演奏会でのマナーを考える。

毎年のことですが、吹奏楽コンクールの時期になると「客席でのマナー」がSNS上では話題になります。今年も多くの方が言及されていましたが、今日は改めてこの問題について考えてみたいと思います。

 

吹奏楽コンクール会場での現状

今年、吹奏楽コンクール地区大会で、会場係のお手伝い(とはいっても、役員補助の高校生がとてもしっかりしていて、自分はほとんどお役に立てなかったのですが…)をする機会がありました。

会場係を担当するにあたって、事前の打ち合わせでは主に次のような確認がありました。

  • 携帯電話やスマートフォンを使っている方がいらしたら、「電源を切る」ようにお願いする。
  • 撮影、録音、録画をしている方がいらしたら、やめていただくように声をかける。
  • 荷物で座席を確保している状況があまりにも酷かったら、一声かける。
  • 混み合ってきたら、詰めて座っていただくようにお願いする。
  • 私語など態度が酷い場合には注意する。

このうち、上の4点については客席へのアナウンスで何度も流していますし、事前のコンクール説明会でも部員や保護者には徹底してほしいと顧問に伝達はあるのですが、実際に演奏が始まって客席を巡回していると、残念ながら注意しなくてはいけない対象のお客様がたくさんいらっしゃいました。

それでも私が声をかけた方は、みなさん「あ、すみません」と言って、すぐに電源を切ってくださったのですが、終了後、他の先生方や高校生の中からは次のような声が上がっていました。

  • 何度もスマートフォンを操作していた女性を注意したところ、「今電源を切るところだった」と強い口調で言われた。
  • 高齢の男性が携帯を使っていたので注意したところ、「うるさいな」と逆ギレされた。
  • 録音していたと思われる人がいたので注意したら逃げられた。
  • ある学校の生徒がずっと私語が止まらなかったので、学校名を聞いて顧問に伝えた。

この他にも、少なからず注意をした先生や高校生が嫌な思いをした事例があったようでした。

もちろん、多くの方がマナーを守って鑑賞しているのも事実です。しかし、出演生徒以外で客席にいるのは、恐らく自分の子どもや孫、後輩が頑張っている姿を観に来た方であったり、吹奏楽ファンの方だったりするのだと思いますが、マナーを守っていないばかりか、注意をした人に嫌な思いをさせるということが起こっているのは、本当に残念な話です。特に、役員補助の仕事を責任をもって頑張ってくれている高校生にまで罵声を浴びせてしまう大人がいるのは、本当に悲しいことですし、もし自分の子どもや孫だったら、同じような言葉をかけていたのだろうかと思うと、とても残念な気持ちになります。

マナーを守れていない人の立場からすれば、「このくらいでいちいち目くじらたてなくても」「バレなきゃいいだろ」くらいの軽い気持ちなのかもしれません。自分が注意されるようなことをしているとしても、注意されることは気持ちのいいものではないですし、ましてや年下から注意されることは屈辱に感じるのかもしれません。

しかし、「マナー」というものは理由があって存在するものです。ただ決まりだから守らせようとしているわけではありません。もちろん様々な理由が組み合わさっているものもあるので一概には言えませんが、私自身が大切にしていることを次で述べたいと思います。

 

マナーが守れていないと何が起きるのか?

私が大学生の時、所属していたオーケストラの定期演奏会で、演奏中にお客様の携帯の着信音が鳴るということがありました。

実際の音源 ↓ (青山学院管弦楽団第74回定期演奏会/歌劇『ナブッコ』序曲 より)

※00:10頃から5秒間ほど、携帯電話の「ピピピピピ…」という音が聞こえます。

私はこの曲に乗っており、中盤にはソロも控えていて、舞台上ではかなり緊張していました。問題の箇所は曲の冒頭部分で、トランペットが出てくる数小節前であり、曲に集中しようと意識を高めている最中でした。

しかし、この音です。携帯が鳴ったお客様も動揺したのだと思いますが、慌てて座席を立ち、客席の階段をかけ上ってホールの外に出られました。実際に録音された音を聴くとほんの一瞬の出来事なのですが、舞台上にいた自分にとっては、その時間はとても長いものに思われましたし、「え、なになに?!何が起こったの?!携帯??え、お客さん出て行くし」くらいには動揺していたので、それまで高めていた集中力は完全に切れてしまいました。

その後、気を入れ直して演奏に集中することはでき、大きなミスもすることはありませんでしたが、本番中に演奏以外の音が聴こえてくることが、いかに演奏者の集中力を欠くものになるのか、その時に改めて痛感しました。

 

また、これは意図的なものではないので仕方ないことではあるのですが、教員になってから、アンサンブルコンテストの本番で、自分の学校の生徒が演奏中に誤って非常ベルが鳴り出し、演奏が中断されるというアクシデントがあったこともあります。

演奏が中断され、舞台上で泣き始める生徒。慌ててメインの顧問の生徒が「顧問です!」と名乗り出て舞台上に駆け上がり、泣き崩れる生徒を落ち着かせていました。後で最初から再演奏をさせてもらうことはでき、生徒たちは気丈にも最後まで立派に演奏していましたが、ずっと前からこの本番に向けて調整してきた生徒たちにとっては、悔いの残るところもあったのではないかと今でも思うことがあります。

それだけ、演奏中の雑音というものは、演奏者にとっては敵なのです。

 

演奏者にとって本番というものは、自分がそれまで準備してきたものを出し切って、お客様に自分のできる最高の演奏をお届けするための大切な場所です。それだけ気持ちもナイーブになっていることもありますし、かなりの集中力をもって舞台に上がってきているはずです。

自分が客として聴きに行った中でも、プロオケの演奏会で携帯の着信メロディが鳴り出して会場がざわつき、中には怒りだす人もいて、演奏を聞くことに集中できなくなり、せっかくの素晴らしい演奏の記憶よりも、その居心地の悪さの方が残ってしまったこともあります。

このように、不意の事故は仕方がないにしても、誰かがマナーを守らなかったがために、演奏者にとってもお客様にとっても後味の悪い演奏会になってしまうことは、とても残念なことです。それがもっと全体に浸透するといいのになと心から思います。

 

 

携帯・スマホの電源はなぜ切る必要があるのか?

これまでのところ、「音」に着目してマナーについてつぶやいてきました。これだけでは、「音が鳴らなければ迷惑は掛からないはず」と感じる方も多いはずです。

ならば、「サイレントモード」や「機内モード」にすればいいのでしょうか?

答えは「No」です。アラームがOFFになっていれば、「サイレントモード」や「機内モード」にしていれば音が鳴ることはまずないかと思います。しかし、それでも電源を切ってほしいと伝えているのは、「音」以外にも理由があるからです。

1つは、「光」です。

携帯・スマホを使う時には、画面が光ります。演奏会中は客席が暗転していることが多いですから、客席が光っていると、舞台上から見た時には、やはり気になるものです。もちろん、携帯をカバンの中などにしまって使わないでくれていれば光ることもないわけですが、時間の確認など、通話やメールなど以外の用途でも携帯を使う人が多いことを考えると、電源を切ってもらうことが確実だと言えます。

2つ目は、「録音・撮影の防止」です。

最近はスマホでもかなり高機能の録音、撮影ができるようになりました。日常生活の中でも手軽にスマホで写真や動画の撮影をする人が増えてきていると思います。特にSNSが普及してからは、その傾向には拍車がかかってきているようにも感じます。

録音に関しては、著作権が絡んでいることが多いです。その録音が出回ってしまったら、それを商売にしている人たちに被害が及びます。CDなどが売れなくなってしまい、本当に必要なものが手に入らなくなることもあるでしょう。撮影に関しては、肖像権の問題があります。特にコンクールでは未成年の子どもたちが撮影対象になりうることも考えると、慎重に考えるべきです。

いずれも主催者側が許可している場合もありますが、基本的には許可した業者だけが録音・撮影をしてもよいというのが一般的だと思います。

 

この他にも様々な理由があるとは思いますが、根本にあるのは「演奏者もお客様も、そのステージに集中して、心から楽しかったと思える時間にしたい」という思いです。

先日、フェスタサマーミューザというイベントで東京交響楽団の演奏会に行ってきたのですが、そこで頂いたパンフレットにとても分かりやすい説明が載っていました。

夏のイベントということで、普段はクラシック音楽の演奏会に来ない方々もいるだろうということから、丁寧に分かりやすく書かれているのだと思いますが、これらのことが、当たり前のマナーとして、演奏会場に足を運ぶ一人ひとりが意味を理解して事項できると良いなと思いました。

 

演奏会のマナーというものは、親や先生だったり、学校の鑑賞教室だったり、場内アナウンスだったり、様々なところから学ぶことはありますが、小さい頃からの経験の積み重ねによるところも大きいような気がします。まずは大人が横柄にならず、その場にいる人たちがみんな気分を害することなく過ごせる環境を意識したいように思います。子どもたちに注意される大人、カッコ悪いですよね。。。

自分も気をつけます。。。

 

新しいコンサートの在り方

以上に書いたことが、私の中での演奏会でのマナーの基本的な考え方ですが、必ずしもそうとは限らない演奏会もあったので、最後に少しふれておきたいと思います。

それは、以前卒業生が出演するというので聴きに行った、「ニコニコサウンズインブラス」というニコニコ動画の曲を演奏する吹奏楽団の演奏会です。

まず最初のアナウンスでびっくりした自分の当時のつぶやきがこれです。

「サイリウムあり、出入り自由、声出し&SNS推奨」という吹奏楽の演奏会というのは初めてだったので、度肝を抜かされました。

でも観客も盛り上がっていたし、本番中にもかかわらず舞台裏にいるスタッフと客席がTwitterでつながっていたり、これまでにはない演奏会の楽しみ方で、これも面白い取り組みだなと思いました。

 

また時折、「子どもの声や赤ちゃんの泣き声がうるさくて…」という話を耳にすることもありますが、初めからそれは想定内として開いている演奏会も増えてきました。

私が所属しているオケであるレッジェーロフィルハーモニー管弦楽団は子育て世代も多いので、練習にも子どもたちが一緒に来ますし、できるだけ小さな子どもたちにも生演奏をと、未就学児の入場も推進しています。

私自身、幼い頃に演奏会場で騒いで、親にこっぴどく叱られた記憶もありますが、小さい頃から生の音楽に触れるという経験は今も役立っていると思いますし、感受性が豊かな子どもたちにこそ、生の音楽にたくさん触れてほしいという思いはあります。

お客様のアンケートを読むと毎年賛否ありますが、個人的にはこれからも続けていけたらいいのではないかと考えています。

 

“ライブ=生の演奏会”で何を大切にするのかは、主催者の意図にもよります。これまでに言われてきた基本的なマナーを守りつつ、何か新しい試みをする人たちが現れてもいいのかなと。

しかしいずれにせよ、その場で大切にしたいと言われていることを、その場にいるみんなで守っていけることが、何よりも大切です。それだけは忘れずにいたいものです。

iQiPlus

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。