唇を壊してしまったラッパ吹きは辞めるしかない、わけではない!

先日、大学の後輩から「唇を壊してしまったようなのですが、何か知っていることがあったら教えてください」という連絡をもらいました。

これまでも何度かブログに書いてきましたが、私自身も小学校でラッパを始めて以来、唇を壊して音が出なくなったり、顔面麻痺になって音が出なくなったり、幾度となく「もうラッパを吹くのは諦めた方がよいのではないか…」と思ったことがあります。

でも、めげずに今もラッパを吹き続けることができています。

どうやって危機を乗り越え、復活できたのか。

よく考えてみたら今まできちんとは書いてこなかったので、思い出しながら書いていこうと思います。あくまで自分の体験談ですし、必ずどんな人にも当てはまるということではないと思いますが、今少しでも悩んでいる方のお役に立てたら幸いです。

①力任せで吹き続けているとどうなるか
私の小学校は週に2回、1日50分のクラブ活動(トランペット鼓隊)で、練習内容はほとんど曲の合奏でした。今思うと恐ろしいのですが、ウォームアップの方法や基礎練の仕方など全然知らず、本当に我流で目の前の譜面をこなしていくという活動でした。

しかもパート分けは4年生が3rd、5年生が2nd、6年生が1stというものでしたから、学年の人数によってはパートに大きな偏りが生じることもしばしばでした。私が6年生のときは、まさに偏っていて、1stが4人、2nd、3rdが合わせて15人くらいだったでしょうか。

そのような状況の中で一番吹きとして要求されたのは「大きな音」でした。とにかく全身(特に肩回り)に目一杯力を入れて、全力で息を吹き込んでデカい音を吹き続けていたものですから、当然のことながら唇にはものすごい負担がかかり、一時期はHigh B♭までは出せていたにも関わらず、小学校を卒業する頃にはチューニングB♭の上のE♭を出すのも精一杯、しかもすぐバテるような状況に陥りました。

中学(吹奏楽部)に入ってからもその状況は続きました。周りの仲間がどんどん吹けるようになっていくのを見て、本当に悔しかったのを覚えています。

でも、それが徐々に改善に向かったのは、
・唇のバズイングを意識したこと
・中音域でのリップスラーの練習を毎日続けたこと

のお陰だったかと思います。それまで息の力だけで無理やり吹き込んでいたので、唇の振動によって音が鳴っているということも意識していませんでしたし、増してやスラーを吹けるような唇の柔軟性は持ち合わせていませんでした。だからこそ、このような練習が改善に大きな影響を与えてくれたのだと思います。

この練習を続けていったことで、中学2年生に上がるころには、High Cくらいまでは曲中で使えるようになるまでになりました。バテやすいのはあまり解消しませんでしたが、、、

②バズイングができるのに、音が出ない?!
高校に入ってからは調子を崩すことがあっても、本当に音が出なくなり、唇に違和感を感じるまでになったことはしばらくありませんでしたが、夏のコンクールを控えた高2の夏、突然チューニングのB♭がようやっと出るような状態にまで陥りました。唇を壊した原因は、野球応援で吹きすぎたことと、コンクールのプレッシャーだったかと今では思います。

不思議だったのは、唇のみのバズイングはできるのに、楽器をつけると音が出ないという状況でした。唇だけのバズイングで曲を吹くこともできましたし、不調の原因が全く分からず、自分でもただただ落ち込むばかりでした。

その時、とにかく言われたことは
・休むこと
・中低音域で、できるだけ小さな音でのロングトーンをやってみること

でした。今考えてみると、バズイングも唇を締めて、トランペットのマウスピースのリムサイズに合わせたバズイングをしていたと思いますし、息とプレスの力だけで無理やり振動をつくって吹いていたところが少なからずあったように思います。
それでもコンクール前ですし、あまり休むこともできず、調子は万全でないままコンクールにも臨み、その後も調子の波に踊らされながら高校時代を過ごしたように思います。

もともと負けず嫌いで、せっかちな自分。

今思えば「急がば回れ」の精神で、根性で吹くのではなく、音が出る仕組みに注目して、じっくりと音づくりをすればよかったのになと思ったりもします。

この頃、調子が少しでも悪いと感じたらやるように言われていたのが、シュロスバーグの「日課練習とテクニカルスタディーズ」の中にある「1.Long Note Drills」の1~6番です。

無理に音を出すのではなく、唇とマウスピースを密着させておいて息を送り出した時に、自然に唇が震えだすポイントをつかむ練習にもなるし、息を押し込むのではなく、振動を保つために息を送り続けるという感覚がつかみやすいと思いました。

ただこの時気を付けた方が良いのは、「できるだけ小さな音で」というところです。無理やり小さな音を吹こうとすると、それはそれで唇を締める方向にいってしまいますし、だからといって音を無理やり出したところで、「振動をつくる」という本来の目的からは遠ざかってしまいます。

「小さな音いい」のではなくて、「小さな音いい」くらいに考えてあげると、自然な振動をつくり出せるように思いました。

③まさかの顔面麻痺
大学(管弦楽団)、社会人と調子を崩すこともありましたが、それまでと違って毎日吹くことが難しくなった分、一回一回の音出しを丁寧にすることが増え、考えて吹くことも多くなったので、大きく調子を崩すことはあまりありませんでした。

調子を崩した時も、それまでに習ってきた
・音は振動
・バズイングはオクターブ下で
・無理に大きい音、高い音は吹かない
・ウォームアップを丁寧に
・疲れそうになったら休む

ということを意識して練習を続ければ2週間~1か月程度で徐々に回復する傾向が見られてくるので、そこまで自暴自棄になるまでには至りませんでした。調子を崩しても「またちょっと気合吹きしすぎてしまったな、まぁちょっと反省して音出ししていれば戻るだろう」くらいの意識でした。

しかし、2年前。私にとって恐怖の事態が起こりました。

音が全然出ないわけではないのにも関わらず、何か音に息の音が混ざるし、息は漏れるし、音は詰まった感じになるし、マウスピース当たっている位置がいつもと違う気がするし、と原因も分からず凹んでいたところ、写真を撮ってみてビックリ。

画像

確かに右頬の筋肉に力を入れても入らない…。

つねってもしばらく感覚なし…。

ということをFacebookに投稿したら、知人のTp奏者の方が「自分も経験がある。とにかく病院に行った方がいい」とアドバイスをしてくださいました。

慌てて病院に行ったところ、
「原因はわかりませんが、軽度の顔面麻痺かもしれませんね」
とのこと。早速、薬(ビタミン剤)が処方されました。

※顔面麻痺(ベル麻痺)についてはこちら

インターネットを検索してみても、原因は定かでないというし、後遺症が残るかもしれないというし、この時ばかりは本当にこの先自分はトランペットを吹くことができなくなるのではないかという恐怖におびえていました。

でも、とにかく治るのを祈るしかありません。

薬を飲み、マッサージをし、全身の血行が悪くならないように注意したり、できるだけストレスをためないように日々の生活に気を付けるようにしました。

そのかいもあってか、幸いなことに麻痺は1か月半ほどでひいてきて、感覚も少しずつ戻ってきました。ただ、麻痺が緩和するまでは楽器は吹かない方がいい、ということで結局2か月近く楽器は吹きませんでした。

そこからが、リハビリです。

しばらく吹いていなかったということで、初心者になったつもりで練習を再開しました。
・フラッピング(唇だけでブルブル言わせる≠バズイング)ができるか
・マウスピースを口に当てて、息を軽く通すだけで唇が振動し、音が鳴るか
ppで真ん中のFのロングトーンができるか
・唇に負担をかけずに、真ん中のFを中心にして半音ずつスラーで変化できるか

これらを毎日繰り返していくうちに、麻痺になる前よりも無理なく吹けるように徐々になっていった気がします。

その頃アレクサンダーテクニークに出会い、麻痺から半年後、レッスンに通い始めました。体の使い方、心の使い方を学んでいく中で、自分もこういったことを教えられるような教員になりたいと思うようになりました。

プロコースに通うようになって8ヶ月が経とうとしています。まだまだ勉強不足ですが、苦手な解剖学も少しずつ学んだりする中で、無理のない体の使い方を自分自身も体得しつつあります。そして、自分と同じような経験をしないように、また現在悩んでいる方にはリハビリのお手伝いができるように、活動していけたらなと思っています。

今までの経験を通して、痛いほど分かったことは、
・ラッパを吹くのに必要以上の力はいらない
・自然な振動で小さな音を出せる状態をつくることで調子を確認する
・唇を壊す前に休むことを大切にする
・ムキになって練習しない、気合いで吹かない
・調子が悪くなっても焦らない、自分を観察して原因と向き合う
・毎日のウォームアップを丁寧に
・唇は鍛えるものではない
・気持ちが逆立っているときはラッパを吹かない

といったことでしょうか。

自分の場合、メンタル的に追い込まれる状況になると調子を崩すことが多いので、「気持ちが逆立っているときはラッパを吹かない」ということは、今特に大切にしています。もちろん部活などで本番が立て続けにあったりするとそうもいかないとは思いますが、一般のアマチュアプレイヤーだったら、そういったところもコントロールできることも大切なのかなと思っています。

ひとたび唇を壊してしまうと、本当に忍耐強さが求められます。
でもそういうときこそ、自分が奏でたい音楽ととことん向き合ってみます。

そうすることで、自分の本当の「望み」み気づくことができたり、自分が「これからどうなりたい」というイメージを明確に意識できるきっかけになってくれたりするようにも思います。

「調子を戻す」=「あの頃はよかったなぁ」という思考によく陥ってしまうけれど、それより「こうなりたい」=「未来の自分がこうでありたい」と思って、そのために何をやるか決めて、決めたらとことんやってみる、ということを継続していけたらよいのかもしれません。

常に、過去の自分にとらわれることなく、これからなりたい自分に向かっていくこと。

自分もまだまだその思考のコントロールが苦手ですが、少しずつ前に進んでいる自分を信じて、また頑張っていこうと思います。

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唇を壊してしまったラッパ吹きは辞めるしかない、わけではない!” への1件のコメント

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