苦手モードから脳を解放して、速いパッセージを吹けるようにする!

私は昔から速いパッセージがものすごく苦手です。

小学生の時にはすでに、周りの友人がパラパラ吹けているパッセージを、いくら練習してもできるようにならず、「速いパッセージコンプレックス」を持っていました。高校生になる頃には、先輩や同級生がアーバンの「ヴェニスの謝肉祭」、ハイドンやフンメルの協奏曲をいとも簡単そうに吹いているのを見て、「自分は練習不足」「自分は人より頑張らないとできない不器用な人間だからもっと練習しなきゃ」と思って必死に練習しましたが、どうしても指がこんがらがって思うように吹けませんでした。

お陰で吹奏楽をやると、比較的速いパッセージの多いコルネットパートはほとんど回ってくることはなく、ここぞというところでバシッと鳴らすことの多いトランペットパートを仰せつかることが多かったように思います。大学で吹奏楽部ではなく管弦楽団に入ったのも、「オーケストラが好きだったから」ということももちろんありますが、「自分は吹奏楽で求められる細かい動きはできない」と思いこんだせいもあるように思います(結局、オケでも細かい動きは求められることもあるわけですが…)。

そんな私ですが、先日トランペットのレッスンで半音階の練習を見て頂いた時に、改めて速いパッセージについて考えたこと、感じたことがあったので、自分の備忘録のためにまとめておきたいと思います。

 

指が回らないのは、“脳の認識”が原因であることが多い!

「譜面が黒い」「テンポが速い」と認識すると「速く吹かなきゃ」と焦ってしまい、コントロール不能になることがよくあります。

速いパッセージが吹けないのは、確かに練習不足であることは否めません。しかし、やみくもに練習してもなかなかできるようにはなりません。練習しているのに吹けないという場合には、脳がその音楽をどのように理解しているのかということのが原因になっていることが多い気がします。

例えば、J.S.バッハの「G線上のアリア」。元の記譜は次のようになっています。

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この譜面を見ると、何だか16分音符が多くて、速いパッセージに見えないでしょうか?

私も初めて金管アンサンブルで「G線上のアリア」をやったとき、知っている曲なのにも関わらず、この譜面に惑わされて、やたらに指が空回ってしまった記憶があります。

しかし、次のように譜面が書いてあったら、どのように感じるでしょうか?

曲のイメージ通り、落ち着いたテンポで、気持ちも焦らずに吹けてしまったりしないでしょうか?

もちろん、譜面に惑わされずに、初めから落ち着いて演奏できる人もたくさんいらっしゃるかと思いますが、自分自身も、部活で生徒を見ていても、16分音符より細かい音符が出てきたり、5連符、6連符…などが出てくると、途端に速く吹こうとして逆に難しく演奏しようとしてしまっていることが非常に多いような気がします。

これは極端な例かもしれませんが、思っている以上にその音符を吹くのに時間をかけていいことは結構あるものです。「譜面が黒い=速い=急いで指を回さなくちゃいけない」という思考に陥ってしまうと、脳がパニック状態に陥り、身体が思うように動いてくれなくなってしまうこともたくさんあるように思います。

このように、“譜面をどのようにとらえるか”ということだけでも、焦らずに本来自分が動けるはずの動きができるようになることもたくさんあります。

 

“脳の誤解”を解いてあげるためには?

速いパッセージを吹けるようにするためには、まず“脳の誤解”を解いていく必要があります。そのためには、どのようなことをしていけばいいのでしょうか。実際に私がレッスンでアドバイスを受けたりする中で、「これを意識すると上手くいくかも!」と思ったことをあげてみたいと思います。

  1. 頭の中でこれから吹こうとしていることが明確にイメージする
  2. 吹く前にそのフレーズを声で歌えるようにしてみる
  3. その曲の調の音階練習、アルペッジョなどを練習してみる
  4. テンポを意識して、それに合わせたブレスを心がける
  5. 拍の頭を意識して、わざと強調して吹いてみる
  6. 音を抜いたり、アーティキュレーションを変えたり、テンポを変化させたりして、いろんなアプローチで「つっかえる場所」「つっかえる原因」を探す
  7. つっかかるところだけを抜き出して練習してみる
  8. 全体を通して、間違えても吹き切るつもりでできるようになっているか確認する

このように、ただやみくもに反復練習をするのではなく、脳に「どう吹きたいのか」ということを意識づけしていくことで吹けるようになることがたくさんあります。合奏やレッスンでそこを指摘されるとできるようになる時は、ただ脳が混乱していただけなのかもしれません。

無意識のうちでも、「パブロフの犬」で有名な『条件反射』のように、脳が体に勝手に指令を出していることはあります。それが楽器を演奏する上で邪魔になっていることもあるかと思います。でもそれを止めようとするのではなく、どうしたら意図するように体を動かしていけるか、結局のところはどのように音楽を奏でたいかを考えて、冷静に脳が指令を出せるように思考を整理していけたらいいと思います。

もちろん、すぐにできるようになる人もいれば、私のように時間がかかる人もいるかもしれません。でも、「すぐにできるようになる」ことが目標ではありませんし、じっくり試行錯誤しながら練習したことは無駄にはなりません。どんなに不器用でも、思考を整理して練習を重ねていくことで、できるようになることは増えると思います(と信じて練習しています)。

 

“身体がどう動けるか”を脳に教えてあげておくことも大切

身体の仕組みを知っているからといって、楽器がすぐに上手くなるわけではありませんが、身体がどう動けるかを知っておくことも、楽器を演奏する上では大切なことです。本当はもっと機能的に動きやすい動かしかたがあるのに、脳がそれを知らなかったら、わざわざ難しい方法で身体を動かそうとしてしまうこともあるからです。

例えば速いパッセージを吹く時には、「指がどのように動くか」ということを知っておくこともプラスになります。

下の図は、指の骨・関節と指を動かすための筋肉を示しています。

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指を動かすときには、この図にある「MP関節」というところから指が曲がると考えてみると、かなり指の動きがダイナミクスになり、少ない力でしっかりピストンを押さえることができます。また、指を動かすための筋肉は肘関節につながっているものもあります。

このように考えると「フィンガリング」と言えど、「指先だけを動かす」と考えるのではなくて、「手全体(腕全体)を使ってピストンを押すことができる」と考えてみると、指先だけに力が入ることなく、速いパッセージもいくらか吹きやすくなるように感じます。

骨だと分かりづらいと思うので、実際の手で見ると、下の写真のような感じです。

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また、ピストン楽器の場合、音があいまいな感じになってしまう原因の多くは、「ピストンが下までちゃんと押せていない」ことに加えて、「ピストンが上がるときに指が一緒に上がっていなくて、邪魔をしている」というところにあるそうです。

ですから、

  • ピストンを押すとき: 上からしっかり叩くように
  • ピストンが上がるとき: 素早く指も上まで上げる

ということを意識してやってみると、それだけで「指が回っていない」と感じていた部分が改善することが結構あります。

「指が回らない」と思うと、つい「ピストンを押さえる」ということばかりに意識がいってしまい、「ピストンが上がるとき」を意識できていないことも多いように思います。このあたりのことは、速いパッセージになると、余計に意識できなくなってくると思うので、ゆっくりなテンポからじっくり指の動きを確認しながら練習をしてみる必要もあるように思います。

私もまだ試行錯誤の状態ではありますが、指がどうもうまく回らない時と、何となく回るかなと思う時の持ち方を写真に撮ってみました。個人差はありますし、左でシャッターを押した関係で力のかかり方が若干異なると思うので、必ずしも誰にでも当てはまるとは限りませんが、参考までに載せておきたいと思います。

× どうもうまくいかない時

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全体的に深く持ちすぎ。第二関節あたりで押しているので、下まできっちり押せず、ピストンが上がるときにも指が邪魔しやすい。

 

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親指が深くかかているのに対し、他の指の指先を引っ込めすぎているため、手全体に必要以上に力が入っている。

 

 何となくうまくいきそうな時

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左手との関係で、若干親指が深くなってしまっているが、全体的に第一関節までで押さえるようになっており、指を曲げるときはMP関節から曲がっている。ピストンが均等に下まで抑えられている。

 

「速いパッセージを吹かなければならない」という意識になると、上2つの構え方になることが多いように感じています。どうやら無意識のうちに、「指をしっかり動かさなければいけない」とか「速く回さなければならない」という指令が脳から身体に伝わっているようです。自由に動けば構え方はどんなでもよいとは思うのですが、より自由に関節を動かすことが出来る状態でいられるかというところは考えていけたらと思います。自分の癖と向き合いながら、これからも観察することを大切に研究していきたいと思います。

 

まとめ

ここまでいろいろ書いてきましたが、速いパッセージでも、ゆったりとしたパッセージでも、何より作曲者がどんな思いでどう表現して欲しいと思って作った曲なのかを想像しながら、「自分がどう吹きたいか」を明確に持つことが大事なことだと思います。それがなかったら、どんなに技術を持っていても、どんなに知識があっても、音楽につなげていくことはできません。

と、偉そうに言ってしまいましたが、先日のレッスンでは「苦手」って思っているから余計に脳が苦手モードを発動して吹けなくなっているところがたくさんあって、それを先生に整理していただく感じでした。まだまだパニック状態になると、「ただ吹こうとしてしまう」癖は抜けないものです。

身に付いてしまった習慣は新しい習慣で上書きすればいいと思って、時間をかけて音楽に向き合えたらと思います。「苦手を克服する」のではなく、「新しく得意なことをつくっていく」と考えてみるのも良いかもしれません。熱くなるのは悪いことではないかもしれませんが、それだけでもいけません。自分の中の先生をちゃんと育てて、自分で自分を制御して、ただ吹くだけの演奏から脱出できるようにしていきたいものです。

 

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苦手モードから脳を解放して、速いパッセージを吹けるようにする!” への2件のコメント

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