ロングトーン=「長い音」?

吹奏楽をやっていると、「ロングトーンは大切」「ロングトーンをおこたっていると、実力が落ちる」と言われることがよくあります。

以前、『笑ってコラえて』というテレビ番組で放送されていた「吹奏楽の旅」(全国の吹奏楽部を半年間取材して全国大会への挑戦をドキュメンタリー風にまとめた企画)でも、「ロングトーンは基本中の基本」と自信げに答えていた子が、オーディションに落ちてしまった後で、その原因は「最近ロングトーン不足でした」と言って悔しがる場面がありました。そのくらい、日ごろからロングトーンの練習を重ねることは、楽器を演奏する上での土台となると考えられていますし、ひたすらロングトーンをやった記憶のある(元)吹奏楽部員は多いかと思います。

しかし、基本中の基本であると言われながら、実際には“意味のあるロングトーン練習”ができていないこともあるように思います。ということで、今日はロングトーンについてつぶやいていこうと思います。

 

ロングトーン=「長い音」?

ロングトーン(Long Tone)。日本語に訳そうとしたら、どんな意味になるでしょうか?

私たちが真っ先に思い浮かぶのは「長い音」という訳だと思います。それは、先輩から習ったロングトーンの練習や「ロングトーン」とタイトルのついている教本の譜面が、4拍、8拍、12拍…といったように長い音符で書かれていることが多いからだと思います。このイメージから、「ただ長い音を伸ばす」ことが「ロングトーン」になっていることも少なくないように感じます。

では、どのように訳していくのが適当なのでしょうか。“Long” は「長い」と訳することにして、“Tone” にはどのような意味があるのか、英和辞典で調べてみました。

ランダムハウス英和大辞典によると、

  1. (特定の音質・高低・強弱・音源などを持つ)音
  2. 音質、音色
  3. 声、声音
  4. 口調、語調、語気
  5. (個人、民族、地域などに特有な)話し方、発音の仕方、なまり
  6. (単語の音節における)声の強め、強勢
  7. 〔言語〕(1)声調、トーン:中国語などで、他の点では同じ音形を持つ2つの語を区別する音節の高低または高低変化(2)音調:発話の意味や機能に影響を与える音節の高低変化
  8. 〔音楽〕トーン。(1)楽音:一定の音高をもち、部分音と呼ばれる数個の比較的単純な要素で構成される音;部分音は基音と呼ばれる最低音と倍音または上音と呼ばれるその他の音に分けられる。(2)長2度音程:2つの半音に等しい音程;全音程(3)教会旋法、グレゴリオ聖歌調朗唱(定式):グレゴリオ聖歌や詩篇を歌うときの9種の旋法の一つ。
  9. 色調、調子(色相の寒・暖。色価の明・暗、彩度の高・低など);色合い、色相
  10. 〔芸術〕トーン、色調:色彩とバルール[色価、明暗の度合い]の調和による画面全体の効果。
  11. 〔生理〕(1)緊張:体の器官・組織の正常な緊張[反応]状態(2)正常:体の組織・器官が健全に働いている状態(3)正調:刺激に対する正常な感受性
  12. 正常な精神状態
  13. 気分;気質、性質、性格
  14. (談話・書き物の)調子、スタイル
  15. (風俗・道徳・思想などの)風潮、傾向、気配;市況
  16. 風格、品格、格式、気品、上品さ

というように、実にたくさんの意味を持って訳すことができる言葉だということがわかります。もちろん「どう訳するのが正しい」とか、「どの言葉にこだわるべきか」ということはありませんが、これらの意味を利用しながら、音楽づくりに活かせる「長い音」のイメージをもう少しふくらませてみたいと思います。

 

ロングトーンは、ただ「長い音」を伸ばすための練習ではない!

ロングトーンの練習のとき、「音が揺れないように、まっすぐ伸ばしなさい」と言われたことはないでしょうか?

確かに「音が揺れないように、まっすぐ伸ばす」という指示自体が間違いというわけではないとは思います。恐らくその主旨としては、「いい響きの音を、安定して響かせることをいつも意識してほしい」であったり、「一人ひとりが全体で調和した音をイメージしながら吹いてほしい」というところであったりすると思うからです。

でも「音が揺れないように、まっすぐ伸ばす」ということを意識しすぎるあまり、ロングトーンの練習が、チューナーを目の前において、チューナーのメーターがずっと真ん中を指し続けるように、必死になってまっすぐ音を伸ばす練習になってしまっているなどということはないでしょうか?そしてその結果、必要以上にアンブシュアを固定したり、体を固めたり、音色や音の響き・息の流れが犠牲になってしまうこともあるような気がします。

そうやって“無理やり真っすぐ伸ばした音”は、果たして音楽的だと言えるでしょうか?

ただ“長い音をまっすぐ伸ばす練習”という意識でロングトーンを毎日やって、効果があると言えるでしょうか?

最近では、KORGから「TM-50TR」という“ピッチだけでなく、音量、音色の明るさ、そしてそれらの安定度を測れる”という機能をうたったチューナーが発売されました。道具は使いようだと思うのですが、より機械的に安定した音を求める傾向は強くなっているのかなと感じます。

KORG「TM-50TR」 http://www.korg.com/jp/products/tuners/tm_50tr/

いろんな要素を数値化・可視化することは、使い方によっては便利なのだと思いますし、この製品を否定する気はありませんが、さらにメーターに頼りきりになって「聴く」「感じる」ということがないがしろになってしまったら、怖いことだなと思います。

ましてや、ロングトーンの練習が「機械に合わせる」練習に特化してしまったら…

実に恐ろしいなと思います。

 

ロングトーンは、自分の目的によって練習効果が変わるもの

前述のとおり、”Tone” という単語には様々な意味合いが含まれています。もちろん「音」という意味もありますが、「音質」「音色」「発音の仕方」「色調」「性格」「最低音と倍音」などの意味もあったかと思います。

そのように考えると、ロングトーンの練習をするときには、自分がどのようなことを目的にするかによって、その意味合いも練習効果も変わってくるように思います。例えば、

  • あたたかい音色で響かせてみよう
  • 明るく鋭い音を鳴らしてみよう
  • 音の頭をはっきり発音して、クリアに聴こえるようにしよう
  • 周りの音と調和するように吹いてみよう
  • 倍音を感じながら、響きをつくってみよう

など、同じロングトーンの練習でも、意識次第で全然異なる練習になるように思います。

逆に、これらの目的意識を持たずに、ただ根性だけで「長く伸ばすんだ!」という練習になってしまうと、先に述べたように体の力みを生じたり、音色や響きが犠牲になったりと、せっかくの練習がプラスどころかマイナスになってしまいます。

ロングトーンの練習は、じっくりやると時間もかかるものです。だからこそ、意味を考えずにやっても時間の無駄です。どのような練習でも同じだとは思いますが、ただのルーティンワークになってしまい惰性でやるくらいなら、“やらない方がマシ”になってしまうこともあるも思います。

 

「ロングトーン”の”練習」を辞めて、「ロングトーン”で”練習する」

どのような練習でも、自分が意味を持って取り組み、やってみてどうだったかを評価し、次につなげていくことができれば効果のある練習にすることができると思います。ロングトーンの練習でも、「これがいい」という決まりはないと思います。

ただ最近レッスンを受けたりしていて、「ロングトーン(ための)練習」ではなくて、「ロングトーン(確認する)練習」に思考を切り替えてみると、練習が非常に効果的になると感じています。

響きにくい音があったり、発音が上手くできなかったりしたときに、一つの音だけを抜き出して、どうしたら良い響きで吹けるのかを探求してみること。そうやって、一つひとつの音にこだわりを持って丁寧に確認していくには、ロングトーンで練習することは有効的だと思います。

 

まとめ

このように考えていくと、「ロングトーン」と一口に言っても、実に奥深いものだなと思います。だからこそ、演奏をする上での基本、土台と言われるのかもしれません。

ただ「やれと言われるからやる」というのではなく、自分にとって意味のある練習として取り入れて、一人ひとりが音づくり、音楽づくりに積極的に参加していくことはどのような練習でも大事なことです。ロングトーンも「大事だから」という理由でただこなすのではなく、奏でたい音楽を実現してくための一つの手段として、何のためにやるのか、何に気を付けてやるのかを考えながら取り組んでいけたらと思います。

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ロングトーン=「長い音」?” への1件のコメント

  1. ピンバック: その練習、マンネリになってませんか?! | とあるラッパ吹きのつぶやき

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