楽譜という設計図を、どんな建物に仕上げていくかは自分次第

最近、久々にソロ曲を練習しています。短い曲ではありますが、譜面を見ていると実に奥深くて、一つのフレーズをどうやって表現するのか、いろいろな可能性が見えてきて面白いなと思いながら吹いているところです。吹奏楽で指揮をしたり、オーケストラで演奏したりするときにも考えることではありますが、自分一人で演奏する分、自由に思いを発揮できる場のような気がして、もっと自分の内面と音楽の持つ力を結び付けて演奏したいなという思いが強く湧いてきています。今日はそんな気持ちから考えたことをつぶやいていこうかと思います。
楽譜という設計図があっても、それをどう組み立てていくかは自分次第です。
例えば、同じ間取りの部屋であっても、どこにどんなものを置くか、色合いはどうするかは人それぞれです。初めは何もなかった空間が、そこに住んでいる人の暮らしに染まって個性のある部屋になっていくのと同じように、同じ譜面を演奏するにしても、奏者が演奏や研究を重ねていくうちに表現が練れて、その人にしか出せない味わいを出していくような気がします。
もちろん、建物を建てるときには設計図を緻密に描き、精密に工事をして傾かないように、崩れないように建築することが必要です。頭の中で描いたイメージ図だけで、丈夫な建物が建つことはありません。音楽でも同じことです。楽譜という設計図があって、それを無視して自分のイメージだけで演奏してしまっては、作曲者の意図したこととは全く異なる演奏になってしまうこともあるでしょうし、何よりその曲が持つ力を十分に引き出すことができなくなってしまうこともあるでしょう。まず楽譜を読み込んで、正確に演奏することを追求していくことは必要不可欠なことだと思います。
しかし、正確さを求めつつも、自分で「こうしたい」と思う意思がなければ、殺風景な演奏になってしまうような気がします。
例えば、「ここはpと書いてあるから”弱く”演奏しよう」というだけでは、ただ音量や音色の変化をつけるにとどまってしまいかねません。同じ”p”であっても、「やさしい感じで」「遠くで鳴っているように」「やり切れない気持ちを我慢するように」など、様々な状況が考えられます。そこまでイメージして初めて、”p”はただの記号から、音楽を表現するための記号に生まれ変わるのだと思います。
そういったイメージを広げていくためには、いろんな人からヒントをもらうことも大切なことです。自分では気づくことができなかったり、考えもつかなかったりしたようなアイディアが音楽表現をより豊かにすることもあります。自分の殻の中だけに閉じこもっていては決してたどりつくことができない音楽にめぐり合うことができることもあると思います。
でも、ただ言われたままにやっても、それはただ綺麗なモデルルームに仕上がるだけになってしまいます。モデルルームは確かに見栄えも良いですし、「こんなところに住んでみたいな」と思わせる魅力もあると思います。しかし、どこか生活のニオイが感じられなかったり、自分とは結びつかない遠くの存在に思えたりする部分もあるような気がします。そのように考えると、モデルルームに憧れを持ちながらも、自分の暮らしやすい空間につくりかえていく作業も大切なことのように思います。
音楽を奏でようとするときには、楽譜という設計図をできるだけ正確に再現しようとすることも必要です。その上で、できあがっていく音楽をどう色づけていくのか、一人ひとりがイメージを明確にもっていくことも必要です。そしてそれを実現するための手段を身につけていくことも必要なことです。
よく「技術に走りすぎるのはよくない」という話も耳にしますが、技術も絶対に必要です。ただ思うのは、技術を高めるために技術を磨いていくのではなくて、音楽を表現するために技術を磨いていくというアプローチをしていった方がいいのかなと。両者は似ているようで、目的が異なります。ただ技術を高めるだけでは、ただのテクニック自慢に陥ってしまうこともあるでしょうし(それはそれでありですが)、音楽性が高くてもテクニックがなければ、聴かせる音楽を生み出すことはできません。
「こう表現したい」というものが自分の中に生まれた時、それを表現するために必要な技術が必要だということに気づくはずです。表現するための気持ちも、技術を高めていくこともどちらも不可欠なことです。どちらかに偏ってしまうことなく、やりたい音楽のために必要なことを模索していきたいところです。
どんなときも、どんな音楽を奏でようとするときも、たとえそれが基礎練習だったとしても、自分自身が感じたことや湧き上がってくる想いをどう表現するのか、しっかり分析して臨みたいところです。そして、心の中にある音楽を表現するために必要な技術を磨くべく、楽しく練習を重ねていきたいものです。

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