練習時間に合わせたやり方を考える

先日、「限られた時間でも上達することはできる!」と題した記事を書いたところ、大変多くの方に読んで頂くことができました。ありがとうございます。

http://rapparapa18.xsrv.jp/2017/02/05/time-2/

それだけ、音楽活動を続けていく中で「時間」というものを課題に感じていらっしゃる方も多いのかもしれないなと改めて感じました。

あの記事は、部員に向けて「効率の良い練習」の提案をまとめた部内通信をブログ用に少し書き直したものでしたので、どちらかというと、演奏者にどのような心構えで練習に向かっていって欲しいかという、指導者の立場からの願いのようなものが強く出ていたかなと思います。

もちろん、奏者(部員)一人ひとりが積極的に自分の意志を持って練習に臨むことは大切なことですし、その方が結果として奏者自身も「自分でやった」という充実感を積み上げながら、力をつけ、音楽を楽しむことができるようにも思います。

ただ、やはり奏者だけにやらせるだけでもいけません。特に中高生相手の部活の場合、指導にあたる大人や、リーダーとしてまとめる生徒がどのように一人ひとりと関わっていくかということはかなり重要なことです。

今日のつぶやきでは、いわゆる“幹部”と呼ばれるリーダー的な役割をしている上級生に向けて書いたものをもとに、練習計画の立て方についてまとめてみたいと思います。前回の記事と重なるところもありますが、そのあたりはご容赦ください。

 

1曲にどのくらいの時間をかけることができるのか考える

合奏の進め方にはいろいろな考え方がありますし、「これが絶対」というような確固たるものもありません。同じバンドであっても、メンバーが置かれている状況、一人ひとりの技術レベルや楽曲の難易度、本番までの時間、仕上げなければいけない曲数など、様々な要因によって、進め方は変わってくるものです。

合奏を進める立場に立った時には、それらを把握した上で、最も効率よく目標とする演奏に近づいていくためのプランを考えてから合奏に臨む必要があります。また、合奏を進める立場に立った人間がどのように立ち振る舞うかによって、全体の雰囲気も音も大きく変わってきます。酷な話ですが、曲の完成度は指揮者次第といっても過言ではありません。

では、どのように練習を組み立て、どのように曲づくりをしていけばよいのでしょうか。

 

よく「強豪校がやっているから」というだけで練習方法をマネすることがありますが、ただマネしたところで、必ずしも自分たちに適したものとは限りません。例えば、全国大会にも出場しているとある高校の練習時間は次のような感じだという話を聞いたことがあります。

【朝練】  6:15~8:25 (約2時間)
【放課後】 15:30~20:30 (約5時間、延長あり)

驚くかもしれませんが、このように平日でも1日7時間以上練習しているということになります。この時間については賛否両論ありますが、それぞれの学校の考え方もあると思いますので、今回ここではこれ以上触れないことにします。

私が顧問をしている部活の練習時間は平日の放課後週3回、1時間半に加え、土曜日なら2時間半(日曜日なら5時間半)ですから、1週間で7時間(10時間)です。つまり、上記の学校の1日の練習時間を、1週間でようやく確保できている状況です。私たちはその限られた時間の中で、自分たちができる精一杯の準備をして、お客様に聴いて頂く演奏をつくっていく必要があります。

音楽はつきつめていけば、どこまでも追求していけるもの。それだけに何を優先するのかを考え、いかに効率良く練習を進めていくかは、活動時間の少ない私たちにとっては死活問題とも言えまず。

繰り返しになってしまいますが、一人ひとりの意識はもちろんのこと、合奏やパート練習、セクション練習を進める立場に立つときには、より時間配分や計画性をもっていかなければいけません。これは私自身も反省すべきところは大きいです。。

では、練習計画はどのように立てていけばよいのでしょうか。それは本番までの時間、取り組む曲数やレベルに応じて考えていく必要があります(表1)。

コンクールや吹奏楽祭など、1曲に時間をかけることができる本番は、次の合奏までの感覚があまり開かないことも多いので、1回の合奏では扱う場所を絞って、納得のいくまで完成度を上げていくような練習をしていくと効果的だと思います。曲全体を通してみる練習も大事である反面、必ず全体を扱わなければいけないと考えると、細部の詰めが甘くなってしまうこともあるからです。

1曲に時間をかけることができるのは恵まれていることだと言えますが、その分、どこかのパートがつかまってしまうと“暇人”がたくさん出てきてしまうのも難しいところです。また長い間同じ曲をやるので、「中だるみ」「飽き」をできるだけ少なくする工夫も必要です。

例えば、合奏中どうしても個人やパートで練習する必要が出てきたと判断したら、時間を決めて(例えば5分とか)外でさらってきてもらうようにするとか、思い切って休憩をはさんで、その間に気になる所を合わせておいてもらうという指揮者の判断もあるでしょう。この時大切なのは「時間を決める」ことと、「その時間内で何を達成してほしいか(できればそのための方法も)を伝える」ことです。

ダラダラと休憩時間をとってしまうと、再び集中力を取り戻すのに時間がかかってしまいますし、できないところがあるからと言ってただやみくもに追い出してしまうと、疎外感を感じたり、過度なプレッシャーを感じたりして全体の雰囲気を悪くしてしまうこともあります。しかし、時間や目的を明確に決めて取り組むことで、集中して練習にも向き合えるし、「できた」という達成感もより具体的なものになって、自分に自信を持って練習に臨むことができるようになることが多いように思います。

もう少し長い目で見ると、合奏と合奏の間の日にセクション練やパート練をはさんで、課題を確実にクリアできるようにするとか、パートリーダーを他パートと交換してみるなど前に立つ人を変えて違った視点から練習を進めてみるとか、やる曲の音源をいろいろ探してきて団体ごとの違いを探してみるとか、曲のイメージを深めるために話し合ってみるとか、いろいろやれることはあるように思います。

 

一方で文化祭や定演など一度にたくさんの曲に取り組む必要があり、1曲に時間をかけることができない本番では、1曲に時間をかけることができる本番に向けてと同じように練習を進めていくと時間が足りなくなってしまい、結果として演奏会全体の完成度としては下がってしまうこともあり得ます。1曲に時間がかけられないから完成度が低くて良いということでは決してありませんが、まず「いかに形にするか」というところに重点をおいて練習するのが効果的だと思われます。

また、一度にたくさんの曲を練習する必要がある分、その曲に触れる時間が短くなるばかりでなく、合奏も次の合奏まで期間が開いてしまうこともよくあることです。一度やったことが確実にできるようになって次に進めれば申し分ないのですが、残念ながら人間には忘却機能が備わっているのでそうもいきません。どうしても「前にやったことを思い出し、確認する作業」をする必要が出てきます。

そう考えると、1回の合奏で一つの部分に集中して練習をするよりも、全体を流しながら曲に慣れることを優先し、「一人ひとりの譜読みの精度を上げていく」というイメージで合奏を重ねて大枠づくりをしてから、優先順位を決めた上で細部を詰めていくような練習の進め方がよいではないかと思います。

いろいろ進め方も工夫したり、一人ひとりの意見を引き出したりしながらやっていくことは理想ですが、合奏前にパートリーダーなどと作戦会議を立て、思い切って合奏は前で仕切る人が責任を持って進めてしまい、合奏後に気付いたことを出してもらい次につなげていくといった方法で進めていった方が、時間の効率化ははかれるかと思います。

 

「音楽づくり」という面ではどの本番も同じことです。しかし、どのように時間を使うかというところでは、ある程度分けて考えてみた方がいいのかなと思います。ゴール地点は「みんなでお客さんの心に響くような演奏をすること」「楽しいステージをつくること」であることに変わりはありません。ただアプローチの仕方は、本番によって使い分けていくことも大切なことのように思います。そのあたりも考えて、合奏の計画を立ててみると良い気がします。

 

譜読みのアプローチについて考えてみる

下級生を見ていると、新しい譜面が配られた時、「未知の世界がやってきた」というような形相で譜面とにらめっこしたまま固まっていることが少なくありません。でも、上級生が一緒に吹いてあげたり、リズムを歌ってあげたりすると、できるようになることも多くないでしょうか。

自分自身を振り返ってみても、中学生の頃は1年間にこなす曲数も少なかったですし、譜面が配られるとわけがわからなくて、とにかく音源を聞いて、耳コピで覚えて吹いていた気がします。高校に入ると年間にこなす曲数は60曲以上になり、依頼演奏が舞い込んできては新曲を3日で仕上げなければいけないといった感じだったので、周りが吹いているのに合わせてとにかく曲を覚えて吹いてみるような生活でした。その結果、「このリズムはこういうリズムなんだ」「これはあの曲で出てきたリズムだ」ということが徐々に分かってきて、耳コピをしなくてもだんだん1から譜面を読むことができるようになってきました。

本当は譜面を見て、そこから音楽をイメージしていくのが本来の譜読みの仕方だと思いますが、まずは音楽を知らなければ想像力もはたらかないものです。そういう意味では、「耳コピをやってみること」も早く音楽に慣れる上では必要なことのように思います。耳コピの弊害は、譜面に書いてあることを注意深く読もうとしないばかりか、その音源の吹き方やテンポまでもしみついてしまったり、聴いた音源によってはあまりよいお手本ではないこともあったりすることです。でも現状を考えてみると、そもそも曲をよく分かっていないがために譜読みが高尚なものになってしまっている面もあるように思います。できれば各自が時間のある時に音源を聞いて譜読みをしておければよいのですが、「やっておいて下さい」ではなかなか各自で時間を取れないというのも現状としてあるようにも思います。貴重な部活の時間ではありますが、その後の練習の進み具合を考えると、合奏の前やパート練習を始めるときに、みんなで譜面を見て、指を動かしながら音源を聴いてみるという時間を確保してみる必要があるのかなと最近考えていたりします。

理屈で譜面を読めるようになることも大事ですが、音楽をやるにあたって、一人ひとりが自分自身で音楽を感じることができるかという要素は絶対に必要だと思います。その第一歩として、音源を利用していくことは一つの方法としてありなのかなと思います。その中で「譜面にこう書いてあることは、こんな感じで演奏すればよいのだ」という具体的かつ明確なイメージが持てるようになり、リズムが分からないということによる譜読みの遅れは減らしていけるような気がします。また慣れてきたら音源と一緒に自分のパートを歌ってみることで、音程の感覚なども養っていけると思います。

指が回らない、タンギングが追い付かない、高い音が出ないなどの課題は技術的な課題で、譜読みとは切り離して考えた方がいいと思います。同じ「吹けていない」という結果があったとしても、まず頭でどう演奏すればよいのかイメージできるか(この譜面を演奏するとどんな音楽になるか分かっているか)というところまでいけているのかを把握することは大事なことです。もし、イメージができているのに吹けないのであれば、それは技術的な問題なので、またその技術的な問題を克服するためのアプローチを考える必要があります。

「吹けてない!」「ちゃんとやっておいて!」という指摘は建設的ではありません。なぜなら、できていないことは、誰よりもその本人が気づいていることだと思うからです。もちろん、やる気がなくて気持ちがたるんでいる子に対しては効果的な時もありますが、「頑張っているのにできない」という思いを抱えている子にとっては、「なら、どうすればできるようになるんですか?」と惑わせてしまうだけです。

私たち顧問はもちろんのことですが、学生指揮者やパートリーダーなど、前に立って練習を仕切る立場に立つ人は、ただできていないことを指摘するだけではなくて、その原因はどこにあるのかを観察してみたり、どうすればその課題を克服できるのか解決策を示したりすることが求められます。難しいことだとは思いますが、もし本当に解決策が見つからずに困ったらコーチや先生方に相談すればいいのです。そのためにコーチや先生が部活にはいます。

まずは、みんなでこれから演奏しようとする曲をしつこいほど聴いてみる。これだけでもできるようになることはたくさんあると思います。みんなでよってたかって曲を知ることで、一人ひとりの練習に対する積極性も増していけたらいいなと思います。

 

指揮者の準備と立ち振る舞いが一番重要

自分自身も反省すべきところが多いのですが、最近心底感じているのが「指揮者次第で演奏が決まる」ということです。それはプロの指揮者であれ、部活の顧問であれ、学生指揮者であれ同じことです。

出てくる音は、指揮者の棒次第

これを思い知ることが先日ありました。

昨年末、私は大阪で行われたJBA吹奏楽ゼミナールに参加してきました。そこで受けた指揮法の授業でのこと。受講生が順番にモデルバンド相手に指揮をしていくのですが、本当に同じバンドでも指揮が変わるだけで全然違う演奏をするのです。それはテンポや表現といったものだけではなく、「タテがそろうか」「バランスよく聴こえるか」というところにも影響します。自分も実際に振ってみて、今まで自分の棒のせいでだいぶ生徒たちの演奏を台無しにしてきてしまったなと反省しました。自分も含め、多くの受講生が指摘されていたのは次のようなことです。

・予備拍が見えづらい、予備拍に呼吸が感じられない
→吹奏楽の楽器の多くは管楽器。吹くためにはブレスが必要。指揮者も一緒にブレスをとることで、息のスピード感がそろうので、結果としてタテがそろう。
→「じゃんけん」「ぽん」でタイミングがそろうのは、「じゃんけん」というフレーズをどう言うかで、「ぽん」のタイミングを予測できるから。初めの拍の頭をそろえるには、予備拍をどう出すかが重要。

・ベースラインを聴いて振っていない
→メロディーラインばかり追いかけていると、ベースラインが安定しなくて、テンポ感が崩れやすい。

・言っていることと、指揮でやっていることが違う
→「もっとここは小さく!」と言いながら指揮が大振りになっていたり、「もっと軽く!」と言いながら、1拍1拍をしっかり振り過ぎて重くなっていたりすることが多々ある。
→基本的に奏者は指揮の動作に反応して演奏するものなので、自分の棒が言いたいことを言えているか、常に客観的な視点が必要。

・やってほしいことは、事前に合図する
→しっかり吹いてほしいところで、その拍で強く振っても準備ができていないからできない。指揮者は常に先を読んで、次にどの楽器にどう演奏してほしいのか先手を打って合図を出していく必要がある。

なかなか難しいところでもありますが、ただのテンポキープ係だったら、メトロノーム大先生やハーモニーディレクター大先生に指導をお願いすればいいだけのことです。せっかく人が前に立っているのだから、人じゃないとできないこと=ブレスや合図、視線を送るなど を積極的にやっていけるといいのではないかなと思いました。ただタテを合わせて、できていないことを指摘するだけだったら、指揮者なしで、アンサンブル合奏をみんなでやるのでもいいはずです。

指揮者として前に立つのであれば、自分がどのような音楽をやろうと思っているのか、それはどうやったら実現できるのか、そのためにはどんな準備が必要で、どのように伝えていけばいいのか、しっかり考えて臨むことが必要です。

合奏に乗る前に、楽器の練習をちゃんとして臨まなければいけないのと同じで、指揮者はそれ以上に準備をして臨まなければいけないもの。逆にそれができていると、合奏を進めていても気を付けるべきところが見えやすいですし、指摘もより具体的なアドバイスにつながっていく気がします。

効率の良い練習というものは、究極を言ってしまえば指揮者(リーダー)の準備次第で決まるものなのかもしれません。

奏者がさらってこないことを責めるでもなく、根性論で罵声を浴びせ続けるでもなく、自分ができる最善の準備をして奏者一人ひとりと向き合い、決められた時間の中で奏者の持っている力をまとめていくこと。これが指揮者(指導者)の仕事なのだと思います。

私もまだまだそのあたりができていないこともありますし、生徒たちに偉そうには言えませんが、できるだけ自分にやれることを考えてやっていきたいなと思っています。

 

iQiPlus

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。