一人ひとりの存在を大切にした指導をするために ~あるスパルタ根性論指導を例に考える~

先日、中学生のお嬢さんを持つお母様(Aさん)から悲痛な叫びにも思えるご相談を頂きました。

 

以前から「根性論だけのスパルタ指導」についてはいろいろ書いてきましたが、実際の声を伺い、改めて考えさせられることも多く、改めてやりとりを一部転載したいと思います(先方には許可を頂いています)。

 
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(Aさん)
娘が中学校で今年から赴任してきた顧問に連日、「邪魔だから吹くな」「あなたがいない方が音がよくなる」「ゴミのような音」「ばかなの?」など暴言を吐かれています。

 
部員全員に向けてのこともあれば、皆の前で1人だけ怒鳴り付けられることもあります。

 
同じことを言われても乗り越えられる子もいれば、娘のように打ちのめされてしまう子もいて、保護者間でも意見の一致は難しいところです。
娘はいわゆる下手な部類に入りますが、コンクールメンバーにはかろうじて入りました。

 

ただ、レベルが低いとのことで、1人だけある部分を「邪魔だから」吹くなと言われたり、出来ないと大声で怒鳴り付けられたりするので、腹痛で食欲もなくなってきました。

 
心配で担任や校長に「邪魔」「消えろ」「ゴミ」「クズ」といった言葉は不適切ではないか、と相談しましたが、指導の一環だ、吹奏楽の専門家はみなこのような指導をしていると突き返され、モンスター親扱いされてしまい、親としての心配は募るばかりです。

 
オノレイ先生のブログを拝見すると、同じような状況は各地であるようですが、こうした問題を吹奏楽界全体として問題視していただくことはできないでしょうか?

 
高校の強豪校に入ったのならまだしも、義務教育中の子たちですから、どこまでを目指すかといった意識の違いもあると思いますし、休むと怒鳴られるようなスパルタが耐えられないなら辞めるしかないといった風潮はどうなのかと心を痛める毎日です。

 
娘はただ純粋に吹奏楽を楽しみたいだけなのですが、昨今の中学校の吹奏楽部の活動は勝利至上主義が当たり前というのが現状なのでしょうか?
とりとめのない文章になってしまい、大変恐縮です。

 
朝、ぐったりした表情で登校する娘になんと声をかければよいのか、と頭を悩ませています。吹奏楽を楽しみたい娘ですが、この暴言に耐えられないなら辞めるしかないんでしょうか・・・。

 
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(私)
ご相談頂きました件ですが、お話を伺う限りでは、確かに行き過ぎた指導であると感じます。恐らく、その先生ご自身がそのような指導を受けてこられたか、TVなどで紹介される「強豪校」の一面だけを真似していらっしゃるのではないかとお見受けします。また、先生ご自身も、その指導で手応えが得られてきた経験をお持ちなのか、もしくは指導自体に自信の無い結果、そのような言動につながっているのかもしれないと思いました。

 
確かに、なかなか吹けるようにならず、揃わない場合、人数を絞って演奏させることはあります。特に楽器をはじめたばかりの1年生の場合、難しい部分はカットして、できるところだけ吹かせるということはよくある話です。

 
しかし、「邪魔」「消えろ」「ゴミ」「クズ」といった言葉はやはり不適切であると思います。部活の指導以前に、教育に携わる者として、生徒の尊厳は一番に守らなければいけないものですし、学級経営でも、教科指導でも、部活指導でもそれは同じことだと思います。

 
いわゆる「強豪校」といわれる学校の練習も実際に見に行ったことがありますが、確かに練習は厳しいですが、本当に力のある先生は叱るだけではなく、「できるようにする」ことを考えて指導をされているように思いますし、生徒たちとの信頼関係が強いからこその厳しい指導だと感じました。TVで叱咤する場面だけが放映されて、心を痛めていらっしゃる先生方も少なくありません。
担任の先生や校長先生にもご相談されたとのこと、お察し致します。それで取り合ってくれなかったとしたら、もし学校にスクールカウンセラーがいるようであれば、まずはその方にも相談してみてはいかがでしょうか。

 
私にできることはこうやってブログなどで発信していくことくらいですが、お力になれることがありましたら協力させて頂きたいと思います。
お嬢様が楽しく吹奏楽に打ち込めることができるように祈っております。

 
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(Aさん)
オノレイ先生、涙が出るくらい嬉しかったです、ありがとうございます。

 
校長に事実確認をお願いした時には、顧問から「吹奏楽の専門家はみなこういう指導をしている」と言われた、というお返事でした。私はバジル先生の「ココロとカラダの相談室」の「『なめられないように』を乗り越える」などのページに付箋を付けて、校長に読んでほしいと申し出ましたが、断られてしまいました。

 
ですが、オノレイ先生のブログを拝見し、専門家がみなこういう指導をしているわけではないことが分かり、そして、いただいたメッセージでも改めて「行き過ぎた指導」とのご見解をいただき、本当に救われる思いです。

 
オノレイ先生のおっしゃる通り、顧問は先月子どもたちの前で、「前任校では、『消えろ』『2度と顔も見たくない』と言ったら、生徒が上手くなった」と自信満々に言っていたそうです。

 
そういわれても、「なにくそ!」と奮い立ってがんばれない子は、ダメな子だといわんばかりで、悲しくなりました。思春期の子どもたちですから、みんながみんな、奮起できるわけではないと思います。それに、普通の公立中学校です。
私は娘が不登校などにならないよう、励まし続けたいと思います。

 
状況が悪化するようなことがあれば、また何か考えなければならないかもしれませんが・・・。

 
お忙しい中、メールに目を止めていただき、温かいお返事をいただきましたこと、心から御礼申し上げます。

 
本当にありがとうございました。

 
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と、この他にも数回やりとりをさせて頂いたのですが、Aさんの心痛が伝わってきて、たまらない気持ちになりました。もはや「最近の子どもは忍耐力が足りないから…」という域を越えていると思います。

 

 
音楽が好きだったり、楽器をやってみたいだったり、とても純粋な気持ちで吹奏楽部に足を踏み入れた子どもたちが、一人の指導者のせいで傷つき、音楽さえ嫌いなものになってしまったとしたら…。それは、取り返しのつかないことです。Aさんのお嬢さんが、「吹奏が苦」で忍耐ばかり強いられるのではなく、「吹奏”楽”」の真の厳しさを乗り越えながら、本当の楽しみに出会うことができるようになることを祈らんばかりです。

 

 
私は、「暴言と大きな声で威圧する指導」と「厳しく子どもたちを伸ばそうとする指導」は別物であると考えています。

 
たとえば、「吹奏楽の神様」として知られる屋比久勲先生。

 
全国大会の常連でもある屋比久先生ですが、暴言で威圧するような指導ではなく、穏やかな口調で、必要なことは分かりやすく伝える指導、でも決して手を抜かず、子どもたちの可能性を最後まで信じて求める指導をされることで有名です。

 
実際にお話ししたことはありませんが、著書を読ませて頂いたり、先日DVDを見て屋比久先生の指導を拝見して、指導者のあるべき姿はこれだなと思いました。

 
屋比久先生の著書「屋比久流 怒らない教え方」の冒頭に、次のようなメッセージがあります。

 
これまで僕は40年以上にわたり
七つの学校で吹奏楽の指導をし
そのうち六つの学校で
全国大会に行くことができました
今は八つ目の学校で教え始めています

 


しかし僕は、
「全国大会に行くことや
金賞を獲ることが
吹奏楽の目的ではない」
と考えています

 


では何のために
子どもたちに教えているのか

 


それは、
「子どもたちの成長する姿が見たい」
という気持ちからです

 


僕が教えるときに
心掛けているのは
「怒らない」ということです

 


子どもたちの力をのばすのに
「怒る」必要はないと考えています

 


僕の教え方が
みなさまの参考になれば
こんなに嬉しいことはありません

 
今、指導に携わっていて、とても心に響く言葉です。まだまだ自分は感情を抑えられずに怒ってしまうこともありますし、勉強不足で指摘や注意しかできないこともたくさんあります。

 
でもだからこそ、この言葉を大切にしたいと思っています。

 
「子どもたちの成長する姿が見たい」
「子どもたちの笑顔をたくさん見たい」

 
本当にそれだけのことだし、そのために自分ができることを探して、子どもたちと一緒に全力を尽くすのが指導者の仕事だと思います。

 
そのためには、時には厳しさも必要です。子どもたちにとっては言われたくないことでも、言わなくてはいけないこともあります。でも、言った後でどう子どもたちに寄り添っていくかということはとても大事なことですし、そこに暴言や暴力があっては絶対にいけないと思うのです。

 
Aさんのご相談の中に出てきた顧問の先生も、根本には「生徒たちを上手にさせたい」という思いはあるはずです。それが、こうした形で子どもたちを傷つけてしまう結果になっているのはとても残念なことです。

 
少しでも、日本の吹奏楽指導のスタイルが良い方向に向かっていくように、自分もできることを探して頑張っていこうと思います。
自戒も込めて。。。

 

 

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