きな筋肉を鍛えると代謝がよくなって痩せやすくなるとトレーナーに言われて、広背筋めっちゃ鍛えさせられました(笑)

そ、そうなんですね・・・(苦笑)

・・・余計な話をすみません。

では、今までお伝えしたことを意識して、1回楽器を持っていただいてもいいですか?
で、その前に、いったん頭の位置と、頭が動けて、体全体がついていく、ということを思い出してみましょうか。

はい、やってみます!

頭が動けて、体全体がついてきて・・・

腕の付け根は胸鎖関節で、肩甲骨もたくさん動くことができて、背中にある大きな筋肉が助けてくれる・・・

で、楽器をもちあげてみる。っと。

(楽器を持ちあげてみる)

あ、楽ですね!これいいかもしれない。
ちょっとこれでしばらく練習してみてもいいですか?

はい。どうぞどうぞ!

 

 

|長時間でも楽に持ち続けるためには?

だいぶいい感じで持てるんですけど、しばらく吹いていると、やっぱり上腕と首が少し痛くなってくる感じがあって、長い間持っていたときにできるか心配です。

筋力を鍛えないとダメですかね・・・

なるほど。確かに筋力はあるかもしれないですけど、もう少し助けてくれるものがないか、ちょっとだけ探してみましょう。

まず、楽器を下ろしている状態から、いつも通りに構えてみてもらってもよいですか?

(楽器を構えてみる)

では、今やったことを分解して考えてみましょうか。

膝の上に置いてある楽器を、顔の高さまで持ってくるときには、どんな操作をしているでしょうか?

え、、どんな操作・・・・

ちょっとわかりづらかったですかね、、
とりあえず、まず楽器を両手で握って、肘を曲げて持ち上げて・・・という感じで考えてみるとどうでしょうか?

なるほど。

それだと、楽器を両手で握って、肘を曲げて・・・だけじゃなくて、腕を回して前にもってきて??、構える??って感じかな。

いいですねぇ!

じゃ「頭が動けて、体全体がついていきながら、楽器を両手で握って、肘を曲げると同時に、肩関節から腕を回すようにして前に持ってきて、マウスピースが口元にやってくる」と唱えながら、楽器を構えてみましょうか?

了解です。

頭が動けて、体全体がついていきながら…

楽器を両手で握って…

肘を曲げると同時に、肩関節から腕を回すようにして前に持ってきて…

マウスピースが口元にやってくる…

っと。

構えてみて、何か気づいたことはありますか?

結構ラクです。あと、思ったよりいろんなところを使ってるんですね、、

でもやっぱり、長時間持っていると辛くなってくるんじゃないかと不安になります。

そうそう、できるだけ1か所じゃなくて、からだ全体にはたらいてもらえると、どこかだけに頑張ってもらわなくて済む分、疲れにくくはなるかな、と思いますよ。

ちなみに、楽器を持つとき、右手と左手、どちらにより重みをかけているとかってありますか?

(生徒さん、改めて楽器を持ってみる)

えっと、右ですかねぇ。

もし演奏上問題がないようであれば、楽器の重さを、左右同じくらいに分散させて支えてあげると考えて持っていることってできますか?

はい。ちょっとやってみます。

・・・・えっ、何か新鮮です、、

では、ちょっと新鮮ついでに、一回楽器をメロフォン持ちして頂いてもよいでしょうか?

うわっ、新鮮。そして、ラク!
でも違和感・・・。

まあ、本来の持ち方ではないですから、違和感はあると思いますよ。
でも、楽器の重さをいろんな持ち方で感じてみると、また新しい気付きもあったりするかなと思って提案してみました。

それで、もう1回普通の持ち方で、楽器を構えてみて頂いてもよいですか?

はい。

何か、さっきよりも全体で支えられている気がします。

そうしたら、背中にも大きな筋肉があって、その筋肉たちがみんなで一緒に楽器の重さを支えてくれてると思い続けながら、しばらく吹いてみてください。

はい、ちょっとやってみます!

|腕の使い方が変わると、呼吸も変わる??

だいぶいい感じなのですが、やっぱり曲をしばらく吹いていると少し辛くなってきます。

さっき気になっていた上腕とか首あたりですか?

はい、そうですね、なんかちょっと違和感が出てくるというか・・・

では、もう1回長めのフレーズを吹いてみていただけますか?

はい。

(ゆったりめの美しいメロディーを演奏されていました)

では、いったん楽器を下ろしてもらって、もう1度構えてほしいのですが、肘を持ち上げるときに、「肩甲骨も一緒に動かしてあげることができる」と思って構えて、その後吹いて頂いてもよいですか? 肩甲骨ごと左腕は前の方に、右腕は後ろの方に動くことができる、みたいなイメージで・・・

・・・とこのようにお伝えしたのは、演奏していると、だんだん肘が外側に広がっていくと同時に、胸を開くような動き(左右の肩甲骨どうしが近づいていく→肩甲骨の内転)が顕著に表れており、その結果、しばらくすると肩甲骨が固定されて、背中全体が固まっているように見えたので、もう一度肩甲骨の動きに注目してみて欲しかったからです。

(ちょっといろいろ吹いてみる)

あ、 背中や肩甲骨が使えると思うと、息が吸いやすくなりますね!

吹きはじめも、今までより素直に吹けます!音もよい感じです!!
まだしばらく吹いていると崩れてくるけれど、慣れてくればもっとできそうです。

実際、吹いている時の様子を見ていると、それまであった肘が広がっていく動きが減ると同時に、背中側が呼吸や音楽の流れに応じて、とても自由に動いているように見えました。

お、いい感じですね。
今日やったことは、使えそうですか?

はい!そんなに頑張らなくても出るんだなと言う感じがするし、今は息が入りやすすぎて、吹きすぎちゃう感じです。

今まで以上にエネルギーが必要ではないので、かなり使えそうです。ありがとうございました!

結果として、腕が自由に動ける状態は、軸骨格が自由に動ける状態でもあり、呼吸に関する骨格や筋肉も自由に動きやすい状態をつくることにもつながるので、この生徒さんのように「楽に持ちたい」という欲求が「楽に息が入る」ということにつながったのだと思います。もともとの臨みとは少し違うところに執着したかもしれませんが、生徒さんが満足そうだったので、ほっとしました。


《生徒さんの感想から》

レッスンを受けて4回目にもなるとからだがだんだん柔らかくなって使えるところが増えてきたように感じています。 今日は楽器の構え方を見ていただきましたが、吹きはじめの数フレーズ分は気持ち良くても、それがまだ持たせられる筋力や集中力がないのが歯がゆいです。教わったことが小慣れたらもっときれいな音で吹ける気がしていてリハビリをがんばりたいも思いました。

久しぶりに楽器を吹こうとするときに ③高音を伸びやかに吹きたい

実習レッスンも3回目になりました。今回も先日と同じアマチュアのホルン奏者の方と探究をしていきました。生徒さんの許可を得た上で、その様子を紹介していきたいと思います。

前回の様子はこちら↓↓

久しぶりに楽器を吹こうとするときに ②響きのある音を取り戻したい

今回も、まず生徒さんがテーマとして取り上げたいことを聞いてみるところから、始まりました。

ここのところ、定期的に楽器を吹く機会ができたので、最初のレッスンのときに比べたらだいぶ音も出るようになってきたなと思うんですけど、まだ高音がしょぼいなと…。でも、そろそろ高音にチャレンジしてみてもよいかな、と思ったので、今日はそこをやってみたいです。

おっ、いいですね!自分でチャレンジしてみたいって思えることがあるのって、素敵だなと思います。ぜひ、今日は高音について一緒に探求してみましょう。

ということで、今回は「高音域を伸びやかに吹く」ということをテーマにして、レッスンを進めていくことにしました。

|高音を吹くときのイメージって、どんなイメージ?

高音を吹くときって、どんなイメージがありますか?

息のスピードですかね。速く吐くために、吐こうとするスピードで息を吸うとか…

ではいったん、それを意識して高音域を吹いてみると、どうでしょうか?

F〜、G〜、A〜、B♭〜、C〜、D……

出るけれど、ちょっと苦しいです。昔はもっと楽に吹けていた気がします。

やっぱり練習しないとですかね、、、

いやいや、練習も必要だと思いますが、とりあえず2つ実験をしてみたいと思うんですけど、提案してもよいですか?

はい、やってみたいです。

自分自身も経験があるのですが、「高音を出す=息のスピード」ということを考えすぎて、体の圧力が必要以上に高まってしまい、高音が苦しくなることがあり、この生徒さんも若干そういう傾向があるように見えたので、息のスピードとは違うアプローチをしてみることにしました。

|倍音列を意識して吹いてみる

1つ目は、アレクサンダーテクニークとはあまり関係ないかもしれないのですが、倍音列を意識して吹いてみるということです。

ホルンの倍音がどうなっているのか、ちゃんとは知らないんですけど、トランペットだと、下のB♭~Eまでが一つのセットで、次のF~B♭がまた次の倍音のセットになっているんですけど、

だいたい同じですかね

あぁ、よかったです…。

それで、音が上がっていくときに、一音一音登っていこうとするのではなくて、その倍音のセットごとに上がるという意識を持って吹いてみると、どうでしょうか?

次の倍音列につま先が引っ掛かったら、そのまま上に登れちゃう、みたいなイメージで…

あ、なるほど。
じゃちょっとやってみます。

F〜、G〜、A〜、B♭〜、C〜、D……

うーん、逆に上がりづらいです。

そうですか…。確かに、ホルンの上の方の音域って、倍音の間隔が狭いですものね。もともと意識せずともできていたことなのかもしれないですね。

じゃとりあえずこの実験はいったん置いておいて、次の実験の提案をしてみてもいいですか?

あ、はい。

これは、実は自分がトランペットのレッスンを受ける中で教えていただいたことで、それまで「高音は上から見下ろすように」といった表現で教わってきたことが、とても附に落ちたので、提案をしてみたのてました。

でも、生徒さん自身に「?」がついてしまった提案は、あまりゴリ押ししない方がよいかなと思い、次の提案に移ることにしました。

|アンブシュアモーションを活用する

そうしたら、下のB♭あたりの音から、リップスラーで上に上がっていってみてもらってもよいですか?

わかりました!

B♭~F~B♭~D~F~A♭~B♭~……

(上行するにつれて、わずかにマウスピースが左下に動くのが見えた)

あ、そうしたら、高音になるにしたがって、マウスピースと唇の接着面にかかる力が、真ん中から左下(実際には手で軌跡を描いて説明)に向かっていくように意識して吹いてみてもらってもよいですか?

は、はい…。こういう感じですか?

B♭~F~B♭~D~F~A♭~B♭~C~D~!

うわっ!出しやすいかも!
どういうことなんですか?

詳しいことはバジル先生のブログとかを読んでみるといいかなと思うのですが、「アンブシュアモーション」という考え方があって、アンブシュアのタイプによって、より高音を出しやすい軌跡、低音を出しやすい軌跡がきまってくるそうなんです。

今、演奏されているのを見て、高音に行くにつれて左下に動いていく軌跡が見えたので、それを大袈裟にやってみたらどうなるかな、という実験でした。

逆に、低音に行くときに右上、って思って吹くとどうなるか実験してみませんか?

はい!やってみます!!

B♭~A~G~F~E♭~D~C~B♭~…(すごく低い音)

出しやすいです!!これならオケの低い音も出せそう!

それはよかったです!
人によって違うのですが、Kさんの場合、高音に行くにつれて左下、低音に行くにつれて右上にいくようにすると、自分の特性を活かすことができるのかもしれないですね。

じゃおさらいで、アタマが動けて、からだ全体がついてきて、マウスピースが口のところにやってきて、高音に行くにつれて左下に密着する力が移動していく、と思って吹いてみましょうか。

はい!

B♭~F~B♭~D~F~A♭~B♭~C~D~!

あ~、割といい感じです!
ただやっぱり、上の音が出ても、歯を食い縛ったような音になるのが気になります…

なるほど…。そうしたらまた違う実験をしてみましょうか!

確かに音を聴いていると、高い音が鳴ったときに少し苦しそうな感じに聴こえるところがありました。表情も少しきつそうだったので、いったん「高い音をホルンで吹く」ということから離れてみようかと思いました。

|高音が響いているときの感覚を養う

ハミングで鼻腔のあたりに響かせる練習

そうしたら、まずハミングで、サイレンのように真ん中くらいの音域から高い音まで行ったり来たりしてもらってもよいですか?

こんな風に。
ん~~~ん~~~ん~~~♪

んーーーんーーーんーーー♪

そうそう、そんな感じです。
今やってみて、低い音から高い音にいくのと同時に、身体のどのあたりに響きがあったかって感じたりしたことがありましたか?

うーーん、あまり考えてなかったです。もう一度やってみてもよいですか?

あ、先に行っておけばよかったですね。すみません。

じゃ、顔らへんに注目してやってみてもらってもよいですか?

わかりました!

ん~~~ん~~~ん~~~♪

どうでしょう?

(鼻のあたりを触って)あ、このあたりかな。

そうしたら、そのあたりがよく響くように息を吐いてみよう、と思って、もう一度ハミングをしてもらってもよいでしょうか?

はい。やってみます。

ん~~~、んーーー、ん~~~♪

こんな感じですか?

はい!
そうしたら、そのハミングしている時の感覚を大事にしながら、楽器で高音を吹いてみましょう。

アタマが動けて、からだ全体がついてきて、マウスピースが口のところにやってきて、鼻の上の方がよく響くようにと思って、高音を吹いてみる…

アタマが動けて、からだ全体がついてきて、マウスピースが口のところにやってきて、鼻の上の方がよく響くように、高音を吹いてみる…

B♭~C~D~!

うん、何かいい感じかもしれないです。
ただまだちょっと、力が入って、歯を食いしばっているような音になっている気がします・・・

なるほど。ちなみに「これが正解」というものはないと思うのですが、Kさんはマウスピースを唇に当てるとき、上唇から当てますか、それとも下唇から当てますか?

んんーー、あんまり考えたことがなかったです。。
強いて言うならば、下からですかね、、、

じゃ、これは完全に実験なんですけど、仮に上唇から当ててみるとどうでしょうか?

アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、マウスピースが口元までやってきて、上唇を先に当てて、高音を吹いてみると??

わ、何か違和感・・・

初めてやったことだから、違和感があるのは当たり前だと思って、ちょっと吹いてみちゃいましょう!

は、はい。

B♭~C~D~!

あ、割といいかもしれません。これは何でなんですか?

完全に自分だったら、という話になるんですけれど、「歯を食いしばっている」と思って吹いているときって、下顎が固定されて動けない状態にあるなと思うことが多くて、なら下顎を自由に使いやすくするために、まず上顎の方にマウスピースを密着させてみるのはどうかな、と思って提案してみたんです。

ちょっとやってみて、使えそうだったら使ってみてください。

はい。ただまだやっぱり力が入っているし、昔吹けていたような太くて力強い音と比べると、こんな音じゃだめだ・・・って思ってしまいます。。

そうですか、、確かにしばらくブランクもありますし、練習はもちろん必要なんだと思います。
とりあえず、今日はもう一つだけ実験をしてみましょうか。

この一連のやり取りの中で、「昔はできていた」という記憶が、自分自身を悩ませる大きな原因になっていることもあるのだなと感じました。一度でもできたことは自分の実力ともいえるでしょうし、できていた感覚があることは次に成功することを導いてくれることもあります。その一方で、その感覚があるからこそ、できないときに苦しくなることもあるようにも思います。だからこそ、いったんそこを置いておいて、新しく可能性の引き出しを作ることも大切なのではないかということで、生徒さんの中にある高音のイメージに注目をして、何が原因として根深いのかを考えてみました。

|楽に高音を吹くことは、何もしていないわけではない!

高音を吹くときって、力が入っちゃいけない感じですかね?

またまた、そういうことを・・・

でも、力は入っていたらいけない気がします。

確かに、必要以上に力はいらないと思うのですが、楽器を吹くにはいつも普通に生活しているときより使う力は大きくなるし、ましてや高音となったらそれなりの圧に対応できるだけの力は必要なのだと思います。

普段生活しているのに比べたら、ホルンで高音を吹くなんて、結構尋常じゃないことをやっていると思いますよ。

そんなもんですかねえ、、

そんなもんだと思いますよ。
中学生で初めて楽器を吹こうと思ったとき、音を出すだけでも大変だったと思うんです。それが、コツがつかめてきて、普通に音が出るようになって、結果的に要らない力が抜けていって、必要な力だけでだんだん吹けるようになったんじゃないかなと。

手の指と指の間の膜みたいなところ、分かりますか?

あ、ここですか?

そうです。そこって、元々は水かきだったって聞いたことがありますか?

えっ、そうなんですか?!

そうなんですよ。
胎児のとき、最初は水かきがある状態で手がつくられていって、そこから必要じゃない部分の細胞がアポトーシスっていう、自分でいらない細胞が死ぬようにプログラムされている機能によって無くなって、指がつくられていくそうなんです。

こんな風に、初めはたくさん力を使ってみてもよくて、徐々に必要な力だけを使って、自分の出したい音を出せるようになっていけばいいんじゃないかと、私は思うのですが、どうでしょう??

なんだか上手いこと巻き込まれている気もするんですけど、とりあえずそんなものなのかなぁ。

とりあえず、信じなくてもいいので、実験してみませんか?

はい、やってみます!

そうしたら、上のB♭から始めて、1音ずつ上がっていって、スムーズに上がれないな、と思ったところで、さっきのハミングも思い出しつつ、息を吐く動作を強める、音が当たったら、そのまま息を送り続ける、というのをやってみましょうか。

アタマが動けて、からだ全体がついていきながら…

B♭~C~D…!

えっと、ハミングを思い出して、息を吐く動作を強めるっと…

あ、アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、視線が先に動くようにして、右を見て、左を見て、上を見て、下を見て、この空間は広いんだなーと思ってから、やってみましょうか?

はい。
アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、視線が先に動くようにして、右を見て、左を見て、上を見て、下を見て…、ハミングを思い出して、息を吐く動作を強めて、吹く。

B♭~C~Dー!

うん、さっきよりだいぶいいです!
私は、この「右を見て、左を見て…」というのをやってみるのがいいみたいです!
もうちょっと試してみてもいいですか?

はい。どうぞどうぞ。

(しばらく実験が続く)

B♭~C~D~E♭ーーー!!!

おっ、一気にE♭までいっちゃいましたね!

何か、行ける気がしたので、そのままいっちゃいました!

すごいですね!今の音は自分としてはどうでしたか?

はい、だいぶ良かったです!
最初に言われた「次の倍音列につま先が引っ掛かったら、そのまま上に登れちゃう」というのも、何か分かった気がします。

ちょっとこれで練習してみます。

途中で「右を見て、左を見て…」というのを追加したのは、生徒さんがだんだんと「高音を出す」ということに集中するあまり、視点が一点に集中し、全体的に力が入りすぎているように見えたからです。

今回は、それをやることで生徒さん自身が変化に気づき「上手くいかないと思ったら、まずアタマが動けて、からだ全体がついてきて、右を見て、左を見て…」ということをやってみようと思った、というところが大きかったように思います。

ただ今回も内容が盛りだくさんになってしまったので、もう少し生徒さんがゆっくりと消化できるペースで、また一緒に探究していけたらなと思います。

《生徒さんの感想から》

高音をあてられるようなレッスンをしてもらいました。提案してもらったことに乗っかってやってみて、それが上手くはまらなくてもまた別の一手を一緒に考えて試せたので無理なく課題に向かうことができました。

昔チャレンジしたままほっておいた曲があるので、それに取り組んでいきたいです。

久しぶりに楽器を吹こうとするときに ②響きのある音を取り戻したい

実習レッスン2回目も、先日と同じアマチュアのホルン奏者の方と密度の濃い時間を過ごすことができました。今回も 生徒さんの許可を得た上で、その様子を紹介していきたいと思います。

前回の様子はこちら↓↓



今回は、次のような会話で始まりました。

先週吹いたので、この間よりは吹きやすくなっているんですけど、何か音がこもっているというか、手元で鳴っている感じがして、昔はもっと吹けていたのではないかと思うんですよね…

う~ん、なるほど・・・。
そういえば、そもそもホルンの音は、どうやったら鳴るんでしたっけ?

唇の振動とか・・・息とか・・・

ですね!では、前回は「息を吸う」ことに注目をしてみたと思うので、今日は逆に「息を吐く」ことにまず注目をしてみましょうか。

あ、はい。

ということで、前回「息を吸うこと」に注目したので、その逆の「息を吐く」を自分自身が取り上げたかったということもちょっとはあるのですが、生徒さんの「手元で鳴っている感じ」という言葉が気になったので、今回は「息を吐く」ということにスポットを当てて進めていこうと思いました。


|息を吐くとき、体の中で起こっていることとは?

この間、息を吸うときのことは説明したと思うんですけど、息を吐くときって、体の中でどんなことが起こっているのかは知っていますか?

えっと、はい。吐くときだから、吸うと逆だから…ろっ骨を締める感じとか…

吸うときは広がっていましたものね。吸うときは「外肋間筋」という筋肉などがろっ骨を広げる動きをしてくれていたと思いますが、今度は同じようにろっ骨についている「内肋間筋」という筋肉が胸郭を狭める動きを手伝ってくれるんですよ。

あと、何か使えそうなものはありそうですかね?

腹筋を使う、とかですか?

そうですね!
他は何かありますか? 例えばハラミのあたりとか・・

ああ、横隔膜が上に上がっていく、でしたね!

でしたね!腹筋が腸とか内臓をギュッと中心にまとめてくれると、横隔膜が上に上がるしかなくなって、息を上に押し出してくれそうですよね。

では、アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、息を吐くときには、ろっ骨についている筋肉や、腹筋がはたらいてくれて、横隔膜は上に上がって、肺に入っていた空気が上に押し出されていくことを思い出しつつ、息を出し続けていれば音はなってくれると思って、楽器を吹いてみるとどうでしょうか?

♪~~(ホルンの力強い音)

うん。音は手元で止まらなくなって、先まで響いていていい感じです。

でも、たぶん久しぶりに吹いたからだと思うんですけど、って全部に言えちゃうと思うんですけど、吹いているとお腹がブルブルしてきてしまいます。。。

聴いていてもすごく力強くていい音でしたよ!

確かに久しぶりに使われた腹筋たちが、「もう疲れたよ~~」と言っているのかもしれないですね。でも、逆に言えば、腹筋たちがはたらいてくれる証拠でもありますよね。

そうしたら、ちょっと1回立ってみましょうか。

あ、はい・・・

生徒さんを見ていて、「腹筋を使おう」という意志を強く感じるとともに、音も最初に比べてとても力強くなっていたのですが、全身を押し縮める方向に力いっぱい頑張っているように見えたので、いったん身体全体の話をしてみることにしました。


|息が上に向かって流れていきやすくするには?

では、 アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、 視線が先に動き出すように、上を見て…、下を見て…、右を見て…、左を見て…、前を見て… とやってみましょう。

(上を見て…、下を見て…、右を見て…、左を見て…、前を見て… )

自分の周りを見回してみることで、自分がどんな空間にいるのかな、というのをちょっと感じてもらえたらと思ってやってみました。

そうしたら、足の先が真ん中より30°くらい右側を向くように立ってみてください。

(つま先を30°くらい動かして)えっと、こんな感じですか?

あ、そうそう、そんな感じです!
そうしたら、 アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、 足首、ひざ、股関節を曲げていって、お尻がいすについたら、股関節を回すようにして体を起こして、座ってみてください。

(アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、 足首、ひざ、股関節を曲げていって、お尻がいすについたら、股関節を回すようにして体を起こして、座る… )

ではその状態から、楽器を持って、構えて、音を出してみましょう。

♪~~(ホルンのよく響く音)

おおお!すごく楽に息が出ていきます。腹筋のブルブルも、さっきよりは減った気がします。

もう一度、自分でもやってみていいですか?

どうぞどうぞ!

(アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、 自分の周りの空間を感じて…、足先を30°右に向けて…、足首、ひざ、股関節を曲げていって、お尻がいすについたら、股関節を回すようにして体を起こして、座って…、楽器を構えて、音を出す… )

♪~~(ホルンのよく響く音)

え、何でですか??

ホルンって、構え方がちょっと非対称じゃないですか。だから、そのまま楽器を構えると、胸のあたりで体をひねってマウスピースを口にもってくることになるので、そのひねりを下半身でやってみたらどうなるかな、という実験でした。感触はどうですか?

確かに、お腹の周りが自由になって、より腹筋が自由に使えるようになった気がします。なるほど、そういう影響もあるんですね、、

ただ、今度は息が入りすぎてしまって、アンブシュアがぶれてしまう感じが出てきました。

「息が入りすぎてしまう」、いいですね! 最初の目標達成ですね!

アンブシュアがぶれてしまうということについては、また別の実験をしてみましょうか。

できることが増えていくと、次々に望みが湧いてくる。そんな場面に立ち会えると、とてもうれしいものだなと改めて思います。普段学校の授業をしているときも、あまり一気にいろいろやってしまうと自分で消化しづらくなる面もあるなと思うのですが、ついつい目の前の望みに応えたいと思うのも教師の性なのかもしれません。ということで、今回はあともう一つだけ実験をしてみることにしました。

|アンブシュアの”ブレ”を減らすには?

そうしたら、いったん楽器を両手で持って、頭の上まで10回持ち上げたり、下ろしたりを繰り返してみてください。

せーの、いち、に、さん、し…

…ご、ろく・・、しち・・・、はち・・・・、きゅう・・・・・、じゅう!!!!

疲れました、、、

お疲れ様です。すみません、筋トレみたいになってしまって。ホルン、重いですものね、、

では、アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、「マウスピースが口にやってくる」と思って、自分は今のところに居続けながら、マウスピースをお迎えしてみてください。

(アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、マウスピースが口にやってくる…)

うわっ、何かマウスピースが近い!!

そのまま吹いてみちゃいましょう!

ポーーーン♪(ホルンの素敵な音)

あっ、これいいですね~~! もうちょっといろいろ吹いてみてもいいですか??

どうぞどうぞ。好きなだけどうぞ。

その後、いろいろな音を試しながら、感触を確かめられていました。

自分がこのように提案したのは、生徒さんがマウスピースの方に体をかがめて吹いているのが、少し苦しそうに見えたからです。どうしてもホルンは楽器も重いですし、支えるにはそれなりに筋力も必要です。それを、頭の上まで持ち上げてみることで、普段楽器を構えるとき以上の力を使ってみて、身体を使う準備体操を取り入れ、楽器を自分の方まで引き寄せやすくできたら、マウスピースと唇の密着度も上がって、アンブシュアが安定するのではないか、という提案でした。


今日はいろいろやってみたと思うんですけど、どうでしたか?

最初に比べたら本当によくなりました!

ただ解放のFは割と良くなったんですけど、それより高音はアンブシュアが安定しなかったり、音がつぶれるのはまだちょっと気になります。でもブランクもあるので、またこれで少し練習してみます。


今回の実習レッスンを通じて、生徒さんの中に「出したい音」「なりたい自分」があるからこそ、次々に課題が見えてきたり、またその課題をクリアしたいという欲求が高まってくるのだなと思いました。そんな時に、「自分自身は今どんな状態になっているのだろう」と観察してみて、「自分本来が持ち合わせている力を発揮するために使えるものはないかな?」と考えて、いろいろなプランで実験してみると、見逃していた自分の力に気づくことができることもあるのだな、と改めて教えられた気がします。今回も、自分自身が学ぶことの多い時間となりました。

まだまだ始まったばかりなので、1回1回の時間を大切に、継続していきたいと思います。

《生徒さんの感想》

最初にこちらから何を課題にしたいか話す際、かなりふわっとした判然としない内容だったにも関わらず、今日のレッスンの糸口をつかんで頂けて助かりました。
前回のレッスン内容と繋がった内容だったので、復習がてら1つずつ意識することを積み上げていけました。整理すればそれがそのまま自分の楽器を吹く前のルーティンにできると思いました。

久しぶりに楽器を吹こうとするときに ①息を吸うこと

アレクサンダー・テクニーク教師資格取得のためのレッスン実習がいよいよ始まりました。このブログでも、生徒さんの許可を得た上で、その様子を紹介していきたいと思います。


今回の生徒さんは、久しぶりに楽器を吹くというアマチュアのホルン奏者の方。



最初に、こんなやりとりがありました。

最近、本当に全然吹いてなくて…。今日が本当に久しぶりなんです。

そうなんですね。では、まずゆっくり音出ししてみてください。
とりあえず大丈夫かな、と思ったところで声をかけてください。

その後、だいたい10分くらいだったでしょうか。唇だけのバズイングにはじまり、とても丁寧に、じっくり楽器との再会を愛おしむように音出しをされていました。

ロングトーンやリップスラーなど、一通りウォームアップが終わったところで、「大丈夫です」との声がかかりましたので、まずは現状でどのように感じられているのかを伺ってみました。

今、音出しをしてみて、何か気になったことや、
久しぶりに楽器を吹いてみて、今日一緒に試してみたいことはありますか?

とにかく、息が入っていかないな…と思いました。
あとは、マウスピースがこんなに硬いものなのか・・・と。
これって、やっぱりずっと吹いて慣れていかないといけないものでしょうか?

そうしたら、今日はまず息を吸うことに注目してやってみましょうか?



ということで、生徒さんの「息が入っていかないな…」という最初の言葉が引っかかったので、今回は「息を吸うこと」に注目をしてレッスンを進めることにしました。


|息はどこに入るのか?

まず「息が入る」というイメージを具体的なものにするために、呼吸のしくみを確認してみます。

息って、どこに入りますか?

肺、ですか?

ですね!
ところで肺って、からだのどのあたりにあって、どのくらいの大きさなのか知っていますか?

胸のあたり。
えっと・・・上は鎖骨らへんまで?いやもうちょっと下?? 下は・・・

じゃ、ちょっと図を見て確認してみましょうか!

こうして見てみると、結構大きいですよね。
一番上は、鎖骨の上あたりまで、下もみぞおちのあたりまであります。
体の前の方だけでなく、後ろの方も背骨近くまであるんです。

実際、どのくらいの大きさなのか、自分のからだをさわって確認してみましょうか。

うわっ、確かに大きいですね!!
こんなところまで肺ってあるんですね!

両手でろっ骨の前の方と後ろ側をはさんだ状態で、息を吸ったり、吐いたりすると、どんな感じがしますか?

息を吸うとふくらんで、吐くとへこみます。
結構動くんですね!

実際、楽器を吹くときには、いつも肺に目一杯の息を取り込もうということはあまりしないかと思いますが、小さいものにたくさん詰め込んで入れようとするより、大きいものに自然とたくさん入っていくことができるのだというイメージを持っていると、自分自身は無理なく息を取り込むことができるので、まず初めに肺の大きさを確認してみました。

|肺はどうやって空気を取り入れているのか?

次に、息を吸うときに、からだの中ではどのようなことが起こっているのかを確認していきました。

そういえば、横隔膜って言葉は聞いたことはありますか?

はい、あります。

焼肉のハラミですね。私はよく本番の前にゲン担ぎで食べちゃうんですけど、
息を吸うと、横隔膜はどう動くでしょうか?

んんん…
肺がふくらむ、だから、横隔膜は下がる、ですか?

そうです、そうです!
ちょっと図でも確認してみましょうか。

え、かなり大きいんですね!

そうなんです!
肺がある部分と、腸などがある部分をへだてるようにして存在していて、
下から覗いてみるとドーム型をしており、背面まで覆っている大きな筋肉なんです。

普段は意識して動かしているわけではないですけど、
横隔膜が下がると、肺に空気が入ってふくらみ、
横隔膜が上がると、肺を押し上げて空気が出ていき
ます。

だから、吸うときはお腹を緩めていたときの方が、横隔膜が下がるスペースができるので、たくさん息が入りやすいとも考えられるんですよ。

あ、そこなんです。前にも同じようなことを言われたことがあるのですが、よく「お腹を使って吹け」とか「お腹で支えて」とか言われるじゃないですか。お腹を緩めちゃって吹けるのか、ずっとよくわからなくって・・・

「お腹を使って吹く」は決して間違いじゃないんですよ。
息を吐くときは、お腹周りの筋肉を使って、内臓をギュッとひとまとめにしてあげたら、横隔膜が下がるスペースがなくなって上に押し上げられるから、空気は上に向かって吐き出されます。でも、息を吸うときは、お腹周りの筋肉を固めていると、内臓の行き場がなくなって、大して横隔膜が下がってこれないから、ちょっと吸いにくくなることもあると思います。

ああ、そういうことだったんですね。ようやく何となく分かりました。
じゃ、息を吸ったときにお腹がふくらむ感じになるのも、肩が上がっちゃうのもいいんですか?

大丈夫ですよ。さっき触って確認してみたように、肺に息が入ったらろっ骨は広がるから、肩も動いて見えることもあります。横隔膜が下がってきたら、そこにいた内臓たちは行き場を求めて前や横に出てきますよね。どっちも動いて見えなくても吸えるし、動いていてもいいんです。

この時、ろっ骨を広げてくれる筋肉たちも、たくさんいるんです。これも、ちょっと図を見てみましょうか。

きょうさにゅうとつきん!!!
えっ、首のあたりからついてるんですね。

そうなんですよ!
だから、首のあたりが凝り固まっていると、呼吸にも影響することがあるんです。

実際に楽器を吹こうとしたとき、「息を吸うから、横隔膜を下に動かして、外肋間筋や胸鎖乳突筋のはたらきでろっ骨を動かして…」ということは、直接的に考えなくてもいいかな、と思っています。それでもこの説明を入れたのは、”自分のからだが持っている動きの可能性”を確認することで、「息をもっと深く吸いたい」という希望に近づけるかな、と思ったからです。



|アタマが動けて、からだ全体がついていく

ここで、アレクサンダー・テクニークの考えをお話ししました。

アレクサンダー・テクニークの実習レッスンといいながら、ここまで全然触れていなくてすみません。改めて、 アレクサンダー・テクニークの基本的な考え方を一緒に確認出来たらと思うのですが、よいでしょうか?

あ、はい。そういえば、そうでしたね!

いきなりですが、アタマ、というか、背骨のてっぺんって、どのあたりだと思いますか?

えっと、どのへんだろう・・・

だいたい、耳の穴の高さくらいです。
実際にてっぺんの部分を触ることはできないのですが、ちょうど「うん、うん」って軽く頷くときに少しだけ動くあたりだと思ってください。

(頷きながら)うん、うん…

電車って、先頭の車両だけ機動力があって、後ろの方の列車は先頭についていく感じで動いていくと思うんですけど、同じように、その背骨のてっぺんの部分が動けると、その下にある背骨が1個1個ついていくようにして動けることができる、と思ってみてください。

逆に、背骨のてっぺんの部分を固めて動けないようにするとどうなるか、ちょっとやってみましょうか。

まずアタマを固めて、手を上にあげてみてください。

あ・・・あげにくいです・・・

では、今度はさっき頷いていただいたときのように、アタマが動けるな~と思って、手を上にあげてみてください。

おお・・上げやすいですね。

こんな風に、アタマが自由に動ける状態にあると、全身が動きやすくなることもあるんです。

息を吸うときも同じで、ろっ骨は背骨にくっついていますから、アタマが動けて、背骨が自由に動ける状態にあると、ろっ骨も広がりやすくなって、息も吸いやすくなったりするんですよ。

なるほど!

じゃ、今までのところを振り返りつつ、楽器を吹いてみましょうか。

アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、楽器を構えて、ろっ骨も広がることができるよ、と思って息を吸って、吹いてみます。

ぽーん!!(いい音)

おお!!めっちゃ音出ますね!!

息の感じはどうでしたか?

最初に吹いていたときより、全然吸えた感じがしました!
でも、ろっ骨を意識しようと思ったら、力が入っちゃったみたいで、少し苦しく感じました。

う~ん。そうしたら、さっき見ていただいた図の、ろっ骨周りの筋肉に注目してみましょうか。
まぐろの中落ち、スプーンで掻き出すやつです。 あのあばら骨についている肉だと思ってください。そこが自由に動けて、ろっ骨を広げてくれるんです。

まず、アタマが動けて、からだ全体がついていきながら、ろっ骨の周りの筋肉たちも自由に動けるなと思って、上半身を左右にひねってみてください。

あ、結構後ろまでねじれますね。

で、動けるなと思ったら、楽器を構えて、息を吸うことを味わって、吹いてみてください。

ポーン!!!(めっちゃいい音)

すっごい吹きやすかったです!
自分にとって、ろっ骨の周りの筋肉が動ける、というイメージがちょうどはまりました!

最初におっしゃっていた「息が入らない」という感覚は、今はどうでしょうか?

だいぶいい感じです。ちょっと忘れないうちに、自分でも練習してみます。

それはよかったです!ぜひまた試してみて、何か分かったことがあったら教えてください。

本当に部屋に響く音が最初からどんどん変化していったので、改めて「奏者自身がイメージをどれだけ具体的に持って吹くか」ということの大切さを教えて頂いた気がしました。もちろん、今回は生徒さんの中に「奏でたい音」のイメージがあったからこそ、身体の使い方のアプローチと結びついて、結果にあらわれたのだと思います。

いつも、自分の中に望むことと、その答えがあって、アレクサンダー・テクニーク教師は生徒さん自身がそれに気づくお手伝いをしていく役割なのかもしれないな、ということを実感した時間となりました。


《生徒さんの感想》

1つの課題にたっぷりと時間をかけられたので、今日掴んだコツが覚えやすかったし、実践を繰り返しながら体で覚えることもできました。

息を深く吸う、その1点でレッスンしてもらえたのは、久々に楽器を吹く身としても負担が無くてよかったです。

今回は初めてだったということもあり、私が説明をする時間が長くなってしまいましたが、これからもう少し生徒さん自身が気づけたり、考えて試していけるように進めていけたらいいなと思います。

まだまだ始まったばかりなので、頑張っていきたいと思います。





…ちょうど、先日書いた記事と内容がかなり重なってしまいましたが、そこはあしからず・・・ということで。

吹奏楽部員は知っておきたい「呼吸のしくみ」

私たちが生きていく上でも、管楽器を演奏する上でも欠かせない「呼吸」。

今回は、呼吸のしくみについて、吹奏楽部員が知っておきたい「呼吸」のしくみについて、できるだけかんたんに紹介していこうと思います。

 

|息はどこに入る?

 

まず、吸った息はどこに入るでしょうか?

 

ーーーはい、答えは「肺」です。

では、肺はどのあたりにあって、どのくらいの大きさでしょうか?

 

ーーーまず、下の図を見てください。

肺は、ろっ骨に守られるようにして存在している、比較的大きな器官(臓器)です。

一番上は、鎖骨の上あたりまであり、下もみぞおちのあたりまでありまし、体の前の方だけでなく、後ろの方も背骨近くまであると考えると、かなりの大きさがあることが分かるかと思います。

ここで実際に、自分の

・鎖骨の上あたり
・みぞおちのあたり

をさわって、それぞれ場所を確認してみてください。

それから、ろっ骨全体を、じっくりさわってみましょう。

・どのくらいの幅があるかな?
・どのくらいの厚みがあるかな?
・どのくらいの硬さかな?

など、自分の肺や心臓を守ってくれている骨がどうなっているのか、じっくり観察してみましょう。そして、「この中に肺が入っているんだな~」「ここに息が取り入れられていくんだな~」ということをじっくり味わってみてください。

一人ひとり、大きさは違いますので、まずは自分のからだがどうなっているかをよく知ることも、大事だと思います。

 

では、自分の肺を十分に味わってみたところで、肺には、どこを通って空気が入っていくのかを確認しておきましょう。

まず、からだに空気を取り入れる入り口はどこでしょうか?

 

ーーー答えは、「口」と「鼻」です。

口や鼻から取り込まれた空気は、「気道」を通って肺に入っていきます。

食べ物が通る「食道」は、気道よりも後ろ(背中側)にありますので、あまり奥の方まで息を入れようと思うと、むせてしまったり、逆にうまく息を肺に送れなかったりすることもあるのかな、と思います。

 

では、空気が体から出ていく出口は、どこでしょうか?

 

ーーーはい、これもやっぱり「口」と「鼻」です。

ただし、管楽器を吹くときは、口から空気(息)を出しますね。

まれに鼻でリコーダーを吹くとか、そういう技を持っている人もいるかと思いますが、基本的には管楽器は口に当てたり、口でくわえて演奏するようにつくられていますから、口から息を吐く、という練習をするとよいかと思います。

 

 

|横隔膜と呼吸

 

では、息を吸ったり、吐いたりするときに、からだの中ではどのようなことが起きているのでしょうか?

 

ーーーそのカギを握っているのが「横隔膜(おうかくまく)」です。

横隔膜は、胸腔(肺などがある部分)と腹腔(腸などがある部分)をへだてるようにして存在しており、下から覗いてみるとドーム型をしており、背面まで覆っている大きな筋肉です。

 

しぼんだ風船と、ふくらんだ風船。どちらが中に空気がたくさん入っていますか?

ーーーそれは、ふくらんだ風船ですよね。

肺も同じで、空気がより入っているときは、ふくらんでいる状態です。
逆に、肺から空気を送り出していったら、肺はしぼんでいきます。

なので、下の図にあるように、

〇息を吸うとき
横隔膜が下がって、肺が存在できるスペースが大きくなると、肺は空気を取り入れて、ふくらむことができる

〇息を吐くとき
横隔膜が上がって、肺が存在できるスペースが小さくなると、肺から空気が出ていって、肺はしぼむ

と考えることができます。

私たちは、楽器を吹いていない時も、意識しなくても呼吸をしています。

これは、この横隔膜が意識しなくても動いてくれているからです。

でも、楽器を吹くときには、意識的に、よりダイナミックに、息を吐きだしたり、そのために吸ったりすることが必要になってきます。

では、楽器を吹くために必要な呼吸は、どのようにしてつくりだしていけばよいでしょうか?

 

 

|息を吸うときに助けてくれる筋肉たち

 

息を吸うには、より肺が広がることができるようにしてあげる必要があります。

そのためには、

・横隔膜が、できるだけ下まで下がれるようにする
・ろっ骨が広がれるようにする

ということが必要です。

 

まず、横隔膜ができるだけ下まで下がれるようにするためには、下がった先に邪魔者がいないことが必要です。

横隔膜の下には、腸などの内臓が存在しています。でも、肺や心臓がろっ骨という骨に守られているのとは違って、腸などを保護しているのは筋肉たちで、骨で頑丈に守られてはいません。

したがって、お腹の周りの筋肉がゆるんでいる状態であれば、腸などは割と自由に動くことができるので、横隔膜も思い切って下がることができます。

 

次に、ろっ骨が広がれるようにするためには、どうすればよいのかを考えてみます。

先程、じっくりさわって観察してみた「ろっ骨」。
・・・あんなに硬いものが広がるなんて、にわかには信じられませんが、広がるんです。

ちょっと、ここで一つ実験をしてみましょう。手順は以下の通りです。

  1. 右手の手のひらを胸にあてます。
  2. 左手の手の甲を背中側にあてて、両手で肺(ろっ骨)をはさむようにします。
  3. 大きく息を吸って、吐きます。
  4. このときの様子をじっくり観察してみます。

 

ーーー意外と、息を吸ったり吐いたりすることで、ろっ骨が動いていることが感じられるのではないでしょうか?

このとき、ろっ骨を広げる動きを手伝ってくれている筋肉たちを紹介します。

ろっ骨にくっついている「外肋間筋(がいろっかんきん)」や「斜角筋(しゃかくきん)」をはじめとして、鎖骨や胸骨にくっついている「胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)」などは、ろっ骨を持ち上げて、ろっ骨を広げる動きを手伝ってくれています。首あたりにある筋肉までもが、手伝ってくれているのですね。

 

 

|息を吐くときに助けてくれる筋肉たち

 

息を吸うには、より肺が縮まることができるようにしてあげる必要があります。

そのためには、

・横隔膜が、できるだけ上まで上がれるようにする
・ろっ骨が狭まるようにする

ということが必要です。

 

まず、横隔膜ができるだけ上まで上がれるようにするためには、逆に「横隔膜が下がれないようにすること」が必要です。

横隔膜の下には、腸などの内臓が、かなりの量存在しています。それを取り囲んで保護しているお腹周りの筋肉たちを総動員して、内臓が広がることができないようにギュッと集めてあげれば、横隔膜は上に押し上げられていきます。

このとき活躍してくれるのは、いわゆる腹筋運動で鍛えるような「シックスパッド」と呼ばれる「腹直筋」ではなく、腹筋の中でもわき腹や、少し深いところにある「外腹斜筋(がいふくしゃきん)」「内腹斜筋(ないふくしゃきん)」「腹横筋(ふくおうきん」と呼ばれる筋肉や、骨盤の下に張り付いている「骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)」などです。体の奥底で、内臓を押し上げ、横隔膜を押し上げてくれる筋肉たちがいるのだ、と思っておくとよいかもしれません。

同じように、ろっ骨が狭まるようにするために使われている筋肉もあります。代表的なものは、ろっ骨の間にはりついている「内肋間筋(ないろっかんきん)」です。

階段などをかけ上がったりすると、呼吸が激しくなり、肩が上下するようなことはないでしょうか?

このとき、息を吸うと肩が上に上がり、吐くと下がると思います。この下げる動きをしているのが「内肋間筋」です(ちなみに上がるときは「外肋間筋」が使われています)。

 

あと、楽器を吹こうと思って息を吐くとき、一気に勢い良く吐くだけなら上に書いたことでいいのですが、時として、長い息を少しずつ吐き続けるといったことを曲中で求められることもあると思います。

そのようなときは、一気に息を絞り出してしまうと息が足りなくなってしまうので、息を吸うときに使っていた「ろっ骨を広げる筋肉」たちに、一気にろっ骨が狭まってしまわないように、助けてもらう必要があることもあります。これも知っておくとよいかもしれないですね。

 

以上のことをざっくりまとめると、

〇息を吸うとき
・お腹を緩めておく
・肺の大きさをイメージする
・ろっ骨が前後左右上下に広がっていくのを感じる


〇息を吐くとき
・お腹まわりの筋肉を総動員する
・下から横隔膜を押し上げ、息を上に送り出すイメージを持つ

という感じになるかなと思います。

毎日、楽器を吹く前に確認しておくと、「これから楽器を吹くモード」にからだを切り替えるスイッチ代わりにもなると思うので、ぜひ試してみてください。

 

|体の軸となる骨格と呼吸の関係

ここまで呼吸のしくみについて見てきましたが、これらのからだの機能が十分にはたらくためには、からだの軸となっている部分が、自由に動ける状態にあることも必要です。

下の図は、私たちのからだを支えている「軸骨格(じくこっかく)」とよばれる部分を青色で塗っています。

これを見てみると、軸骨格には、ろっ骨が含まれていますね。

そして、ろっ骨は、脊椎(せきつい、いわゆる背骨)にくっついて存在していることも分かるかと思います。

つまり、私たちのからだを支えている軸骨格が自由に動ける状態にないと、ろっ骨も連動して固まってしまい、本来はもっと動くことができる機能を持っていたとしても、十分にその機能を果たせなくなってしまうこともあるのです。

今回は詳しく触れることはしませんが、呼吸を考えるときにも、私たちが本来持ち合わせているからだの動きの可能性を、十分に引き出せる状態にあるか、まず自分自身で確認してみてからやってみると、より自分の可能性も広がっていくのではないかな、と思います。

↓↓軸骨格についてくわしくはこちら

もしもヒトに背骨がなかったら?

 

|おわりに

このように、私たちが息を吸ったり、吐いたりするときには、体の中でたくさんの筋肉たちがはたらいてくれています。そして、それにともなうからだの動きもたくさんあります。

もちろん、楽器を演奏するときに「この筋肉を動かそう」ということばかり意識してしまい、最も大事な「どんな音楽を演奏したいか」ということが後回しになってしまったら本末転倒ですが、「自分にはこんなにたくさんの機能があるのだ」ということを知っていると、何か上手くいかないことが生じたときに、原因を突き止めたり、改善策を考えたりするときに大きなヒントになることもあると思います。

ここに書いたことは、呼吸のしくみのほんの一部です。小中学生にもわかるように、できるだけ分かりやすい言葉を使うように心がけたので、専門用語としてはあまり使われない表現もあるかと思いますが、参考にしていただけたら幸いです。

 

※文中のイラストは「イラストAC」「写真AC」「いらすとや」のものを使用させていただきました。

中学生にアレクサンダーテクニークを伝えるとしたら?《その1》

先日、Self Quest Laboの授業の中で、「結局、アレクサンダーテクニークって何ですか?」という問いかけがありました。

これまで、何度となく問いかけられてきたこの問い。
今回はこんな風に答えてみました。

ただ、答えるまでにはいろんなことが頭の中をぐるぐる回って、いろんな言葉が浮かんでは消え…という感じで、なかなか書き表すことができませんでした。

そして、授業が終わった後、改めて自分は今、アレクサンダー・テクニークをどのようなものだと捉えていて、相手にどのように伝えようとしているのだろうと、悶々とした気持ちになりました。

その中で「そういえば最近、中学生にアレクサンダーテクニークを伝えてみようとしたことがあったな」と思い出したので、今日はその振り返りをしながら、自分の考えを整理してみたいと思います。

 

|中学生、ボンちゃん(ガイコツ・5歳)に出会う。

私は中高で吹奏楽部の顧問をしています。これまでも生徒に「アレクサンダーテクニークとは何か」を伝える機会は何度となくありましたが、ついつい理科の授業っぽくなって、難しく説明してしまうという反省点がありました。

そこで、今年の新入部員の生徒たち(中学1年生)には、まず少しでも自分の身体や心とのつながりを感じ取る体験をしてほしいなと思い、次のような感じで導入をしてみました。

「今日は、うちのボンちゃん(※名前の由来はboneから)を連れてきました!ボンちゃんが痛がらないようにしてくれたら、いくらでも触っていいですよ!」


↑うちのボンちゃん(ガイコツ・5歳、身長 85 cm)

すると、最初はいきなり登場したガイコツに後ずさりしていた生徒たちも、「ボンちゃん、ボンちゃん」と面白がって、むらがってきました。

そのうち、

「こんなところも動くんだ」
「こんな体勢もとれるんだ」

といった発見をした生徒が出てきて、みんなで散々いじり倒してくれました(それを見て、私はしめしめ・・・と思っていたわけです)。

そんなやり取りをしばらく続けたところで、こう切り出してみました。

「私たちの体も、ボンちゃんみたいな構造をしていて、いろいろ動かすことができるんです。ちょっと実際にやってみましょう」

ボンちゃんを見せながら、腕を上げたり、回したり、しゃがんでみたり・・・

生徒たちも、だいぶ自分の身体の動きに興味を持ってくれたようでした。

 

|ボンちゃんは、どんなときに動きやすいのか?

一通り、自分の身体が意外とたくさん動けるのだということを確認したところで、

「わざと、首のあたりにギュッと力を入れてみてから、身体を動かしてみて下さい」

とうながしてみました。

動かすところに力を入れて固めたわけでものに、急に動かしづらくなって、困惑している生徒たち。すかさず、ボンちゃんの背骨たちを見せながら、

「背骨って、たくさんの骨が積み重なってできていて、身体の軸になっているから、背骨のてっぺんのところを動けなくしてしまうと、からだ全体が動きにくくなってしまうんですよ。逆に、背骨のてっぺんが自由に動けるよう状態だと、それに連なっている部分も動けるから、ボンちゃんは自由に動けるようになるんです。」

と伝えてみました。

 

↑青い部分は、ボンちゃんの身体の軸になっている骨たち(軸骨格)

反応は、

「ふ~~ん、そうなのか」

という感じではありましたが、とりあえず、首のあたりをギュッと固めるだけで、全身に影響が表れるのだ、ということが何となく体感できていたらそれでよいかなと。

その上で、

「背骨のてっぺんは、自分だったらどのくらいのところにあると思いますか?」

と聞いてみました。生徒たちは、だいたい首や肩あたりを指さしました。そこで、ボンちゃんの頭蓋骨を分解。

「あ~、ボンちゃんの頭がーー!」
「ボンちゃん、かわいそう」

という悲鳴も上がる中、頭蓋骨が外れたボンちゃんが露になりました。

その上で、

「背骨のてっぺんは、ちょうど耳の穴の高さくらいのところまであります。結構上まであるんだよね。そこから上が頭だと思って、頭を上下左右自由に動かして、周囲を見回してみましょう」

とふってみました。少しきょとんとした感じもありましたが、まず今回は知ってもらうことに徹しようということで、

「もし、これからちょっと身体が動かしづらいな、ちょっと緊張しているな、と思うことがあったら、このあたりが動ける状態にあるか確認してみましょう。」

という提案をして、その日は終わりました。

 

|固める動作も、必要だからできること。

・・・で、続きの話をしたいと思っていたのですが。

コンクールの練習や、新型コロナの感染拡大による部活動停止などによって、まだ残念ながら続きはできていません。なので、ここからは今の自分が伝えていけたらなと考えていることです。

[次に伝えたいなと考えていること]

  • 首を固めると、とっさに全身を硬直させて、危険から身を守ることができる。
  • 自分がどうやって動くか、自分の身体をどうやって動かすかは、その都度自分で判断して選ぶことができる。
  • まず、自分が何をやりたいか、どのようにできるようにしたいか、ということを明確にした上で、身体の使い方や、自分の思考について観察してみる。

なぜ、これらのことを伝えたいかというと、私自身がアレクサンダーテクニークを学び始めた頃、「頭が自由に動けて、からだ全体がついていく」という言葉にとらわれて、”常に頭が自由に動けていなくてはいけないんだ”という思考にはまってしまい、結果として首を痛めてしまったことがあるからです。

また、身体をより自由に動かせるようになることでできるようになることも増える半面、身体を緊張させることでできることもあります。「動けることが正解」で、「固めてしまうことは悪」というわけでは決してないはずです。今自分が置かれている状況を把握し、どのように身体を使うのがその状況においてベターなのか、常に考えることも大事なことなのだと思います。

F.M.アレクサンダーさんが発見した「頭と背骨全体の機能を邪魔していなければ、その人全体がうまくはたらく」という原理は、知っていると自分の可能性を広げてくれるものだと思います。しかし、アレクサンダーさんのいう「うまくはたらく」という状態を使って、自分が何をやろうとするのか、というところがはっきりしていないと、『型』のようなものにとらわれてしまいかねません。

だからこそ、授業の中で私は、

というように、「可能性」「選ぶ」という言葉を使うことを選択したような気がします。

最近、これだけ情報が溢れている中ではありますが、逆に限られたコミュニティの中だけの情報を鵜呑みにして、「自分なんかダメだ」と早々に諦めてしまったり、「こうしないといけないのだ」と1つの道に執着したりする生徒も増えてきているような気がします。だからこそ、「誰にでも可能性があるのだ」「いつでも自分の意思で選ぶことができるのだ」ということを伝えたいと思う気持ちが、自分の中で強まっていることも影響しているかもしれません。

このあたりのことを、中学生にどうやって伝えようかということは、またもう少し考えてみたいと思います。(きっと、《その2》につづく)

自分がどうあるかは、自分自身の手で選択することができる!

今年度もそろそろ卒業式、終業式を迎えます。

…とはいっても、こんなにも学校に行かなかったことは、幼稚園に入る前以来なのではないかというくらい、家にいる時間が長い1年間でした。

オンライン授業の期間中は、仕事とプライベートの区別をつけられずに、うっかり仕事をし続けてしまうという状況はあり、それはそれで気疲れも多かったのですが、対面授業が再開したときに、改めて感じることがありました。

それは、

学校の敷地に入った瞬間に、全身が緊張モードに入る

ということです。

その結果、夕方頃には全身バキバキでどっと疲れが出てきて、何か生み出そうとする気力もなくなることが続きました。「1日働いたのだから、それくらいは当然」「教師はそれくらいはたらいてもらわないと困る」と思われる方も多いかもしれませんが、できたら自分自身のパフォーマンスを落とさずに、何かを創造するエネルギーを持っていたいものです。

このことは前からちょっと気にはなっていて、これまでもSelf Quest Laboの授業の中で取り上げていただいたりもしていたのですが、

ありのまま自分を、安心安全の場に置いておくこと

学校から離れている時間が長かっただけに、改めて学校に入ってみたときに、それを強く感じました。

 

■楽になれるのに、どこか居心地が良くない自分

上の記事で書いているように、学校の門をくぐろうとするとき、

・頭と脊椎の関係を思い出す
・胸骨は骨盤の前にある
・頭の上にも空間がある

ということを思い出して、段々とブレーキが外れていって、本来持っている自分のエネルギーを使って、自然に構内に入るということを、普段はできるだけ心がけています。ただ、それですごく体も気持ちも楽になれる反面、何か守ってくれるものがなくて不安に感じたり、どこか居心地の悪さを感じたりすることもありました。

しかし考えてみれば、新しいことというのは、自分にとっては不慣れなことであり、時には違和感を感じることもあるものです。それだけに、これまでの習慣的な使い方より、新しい使い方のほうが良い結果を得られることを知っていたとしても、「これでいいのかな??」と不安になったり、どこか居心地の悪さを感じることもあるような気もします。

更に厄介なことは、「良い方法」を知ったことで、それが「できなかった」ときに、自分で反省会を始めてしまうことです。「なぜ、やらなかったのか」「なぜ、できなかったのか」「できなかった自分はダメだ」と自分を責め始めてしまうと、せっかく自分が望んだはずの「新しい方法」が、やらなければならない義務となってしまいます。

これまでの習慣的な使い方は、自分が意図していなかったとしても、自分にとって何か利益があるから、自然に選択してきたことでもあったりします。自分が構内に入るときに全身緊張するのも、「教師である」というスイッチを入れて、仕事モードに切り替えるための儀式として、必要なものだったのかもしれません。

そう考えてみると、もしかしたら全身を緊張させてしまう習慣も、自分自身で選んでいるのかもしれないなと。今回そんな風に思ったのです。

 

■大事なことは、「自分で選ぶ」瞬間をもつこと

FMアレクサンダーは、著書「Use of Self」の第一章「テクニークの進化」の中で、それまでの習慣とは違った、新しい使い方をしようとするとき、

  • これまでやってきたことを継続する
  • いったん立ち止まってみる
  • 新しい方法を試してみる

という3つの選択ができるということを書いています。

新しいことをやろうとしたとき、「今までやってきたことはダメだから止めよう」とか、「新しいことをやらなくてはいけない」というように、自分自身を拘束してしまうと、結果として萎縮を生み出して逆効果になることがあります。

それだけに、

本当に自分が選択したいと思っていることなのか

新しいことをやろうとするときに、一旦立ち止まって確認してみることは必要なのだと思います。

「今までやってきたことを止めよう」と考えるとつい、これまで慣れ親しんだ習慣を捨てて、自分を罰して、習慣を抑制することだけに意識が向きがちです。一方で「今、自分にとって必要なことをやってみよう」と考えてみると、やろうとすることに意識がフォーカスし、その結果、今までの習慣への意識が薄くなるという結果を生み出すことが多いように思います。

これまでやってきたことも、自分で自分を守るためにやっていたりするものだったりするかもしれません。上にも書きましたが、自分が学校に入った瞬間に身体を硬め、視界が狭くなってしまうのも、ある程度の緊張感を持つことで、「仕事をするぞ」という意識を高める儀式だったのかもしれません。

もしかしたら、その緊張感を必要としているときもあるかもしれない。

それを知った上で、毎回、校門をくぐろうとしたときに、

  • 今日は気合い入れてスイッチ入れていくか!
  • 頭が動けて、体全体がついてきて、自分のまわりにある広い空間とのつながりを感じて歩いてみよう。
  • あえて、何も考えないでいってみるか。

という選択を自分の中でしてみる機会をつくってみると、より「新しい方法」を選んだときには、自分自身にそれをやろうとする意識が強くなるように思います。

そういう意味でも、自分がこれからする行動を、自分自身で選択できるのだということを知っておくことは大事なことなのだなと思います。

その上で、自分がどういう自分でありたいか、自分が望んでいることとは何なのかを、どんなに忙しかったとしても、時々思い出してあげることで、自分にとってその時ベストな選択をしていけるのかなとも思います。

 

今、ちょっと気持ちにゆとりが出てきたこともあってか、学校に入った瞬間に、自分の周りの空間の広さや、自分自身が自由に動くことができる存在であることを思い出すことで、少し居心地が良くなる感じがしています。

授業中、ふと自分のまわりの空間のことを思い出してみると、視野が広がり、教室全体を感じることで、生徒たち一人ひとりの様子が見えてきて、結果として授業で伝えたいことが明確になってきたりすることもあります。

そんな風に過ごしていたら、自分が教員としてどうありたいかということが改めて見えてきました。

「教師である」というプレッシャーを負い続けるのではなくて、生徒と接しているときそのままに、「自分である」ということを大切に、生徒たち一人ひとりと、一人の人間として、これからも関わっていきたい。

きっとそれが、自分の今の一番の望みなのだと思います。それを実現させるためにも、

  • 今自分に何が起きているのかを観察すること
  • 次にどうしたいかを自分で選択する時間をその都度とってみること

を大事にしながら、日々を過ごしていけたらと思います。

 

“エエかっこしいアドレナリン”と上手に付き合ってみること

私は、体格の良さとしゃべりがゆっくりめであることも関係してか、人から「堂々としている」「落ち着いている」と言われることが多いのですが、頭の中はどうなっているかというと、かなり高速回転してパニックになっていることも少なくありません。

例えば大勢の人前でしゃべる時。

今でこそ、毎日40人くらいの生徒を前にして授業をしているのでだいぶ慣れてはきましたが、もともとは人前でしゃべるのはとても苦手です。心臓はバクバクになるし、言おうとしている言葉は真っ白になるし、自分でも何を言っているのか分からなくなってしまうことは、日常茶飯事です(特にアドリブでコメントを求められるなどは非常に苦手です)。

このように、緊張することによって、自分の思うようにいかないという経験は、誰にでも起こることだと思います。今日は、自分がどのような時にパニックに陥りやすいのか、その時どのようなことを考えていて、からだの動きはどうなっているのか、ということを思い出しながら、緊張したときに、どのように対処できるのかを考えてみたいと思います。

 

|「本番になるとうまくいかない」のはなぜか?

楽器を始めてからこれまでの本番を思い返してみた時、「一番調子よく吹けたのはどんな時だろう?」と考えてみると、圧倒的に多いのは“ステージリハーサル”の時です。お客さんの入っていないホールはより響きますし、適度な緊張感で気持ちよく吹くことができるので、ステージリハーサルは結構良い思い出が多いです。

しかし本番はというと、今まで当たり前のようにできていたことができなくなったり、頭が真っ白になって譜面の段を飛ばして読んだり、全員休符のところで一人飛び出したり、全然音が出なくなってしまったり・・・と、悲しい記憶がたくさんよみがえってきます。ステージリハーサルが良かっただけに、余計にそう思うのだと思いますが、こんなことばかり繰り返されたために、いつの間にか「本番恐怖症」に陥り、「ずっと練習だったらいいのに」とさえ思う人間に育ってしまいました。

では、リハーサルと本番の違いは何なのでしょうか?

・・・もちろん、お客様がいるかどうか、ということが一番の違いです。

でも、決してお客様に妨害されたとか、脅されたとかいうことはありません。なぜこのお客様の存在があるかないかだけで、状況が変わってしまったのでしょう。本番の時の自分にはどのようなことが起こっているのでしょうか?

・・・恐らく「失敗したくない」という感情が、通常モードよりも強くなっていたのではないかと思います。

それでは、なぜ「失敗したくない」という感情は、本番でより強くなるのでしょうか?

・・・その根底には「自分のことを良く見せたい」「頑張ってきた成果を人に認めてもらいたい」「ミスを責められたくない(怒られたくない)」といった、“人にどう思われる(評価される)かが心配”という思いが強くはたらいているように思います。

 

もちろん、今までやってきたことが出し切れて、失敗することなく本番を終えることができたら気持ち良いものです。でも、本番の目的が「失敗しないこと」「怒られないこと」になってしまっては、「失敗しないように」「怒られないように」と自分の思考や行動を制限する方向に、自分の手で自分自身を誘導することになってしまいかねません。

自分の場合、この思考のもとに、本番での緊張と失敗を繰り返すことで、より「失敗しないように」「怒られないように」という思考が強まり、本番恐怖症から抜け出せなくなっていったのだと思います。

 

|「失敗しないように」は自分を守るための習慣だった

とはいっても、「失敗しないように」「怒られないように」という気持ちそのものは否定する必要はないかなと思います。それはきっと、失敗をしたことで、自分自身が嫌な思いをしたり、怒られて辛かったりといった経験を重ねてきたからこそ生じたものであり、自分を守るために生まれたものだと思うからです。

先日のブログにも書きましたが、日本ではどうしても「ダメ出し」「反省会」が正義とされる風潮があるように思います。私自身も思い当たる節がたくさんありますが、部活でもテストでも失敗したことが責められ、「失敗しないように」と言われることも多いように感じます。それに加え、そもそも人間には多かれ少なかれ承認欲求がありますから、人から認められないということが起こると、”村八分”にされたかのような気持ちになることもあるようにも思います。

こうした環境の中で、失敗して嫌な思いをするという経験を繰り返すうちに、「本番とは失敗しないようにするものであるべきだ」と考える「習慣」が出来上がってしまっただけで、決してこれが一生変えることのできない運命ではありません。

国語辞書(デジタル大辞泉 [小学館])に、「習慣」について次のような記述がありました。

  1. 長い間繰り返し行ううちに、そうするのがきまりのようになったこと。

  2. その国やその地方の人々のあいだで、普通に行われる物事のやり方。社会的なしきたり。ならわし。慣習。

  3.  心理学で、学習によって後天的に獲得され、反復によって固定化された個人の行動様式。

生まれたての赤ちゃんは、大勢の人がいるから怖いと感じることはあるかもしれませんが、「本番とは失敗しないようにするものであるべきだ」ということは恐らく思っていないはずです。

「習慣」とは、あくまで後天的なもので、経験などによって学習し、繰り返す中で自分の中で定着した思考や行動を指すのです。

ということは、さらに後天的なものとして、本番に向き合うときの新しい習慣をつくって、そちらを意図的に選んでいけるように練習を積んでいったら、また別の向き合い方ができるという可能性が誰にでもあると言えるわけです。

もちろん積み重ねてきた経験が強固なものであるほど、習慣も強固なものになっていますから、そう簡単に新しい習慣に切り替えられるものではありません。でも「新しい習慣も身につけることができるんだ」ということを知るだけでも自分にとっては大きかったですし、本気で身につけたいと思ったらできる可能性があるのだと自分自身を信じてあげることも、より生きやすい環境を自分でつくることにつながるのではないかなと思います。

 

|“エエかっこしいアドレナリン”が発動し始めたら?

では、どうやって新しい習慣をつくりだしていけばよいのでしょうか?

私の中で「失敗したくない」「ちゃんとしなきゃいけない」と思う場面の一つに、レッスンがあります。教えて頂いている先生は、じっくり音を聴いて起きていることを観察し、私が一人で練習できるためのヒントを一緒に考えてくださる方で、決して一方的にミスを責めたり、理不尽に怒ったりすることは全くないのですが、どうしても自分の中で培われてきたものが大きすぎて、毎回最初に音を出す時は硬くなってしまって、ボロボロになりがちです。

そこで、レッスンを想定して、ケースから楽器を出すところから始めて、音を出してみるというところまでで、どのようなことが起きるのか実験をしてみました。

 

まず、ケースに手を触れてみます。

・・・すでに、何だか尋常じゃない心臓のバクバク感を感じます。

ケースを開けて、楽器を手にしようとすると、

・・・脳内がこれでもかってくらい活性化し始めます。

楽器を取り出して、両手で持って、譜面に目をやると、

・・・どのタイミングで始めようか、息はどうやって吸うんだっけか、どんな曲だったかイメージがぶっとんできた、、というようにもはやパニック状態。

とりあえず頭にこれから吹こうとする音楽を流してみて、楽器を構えてみます。

・・・あれ、トランペットってどうやって吹くんだっけ?でも、もう構えちゃったし、吹かなきゃ、、とさらにパニック状態。

そんな感じで勢いに任せて吹いてしまうものだから、何だかよくわからない状態で、曲にも乗れていないし、音も響きがないし、「あぁ、またやってしまった」という状況になりました。

 

それを、アレクサンダーテクニークの学校であるSelf Quest Laboの授業の時に相談したところ、「それは“間違えてはいけない神様のささやき”と“エエかっこしいアドレナリンの発動”ですよ」とのアドバイスをいただきました。

トランペットの先生にも「自分が確実にできるテンポで、流れを大切に、イメージを明確に持って目一杯表現をしてみましょう」とよく言われるわけですが、確かにちょっと”エエ格好”をしようと、背伸びをしていたところがあるなということに改めて気づきました。

必要以上に自分を卑下することはないものの、今の自分ができることには限度はあります。自分は自分。それ以上でも以下でもない。そのありのままの自分が、今できる精一杯のことを自分のペースでやってみることでしかないのだなと。

 

楽器を手にしようとして、脳内が活性化しはじめたら、

・・・一呼吸おいて、ゆっくり自分のペースを思い出して、まずはなるがまま自然に任せてみる。

もし、出てきた音がイメージしていたものでなかったり、何だかうまくいかないなと思ったら、

・・・いったん脳内をリセットして、自分が望む方向に向かうために、いろいろ試し始めてみる。「こんなはずじゃ」とパニックに陥るのではなくて、自分の引き出しを増やしてくれるかもしれない実験を楽しんでみる。

 

そのためには、まずこれから演奏しようとする音楽が明確にイメージできることが必要です。その時、もちろん理想形も頭の中にあることは大切ですが、今の自分ができることと乖離しすぎていると、頭でやろうとしていることを実行するための技術が追いついていかずに、崩壊しかねません。

・・・だからこその個人練習なのだと。

個人練習で自分が理想とするものに近づくためにどうしたらよいかを実験し、修正を加え、さらに実験をしていく。そうしてできてきたありのままものをレッスンで聴いてていただき、さらに理想に近づくために自分では分からなかったことや気づけなかったこと、練習方法などのヒントをもらい、再度自分で実験する時間をとってみる。その繰り返しの中で、上達があるように思います。

“エエかっこしいアドレナリン”は、上達したい、理想に近づきたいという前向きな思いの表れでもあります。だからこそ、“エエかっこしいアドレナリン”を抑え込むのではなくて、出てきた結果を素直に受け止めて、今自分ができることをその場その場で一生懸命考え、少しでも”エエかっこしい”な自分が満足してくれる状態に近づけるように実験を重ねていくことなのかなと思います。

 

|「目的」と「目標」をクリアにしておくこと

「目的」は最終的に成し遂げようと目指す到達点を、「目標」は目的を達成するために設けた具体的な手段という意味だといわれます。

本来「できなかった」という反省は、必ず「そもそも何を実現させたいのか」ということを軸において、「どうやったらできるようになるか」「できるようにするには何が必要か」とセットで考えるようにするべきです。

しかし、目的が明確に定まらない中で反省ばかりを繰り返し、目標が「失敗しないこと」になってしまっているがために、なかなか思うように力を発揮することができないことは、自分自身についても、生徒たちを見ていても多々あります。

本番やレッスンでのパニックは、「自分はどんな風に音楽を奏でたいのか」という目的と、「そのために今何をするべきなのか」という目標が明確になることで、だいぶ防ぐことができるようになると思います。

冒頭に書いた「大勢の人の前でしゃべる」ときに起こるパニックも、授業ではあまり起こらないのは、「この内容を理解してもらう」という目的が明確で、「そのためにこんな授業を展開する」「生徒の反応がいまいちだったら、プランAからプランBに切り替えればいい」という目標が、下準備と経験によってクリアになっているからだと思います。

それでも、不測の事態は当然起こるものだと思って、「必ずこうでなければならない」という思考から抜け出して、「その場その場で考えて、その時に自分にできることをすればいい」と少しゆるやかにとらえていると、もっとどっしりと構えられるようになるのかな、と思ったりします。

楽器を持つと”エエかっこしいアドレナリン”が発動するという習慣は、まだまだ根強いですが、毎回楽器に触れるたびに起こることを観察して、うまく付き合っていきたいものです。